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(08-16)深森の廃村(鰻銀座)

(08-16)深森の廃村(鰻銀座)


 だいぶ前、2年位前ですかね、初めて領都に出た時に話をしましたが、領都に入る門の前を流れている川にいる推定鰻。土地の人には川蛇(カワヘビ)と呼ばれているらしいですけど、どう見てもたぶん鰻。今年は、川が凍ってしまったので、中程まで歩いていけるって言う事で、獲れないものかと来てみました。辺境村村娘です。良いお年をお迎えください。また来年。って終わっちゃうじゃん。

 

1. 凍結した川面


 氷の厚さはおよそ10[㌢]位、馬車も通れるんじゃないですかね?丈夫そうです。

 

「ミーちゃん、今日は何も持ってこなかったけど、どうするの?」

「川の魚をね、獲ってみようかなって思っております」

「えっ?毒魚じゃなかったっけ?ハンジョさんが言っていたような」

「うん、言っていたね」

「あぁ、ミーちゃんの冒険料理だあ~」

「何それ」

「臭芋とか、渋の実とか、丸芋なんかを『冒険料理』と言います」

「冒険じゃないよー。単に他の人が避けているだけじゃん」

「それをミーちゃんは冒険してなんとかしちゃうでしょ」

「なんとかならない物もあるけどね」

「今の所はないね」

「そうだっけ?」

 

 やって来ました、門前の川。門衛さんが変な目で見ていますが気にしません。とりあえず、上流側に少し大き目に鰻が通れる位の丸穴を、川下方向へ斜めに開けます。ロウタの爪でスパンと、まあ綺麗に開くこと。

 

「お見事」

 

 拍手して、なでなでしておきます。フローとネローが近づいてきました。お仕事を頑張っている様子。門衛さんの隣でおすわりしていますけど、すっかり慣れ親しんでいるようで何よりです。

 

 それで、さらに上流側からフウちゃんにお願いして、水中に風で圧力を掛けてもらいます。そうするとですね、穴からほら、ピョロンと川蛇が押し出されて飛び出てきます。とりあえず3匹ほどがニョロニョロしながら下流の此方側へ移動してきました。

 

「ミーちゃん、これどうするの?」

「あ、一応ヌルヌルとか、血とかが目に入らないように気をつけてね、血濡れの手で目を擦ってもだめだからね。こまめに洗浄は、お約束ね」

「あぁ『目をやられる』ってそういう事か」

「たぶんだけどね」

「わかった~。気をつけるね」


 まずは、アッちゃんとリトちゃんで蒸気を吹きかけて、表面のぬめりを固めます。ツルーッと滑って冷えた所で、凝固して白くなった部分に風を充ててこそげ落とします。次にさくっと背を裂きます。内臓?どれが使えるのか存じません。そのまま肥料になってもらいます。骨くらいはわかりますけどね。氷上の流れ作業で見事に開きました。

 

 岸辺に上がって、油を抜くのに白焼きします。落ちた所で、リトちゃんの最終行程。焼いてもらいます。リトちゃんが焼いている間にタレを作っておきましょう。とは言っても蒸留酒に砂糖と、豆醤油だけしかありませんけどね、まあ仕方が無いです。途中でタレを付けてもう一度焼きます。いつの間にか門衛さんが後ろにいました。

 

「まだか?」

「毒魚だぞーっ」

「こんなにいい匂いがする毒魚がいるわけないだろ、まだか?」

「毒見する?」

「オゥ!任せろや」

「はいどうぞ、お腹を壊しても知らないよ」

「大丈夫だ、回復水薬を持っているからな!」

「うんめえー。なんだこれ?身がフワフワしてるぞ、こんな旨い魚だったのか」

「あ、このやろ。俺より先に食うなよな。うほぅぁ、柔らけえ」

 

 門衛さん、二人とも来ちゃった。仕事しろー。

 

「すっごい、ミーちゃん。四勝目。冒険勝ち~」 

「あっはっは。ほんじゃアタシも、いっただきまーす」

「バウ!」

「あっ、ごめーん。とりあえず残り全部いいよー」

 

 ロウタ御一行は、ハフハフしながら残りをぺろり。ほんで、フローが私の両肩に後ろから伸し掛かるように腕を置いて来まして、何かね?

 

「足りないのかね?」

「「「「ワウ」」」」

 

 私はまだ食べている最中なので、残っている生の二匹を指差すと、顔を背けるんでやんの。

 

「焼け?」

「「「「オウ」」」」

 

 こいつらー、仕方がないので、焼きますけど。残りの二匹はロウタ達が食べちゃった。いつもながらどこに入るんだろう。そうそう、忘れていましたが、この川蛇()。長さがね、どのくらいだと思います?40[㌢]位だと思うでしょ、違うんですよ、蛇って呼ばれている位だからね、でっかいの。2[㍍]はありますよ、すげえですね。人間という敵がいなかったからですかね、存分に成長してくれていましてね、食べごたえなんてもんじゃ無いですね、100人前位は軽くありそうです。とりあえずお土産用に10匹ほど確保して、お泊りです。

 

2. 祭り


 次の日にですね、街に出ようとしたら、宿の女将さんに止められました。なんでかって言うとですね『川蛇を捕まえて、下ごしらえをしておくれ』だそうです。日持ちしないよと言ったのですけどね『今日中になくなるだろうから大丈夫』だって。門衛さん達から聞いたらしくて、近所の人達が広場に集まって来てしまっていました。どういうわけか、家令さんも料理長さんを連れて来ていましてね、辺境伯様へ持ち帰るらしいです。

 

「料理長さん、おはようございます」

「うん、すまんが2匹ほどこしらえてくれないかね」

「わかりました」

 

 やることは昨日と同じですけどね、穴を開けて川蛇を追い出して、蒸気でぬめりを固めて、それを昨日見ていて覚えたらしいネローが風で剥ぎ取って、捌いて白焼きまでしたらおしまい。タレはですね、昨日の焼き頭を入れて一味上がっております。

 

「こちらが焼きタレになります。骨はですね、素揚げすると賄いになりますよ。焼くときは遠火でじっくりと焼いてくださいね。とりあえず、一串どうぞ」

「そうか、ありがとう。いや、これは旨いな」

「そうだ、家令さん。辺境伯様にですね、あの川蛇()が乱獲されないような仕組みを作らないと、獲りすぎていなくなるかもしれないと伝えてもらえますか」

「ふむ、そうですな。この味ですと、確かに絶滅しそうではございますね。早急に冒険者組合と、商業組合で話合わねばなりませんか。承知しました」

「お願いします。では、お気をつけて」

 

 今日は、街の料理人さんたちも参加しようとしたので、『毒魚』と言われている理由と注意事項を伝え、捌きまくりの焼きまくり。何匹水揚げしたのか分かりませんけど、居なくなりませんね。それでやっぱりいましたよ、ナマズ。名前は付いていないそうで、いままで見かけなかったんですかね。そうじゃないか、見ても毒魚がいるから近づけなかったのか。

 

「うぉ、なんだこれ。ひげが生えているぞ、面白れぇ魚だな。猫かよ。よし猫魚だ」

「なんだそれ、適当言ってんじゃねぇ…本当に猫だなこりゃ。よし猫魚だ」


 ひでぇ、まあ英名キャットフィッシュですから同じですけどね。猫魚(びょうぎょ)って言うと病気しているみたいですね。まあ、こっちの読みだと違いますけど。


 結局、朝から始まって、昼過ぎまで。獲って捌いて焼きまくっても、まだいるんですよ。いったい何匹位生息しているのやら。いままで捕獲されていないからでしょうけど、とにかく疲れた。

 

「お疲れさん、宿代は無しでいいからね、いやおかげで宿が客で埋まったよ」

「ソレハ、ヨカッタデスネ」


 ほとんど棒読みですよ、棒読み。やり手だねー、まあ良いか。

 

3. 夜も安心でした


 次の日は今回の主目的である蛍堂です。

 

「「こんにちは」」

「あら、こんにちは。昨日の川蛇良かったよ。あれの事かい?ちょっと待っておくれ、ジゼは居るかい?」

「はーい。なんですか商会長」

「まだ慣れないね、それ」

「慣れて下さい。あら、ミールちゃんにエルちゃんだったかしら。こんにちは」

「「こんにちは」」

「そうそう、あれね。良いわぁ、凄いわぁ。夜に来ちゃった時があったのよ、それがさ、朝まで気づかなかったのよねぇ。良いわぁ、凄いわぁ」

 

 良いわ、凄いわの大絶賛。もう一人のお姉さんは、シャールさんと言うのだそうだけど、本日はお休み。

 

「シャールはね、あの子結構多いのよ。毎回毎回『あぁっ、もう!もう!』とか言ってね、イライラしていたんだけどね、何もなし。それで?いつ売りに出すのかしら」

「あれ?使い捨てちゃいました?」

「あ、違うの。知り合いにね勧めたいんだけどね、お試し中なんでしょ?今のままでも十分だから売って欲しいかなって」

「なるほど。ただですねえ、売りに出すならこのお店からだと思うんですよね」

「うちから?なんでだい」

「いや、魔石を作るのは別の工房でしょうけど、製品にするには、ここの人が必要だからですかね、下着と一緒に売ってもらうなら、ここでしょ」

 

 そうです、ここの下着じゃないと取り付けができませんからね、当面はセット売りじゃないと駄目なんです。

 

「なるほど。そういう事かい。ハンジョ支店じゃなくて良いのかい?」

「当面でしょうけど、男性の売り場担当から買います?」

「ちょっと、遠慮したいかな」

「わたしもだね。旦那に買いに行かせるかな」

「ねっ、売り手買い手の意識が変わらないとだめですよね。時間がかかりますよ」

「なるほどね、そうか、それなら方法と売価まで考えておかないとだめだね」

「そうですね、いくらで売るかを今から考えておいて下さい。魔石は組合に依頼すれば良いのですけどね、今のところ魔導具の作り手がいないんですよ。魔導国で養成中」

「なるほど、わかった」

「店員さん達の分なら、アタシが作りますけどね。入れ物はこちらでお願いします」

「本当?助かるわあー。できたら2銀くらいでお願いします、ねっ、商会長」

「石が2銀ねえ、材料が半銀、手間賃が半銀かね?卸しが3銀?売りが10銀?」

「うへえ、売出し始めは、やっぱりその位になるかー」

「なるねえ。ずっと使えるんだろ?なら大丈夫じゃないかね」

「あの鬱陶しさから開放されるなら、卸し5銀でも行けそうですよ」

「じゃあ、とりあえず必須の6個分を作って下さい。あと4個ありますので、ご自由にどうぞ」

「やった!今のうちにいろいろ試しておけますね」

「そうだね、助かるよ。そうだ少し待ってくれれば作れるけど」

「そうですか?じゃあ、午後来ますね」

「はいよ」


4. 領都でお昼


 もう屋台で川蛇()焼きを売っているんですよ、逞しいですね。流石にタレ焼きは無いですけどね。塩と香草を混ぜたもので焼いてありました。手持ちの食材を使って上手に工夫していますね、一枚5銅ということは、500円位です。持ち込みの大麦炊きに載せて頂きます。

 

「大麦を蒸して押し伸ばして、また炊いてって。麦って面倒」

「そうだねぇ、でも小麦だともっと面倒なんでしょ?」

「うん、外皮が固くて、面倒と言うか粉にする以外に方法が見つからなかった」

「これは、これで美味しいよ」

「もっと楽な穀物って無いかね?」

「見たことがないね。どこかにあるのかな」

「誰かの冒険談に載っていれば、冒険書を買って来るんだけどね」

「そうだね。でもハンジョさんの所にはなかったよね、他のお店に聞いてみる?」

「あれば良いけどねー。ロウタは?ちゃんと食べているね。麦ご飯も行けるのか、好き嫌いがなくて大変結構な事で」

 

 そこへ屋台のおじさんが大麦ご飯の事を聞いてきました。

 

「嬢ちゃん達、その食べている白いのはなんだい」

「えっ?大麦を炊いたものですけど」

「炊いた?どうやるんだ」

「大麦を蒸して伸ばして、水がなくなるまで煮込むんですよ」

「面倒そうだな。ちょっとこれに載せて食わしてくれるか」

「これで良ければ、はい、どうぞ」

「おれの川蛇()焼きを載せたのか。おっ!結構行けるな、うめえじゃねーか」

「そうですか?でも、押し麦を作るのは面倒ですけどね」

「そうだな、伸ばすってのがな。そうそうできそうにねえな」

 

 まあ、こちらは全部魔法だし。総出でがんばってもらっただけですけどね。

 

「そうですね、伸ばすためのコロみたいな木の棒とか、鉄の棒を作らないと大量生産は難しいかな」

「なるほどなあー、伸ばし棒か。そうか一度作ればなんとかなるよな。考えてみる事にするわ、ありがとよ」

「どういたしまして」


5. 領都の雑貨屋


 その後は、ハンジョ支店じゃありませんけど、別の雑貨屋さんに来てみました。残念な事にハンジョ支店では、書籍を扱っていなかったからですけど。まあ、小物雑貨じゃないしね。

 

「あのですね、小説本とか冒険談とかの本てありますか?雑貨店にあるって聞いたんですけど」

「あるよ、あるけど勘定場の裏に箱詰めしてあるのさ、欲しいのがあったら持ってきてくれ。悪いけど、後片付けはしてくれよ」

「「解りました」」

 

 本当に、箱詰めで積んでありましたよ。誰も買わないって事ですよね、初等学院は行っていて、識字率は低くないと思われるので、それなりに読めるはずなんですけどね。はずなんですけどねえ、小説なんて読んでいる暇も、余裕もないのでしょうか、悲しい。そういや、ガンさんが『通わせてもらえた』って言っていたな。やっぱりある程度位階がある家じゃないと、通えないのかな。そうすると識字率が低いのかぁ。もっとも私等は、初等すら出ていないけどね。初等を飛ばして高等を出ちゃったよ。ハッハッハ。


「エッちゃん、それっぽいのあったぁ」

「まだだよ~」

「あ…『悪役令嬢奮闘記~お家再興頑張りますわ~』、【ラノベ】か?よしこれ」

「ミーちゃん、これはどうかな『海の向こうへ』。空想海洋冒険譚だって」

「空想?想像して書いたって事かな。それはそれですごいね」

「じゃ、これねぇ」

「『公爵家に()しまして』恋愛物?自伝?何だろ。これも、こっちに入れてっと。次は『大陸横断冒険の書』?なんじゃこれ、分厚い。はい、こっち」

 

 お買い物箱にほいほい入れていますけど、そう言えば価格が書かれていないね。時価って事はなかろうけど、気分で決まるとか?流石に無いよね。それぞれが大体30頁位でしてね、古いのは羊皮紙だったりするんです。いつからここにあるんだろう。今どきなら紙だぞ、わら半紙だけど。

 

「「くださーい」」

「良いのか?本は高いぞ。君たちに払えるものでは無いぞ」

「大丈夫ですよ、なんなら『ハンジョ支店』に請求してくれてもいいですよ」

「あぁ君たちか。ご領主様から話が来ていたのは」

「たぶんそうです」

「よし、それなら分かった。えーと、この羊皮紙のは作者が亡くなっているな。保管料だけか、これは1金だな…」

「え、価格なんて決まっているんじゃないんですか?」

「いや、希望価格ってのがあってな、それに年間保管料を加えているんだよ」


 なるほど、そういう仕組だったのか。それにしても宣伝が足りていないんじゃないですかね。

 

「全部で14金になるけど、いいのかい」

「うっはー、やっぱりお高いですねえ。はいこれ」

「そうだね~。これじゃ誰も買わないね」

「しかたがないよ、買わないんじゃなくて、買えないんだ。読める人も少ないしね」

「それはそれで、悲しい。あ、この本て同じものがあるんですか?一冊だけ?」

「その一冊だけだぞ、複製できるものでも無いしな。出回っている本なんて皆そうなんだけど、どうした?」

「いえね、複製できたら少しお安くなるのかなって」

「確かにな。複製なあ、それができれば安くはなるだろうけど、今は仕方が無いな。そうだ、入れ物はどうするかね、持っていけるかね?」

「大丈夫です。あります」

「またよろしく頼むよ。できれば片付けてくれ」

「あはははは、じゃあまた来ますね」

「毎度あり」

 

 その後は、蛍堂に寄ってナプキンもどきを受け取って、宿へ。夜が明けると来年です。では、良いお年を。


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