(10-04)深森の廃村(競走中)
(10-04)深森の廃村(競走中)
なんとか赤毛の鹿から角が採れまして、戻ってきました。戻る途中で見たんですけど、内側コースで何をやっているんでしょうね、バイクが周回しているんですけど。あっちゃぁ、やっちまったか。レースしていますよね、あれ。辺境村村娘です、ただいま。
1. こいつらぁ
「こらー、止まれぇ、止まらんかぁー」
中断旗を振り回しながら近づきます。戻ってきたバイクを見ますとね、傷だらけのベッコベコ。
「どこをどうすればこうなるのでしょう」
「あ、いや。見たこともない良い道があったので、ふと走りたくなってな」
「走るだけなら良いのですけどね、凸凹道では人の方が先に参ってしまうので、整地された道を使って長時間耐久試験ができないかなって思っていたんですけど」
という言い訳を創作してみました、実際は調子に乗っていただけですけど。
「うむ、確かに良い道だぞ、走りやすく疲れも少ない。国の道はこうありたいものだな、すばらしい」
「称賛はありがたいですけど、それで、なんでベッコベコなんでしょう」
「はっ、申し訳ありません。つい走りたくなりまして、ついでに競走などを…そのぉしたくなりましてですね、いや…申し訳ない」
やっぱりレースですか、そうですか。
「これ護衛用の長距離巡航型で、競走用じゃないのに」
「お、競走用なんてのがあるのか。そっちがいいな」
「あ゛、なんで第一段階脱落者のガンさんが護衛でもないのにいるの」
「あ…良いじゃねぇかよ、まだ護衛じゃねぇし。俺だって走りたかったんだよ」
「護衛訓練だって護衛の内だよ。都合よく置き換えちゃ駄目だよ。走りたければ、作るなり手に入れるなりすればいいだけでしょうに」
「こんなの買えるかよ。作れねえよ」
「そんな手前勝手な言い訳は理由にはなりません。身勝手も程々にね、子供じゃあるまいし。自分の所有物でもないのに勝手な事をする神経がわからんよ」
「できねえんだからしょうがねえだろ。なぁ、頼むよ」
「これに乗る資格はありませんと言っているの、乗車は禁止」
「よし、勝負だ!俺が勝ったら乗れることにしてくれ」
「全くどうしようもない駄々っ子だね。そんなに言うなら、アタシが勝ったら乗車厳禁。それでいいですね」
「おう」
『勝ったも同然』みたいな良い笑顔ですけどね。
「アッセさん、作ったまま一度も走っていないから、ちょっと練習してくるね」
「はーい」
アッセさんのパタパタ(皆そう呼んでいた)で走行練習。実際一度も走っていないんで、路面がどうなっているかわからんのです。
「勝ったな。大きいのとは速度が違うもんな。負けるわけがねえ」
「ガンドウ、狡くないか」
「うるせえよ、そんじゃお前ならできるのかよ」
「無理」
「ミー君が戻ってきたぞ。あのパタパタはあれが最高速なのか」
「そうですね、僕は直線でもあれ以上は出たことがありませんよ」
「うっし、行けるぞ」
全部聞こえているよ、アホ。耳良いんだぞ。
「お待たせぇ。ほんじゃ何周するの?三周位」
「おう、三周ありゃ十分だろ」
「はいよ、ジョルさん。号令掛けてね」
「分かった」
結果はぶっちぎり。はっはっは、ザマァ。最初は後追いだったんだけどね、一周目の最終立ち上がりで追い越して、そのまま置き去り。うははははは。ほとんどカーブしかないコースだからなんですけどね、直線が長かったら流石に難しいかな。
「なんでだよぉ。パタパタがそんなに速いわけねえだろ」
「お約束ですので、魔導国関係者以外の乗車は禁止します」
そりゃもう粛々と申し渡し。
「ミーちゃんすごいですね。パタパタで勝っちゃうんだもん」
「走り方が違うからかね」
「ミー君、『走り方が違う』とはどういう事だろうか。どう走れば良いのだろう」
「あー、街区内では使わないと約束できればお見せしますけど」
「わかった約束しよう」
「じぃーーー」
「大丈夫だ。信用してくれたまえ」
「じゃぁ、監視塔から観覧宜しく」
「うむ」
なんてことはないです、コーナーはしっかり減速して侵入、素早い加速で立ち上がる。カーブは、車体を傾け体で均衡を取りながら曲がるのです。外から内へまた外へ、できる限り大回りすれば速度を落とさず曲がれます。ただそれだけ。『競技の走り方じゃねぇ』とか言われれば、そりゃそうだ。一般的な道の走り方だもん。レースどころか、2輪なんて乗っていた覚えなんてないですけど、髪留めとか匙型カーブやら、うねうねとしたS字とか、車と一緒でしょって感じで走ってみました。全周ほぼ全開。
「分かりましたか」
「そうか、体を使うのか。外に回っていたのもそういう事か」
「その方が安全に早く曲がれますからね。2輪は操舵棒じゃなくて、体で曲がるのです」
「ミー君、私にもできるだろうか」
「すぐにできるようになりますよ。走りの基本だから、体が覚えてくれます」
「うむ、分かった」
「そういう事か。おっし、俺もちょっと行ってくるわ」
「禁止だっつうとろうが。何しれっと走ろうとしているの。何度も言わせるな」
流石に怒鳴りました。なんだこの駄々っ子脳筋は。
「じゃ、どうすりゃ良いんだよぉぉぉぉ」
「泣きを入れても無駄。どうすりゃもこうすりゃもない、『乗車厳禁』と言いました、まず自分で了承した事を守りなさい。自分のを所有してから心ゆくまでいくらでも乗って壊しなさい。ハンジョさんに売ってもらえば良いでしょ、たぶん丸の15位にしてもらえるよ。もしくは自分で作りなさい、設計図はあるんだから」
この世の終わりみたいな愕然とした顔をしていますが、諦めの悪い奴だ。
2. うちの人
次の日は、朝から二人はこっちに向かって土下座状態。
「「ねぇ、ミーちゃん。うちの人許して上げて欲しいんだけど」」
あれ?事情を知らないのか。仕方がないので、二人の行いと帝国の連座法を説明して上げました。なんで私が帝国の法律を教示せねばいかんのかね、私はいわば浮浪児にも等しい存在なんだけどね。婆ちゃんと同じで、市民権がどこにも無いもん。かろうじて辺境伯様のお陰で街に出入りできていますけど。
「えっとね、ヒルダさん。ガンさん達はね『斯々然々、◯書いて’』なの」
「えっそうなの!それじゃ絶対に許可しちゃ駄目よ。そういう事なら、あの人は間違いなくやらかすわ。許可なんてしないでよ、お願いね」
だそうです。
「でもやけに食い下がるわね、何故かしら」
「んー、今まで何かあったら力でねじ伏せるようにして来たんじゃないの?それが力じゃどうにもならないんで、躓いた。躓いた事なんてなかったんじゃないのかねえ、それでどうしていいかわからなくなったのが、今。引くこと知らずで、力押ししか思いつかないのじゃないかな。押し続ければ周りが引くだろうとしか考えていないね。しかも眼の前にぶら下がっているのは、目新しい2輪車と言う乗り物でしょ」
「はぁーーーーー、そうなのかしら。ごめんねぇ。よしっ」
ということで、ガンさんとジョルさんは、二人に連行され、夕方までお説教でございました。ほんじゃ、マルソー、エルデおいでぇ。
「ねータ、ねータ」
「ミーちゃ、エッちゃ」
ふむ、マルソーはまだ区別ができんか。やっぱり女の子の方が成長早いのかな。2歳だっけ?あ、数えだと3歳か。うん、かぁいい。あまりに可愛いのでつい魔法を見せたくなってしまいますが、ぐっとこらえて止めておきましょう。見せるなって言ったのは私だしね。ついでなので、絵合わせやら、神経衰弱やらどこまでできるのか調べておきましょうかね。それでですね、まずいかなと思ったのは『積み木』なんですよ。作る所を見ているとですね、四角と三角で家を作っておしまい。
「それはなにかな」
「おーち(たぶん『お家』と思われる)」
「あぁ、よくできましたねぇ」
やべぇ、それしかないかね。そりゃそうだ、だってここ廃村じゃん。家と言えば、自分家と宿位じゃないですか、あと見えるのは、木。石の家とかお城とかは、まだ見た事が無いんですよね。まずくね?視覚の経験値が足りなくねぇっすか。
よし、船くらいは、見せてあげようということで、お昼寝ついでにドックへ遊びに行って来ました。流石にまだ泳げんからね、船の見学だけ。でもよくよく考えたらそれが『何か』なんてわからんよね、水も張っていないし、帆も無いし。それでも帰ってから木を積むと三角と四角を並べ、上に船尾楼を重ねて、ちゃんと小さい円筒状の木をおいて、プロペラまでつけていました。
「それはなに」
「ぷよぺや(『プロペラ』だろう)」
「おぉ、よくできました」
「エユ(エル)、えやい(偉いの事かな)?」
「えらい、えらい」
「えへぇー」
おぉ、しっかりと覚えているではないか、偉いぞエルデ。順調に育っているようでなによりでございました。あれ?あんたの記憶力…結構良くね。
「でもさ、ミーちゃん。ワタシ等の村も大差なかったよね」
「…それもそうだね。心配する事はないのか」
「うん。まだ3歳だしね」
夕方になってようやく開放された二人は、それでもまだ未練があるようでしてね、
「なんとかしてくれよぉ」
「いい加減にしなさい。そんなに乗り足りなきゃ、カミさんに乗っていなさい」
途端に周りの音がしなくなりまして、シーン。
「コラッ!ミーちゃん。なんて事を言うの。ここに来てお座りなさい」
「えっと…そうそう3千年。精霊真教3千年だからーーーッ」
逃げダッシュ!アッセさん顔が赤いよ、よっ男の子。
「そんな訳無いでしょ!お待ちなさい」
「聞こえませーん」
3. 帰国
リア姉さんは、もうしばらくこちらだそうです。リア姉さんは、船でいつでも帰れますから良いですけどね、遠隔通話恋愛中。お姉さんの方も改良は順調で、中の上になりました。もう少しですよねということで、お兄さんは辺境伯様の所へ行って、ご挨拶と帰国を報告の予定。
「王子、今しばらくこちらに滞在しませんか」
護衛の部隊長さんの方が引き止めていたりします。
「なぜだ」
「いや、温泉。最高じゃないですか。そう思いませんか、思いますよね」
「近衛を止めて残るか?」
「うっ、そう言われるとなぁ、はぁーーー戻るしかないのか」
「そんなに気に入ったのか。だが、何時でも来られるではないか、そもそもあれの燃料はまだここでしか作れんのだぞ。連絡があるなら来るしかあるまい」
「あっ、良いのですか。連絡要員になれますかね」
「あれに乗れるのは、君達しかおらんだろう。通話できないものを送るには直接来るしかなかろうが、違うか」
「そうですね、そうでありました。では戻りましょう」
「よし、明朝こちらを経ちご領主殿の館に移ることとする」
「「はっ」」
うーん、なぁんかジージョさんの方を気にしている人がいるんだけど、いいか。行ってらっしゃいませぇ。
「ふふふっ、ジージョ。あの部隊長さん、ふふふっ」
「ガンバーレ部隊長様ですか」
「あら、私『部隊長』としか言っていませんよ、お二人いらっしゃるのに」
「あっ、お嬢様。酷いです」
ほっほー。梟になりそうです。
4. 卒業研究
鹿の角は、赤地に白斑点の方でした。赤鹿じゃなかったよ、紛らわしい。ただ、赤鹿は赤鹿で、なんとなく別の効能がありそうで、黒魔鹿といっしょに婆ちゃんが喜々として解析中。
それで、粉末とアルコール漬け(エキスの抽出・お兄さんの時はなかった)を作りまして、2パターンができました。未使用と言う選択肢はありません。
ほんで『新鮮な方が効果が高そう』ということで、探してきました。以前湿地で倒した事があるいぼいぼ付きの大きな蛙の粘液。これは、森奥の方に続いている門前川から分かれて沼状になっている所で寝ていた(冬眠)のですけど、効能が『強心剤』っぽいです。本当か?こういうのって誰が試すんだろうね、ムツゴロウ先生みたいなチャレンジャーがいるのかね、傍からみれば『良くやるなー』ですけど、本人にしてみれば、命がけの探求心・好奇心の充足なんでしょうかね。凡人たる私には分かりませんが。
後は、さらに奥へ分け入った所に生えている超高木。実に50[㍍]位のがわっさわっさ生えていまして、この木にできる空隙に析出される樟脳みたいな匂いの物質。うむ、ここまで来ると訳が判りません。樟脳だよ、あれを薬にするの?そりゃ虫避けだけどさ、『呼吸機能を高め、意識をはっきりさせる働きがある』そうですよ、よくもまあお兄さんは見つけたものですよね。
流石にお姉さんを連れて行く訳にはいきません(行きたがっていましたけど)ので、エッちゃんと二人で行ってきましたが、最初に効能を見つける人ってのは、やっぱりすごいわ。私の場合は半分、時には全部が狡だったりしますので、後ろめたいんですけどね。
「ミーちゃん、創薬ってのも難しいもんだねぇ」
「そうだよねぇ、ひとつひとつ効能を確かめて、さらにそれを元にして組み合わせを考えないといけないもんねぇ」
「そう言えばさ、学院では創薬は教えていなかったよね」
「普通は薬師の師匠さんから教わるのかね。創薬ってなると組み合わせは無限だろうしね、学業にする訳にはいかないか」
「そうか、そういう事か。お婆ちゃんからは創薬教わっているけど、要は共通するコツ?みたいな事だけだよね」
「うん『後は自分で精進せよ』だからね」
「そうだね」
「どうしたの、『創薬師』を目指すの」
「うーん、そろそろ決めないといけないかなーって思うんだけどね」
「迷っているの?上級製薬ができるってだけで、貴重なんだけど。普通は中の下で終わりだし。まだ当分は上級者は出てこないよ」
「え~、ミーちゃんは超特級が作れるじゃん」
「鎮静剤の事?あれは気にしないで良いです。一つ覚えだし(半分狡だし)。それ以外は、エッちゃんの方が遥かに上じゃん」
「そうなの?」
「そうだよぉー。他人は他人、自分は自分、比べても意味ないよ。思うがままに往くは我道。成人までまだ4年あるでしょ、その先だってまだ長い、たぶん。地面の裏にも行かないとだし」
「そうか、うん、もう少し考えるね」
「そうじゃ、そうじゃ。それが良かろうて」
「あはははは、何それ」
うーん、前世の10歳なんざ覚えが無い、記憶にない。でも想像はできます。明日のことなぞまるで気にせず、遊んでいたであろう事は確実。この時代は大変だ。
製薬結果は、エキスの勝ち。いや、勝ち負けなんてありませんが。上級薬になりました。特級まで後少しですけど、なんとなく例のパターンが嵌まるっぽい。すなわち魔力量の適正値。あれはですね、それはそれは沢山の組み合わせを試さないとわからないのです。測定機とかさ、コンピュータなんて無いじゃん、自分で試さないといけないのよ。そりゃもうてぇへんなんですよ。後、ネズミ頑張れ。
5. 卒業証書授与(世間的効果はない)
「すまないさね。私には、これしか渡せるものがないさね」
出回っている紙でも最上等のをハンジョ商会に用意して貰いまして、掠れ一つなく複製した婆ちゃんの特級救命薬(シールちゃんに使った水薬)の製薬指示書。所謂レシピをお姉さんに贈呈。
「よくがんばったさね、これからも精進するさね」
「ありがとう………ございます」
お姉さん、90度に体を折り曲げたまま、真っ直ぐ伸ばした両手で受け取ったまま微動だにしませんでしたけど、漸く体を起こし、指示書を胸に抱きかかえながらこちらに向き直りました。
「ミーちゃん、エッちゃん、そして皆さんもありがとう」
「お姉さんおめでとう。私達からのお祝いは、これね」
「えっ」
予想していませんでしたか、驚かそうと思いましてね。
「「薬剤鑑定眼鏡。超特級判定機能付き」」
「鑑定眼鏡?!」
黒魔鹿の革で外箱を装丁し、赤フェルトの内張り。魔鉄のバネ式蝶番で、すっと開いてパクッっと軽い音を立てて締まります。結構自信作の入れ物なんですよ。眼鏡の縁はいぶしの魔銀でね、眼鏡部分はとびきり透明な水晶製。作り方は精霊真教の秘匿本にありました。その他の内容がいろいろちとヤバそうなんで、原本は秘匿です。機会があればお披露目するかも知れません。現在婆ちゃん用(老眼対応)を作成中。
「ちゃんと計れますよ」
「頂いてしまっても良いのかしら」
「「もちろん」」
「大切に使わせて貰うわね」
「うむ、超特級を目指し邁進するが良いぞ」
「ミーちゃん、何それ。あはははは、ああ可笑しい。分かりましたありがとう」
「よーし、お祝いの宴だー。初公開、アッセさん特製ひき肉硬め焼きだぞぉ」
トマトはないけどな。




