(09-10)深森の廃村(船飛行)
(09-10)深森の廃村(船飛行)
まだまだ暑い日が続いています。船もそれなりに動かせましたし、ハンジョさん達は、迎賓館でなにやらしているようですけど。そう言えば、お姉さん達は何をしているんでしょうね、まあ良いか。今回は招待されているわけではありませんので、別行動。そろそろ予定では帰るはずですが、どうなんでしょう。辺境村村娘です。こんにちは。
1. なぜ君達がいるのだ
「ミーちゃん、日に焼けてお顔がチョコレト~」
「エッちゃんもねー、美味しそう」
「「あははははは」」
予定では、今日が帰国日ですので、見本市に来ました。入場許可証がないので、今回は入れません。お願いすれば出してくれたかな?忘れていましたね、カッフェもバナナも買えないじゃん。馬車の所に行くと、ハンジョさんがいました。あれ?国王様と騎士団長も居るな。ハンジョさん、こちらに気づいて振り向きましたが、国王様達は驚き顔。なにか在ったのかな。
「ハンジョさん、戻れますか?」
ハンジョさんが答える前に、騎士団長さんが前に出て来ました。
「なぜここに君達がおるのだ!招待状は出してはいないだろう」
「え?だから見本市には行っていませんよ」
「違う!君達はあの管理放棄地にいなければならんのだ。その予定だったのだ」
何を言っているんでしょうかね、このおっさんは。エッちゃんを見ると、手のひらを上に向けて、両手を開いて、アイドントノー。
「なんですか?入国をしてはいけませんでしたか」
「君達がいなければ、あの地で戦えんではないか」
訳が分かりません。『戦えない』とか、大げさな。まるで、だれかが攻めてくるみたいではありませんか。
「ン?戦えない?攻めてくる?誰が?(ポクポクポク…チーン)まさかとは思いますけど、真教が動きましたか?」
「そうだ、誰も君達の事は口にしなかったのでな、まさかここにいるとは思っていなかったのだ」
今度は国王様。いや、真教が動こうが何しようがどうでもいいじゃんねぇ。
「うーん、何か可笑しいな。変な事態になっているような気がしなくもない。えーと、そうですねぇ、真教が動こうが何しようがどうでもいいですけど、精霊会話盤の事を真教に知られでもしましたか?」
「…」
「ほうほう、でも広がりすぎていて、真教には手が出せなくなっていたと」
「…」
だめですよ、お貴族様は顔に出してはいけないらしいですよ。
「なるほど、それで真教さんは調査しました。結果、これ以上広がって自分たちの怠惰な生活を脅かされるのは、たまらんと」
「…」
「ふむふむ、ならば『元凶たる管理放棄地の連中を潰してしまえ!帝国の南部辺境と北の谷から兵を送り込め!子飼の南部は逆らえまい』と真教は考えました」
「…」
心の内が顔に出て、能面のようになると、生気がなくなるんですね。
「便利とは言え、時代の先取りのような代物を作り出し、にも関わらず余の下にはおけず、御する事もできないような輩は、危険きわまりない。この際だ、潰れてくれれば余の国は安泰である」
「…」
「ははぁ、さらに帝国は小狡いことを考えました。適度に兵力を減らしてくれれば、管理放棄地を再度自国だけのものにする事も容易ではないか?魔導国は、黙認してね」
「…」
大体はいい線を言っているっぽいですよ。
「なんとまぁ、何もする気はないんですけどね、何を勝手に血迷っているんでしょうね、皆さん。せっかく大人しくしていたって言うのにねぇ、よしっ!四カ国全部纏めて面倒を見ましょう。ふははははは」
「どういう事だね、ことと次第では、この場で成敗させて貰うが」
「出来ますか?国運を賭けられるならどうぞ。エッちゃん、非常事態宣言します!」
「はい、どうぞ」
「そぉーれっ!よしっ、乗船」
船を出しましてね、エッちゃんには誰も入ってこられないように守ってもらいます。その間にぶっつけ本番ですけど、海蛇の魔石を船に取り付けます。ついでに陸蛇のも。
「なんだこの船は、帆がないでは無いか。こんなもの、成敗せよ。総員戦闘開始。弾幕で、船ごと潰せぇ!」
団長さん、手のひらくるりん。木製じゃあるまいに、そんなもんで潰れる訳がないでしょうよ。しかもエッちゃんの魔力壁付きですよ。無理無理。
「帆がない?まさか共和国が研究している動力を使っているのかしら、それなら『モラッコ共和国通商船団、船団長マラウィであります。貴船への乗船許可を頂きたい』」
「ミーちゃん、カッフェさんが乗船したいって」
「えっ?『しばらく戻らないよ』って伝えて。作業は、もうすぐ終わるから」
「かまわないってぇ」
「それなら、いいよ。通してあげて。たぶん動力を知りたいんだと思うよ」
「分かった~。マラウィさん、どうぞ乗船して下さい」
「感謝します」
「ミーちゃん、待ちなさい。私も連れていきなさい」
「お姉さんも来ちゃったぁ~」
「面倒な。危害を加える人じゃなければ、大丈夫でしょ」
「は~い、兵士さんはだめで~す」
「ルリエラ嬢、危険です。反逆の徒なぞどうなっても良いではないですか」
「うるさいですわね、ミーちゃんの事なぞ何もしらないくせに、お黙りなさい」
「これでも、貴方を守ると誓った者。相手が誰であろうと、貴方はお守りします」
「勝手になさいな。ミーちゃん達に手を上げたら、容赦はしませんからね」
「私も参ります」
「マジダスはどうでも良いが、マジョリアは、戻りなさい!行ってはならん」
「なんと、王女様まで!ならば私も行きます」
「ミーちゃんの行く所、行かないわけにはまいりませんぞ、私も乗船します」
「私達も連れて行って下さいませ」
「サーワ、待ちなさい!戻りなさい」
「お父様、行ってまいりまーす」
「乗船締め切りま~す。乗船階段上がりま~す」
石の取り付けが終わって戻ってみれば、あれっ?いつのまにやら、乗船人数が増えていませんかね。
「よーし、終わった。あれっ、みんな何してるの?乗っていいの?」
「「「「「良いのです」」」」」
仕方がない人達ですねぇ。時間もなさそうだし、良いか。後で送り届けましょう。
「止綱はずれまーす」
「行かせぬぞ!止まれ、止まらんか」
「いや、普通は止まらないでしょう」
いや、ねぇ、止まれと言われて止まる輩なんぞ、この世にいませんて。
「機関始動。ゆっくり後進。港湾離脱用意」
船に取り付いていた兵士さん達が、海へドバドバ。何をしているの、泳げよ。あ、知らないのか。まぁ頑張れ、生きて帰れよー。プロペラに巻き込まれるなよー。
「やっぱり、機械駆動だね。おーい、イルガ船長、後を頼んだよ」
「了解しましたー。良い結果をお待ちしていますぞ」
「なんとまあ、軽いご挨拶で」
「ハッハッハ。動力船なんて今はまだないからね。機会を逃すわけにはいかないね」
「知りませんよ。エッちゃん、皆を船長室に連れて行って、皆で座ってて」
「は~い」
「構わないよ。私は、ここでも良いかい?」
「はいどうぞ。椅子ありますよ。船内も自由で良いですよ」
「ありがたい」
「ほんじゃ、前進へ切り替え、港湾離れまーす。普通速」
2. 飛行船
港が見えなくなった所で、内海に舵を切りましてね。
「高翼式安定板展開」
「高翼?って翼ぁ?まさか!」
「ふっふっふ。とは言え、いきなり本番。ちと不安がありますけどね」
「面白い!」
〔ジュンちゃん、行けそう?〕
〔誰に言ってるのかな?任せなさい。あんたの船は?大丈夫なの〕
〔試験は出来ている。飛ぶのは初めてだけどねー〕
〔翼に力がかかるわけじゃないからね、平気か〕
〔うん、その予定〕
〔ひゃっほーい、いっくよー〕
〔お願いねえ〕
バラストに積んだ水を全部鞄に排水して、軽くなったら、ヒョーイ。飛んだ、飛んだ。はっはー、本世界初の空飛ぶ船『飛行船』でございます。
「こりゃ、すごいね。生きている内に空を飛べるとは思ってもいなかった」
「あ、高い所大丈夫ですか」
「ン?船の見張り台」
「あ、なるほど」
「ぎゃぁー、降ろせ!降ろし給え!なんだこれは。人が飛ぶなど、ある訳がない」
「誰だかうるさい、エッちゃん、そのうるさい人捨てていいよ」
「お姉さんの婚約者だって。お姉さんどうする?」
「ふんっ!」
「あ、気絶した。お姉さん、凄い」
「当然です。目が覚めて喚いたら、捨てて差し上げます」
「申し訳ありません、兄とは言え不甲斐ない」
「えっ!兄?第一王子様?国、守れるの?」
「そうです。ルリエラ様のお写真を拝見して、どうしてもと婚約いたしました。次世代は現宰相の所みたいですから、大丈夫です」
「そう言う事ですか。ロウタみたい」
「ミーちゃん、人をロウタをお尻に敷くエステリーナみたいに言わないように」
「はーい」
皆さんお揃いになってしまいました。仕方がないので、そのまま航行。
「水平飛行に移りまーす。目的地は、温泉山北の谷。観覧はご自由にどうぞ。船外は魔力盾がありますから、安全です。でも、落ちないでね」
「さて、これからどうするんだい?」
「そうですねぇ、真教が本当に軍を送っているかを確かめないとですね」
「そうだね、確証がないとね」
「それから、帝国とたぶん王国軍も来ているはずなので、草原の方を調べます。ひとまず真教の聖教騎士団を潰しますかね」
「潰すって?それと、なんで王国が来るんだい」
「うーんと、たぶんですけどね、家の魔狼さん達が、先行して気絶させているでしょうから、見物するだけですけどね。そうだ、何人位来ているんだろ。ガンさーん、温泉谷に軍隊来ていた?」
「おお、知らせがあったからな、見てきた。本当にいたぞ。千人位だったな。ロウタ達を置いてきたけど、良かったのか?」
「うん、動き出したら、適当に押さえてくれるでしょ」
「分かった。俺たちは、とりあえずこっちにいるわ。そうだ、馬もいいのか?」
「はいよー。一緒に待ってて。牛も来るようならどうぞって事で」
「おう」
大丈夫です。馬も牛も載せる所はありますから。
「今住んでいる所はですね、管理放棄地と言われているんですけど、王国との間で緩衝地域として締結されているんですよ。だから、帝国が軍を出したら、自動的に王国も出てきちゃうはずなんですよね」
「なるほど、そうなっているのかい。ところでそれは、遠くと通話する器械かい?」
「そうですよ」
「なんとまあ、こりゃ一生分驚きそうだ」
3. 北回り、草原行
温泉谷に到着しますとね、すでにエステリーナの咆哮で、全員倒れていました。情けないぞ聖教騎士団。一人くらい立ち残ってろっての。
「あーあ、全員整列して転がっているわ。よしオマケだ。5日は寝ていられるように鎮静剤を贈呈しよう。ロウタ、エステリーナおいで」
「「ワウ」」
「よく出来ました。中で待っててね」
「凄いね。魔狼って、あれ幻惑の魔狼だっけ?確か」
「そうです。賢いでしょ」
温泉谷で寝ている人達には、バラストから排水される特級鎮静剤を霧状にしてばら撒いて置きました。安眠草に加えて、眠り草も加えた長時間バージョンです。
「お次は草原」
草原に着きますとね、戦前に大義名分をこじつけようと、口上が述べられている所でした。そこ三の村の畑前なんですけど、本村はもっと奥ですよ。無駄に広いので、聞こえませんよ。おっ!刈り取りは終わっていますね。
「一つ。我が国秘匿の農作手法を盗み出し、あるいは聞き出し、あまつさえそれにより収穫を得ているとは、言語道断」
「一つ。非道なる手段にて得られたる収穫物を、我が国に納付、あるいは献上すらせず、己のものとして食する事など、あってはならぬことなり。よって、我らが正義の名の元に、悪なる貴様らを成敗し、我が手中に農作物を取り戻さんとするものである。以上が本戦の大義である」
まあた、勝手な事をほざいてる。
「やはり、あれを秘匿しましたか。近隣諸国に広めようとは思わないのですな。辺境伯領の試験栽培も終わりまして、進言したらしいのですがね」
「自分で言っていて、矛盾に気が付かないかね、アホですか。あれを使って条約でも結べばいいのに。有利にできますよ。それを非公開ですか、情けない」
「なるほど、確かにそれくらいの力はございますな。しないと言う事は、人なりがその程度であるということですな」
仕方がないですね。
「もしもーし。盗みも何も、其れ書いたのアタシですけど。聞き及んでいませんか」
「どこだ!どこに居る。卑劣なり!姿を見せよ。何を言うか、あれほどの代物をただの小娘が書けようはずもなし、言い逃れも甚だしい。もう良い、明朝をもって成敗してくれよう」
「貴方の上ですよ。只今より『特級鎮静剤』を散布しまーす」
「上?面妖な、なんだその船は!降りて来ぬか」
「面倒だから嫌です。では、お休みなさい」
見た所、王国軍は来ていませんね。もしかすると、河を渡るのに苦労しているのでしょうか。渡河できそうな所ということで、旧旧の渡しまで来てみました。あー、半数近くが流されているな。こっちは、こっちで無駄な事をしている。
「王国軍の指揮官さんはいらっしゃいますかー?今すぐ引き返して下さーい。さもないと何もしないで全滅しますよー」
「世迷い言を申すでないわ、弓隊射てぇー。弓隊!どうした。流されたぁ?なんと」
「『特級鎮静剤』散布。ごきげんよう」
4. 村に到着
村上空に到着しました。階段降ろして下船。
「皆様、長らくのご乗船お疲れ様でした。お夕食とご宿泊でございます」
「お前、脱力するから、それやめろ。緊迫も何もないな」
「ハッハッハ。本当に可笑しな子たちだねぇ、共和国じゃ見たことがないよ」
「船置いてくるねー」
格納庫の天井を船のフックに引っ掛けて、ガラガラと引くと開きます。船台に水を満たして、着水。
「あんた、ここも建てたのかい」
「そうですよ。隣が工作室になっています」
「えっ!気が付かなかったけど、船体は鉄だね?」
「そうですけど、鉄でも浮きますよ?」
「見れば判るよ。こりゃ、参ったね」
村に戻って、ひとまずは、ご挨拶合戦でした。
「あの人達?えーとね、大体5日間は寝ているはずだね。超強力」
「そうさね、あんなに強いとは思わなかったさね」
「5日間というと、生きていられるのかしら」
「さあ?人は起きていると一日にお水を2[㍑]位必要とするらしいけど、寝ているときはどうなんでしょうね。3日位したら、効能を調べるつもりだけど」
「それで、どうするさね」
「とりあえず、真教国へ行ってくる。あの国、なんか変だ。正体を見たい。オマケで報復してくるね」
「オマケかよ。その後は」
「うーん、急すぎて決めてなーい。共和国に入れてもらうってのは」
「私等の国も根は同じだよ?」
「技術交換ということで、船をね、しっかり作りたいと言うか、学べないかな」
「なるほど、それなら願ったりだね。それが終わった後は?たぶん同じような事になると思うよ、私が言うのも変だけど」
「今どきの人だからねえ、仕方がないと思うのですよ。淡海の向こうを調べて、暮らせるようなら暮らすかな。だめだったら、世界一周でもするか。手始めにバナナ食べ放題とか。周り終わる頃には、変わっているかもしれないし」
「世界一周か。それは豪気だね。それならついていくしかないじゃないか」
「『ないじゃないか』って良いのそれ」
などと言っている時に、生体反応。
「あれっ?誰か来た。まずい!寝ていない人がいたんだ」
「あれ何だろ?白い旗を掲げているよ」
「白旗?なんだそりゃ。何の意味があるんだ」
「(ほっほぉ、それなら判る)アタシが行くね」
今の時代に交渉旗なんてどこにもないです。寝ていないということは、たぶんあちらもそれなりの魔力持ちさんですね。
「いらっしゃいませ」
「あの、私はバルトニア帝国ミドロ子爵家3男アッセと申します。敵意はありませんとは言っても俄に信じてはいただけないでしょうけど、こちらに同行させてはいただけませんでしょうか」
宿の入口で皆と離れているとは言え、ちょっと小声で
「{【ハロー、ニーハオ、こんにちは、ボンジュール、グーテンターク、アロハ、ジャンボ、アシタマタニャ、ナマステー、アニョハセヨ】}」
お呪いを唱えてみました。
「エッ!{【こ…こんにちは】}」
子爵なんだから、貴族だよねえ。なんぞ苦労でもしてきたんでしょうか、大きく目を見開いて、その目が涙目になっていますよ。
「{【こんにちは】}。『マヨネ酢さん』ですかね?初めまして、ミールです。どうぞお入り下さいませ」
「マヨネ酢さん?ですか…あっ、はいそうです。失礼します」
「ミーちゃん、どなたですの?お知り合いかしら」
「いや、知らない人。でも、『マヨネ酢さん』だよ」
「あれをお考えになった、ミーちゃんと同じような方ですかしら」
「そうそう。{同じって、中の人の意味ではありません、宜しく}」
「{はい、僕もです}お見知りいただけているようで、嬉しいです。改めまして、私はバルトニア帝国ミドロ子爵家3男アッセと申します。宜しくお願いします」
また一人増えました。なんとなくですけど、近い内にエッちゃんにお話する日が来そうですね。




