(10-06)深森の廃村(不受理)
(10-06)深森の廃村(不受理)
あちらのご家族は、お元気な事に100[km]を超える道のりをお戻りになったそうです。もっともついた時にはボロボロだったそうですけど、後ろの方たちの剣は残してありましたから、それで凌げたのかな。あの親御さんも檜の棒でもあれば、一角魔兎位なら凌げそうでしたしね。辺境村村娘です、お疲れ様。
1. 訴訟
「親父、そりゃどうしたんだよ。兄貴もか」
「くっそがー、あのアマ俺の腕を切り落としやがった」
「やっぱりこうなったか」
「なんだと、ヒルダ。『やっぱり』ってなんだよ、最初から分かっていたみてぇな事を言うじゃねぇか」
「そりゃ、ミーちゃん相手に強請だの集りなんてしたらそうなりますよ」
「集りたぁ聞き捨てならねえな。俺はガンドウの親だぞ、お前らの所がタダなら、家もタダにするのは当たり前だろうが。ガンドウ、お前お館様の所へ行って、あの小娘を吊るし上げるよう言ってこいや」
「それを集りって言うんですよ。あんた、止めたほうが良いわよ」
「うるせえよ、女は黙ってろ。わかった、親父ちと待ってろや。もう許さん」
「{馬鹿な人達ねぇ}。さて、お義姉さん達も同じ狢かしらね、確かめるか」
2. お呼び出し
「セバスさん、お館様。ミーの奴を吊るしてくれ」
「は、どういう事ですかな、ただ事ではありませんな。理由を言って下さい」
「あいつ、俺の親父の腕を切り落としやがった」
「あの子は理由もなくそんな事はせんぞ。何があった」
「俺の洗濯機を見た親父たちが『同じのを寄越せ』って言いに行ったんですよ、そうしたら腕を切り落とされて帰って来たんですよ。アイツを吊るして下さいよ」
『俺の洗濯機』『同じのを寄越せ』だいたいこの辺りで察したらしい辺境伯様は、しかたがなく私をお呼び出し。盥を回そうとしていませんよね。
「あー、ミーくん。ガンドウが熱り立っておるんでな、すまないがこっちに来てくれるか」
「あ、よくおっさん達帰れましたね。了解しました。少々お待ち下さい」
「いや、流石に少々ではなかろう」
いえ、いえ。少々で済むんですよ、それが。
「いえ、只今そちらに向かっておりますので、もう暫くお待ち下さい」
「はァ?」
彼奴等が来ないぎりぎりの高度で空を飛びますとね、あっと言う間。遮るものは何も無いですからね、魔力盾で衝撃波を回避する事もお忘れなく。
「こんにちは、辺境伯様に呼ばれましたので取り次いで下さい」
「何っ、もう着いたのか。あの子はどうなっているんだ」
「まあ、ミーちゃんですものね」
「それで良いのか」
3. 証拠物件展示映写会
録画物と録音物は未だ同期しませんけど、なんとかほぼ同時再生しますと、臨場感溢れる再現映像となります。
「ミー君を浮浪児扱いして、先に長剣を出したのはガンドウの親ではないか」
「まあ、浮浪児は合っていますから良いですけどね」
「あら、ミーちゃん。自覚はあるのね」
「そりゃまあ、そうでしょ。冒険者証なんてただの飾りですから」
「しかしなぁ、いくらなんでも短絡的すぎるだろう。しかも切りかかっているではないか。これは言い逃れができんな」
「お兄さんの方は、『馬鹿』呼ばわりですものね、誰であろうと侮辱はよくありませんわ」
「それで集りでございますか。言い逃れできませんな」
「集りってなんですか、家のがタダなんだから当たり前でしょ。たかが『洗濯機』じゃねーすか、作ってやるだけでしょうが、なぜ腕を切られなきゃならないんですか」
「その『たかが』をガンドウ、貴方作れまして。自分で理解すらできない機械を『たかが』呼びするなんてどうかしていますわよ」
「大した手間じゃないでしょ、いいじゃないですか」
「物の道理やら価値やら分かっていない『駄々っ子脳筋』だねえ、やっぱりどうにもならないか」
「最後もしっかり説明しておるではないか。まるで分かっていないようだが」
見終わりました。時間の無駄でしたけど。
4. 審議
「なるほど、これは不受理だな」
「なんでですか、腕を切り飛ばされたんですよ、兄貴達は片足飛ばされて、仕事ができねえじゃないですか、死ねってんですか。こいつを裁くのが当たり前でしょう」
「ガンドウ君、連座で処分されたくなければ取り下げなさい。これはそういう案件ですよ」
「セバスさん、そりゃねえでしょ。切り刻まれて、殺されそうになっているんですよ、とっとと裁いて下さいよ」
「物わかりが悪いですわね、ガンドウ。家族がああいう目にあって頭に血が登っているのは分かりますけど、明らかに貴方のお父様達に非があるではありませんか」
「そうだな、ここまで頭が悪いとは思ってもいなかったがな、裁判する前からお前の家族の負けが決まっているようなものだぞ、裁判なぞする必要もないじゃないか。士爵は取り消し。お前たちは連座にはせんのでな、感謝して欲しいものだ」
「なんですか、そりゃぁ。切られぞんじゃないっすか。切ったのはコイツですよ」
「もう、煩いから寝てなさい、この馬鹿」
プチュッと鎮静剤。
「ミー君、それ便利だな」
「注入時にまだ大分コツが要りますけどね」
腕時計からピュッと・・・・あれは無理ですけどね。
「そうなのか、それでは駄目だな。もっと簡単にならねばな」
「そうですね、もう暫く待って下さい」
「分かった、そうしよう。それと手に持っているのはなんだ。アッツイ殿に使った環のように見えるが」
「はい、その環です。それも真教国の正統派隷呪環ですね」
「何ができるのかね」
「嘘をつかせぬ尋問とか、魔法行使の抑止とか闇の魔法いろいろです」
「古代魔法だったか、そんな魔法もあるのか」
「ありますよ、真教国だけじゃなくて、隣の王国でも『消魔の腕輪』として使っていましたから、王家とかには伝わっているんじゃないですかね」
「そうなのか、まあ知る由もないがな」
「沢山ありますから、いくつか置いていきましょうか」
「あるのか、それなら『消魔』『尋問』は役に立ちそうだな。良いかね」
「分かりました」
そこへヒルダさんがやって来ました。
「そちらの奥様がいらっしゃいました。お通しして宜しいでしょうか」
「うむ、通してくれ」
「お館様、お久しぶりでございます」
「ああ、壮健でなにより」
「まあ、このざまですけどね。お義母さん、お義姉さんに聞いてきましたけど、ほとほと手を焼いていたようで、お好きにどうぞということです」
ガンさんを指さして、疲れた風。
「あのおっさん、嫌われているなぁ」
「そうなのよ。で、うちの人はどうなりますか」
「ミー君はどうしたい」
「この環を使ってみても良いですか」
「どうするのかね」
「ちょっとお約束をして貰うだけですよ」
腕輪をはめて、魔法を刻みます。
『汝ガンドウに命ず。妻ヒルダの言葉をよく聞き、身勝手なる考えと軽率な行いを控え、良き夫良き父として粉骨砕身、奮励努力せよ』
「発動、転呪。ここへ何をしに来たか忘れなさい、ほんでもって起きろ」
隷呪環の模様が腕に転写されれば、腕輪はいりませんので、はずしても大丈夫。しかも模様を直接見ることはできません。ただまあ、転呪の場合は、それ相応の魔力を必要としますけど。文言が簡単過ぎますかね、あまり難しくすると本人が理解できませんけど、宜しいか。
「ミーちゃん、『私の言葉』って何」
「ちょっと試してみて」
「えーと、なんでも良いの。『3回廻ってワンと鳴け』」
「何言っているんだ、お前は…くるくるくる…『ワン』。なんだこれ」
「聞いたのかな。効いているのこれ」
「うん、それとなく効いているんじゃないかな。何をしに来たかも忘れているし」
「ぷっ、面白い事を考えるわねぇ。まぁ、良いわ。身勝手な行動をしなくなるだけでも助かるし。様子を見てみるね。ありがとう」
「うん、そういう事で連れてって。ごきげんよう」
「よし、衛兵を回して残りは確保だな。収容所鉱山へでも送るか」
「そうですな、それが宜しいかと」
はい、一件落着。あのね、ガンさん家がなんで士爵になったかと言うとですね、向こう隣のゼルガニアがブルボニアを挟撃しようとして、忘れた頃(要は戦費ね)に大発挺というか、小早みたいな舟を出して、管理放棄地に上陸して来るんだそうですよ、ご苦労さんなこって。それで、昔追い返す争いが起きて、そこで活躍したみたいですよ。皆暇ですね。
5. モラッコ共和国国防省情報局諜報部深部調査隊
滞在していた皆がお家に帰りまして、静かになった夕餉です。
「ミーちゃん、畑どうする」
「んー、牛を呼び込んで一年休ませるかな。人工の肥料ばかりじゃ畑も疲れるかもしれないし」
「そんな事あるんですか」
「わからない、わからないけどね、輪作するなら牛の糞ということですよ」
「麦って気難しいんだね~」
「そうだね、農作物ってまだ良くわからない事が沢山あるよ」
「そうなんだ」
それでね、街に出かけた時にですね、変な噂を聞いたんですよ。なんでも帝都から流れてきた噂らしいのですけどね。
「そうそう、街でさ変な噂聞いたんだけど」
「あれかな、お城がなくなったとか、それを調べている人達がいるらしいとか」
「ああ、僕も聞きました。なんか外国訛がある帝国語を使っているらしいです」
「帝国城と言えば、ミーさね。お前さん誰かに狙われているのじゃないかね」
「誘拐でもするのかね。ここに攻めてくるような酔狂な人はいないと思うけど」
「わからないよ~、帝国も真教も王国だって来たし。人気物だね~」
「面倒くせえ」
「「「あははははは」」」
まあ、笑い話でしかないっすわな。油断なんてしていませんけど『人の事が気になるなんて皆暇だね』とか言っていたある日ですね、森の中で出会いました。
「こんにちは」
「くっ」
隠形マントの迷彩さんですけど、一度判ると結構判別できちゃうんですよね。そんなものないはずの陸自隊員さんの隠れ方って写真で見たことありますけど、あれよりは分かりやすいです。
「お、声を上げて驚かない所を見ると、訓練されている専門業者さんだね」
「はぁー、何故分かった。見つかるとは思わなかったけどな、降参だ」
「いや、降参も何も。別に命をどうとかじゃないですよ」
「一応な、自分は『モラッコ共和国国防省情報局諜報部深部調査隊』だ」
「『モラッコ共和国』?カッフェさんの所か。なんで?」
「『カッフェさん』が誰かしらんが、まあそれなりに調査を依頼されたのだ」
「知っているかどうかはわからないけど、交易船団長のマラウィさんね」
「ああ、あの人か。元はあの人の発案だけどな」
「なんで」
「・・・」
「言っちゃえー、誰も見ていないし。一人?しかいないよね多分」
「はぁ、そうだ。私一人だ」
「家へ来ます。カッフェもあるよ」
「お手上げだ、分かったお邪魔しよう」
ということで、おもてなし。とりあえず、お風呂に入ってね。
「ミーちゃん、そちらは」
「んー、ナナシさん」
「ナナシさん、いらっしゃい。エルです」
「ひょっとして、噂の主さん?アッセです」
「私は婆様さね」
「アッセさん正解。『モラッコ共和国国防省情報局諜報部深部調査隊』だって」
「「長っ」」
「部門名なんてそんなもんだよ」
「良いのか、敵だぞ。武装解除もしないのか」
「別に戦闘部隊じゃないでしょ、それなりにできそうだけど」
「まあそうだけどな」
「カッフェで良いですか。砂糖と牛の乳はこちらをどうぞ」
「牛の乳?そんなものを入れるのか」
「良ければ生乳脂もあるよ」
「面白い飲み方だな、生乳脂を良いか」
「どうぞ、それでなんでマラウィさんが発案者なの?」
どうも発端はあのお土産であるらしい。マラウィさんから私が船の事知りたがっている事を聞いたあっちのお偉いさんが、呼び込んで囲おうとしたそうですよ。マラウィさんが『そんな事をしたら国が潰れる』(失礼な、そんな事せんよ。ちょっとしか)と止めてくれて、ならば調査をしましょうと言う事になってナナシさんが送られて来たってことらしい。他の国にも同時にお出かけしている部隊がいるんだって。質問状が来たこととそのお返事を出したことはまだ知らなかったようだ。なかなか連絡が巧く行かないですね、しかたが無いですけど。
「なるほど、みんな心配性で知りたがりで暇だね」
「それで片付けてしまうのか、態々海を渡って調査しに来たのに」
「「あははははは」」
「だって、そうじゃん。人を囲おうなんて面倒な。言ってくれれば知っている限りのお話はするのにね、学校までは設立する気はないけど。船の技術交換をしてくれるなら、相応に。秘匿なんてせずに許可制で公開し合えば、もっと文明が進むかもしれないのになあ」
「それをそのまま報告しても良いか」
「もちろん。そちらの国に安全に入れてくれればですけどね。なんせ市民権なしだし、いわばアタシは、身寄りのない浮浪児なんだわ」
「私も~」
「僕も無くなりましたね、たぶん死亡扱いでしょうから」
「やーい、歩く屍ぇ」
「皆同じでしょ」
「そうだけどね。あ、そうだ。そちらに行くとしても、来春以降ですね。来春にここにいた人達の結婚式があるんですよね」
「ああ、魔導国のお姫様と、そこの辺境伯の娘さんだったか」
「おお、流石に調べてあるか」
「まあな、そうかそれならば、先に戻って報告しておくか。手紙でも良いか」
「もちろん。街には行っていますので、受け取れますよ」
「そうか分かった」
その後は、どうしても入れなかったと言う格納庫へご案内。なんか『本当に動力船なのか、しかも鉄板外装』とか驚いていました。
「それとなおかしな話を聞いたんだが、かなり確実性が高そうなんだが聞くかね」
それによれば、10年ぶり位であのゼルガニアが挟撃戦を仕掛ける準備をしているのだそうだ。準備段階ではあれど、三ヶ月もすれば動くだろうとの事だった。そこから船を使うとおよそ半月だから、四ヶ月後には上陸してくると言う事になる計算。暇人。ここのことも結構調べられているらしいです。そりゃ軍隊も来たしね、どうでもいいですけど。
「分かりました。ありがとう」
「いや、見つかるとは思わなかったからな。開放の交換条件だ」
「それはそれは。お土産はこちら。じゃ宜しく」
「承った。さて、怒られに帰るか」
「「「「あはははは」」」」
お土産は、クランクシャフトの構造図面。




