(10-02)深森の廃村(教習中)
(10-02)深森の廃村(教習中)
いえね、当事者のお姉さんはともかく、他の人達も採集行脚に行きたいとか言い出しまして、まあ半分は空からの観光でしょうけど。鹿さん…高山にいるらしいんですよね、高山病を気にしないといけませんよね、訓練しないとだめですよね。どうすれば安全に行けるか模索しております所の辺境村村娘です。こんにちは。
1. できたぞ
とりあえずは、小型のを拵えてみようということで、製造検証を兼ねて先にモペッド位のを作ってみることにしました。小型にするために、車輪寸法を10吋程度に押さえて、機関のオーバーヘッドバルブ機構も省きまして、そのまんまモペッドという感じのを作ってみたわけですよ。外観はですね、某イタリアのスクータを思い浮かべて下さい。王女様もいることだしってんで、そのままとは行きませんでしたけど、似せて作れたと思います。テケテケ走るなら、それで良かったし、アッセさんは喜んでくれたんですけどねぇ、それ以外の人達は『却下、模型の車輪と同じが良い』でした。いや、お兄さんは別として、あんたらは乗れるか分からんぞ。
走行テストはカバ(牛)の草原に街区コースを急遽作りまして、モペッドを持ち込んでアッセさんとエッちゃんの3人でエンジンテストとか、脆弱箇所の修正やらで耐久試験を行いまして、これならなんとかということで、大型制作開始。制作の間アッセさんはまぁ当然として、エッちゃんも街区の安全走行を覚えてしまい、なんか期待されている今日このごろでございます。
モペッドの車輪径は10吋で、最高速度は20[km]でした。大型バイクの見かけは、リッターを越えている昔々のインデアンとか、陸王みたいな感じを思い浮かべてくださいな。V字型のエンジンに、タイヤの半分をもっさりした泥撥ねよけで覆い、どっかりと着座する事務椅子みたいな座席のバイクがあったでしょ、あれです。見かけはほぼそのまんまです。最高速度は50[km]でした。とは言え、真面目に乗らないと死ぬし、事故を起こしたら馬車の比じゃないぞ、たぶん。
カバ草原の街区コースで試運転をして、領都に持ち込みました。教習コースは新たに領主邸の裏にある空き地に作らせて貰いまして、そこで2輪を披露した所、辺境伯様にビシッ!さんどころか、ハンジョさんまで目玉キンキラキンになってしまったんですけど、どうしましょ。さらに困った事に魔導国の近衛さんが到着したんですけど、その数10人。2人って言ったじゃん、人数多すぎ。その10人も選抜競技会を開いて漸く減らしたとか言っていました、わーい王子様人気者。どうすんべ。
2. お姉さん達の訓練
「訓練しないと死んじゃうよ」
「そうですわね、空気が薄くなるのでしたかしら」
「そう、途中で何回か慣れるためのお休みを入れるけど、空気量の体験をしておかないと危ないし」
「どうすれば良いかしらね」
「船で上に行って、魔力盾を止めれば良いだけだけどね」
「なるほど、では皆さんもご一緒に参りましょう」
「「「はい、分かりました」」」
こっちに来てから魔力、体力的にたぶん向上していると思われますし、同年齢のお嬢様の中ならぶっちぎりのダントツだろうけど、基本は皆そこまで丈夫ではありません。身体強化は覚えましたから、そうそう危ないことにはならないはずですけどね、うんガンバロウ。
「1500[㍍]に到着でーす」
という事で、1500[㍍]で魔力盾を外してみました。ここなら掃除虫も来ないだろうしね、多分大丈夫。
「ずいぶん高く感じますけど、呼吸は下と変わりませんわね」
「ここだとまだ源泉がある所の倍位かな、あまり変わらないからね」
「そうなのですね、ここで負けてはいけないということですわね」
「いや、戦う必要なないけどね。この辺りから慣らしていかないとどうなるかわからないし」
「分かりましたわ。皆様頑張りましょう」
しばらくそのまま優雅にお空のお茶会。
「すごいです。お空でお茶会ができるなんて、お嬢様付きで良かったです」
「私も初めてです。窓から見える景色も下とはずいぶん違っていて、新鮮ですね」
「先日の遊覧飛行の時とは違って深森の雪が、白くて綺麗ですわね」
「あの花畑も真冬だと言うのに変わらず綺麗に咲いていて、素晴らしいですわ」
ここに慣れたら、次は2000です。
「2000[㍍]に到着でーす」
「少し息苦しいというか、頭痛がしてきました。なるほど、こうなるのですね」
「では今日は終わりにしましょう」
「はい、次は頑張りますね」
「いや、あまり頑張ると倒れるからね、症状が出ると言うのを体験できれば良いだけだし。我慢なんてしないで、直ぐに知らせて下さいね」
「そうは参りませんわ、皆様頑張りましょう」
「そうですわね、「「「ハイッ!」」」」
円陣組んで、手のひらを重ねて
「気合が入っているなー」
第一回訓練飛行はひとまず終了。しばらくは2000で慣らしですかね。
3. 安全運転講習会の前に
当然ですが、誰も2輪車に乗ったことなんぞありません。例の模型に取手と座席だけ着けまして、停止状態で足がつくことを確認したら、各人に跨って貰います。
「行きますよー」
「おぅ!」
「それっ!」
速度が落ちて止まるまで姿勢を保っていられるかを覚えてもらいます。最初は一人もいなかったんですけどね、何回か繰り返すと転ばずに止まれるようになりました。筋はなかなか宜しいです。実はこれ、あの競輪選手の超人さんが勧めていた自転車の修得方法らしいです。ペダルを全部はずすと、前進だけに集中できるので、修得が早まるとか何とか、小さい子でもその日のうちに乗れるようになるそうです。最近は、専用の小型2輪車もできているそうで、便利になったものです。
「3!5!2!」
何をしているかと言いますと、停止位置で指を開き走行者に本数を読み上げてもらうのです。視野を遠くに広く取る事を覚えてもらうためですが、その辺は騎馬ができますからそつなく熟してくれまして、こちらも無事修得。
「王子、お呼び頂きました事、感謝致しますぞ。これは実に面白そうな乗り物ですな、早く本物に乗ってみたいものです」
話しているのは近衛団長さん。筆頭が来てしまっていました。いいのか?
「何、あっちには副団長がおるからな、かまわんのだよ。それより、先日は騎士団総長が申し訳ない事をした、あいつも任務とは言えだいぶ気にしていたんでな」
「あー、いえいえ。あちらもお仕事ですから、気にしていませんよ」
「そうか、それならば良い。さて、これで実車に搭乗する事ができるのかな?」
「いえ、そうは行きません。街中を走る場合の注意事項を知ってもらいませんと馬とは違いますし、今の所法も何もないですから、自主的に動いてもらわないといけないのです」
「なんと、座学があるのか」
「主な注意事項はさほどないですよ。後は騎馬と変わらないと思いますけど」
「そうか、助かるな。この歳で座学と言うのは、なかなか辛いからな」
「大丈夫じゃないですかね」
4. 安全運転講習会
「えー、それでは街区と街道を安全に走行するための講習会を始めます」
今のところ道路交通法も信号機も、標識だってない状態ですからね、自主的に行動を制限してもらわないといけないのですよ。なので、次は走り方講習会。
・ 人ははねるな、ぶつけるな。住民も護衛対象と心得よ。
・ お酒を飲んだら運転禁止
・ できるだけ道の中央左を走ること。すれ違い時は注意して
・ 街中は、基本徐行。直ぐに止まれるように
・ 丁字路から出る時は一時停止に左右確認。
・ 交差点は進入方向問わず最徐行。左右を確認して進行
・ 直進車優先、左方車優先、互いに譲り合うこと
あとは、スイッチ類の操作方法。たったこれだけ。だったんだけどねぇー。
5. 実車走行しまーす
最初は、広場に似せた中央にある交差点内を徐行でグルグルと回って貰いました。8の字とかスラロームとか、低速の橋渡だとか、加減速とハンドルの取り回しを覚えてもらわんとどうにもなりませんので。一通り覚えてもらったら、いざ街中走行…だったのになー。
「丁字路は、一時停止して左右を確認するの!」
「交差点は、徐行して左右を確認!」
「交差点の直前で追い越ししないの!追い越しは右側だってば!」
「見通しの悪いところではもっと慎重に走るの!」
「もっと速度を落として!曲がる前に方向を指示して!方向指示が先っ!」
「警笛は脅すためじゃないっ!人は障害物じゃないっ!撥ねる前に停止っ!」
だぁー疲れたぁ。どういう事だってばよ。物珍しいのは判るよ、判るけどさ。
「うおぉぉぉ、襲歩のまま走れるのか!これは良いぞぉ」
「なんと!燃料尽きるまで襲歩を保てるのか、すごいぞぉ」
まあ、馬じゃないんで、そういう事なんですが。皆すっかり街中徐行を忘れ去って、交差点も丁字も止まる事も減速もなく直進。あんたら王子様の護衛だよ護衛、お仕事忘れているでしょ。もっともその王子様が、
「あっ、そこ!それ人なんですよ人。人がいるんですよ!あ゛ーっ、ダミー人形が吹き飛んだー」
これだもんで、どうにもなりません。冷水ぶっかけたろか。
「団長!時間ですよ。代わって下さいよ、次俺なんですから」
「いや、あと一周、一周だから待て、待ってくれ」
「待てと言って、何周しているんですかぁ」
「お館様、そろそろ私にも操らせて頂きたいのですが」
「セバス!もう少し待て、もう一回りさせてくれ」
貴様ら頭冷やさんかぁー。
6. 続・お姉さん達の訓練
教習の教官をアッセさんに代わってもらって、ここ何日かは2000[㍍]上空で慣らし飛行をしていました。最初は婆ちゃんも加わっていたんですけどね、残念高山病症状が出て、克服ならずでお留守番。だいぶ悔しがっていました。
「お師匠様は残念でしたわね。ミーちゃん、次はどうします」
「今2000ですけど、2500辺りに行ってみますか」
「そうですわね、いきなりではなんですから少しずつかしら」
「そうしましょう。それじゃ上げますね」
たぶん本格的に高山病の症状が現れる高度ですけど、それっぽくは慣らしはしましたので、然程の症状は出づらいと思います。ただ短期集中ですしね、日をおいていますから元に戻っている事だってあるでしょうし、素人が何を考察しても休むに似たりというものですけどね、さて行ってみましょう。
「到着ー」
「頭痛、吐き気、目眩などはありませんわね、慣れてきたのかしら」
「私もありません。最初は2000[㍍]でダメでしたから、進歩ですね」
「「私達も大丈夫です」」
この時、私は大事な事を忘れていたのである…なんて事はなかったですよ。
「ところで、魔鹿とやらはどのへんにいるのかしら」
「私は存じませんわね、ミーちゃんはなにか聞いていませんか」
「魔鹿って何種類かいるみたいですけど、どの魔鹿ですかね」
「あら、そうなんですの?角に赤い筋が入っている赤毛の鹿らしいのですけど」
「赤毛の鹿?エッちゃん、見たことあったっけ」
「え~と、赤い点々が動いていたのは見たかな」
「赤い点々?ああ、教国へ続く連山?あれ鹿なのかな」
「そうそう、小さくて見えなかったけど」
そうです、あのクネクネ道のさらに上。結構高い所にある岩場をぴょいぴょいと移動していました。あれが魔鹿とするなら、4000[㍍]辺りですかね。ちょっとどころではなく標高高いぞ。
「そうすると、ここの倍くらいの所だねえ、息できるのかな」
「鹿が生きているということは、大丈夫ではないかしら」
「今の半分位の空気量になるのでしょうか」
「すごい所に生息している魔獣がいるものですねぇ」
「どうします?って言っても訓練するしかないんですけど」
「「「「もちろん行きますわっ」」」」
「あ、はい」
あいかわらず意気込みがすごいです。うーん、アンデス地方でしたかね、標高がものすごいことになっている、たしか5000[㍍]位の所を生活圏にしている人達がいたはずですけど、さて慣れるのに何日かかるでしょう。
7. 安全運転
全員が一通り襲歩速度の吶喊ごっこを堪能し終わって漸く落ち着きました。既に一週間経過していますけどね。その間教官役をしてくれたアッセさんも呆れていました。
「いや、年甲斐もなく燥いでしまったな」
「落ち着きましたか?もう燥ぎすぎですよぉ。主たる任務は護衛ですよ、護衛。最も護衛対象たるお人も燥いでおりますけどね」
「うむ、確かに私も燥ぎすぎだったな」
「安全運転一択。街中は徐行。一時停止もお忘れなく。国旗を掲げて他国の人を撥ねたら戦争になっちゃいますよ」
「確かにな、うむ気をつけようではないか」
「団長、団長が一番危なさそうなんですが、それは?」
「そういうお前たちも差して変わらんではないか。よし明日から安全運転だ」
「あのー、最終試験後には安全に護衛できる方2名となりますので、お忘れなく」
「・・・・・」
しまったって顔していますけど、知らんよ。
8. 手本?
「ミー君。お手本とか見せてもらえないだろうか」
「いいですけど、ちゃんと覚えて下さいね」
パタパタと検定コースを走っていると、道端に止めてある乗り合い馬車の影からジョルさんが飛び出して来やがった。アホめ、車の陰から往来へ飛び出す馬鹿対応なんぞ安全運転初歩の初歩だ。
「なんで判ったの」
「判るんじゃないの、乗り合いを降りた人はさっさと道に出てくるものなの。子供なんかは飽きているからそりゃもう元気に飛び出してくる。『平気だろう』『退くだろう』じゃなくて『飛び出すかもしれない』で運転するの!『相手がこちらに気づいていないかもしれない』で運転するの、事前に対応しておくの」
「そこまでせねばいかんのか」
「団長さん当然です。できるだけ視野を遠方に向け広く取り、『かもしれない』で想定しながら走るんですよ、無事故無違反になったら免許皆伝にして上げます。それまで実際の街乗りはさせられませんからね」
ふっ、そっちがその気ならこっちもレベルを上げてあげよう。子供ダミー人形が道を行ったり来たりできるようにしてみました。
「飛び出した子供を避けたのに、なんでそいつが戻って来るんすか」
「親に呼び止められたら、戻って来るに決まっているじゃん。ついでに、道の反対側から親に呼ばれれば、状況に関係なく飛び出してくるわよ。避けるんじゃなくて止まるのっ!止まれる速度を徐行って言うの。いい加減分かりなさい、この人達は全く」
丁字路の一時停止と左右の確認、十字路での最徐行と周囲の確認。人形を撥ねなくなるのにさらに2週間。ようやく第一段階と呼べる所をクリアしました。疲れる人達だ。第一段階ってのは、2輪に乗れて、街区コースを安全に規定の要領で回れたら修了のはずだったのですが、こっちの人間には自動2輪はまだ早かったのか、一時停止はできないわ、警笛を鳴らしながら交差点を突っ切るわでどうしようもなく、修了検定を何回したか分かりません。
馬と違ってバイクは自分じゃ考えてくれませんからね、運転者が常に周囲を見ていないと安全運転なんてできません。警笛を鳴らして人を押しのけ、前だけ見ていれば良いってものじゃ無いんですよ。こんなもん教習所なら4時限かそこらだぞ。勘弁して欲しいわ。でね、思った通りにガンさんは第一すら越えられませんでした。何度か補習をしましたが、結局無謀な運転は直らず、出入り禁止。『チーン』。




