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(09-X2)モラッコ共和国(開発)

(09-X2)モラッコ共和国(開発)


「ちょっと全員集まってくれ」

「「「「「なんですか課長」」」」」

「あのな、今携わっている開発仕事は一旦全部中止だ」

「とうとう課がなくなるとか」

「そうじゃない、これを見てくれ」

「『魔石動力船取り扱い説明書』…船?動力って書いてありますけど」

「そうだ、動力だ。機械動力で走る船の取り扱い書だ」

「「「「「はぁぁぁァァアあっ!」」」」」

「だろ、そうなるよな。交易局の船団長が魔導国で手に入れて来たらしい」

「詐欺か偽物じゃ無いですか?ありえませんよ」

「第一はな、そう考えて即座に拒否したそうだ。課が無くなったけどな。それでだな、船団長達はな、それを操船して来たと話しているんだ。不確かではあるのだが、実在するらしい」

「あ、分かりました。動力を製作してニ課の力を示せということですかね」

「そういう事になるな。でな、これは取説だろ?設計図ではない。途中に差し込まれた挿絵と文章から紐解き、機械を起こさねばならん。どうだ?やるかね」

「「「「滾りますね。やりましょう」」」」

「主任、どうした?」

「いや、この取説ですけどね、この辺り動力周りの整備説明になっていますね、挿絵ながらも図があるし、仮に例え詐欺物件だったとしてもそれなりには作れるんじゃないですかね。これ整備作業手順書でもありますよね、そうかこの考え方だけでも参考になるな」

「気が付かなかったな、なるほど。どうだやれそうか」

「やりましょう。見慣れぬ工具まであるっぽいですよ、まずはそこら辺からですかね」


1. 皆で写本


 コピー機なんてありませんのでね、どうやら皆さん写本から始めるようですよ。


「主任、手順はどうするかね」

「まずは、この取説の読み込みですかね、というより一人一冊にする為の写しでしょう」

「それもそうだな、写す間に理解も深まると言う事か」

「そういう事ですね、よしっ!始めようか」

「「「「分かりました」」」」


 それはそれは丁寧に頁を切り離し、自炊を始めたようです。しばらく様子見ですね。


「あれ?この外観は…うちで設計した貨物船の『高速汎用船Ⅱ型』じゃね?」

「えっ?というと、設計図はっと…これかな」

「おお、これだよこれ。そう言えばだいぶ前に海魔にやられたって聞いたな」

「海魔にやられてボロボロになったらしいぞ。それを復元したって事か?誰だよ、ほとんど新設計じゃねえの、結構すごくないか。てか、Ⅲ型にしたいな」

「だよなぁ、うちに来てくれないかね」

「はっはっは、そりゃ良いな」


 別の分冊写本担当からも声が上がりました。


「げっ!なぁ、これ船体が魔鉄て書いてあるんだけど」

「うっそだろ。本当だ魔鉄って書いてある。すげぇな、どうやって繋げるんだろ。流石にそれは書いてないよなぁ。課長、こりゃ将来船にするには、技術交換と言うか、それなりに流出を覚悟しておかないとだめっぽいですよ」

「出元が魔導国だとして、聞き入れてくれるかな。普通は無理だよな、うちだって秘匿してるしな」

「そうですよね、そのへん船団長に聞いておいて貰えませんか」

「わかった確認しておくわ」


 そんな訳で、分冊された取説が10冊になるまで約一ヶ月。ご苦労さま。


2. 取説後半は見なかった事にしよう


「主任、この飛行機能ですけどね」

「あ、それな。出来ないよな」

「なしで良いですよね」

「そもそもとりあえず機械動力だろ。船の事は忘れろよ」

「あ、そうか。でも欲しいですよね。空ですよ空」

「取説の通りならば、海魔の魔石だぞ。まず海魔を討伐して、その魔石を手に入れねばならんのだぞ。無茶を言うな」

「だめかぁー、夢があって良いのになぁー」

「なんなら、お前が取って来てくれていいぞ」

「死にたくありません」


3. 木型(1)


 開発課員が木材の塊を削ってはチマチマと工作しております。蒸気機関車の動輪にも似ているはずみ車(クラッチ兼用)と摺動弁開閉機構が連動しているので、どうしてもそこまでは同時に作らねばならない訳で、こちらは既に模型として出来上がっているようです。


「で、この大輪が廻ると機関上の摺動弁が前後に移動するのか、よく出来ているなぁ」

「今はまだ滑りが良くないけどな。これを金属にするのか、するんだよな」

「そうだな、そうしないと動かんしな」

「蒸気かあ、考えもしなかったな。魔力で動かす事しか考えていなかったな」

「おう、そうだよな。魔道具で蒸気を作って、その蒸気で船を動かすんだもんな。そもそも蒸気にそんな力があるなんて思ってもみなかった」

「だよなぁ、やられたなぁ」


 どうやら彼らは魔力だけで機械を動かそうとしていたようですね、まぁ液体燃料ないもんね。アルコールとか植物油とか、ディーゼル機関としてなくはないけど、液体燃料は生産量的に無理があります。動力化魔法を模索し、それを魔道具化するつもりで長年研究してきたわけですよ、この世界ではたぶん到達できない(知らんけど)目標に向かって。残念でした。今なら液化魔素が作れるようになりましたので、魔導燃料と回転機構はなんとかできますけど、回転機構の魔石がね、出力に耐えられる魔石はそうそう手に入る代物ではありませんからね、大海蛇だもんよ。あるいは、あの対岸の島にいた馬鹿でかい大陸蛇(おおりくへび)。そうしないと白の精霊により回転力を作り出す押し引きの力を取り出せません。無理ゲー。


「なあ、この蒸気を作り出す部分な、魔力はどのくらい必要なんだろうか。機関に通じる魔力供給路らしい所にさ、何か解らない『魔導線』ってあるだろ?これなんだろうな」

「それな、この前魔道具課の連中が突き止めたらしいぞ。その解析報告書がそろそろこっちにも来るんじゃないか」

「お、そうなのか。それで」

「マラウィ船団長が買ってきた『濡髪乾燥機(ドライヤー)』に使われていたらしい。船団長が土産で貰った万年燈火だったかな、なんとか筐体を開けたら中の魔石を繋ぐのに使われていたってよ」

「おぉ、船団長すごいじゃないか。魔力を供給する線ということか、なるほど」

「けどな、製法は『わからん』だってさ。材質は銅線らしいのだけどな、単に魔力を流し入れても通らなくってさ、継続調査中。しかも一度開けた魔道具の留め具がゆるゆるになって閉まらなくなって、最後は接着したらしくて船団長泣いていたってさ」

「さすがは魔導国って事か?」

「だな、船団長ご愁傷さま」


 はっはっは。タッピングビスは取り外すとゆるくなりますもんね、塗料を塗り重ねて穴埋めしてからじゃないと締まりません。カッフェさんお気の毒。うん、まずは精霊さんに名前を付けないとね、魔力が足りませんわな。頑張れ産業省。


4. 木型(2)


 いよいよ本体の木型製作に入ったようです。丸太をくり抜きシリンダーにしていますね、器用ですよね、外注もせずに開発室だけで作っていますものね、手作業で。


「なんとか吸鍔(ピストン)だっけ?摺動するようになったぞ、空気の漏れもないし、連接棒コンロッドも引っかかることもなく左右に動くぞ。油まみれだけどな」

「ようやくここまできたか、一応形のお披露目位はできそうだな」

「そうだな、それでさ連接棒はどうやって動かそうか、空気を送るのか」

「とりあえずはそれしかなかろう、まさか蒸気を送り込むわけにもいかんだろ」

「そうだな、じゃあ製造部からフイゴを借りてくるか」


 大型のフイゴを取り付け、空気を送り込む人達。無事連接棒が左右に動き、はずみ車が回転して連結された摺動弁が動いたようで、おめでとうございます。一度動かしたらバテたようですけど。


 まだ圧力に耐えるよう金属化しなければならないし、単気筒で船は動かないし、プロペラも作らねばならないし、火点の魔石も必要だし、水を噴霧する圧空の魔石もいるし、火点も普通に空気だけだと火力が不足して蒸気にならないしね、その蒸気を復水するラジエータは、船倉にあって見えないんだわ。前途は茨ですけどね。


「課長、見てください。とりあえずとは言えなんとか稼働模型ができました」

「おお、すごいじゃないか。これで面目はたったな。よし、一度お披露目と行くか」

「「「「「了解しました」」」」」


5. 模型のお披露目


「どうですか、技術局長」

「うむ、模型とは言え動くさまは圧巻だな。取説からよくぞここまで形にしたものだ。ご苦労だった」

「いや、本番はこれからなんですけどね」

「まあ、そうなんだが、それはそれ。先が見えないよりは良かろう」


 あ、ごめん。多気筒化した後の絵図は作ってなかったわ。当然カッフェさん達はそれを見ているよね。


「どうだねマラウィ君。実物を見たのは君たちだけなのでな、これをどう思う」

「えーとですね、実機はこれが4連になっていたんですけどね」

「そうですね、確かに連接されていました。一つでは動かなくて急遽連結したとか言っていましたね。一つだと空回りはするけど、水に浸けるとまるで動かなかったらしいです」

「よ…4連?」

「そう、4連。どうだったかな、こうジグザクの形の棒にこの摺動棒が繋がっていてね、順番に回っていた気がするな。取説の記載漏れと言うか、予想外の出来事だったから記載してなかったのかも知れませんね」

「ありえますね。取り扱いの基本は、何台でも同じですもんね」

「なるほど、そういう事か。連結分は試行錯誤するしかないか。事前に分かっただけでも良しとするしかないな」

「ならば、それを見越しておいて実機にしませんか。実際動かないと意味ないですし」

「そうだな、設計図はあるのかね、製造部に廻せるのか」

「準備は出来ています」

「よし、実機化しようじゃないか」


6. 動きませんので、前途多難


 製造部から戻ってきた部品を組み立てて、単気筒蒸気機関が出来たようです。魔道具課に依頼していた火点と圧空の魔石も用意できたみたいですよ、頑張れ開発部。たぶん動かないけど。


「あれ?稼働開始はどうするんだっけ」

「ああ、それはな最初に空気だけを送り込んで吸鍔(ピストン)をどちらかに寄せておくんだとよ。寄せた方を最初に膨張させる」

「あ、そうか」

「よし、送気するぞ。火点は用意できているか」

「火点よし」

「給水栓開放、圧空送気開始」


 ボァ


「火点は動作したな」

「したな。蒸気にはならなかったがな」

「なぜだ?」

「火点の火力が足りないんじゃないのか」


 魔道具課に連絡中…


「これ以上ない威力の火球を書き込んだそうだぞ。魔力が不足しているとか言っているが」

「魔力?普通に供給されていると思うぞ」

「魔導線の代替品が原因か?」


 魔道具課を呼び出し…


「魔導線の導通が悪いんじゃないのか」

「いや、魔導線は作れんのでな魔石粉を固めたんだが、魔力は通っているはずだぞ」

「通せる量が少ないと言う事か。効率が悪いとか」

「ありえるな、広げて見るか」

「おお、そうだな。管路を太くするか」


 すげえですね、ガラス管に魔石粉を詰めて魔力導線にしているみたいです。強度はともかく創意工夫が素晴らしい。


「火点よし」

「給水栓開放、圧空送気開始」


 バン!


「今度は蒸気になったな、吸鍔(ピストン)も動いたな。途中までだけどな」

「ああ、蒸気の威力が足りないな。これはどうすりゃいいんだ。詰んだかな」

「いや、圧空側も太くすべきじゃないのか」

「なるほど」

「火点よし」

「給水栓開放、圧空送気開始」


 ズバン!


「良し蒸気になった、吸鍔(ピストン)も動いた、対面までもうちょい」

「さて、弱ったな。どういう事だ」

「うーん、あっ!このコロ軸受ってなんだ?ただの軸受だと思っていたんだが、違うんじゃないのか。もっと滑らかに廻るようになるとかあるんじゃないのかな」

「なるほど、だがうちにはそんなもの無いぞ。構造も分からんしな。とりあえず潤滑油を柔らかくしてみるか」

「おお、そうだな」

「火点よし」

「給水栓開放、圧空送気開始」


 シュボッ!


「よっしゃぁー蒸気になったぁ、吸鍔(ピストン)も動いた、対面まで行ったぞ!」

「そうか、摩擦か。膨張力に対して損失が大きすぎるんだ」

「そういう事か。それとな蓄魔がもう空だ」

「『蓄魔量の不足、損失過大。全体的に低効率』いまはこれくらいか」

「そうだな、課長に報告を上げるか。先は長いなぁ」

「先があるだけましだろ。しかも明るいと考えようぜ」

「そりゃそうだ」


 そうそう、開発は運・鈍・根。運呼ぶ信念、めげぬ鈍感、挫けぬ根気。頑張れぇ。


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