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(09-01)深森の廃村(船設置)

(09-01)深森の廃村(船設置)


 一桁最後の歳になりました。エッちゃんは、2桁になりました。廃村ではゆく年くる年なんぞ気にもしていないので、普段の生活の中では『年が明けた気がする』と言う程度です。それで十分だったりもするんですが。婆ちゃんは、雪が解け始めると年が変わったのを知ったそうです。みんな適当ですね。今は、それなりに暦を作ってありますし、ガンさん達に聞いて24節期モドキを作ってあって重宝されています。日が毎年違うだろ?いいんだよ、大体で。ただ、恐らくなんだけど、同じ日になるっぽい。要は公転周期に変化がない、地球にあった長期の寒暖周期がなさそうなんだよね、この世界。おちゃ女神のせいなのかもしれないけど。新年明けまして御目出度うございます。辺境村村娘です。

 

1. 船の置き場所


 船台を置く場所をどうしようかと思案中。とりあえずですが、廃坑がある平原の北側にドック状の穴を掘って、周りを出土で囲って獣が入ってこないようにしてみました。そもそも船自体が結構大きいのですよ。種類なんぞわからないんですけど、真ん中に太い主柱が立っていて、その前後に小さい柱があって、帆がですね、貰った船にはもう何もなかったんですけど、カッフェさん達のには、前と主柱に四角い帆が何枚か付いていて、後ろが三角。船首にある突き出た嘴のような所にも帆がついていた気がします。素人目にも技術的に進んでいるなあと感じられる船ですね。それを作れると言う事は、関連技術も進んでいると考えて良いと思います。ぼちぼちと船を復元しますかね。ぼっちじゃないぞ。

 

2. カッフェさん達の国


 そう言えば、カッフェさん達の国における魔法の程度と言うのを聞くのを忘れていましたね、それよりも以前にカッフェさん達の国名すら聞いていなかったわ。見本市では誰一人として魔法を使っていなかったように思いますけど、星そのものに魔素があるのですから、どこに行っても魔法(精霊魔法)はあるはずです。失敗しましたね、リア姉さんが何か知っていませんかね。

 

 廃船代替品を燃やした時には、驚きもしませんでしたから、魔法は知っているはずです。珍しがられたり、羨ましがられる事もありませんでしたから、存在もするのではないかと思われます。お芝居をしているならば、結構精鋭な調査団ですよね、カッフェさん達。迂闊でござった!ひとつ大いに安心できる点としてはですね、秘匿技術と言うわりには貰えたね、あれ。本当に秘匿しているなら、自沈させるね普通。

 

「リア姉さん、海の向こうからくる商船団の事知っていますか」

「一応取引がありますし、一般常識程度は知ってはいますけど、国名とか現状とか程度では無いかしら。お父様的にお話をできない事もあるでしょうしね」

「そうですね。その『一般常識程度』を教えてもらう事はできますか」

「はい、良いですよ」

 

 それによれば、国名は『モラッコ共和国』。さらに南にある農業国との橋渡しをしているらしいです。商業中心の国みたいですね、ただ、造船技術からすれば工業もそれなりに発展しているように見受けられるのですけど、なにしろ秘匿技術ということで、リア姉さんも知らないそうです。モラッコ共和国に渡った事がある魔導国側の役人からの話だと、造船所には近寄らせても貰えなかったみたい。どこぞの巨砲戦艦みたいですね。

 

 魔法と言うものもさほど広まってはいないようで、無いこともないという程度。生活魔導具がそれなりに取引対象になっているようなので、大々的に魔法が行使されているということも無いようです。魔導騎士団とか、魔法騎士団というものも、隠されているならともかくあちらの国々には存在しないみたい。どうなっているんでしょうね、この世界ならあるはずだよね、普通。精霊達に聞いても理の内らしくて、教えてくれないんだな、これが。まあその手の情報を筒抜けにしたらだめですよね、公平に行かないと。うむ、今の所魔導戦列艦はなさそうですね、良かった。

 

3. 新種の棘草


 食卓で、牛乳を飲みながら、新種の棘草を観察している最中にくしゃみをしたら、棘草の花についていた、よくわからん粉が牛乳に飛んで入ってしまいました。

 

「ハックション!チクショーメ!あっ、しまった」

「あ、牛乳飲めなくなっちゃったね」

「大丈夫じゃない?毒はなさそうだよ。気にしない、気にしない」

「あいかわらず大雑把ですわね、何が起こるか分かりませんでしょうに」

「気にしない、気にしな…にこれ」

「どうしましたの」

 

 えらく反応が早いですね、あっという間に牛乳が固まり始めてしまいました。

 

「うん、牛乳が固まり始めているね。おお、こりゃ凄い。粗方固まっちゃったよ。アタシのくしゃみは凝固剤か!」

「えっ、くしゃみにそんな効能があるんでしょうか?」

「ミーちゃんですものねえ、何があっても驚きませんわ」

「言えてるな。いまさらだな」

 

 なんか感想が酷くないですかね。

 

「いや、棘草の方じゃないかな。新種ってのもありそうだけどねえ」

「それもそうですね。見せて頂いても良いですか」

「はい、どうぞ」

「本当に固まっていますね、どういう事でしょうか」

 

 見た限りでは、促成のチーズのように見えたけどな。そう言えばさあ、この世界バターはあるけど、チーズは見たことがなかったような気がするな。なんだっけ、子牛の胃袋だっけ、酵素だか酵母が居るのは。どこの胃袋かは知らないけどね。まだ発見されていないのかな。料理長さんが言ってたっけな『飼うようになった』って。最近の事なのかね、だとするなら、子牛の胃袋なんてまだ先だな。しかもカバだしね、見た目が。地球の通りとは限りませんしな。

 

「ちょっと、良い?」

 

 サーワ姉さんから受け取って、一匙パクっ!

 

「ちょっと、ミーちゃん。危ないですわよ」

「んー、牛乳酪(バター)じゃないしなあ、なんの味かな」

「ミーちゃん、ワタシにも頂戴」

「エッちゃんも食べてみる?はい、あーん」

「は~い。あ、何か美味しい気がする。凝乳(クリーム)とも違うし、なんだろう」

「ね?なんだろうね。食べられはするみたいだけどね」

 

 ということで、改めて状況を再現。いや、くしゃみはしないんだけど。

 

「ほうほう、本当に固まるさね。新種のせいかね?旧品種の花は…今はないね」

「残念。それじゃ比べられないね」

「そうさね、まあひとまずこれを調べれば良いさね」

 

 凝固が止まったっぽい所で、コップから皿に出してみました。しっとりとしてはいますが、崩れませんね。まだ水っぽいので、重石をしてみると、半透明の液と、固形物に別れました。豆腐じゃねえっての。

 

「おっ!液体の方は、薄めても飲めそうだね。新しい飲み物になりそう」

「固まった方は、そうさね、しばらく置いておくとするさね」

「婆ちゃん、置くと何かあるの?」

「発酵すれば、酢か酒になる。失敗すると、苔状のものが生えたり、腐るさね。半分は塩漬けにしてみるかね」

「なるほど。いつもの婆ちゃんだ」

「お前さんみたいに、冒険はしないさね」

「冒険は、用意周到に準備をして、突撃するものですぅ」

「はっはっは。突撃するのは変わらないさね」

 

 固形物は、予想としては、チーズなんです。だとしたら冷蔵所が必要ですかね。ただ、今の気温が気温ですので、大丈夫だとは思いますけど。は?暖房?エアコン?あるとお思いか、そう言えば、言って気が付きました。暖房機器作って無いわ。もっとも暖房を作ると冷房もオマケで作る必要がありますので、面倒です。まあ、少なくとも冷蔵庫は必要になりますね、家の中に冷暗所がないと結構不便なんですよ。


4. 似て非なるもの

 

「これミーや、ちょっと見ておくれ」


 先日の棘草固化事件なんぞ、さっぱりと忘れた頃に婆ちゃんが言ってきました。

 

「なぁに、婆ちゃん」

「いやね、半分はだめになっちまったみたいさね。塩に漬けた方は、何かが出来ているらしいのだけどね、今までこんな事はなかったさね。薬とも酒とも違うからね、分からないさね」

「いや、いや。薬やら酒やらで婆ちゃんにわからないものが、ワタシに判るわけが無いと思うけどね」

「おまえさんは、冒険料理の専門家さね」

「んな、わけねえ。誰よ、そんな事を言うのは」

「「「「「「ですわ」」」」」」

「エッちゃんでしょ、広めたの」

 

 あ、顔を背けて笑っとる。

 

「もぅー。うん?これは何?乳の匂いがするけど、やっぱり牛乳酪(バター)じゃないよね、あのときの液体に似ているけど、あれはちゃんと飲めたよね」

「あの時も正体がわからなかったのに、口にしたさね。やっぱり冒険料理家さね」

「あれが大丈夫なんだから、いけそうだよね、どれ一口。んー、これはねえ、命名します『乳乾酪(チーズ)』」

「ほら、やっぱり冒険料理家だよ~。って、美味しいの?」

「お酒に合いそうかな。果実のお酒の方が良さそう。そんな気がする」

「酒?本当か?ちょっと食べさせろ。おっ!こりゃ良さそうだな。ただ、ちと口当たりが柔らかすぎるな」

「婆ちゃん、これ豆醤油と同じだね。あと少し置いた方が良さそうだよ」

「ふむ、なるほど。この味だとそうかもしれないさね、一月位でできそうさね。よし、虫やら、動物に食べられないようにして、氷の洞窟へ置いてきておくれ」

「はーい」

「さて、数を揃えるにはどうするさね」

「花?種あるよ、育ててみる?すぐできるとは思えないけど」

「それでしたら私が育ててみますわ。新種でも棘草なら似ているでしょうし」 

「そうさね、これができれば、領の特産品になるだろうしね。そうするさね」

「そうですね。地産品が増えれば領も助かります」

 

 もう一つの駄目になったのって、どういう事だろう?まあ塩漬けしなかったからねえ、カビたか腐敗したかね、捨てちゃったかな。

 

「婆ちゃん、駄目になったのは?捨てた?」

「いや、あるさね。ただね、嫌な匂いはしないけどね、酢より酸味臭が強いさね」

「はっ?(えっ、ヨーグルトなら温度が低すぎないかね)酸味臭が強い?どれどれ」

 

 ということで、いつものパッチテストを行ってみました。

 

「何さね、それは」

「うん?これ?皮膚にちょっと付けてかぶれたり、赤くなったりしなければ第一関門を通過するという、安全性の試験だよ」

「なるほど。ただの冒険少女じゃないさね」

「そうだよー、当然です。準備と用意は周到にですぅ」

「はっはっは。そうかね、動物実験を自前でしていたさね」

「まあ、そうとも言うね」

 

 大丈夫でした。匂いは、確かに酸味臭が少し強いですけど、ひどく嫌な匂いはしませんね。まさか本当にヨーグルト?でも、あれの発酵温度は、体温より高いはずだよねえ。極低温発酵のヨーグルトなんて聞いた事ないです。

 

「婆ちゃん、今の気温と言うか室温で発酵する物なんてあるのかな?」

「可能性は、無くは無いさね。そうか、今までとは違う発酵をしている可能性もあるってことさね」

「うん。出来始めは、温めた牛乳だしね。一応第一関門を通過しました。人体に影響は出ません」

「次があるさね」

「まあ、あとは舐めて死なないかだけどね」

「あっはっは。なら向こうで動物実験をしてみるさね」

「食べてくれるかな」

「なに、なんとかなるさね」


 仮称アッザーミ乳酸酪(ヨーグルト)も出来ました。どっちもちょっと製造が大変。乳乾酪(チーズ)は、低温発酵で、乳酸酪(ヨーグルト)が極低温なんですよ、極低温長時間発酵。たぶん井戸水未満だから、10度位?かな。こんなのは地球にはなかったはずだよね、こっちの乳酸菌は暑がりなのかな。


5. 知らせを送る

 

「困りました。送る内容が重大過ぎて、お手紙では送れませんね」

「サーワお嬢様、どうしますか。それでも送らないといけませんよね」

「ジージョに命じます。走って…」

「無理です。ミーちゃんに影響されすぎですよぉ~」

「ミーちゃん、どうしたら良いと思います。全部をお話すると、送れなくなりそうなんですけど」

「えっ?要点を簡潔に…書いたら、危ないのか。お貴族様は大変だねえ」

「ミーちゃん、どういう事。そのままお手紙書いちゃだめなの」 

「ほら、途中で盗賊に取られたりとか、それが対立する貴族の回し者とか、いろいろあるじゃん」

「あぁ遠回しに(ぼか)すのか。それで長くなる。そういう事?」

「そういう事。そうですねー、要点を簡潔に…。あっ!サーワ姉さん、お父さんがすぐに気がつくような本とかありますか」

「本ですか、お父様ですと『クラリス・メア・キョーリンの偉業』ですかね」

「ぶははは『クラリス』だって『クラリス』。どこのお嬢様よ?うはははは。「ふんっ」ったぁい。何するの婆ちゃん」

「お師匠様の本名ですわよ、それ」

「えっ『クラ「ふんっ」』もぉー、わかったよぉー。それで、その本はここにもありますか」

「ございますよ。子供の頃から読み聞かされておりますし、常に持っていなさいと言われておりましたから」

「後で見せ「ふんっ」て、くらいいいじゃん」

「だめさね、どうせ笑うに決まっているさね」

「それはそうだ。でね、その本の頁番号、行番号、単語位置を6桁位の数字に直して、その単語を集めたら文章にできないかな。見た目は数字の羅列」

「あぁっ!おもしろそうですね、ちょっと試してみますね」


 サーワ姉さんは、しばらくクラリス本とにらめっこしていましたけど、とりあえずの文章を変換し終わったようです。


「これでどうでしょう」

「あ、ここは『クラ…』じゃなくて、手元の本とか適当に変えてください」

「あ、そうですね。そのまま書いては、所在証明になってしまいそうですね」

「うん。それで送ればいいんじゃないかな。いずれは判るでしょうけど」

「これは面白い手法ですね」

「同じ場所の単語を多様すると、すぐに解明されちゃうだろうけどね。書名なんて簡単に分かるだろうし」

「なるほど。気をつけます」

 

 クラリス…クラリス…うはははははは、似合わねえ。思い出し笑いをしていたら、飛んで来たぁぁ、しかも短剣。それも帝都の例のやつ。あぶねえ婆さんだ。

 

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// 乳酸酪

//  そんな字はない。

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