(08-14)深森の廃村(模造品)
(08-14)深森の廃村(模造品)
ハンジョさんが代行し、ハンジョ商会から売りに出されたリア姉さんのドライヤーですが、とりあえず売れ行きは好調らしいです。と言う事で、早くも模造品が出てきました。見かけだけの物ですけどね、どこぞの中なんとかやら、韓なんたらみたいな、勢いだけはすごいですね、辺境村村娘です。お寒いです。
1. ドライヤー
『濡髪乾燥機』は、当初の予定通りに、帝都で100個ほど売り切った所で模造品が出てきました。その中身はと言えばお粗末なもので、魔銅線など作れるはずもなく、今まで通りの魔石連結方式で、温風が出ておしまいと言う代物。魔力伝達の連結部はといえば、仕切板で切り離すだけ。当然ながら、購入した人には分かろうはずもなく、故障した場合は、最大の売り手であるハンジョ商会に、持ち込まれるのが普通の流れとなります。
そうそう、なんで魔銀線でないの?と思われたそこの貴方。記憶力良いですね。製品化するに当たり、当然ながら製造価格を少しでも下げる為に、魔銅線を作ってみただけです。効率は、魔銀線の9割弱程度。価格差は100倍と圧倒的なので『使える』と成りました。
なぜ100個なのかって言うとですね、一応製品目的としては、濡髪乾燥なんですよ。ですから、使用想定場所にお風呂がほぼオマケで付いてきます。そうです、家にお風呂があるご家庭なんて、そうそうありません。今のところ貴族とか、富豪とか向けになってしまいます。これ以上を売ろうとしたら、入浴習慣を広めないとなりません。共同入浴場とか、お風呂屋さんですね。辺境伯領都では、少し前から『農作業、工房作業の終わりにはお風呂へ』って言う宣伝を単波受信機向けに放送しています。単波受信機って言うのは例の奴ですけどね、水晶と風魔石だけのあれ。食堂とか喫茶屋とかに導入してもらいました。お風呂は、これまた風呂釜工房向けに販路を作ろうと言う事で、共同風呂を建ててもらいましてね宣伝をしています。収入も安定しはじめたらしく、結構な事ではあります。まあ、習慣なんてのは、根付くには5年10年と必要な訳で、気長に行きましょう。
2. 『リア』というブランド
「塗を入れる前に本体の所に『リア』の文字を焼印で入れて欲しいんだけど。それが隠れるように表面を塗るってできますかね」
「態々、隠す為に焼印を入れるんですか?」
「そうですよ、仮に偽物が出てきて『直せ』と言われた時に『うちのじゃないです』と突き返せます」
「模造品対策と言う事ですか、なるほど」
「風の取り入れ口から光球を当てると、文字が浮かび上がるようにすると、なお格好いいかもしれないですね」
「あ、それは良いかもしれませんね『格好』は大事ですよ。文字を彫って、魔石粉を塗布してから塗装しますか?一応出来ますけど」
「値段がさほど変わらないならお願いしたいですね」
「大丈夫です。魔石粉は、細工屋から購入した、ただの廃棄物ですから」
「後は、順番号を振った銘板ですかね。どこの店に卸したとか、誰が買ったとかが判るように、重複しない番号を入れて管理できれば良いのですけど」
「今は、それは難しいですね。管理台帳のようなものを研究してみますか」
「今までの製品にあったように、この先模造品騒動が間違いなく起きるはずですから、第一出荷分が出ている間に研究しましょうか」
「ではそういう事で、最初の出荷を始めますね」
「はい、お願いします」
リア姉さん、こういう方面は気にしない人なので、少しお手伝い。
3. 模造品が何故売れる
それはですね、新聞も雑誌も何も無いからです。宣伝媒体が無い。噂だけが走り回る訳ですね、元の形なんぞ判るわけもなく『濡髪乾燥機』と付いていれば、噂の器械と言う事になってしまうのです。偽物の機能程度で満足してしまう人もいるから、模造品を作り、儲けようとする人が出てくる。それで、故障したり事故が起こると一番売れている所へ話が持ち込まれると言う流れですね、迷惑な。
もしかしたら、模造品の中にはアイデア製品もあって、次の製品の役に立ってくれないかと期待しつつ『模造品対応』と言う名目で出荷を中断したのですが、残念ながら一個もありませんでした。劣化版の安物だけ。つまらん。
4. 模造品工房には手が出せまい
例の製造分離作戦ですね、製品の外側、蓄魔石製造、風魔石と火魔石へ強弱2段階の魔力を配分する部分、最後に切り替え用スイッチ部分。これらを別の工房で製作します。別々の工房とすることで、実は依頼料が激減するんですよ。今どきの工房制度ですと、完成品は結構な値段で取引されるんですがね、個別部品となると、工数分しか取られませんので、安いのです。なかなか親方さん達が新型方式に賛成してくれないので、しかたなく取った製造方法ですが、今のところ誰にも知られていません。知ったら値段をつり上げるんでしょうけどね、その時は打ち切るだけです。別に領内どころか、帝国内で製造する必要すら無いですから。部品だけとはいえ、それが契約製品なのだと懇切丁寧に説明しても、頭から撥ね退けて理解しようとしない人達が悪いのですよ。
総合した値段は安価となります。平民でも、気軽とは行きませんが、手に入れる事は出来ます。それより安くないと劣化版は売れませんから、劣悪な性能のものしか出ない事になります。いままでは、最初の製品が超高価で、貴族やら富豪にしか売れていなかったので、模造品で利益が出せたのですが、今回は違います。ざまあみろいなんですよ。
しばらくすると予想通りで、今までと同じつもりでいた、単なるコピー品屋は姿を消してしまい、結果は全滅でした。一箇所も生き残る事ができなかった事になります。工房は赤字、手を出した商会は丸損。口入れした帝国貴族の信用は失墜。お疲れ様でございました。逆恨みが激しそうですが。
5. 再販と悪徳転売屋の駆逐
赤字を出した工房の内、鋳造と黒鉄を作れる技術を持った工房を選別しておいてもらいました。理由ですか?そんなもん次の話を持っていきやすからですよ。グヘへッ。
売り方も今回変わっていましてね、いままでは帝都で始めたら帝都でしか扱わなかったんです。領都で売り始めたら領都でしか継続しない。他へ回したくない工房との契約が大変だからです。ですから旅の行商人が成立して、辺境へと売りに行けていたんです。彼らは、商人であると共に転売者でもある訳ですが、なかには異常な価格でもって売ろうとしたりする者もいる訳ですね、まあ途中には盗賊だの、魔獣だのがいますから解らない訳ではありませんけど。それらを一掃する為にはどうするか、ほぼ全ての街で一斉に同じ価格で売り出せば良いのです。製造分離式なら可能です。足りない部品は、その土地々々の工房で作ってもらい、融通し合えば、後の組み立ては女子供老人でも出来ますからね、最終検査をお店の担当が行えば良いのです。ただし、先にも言いましたが、個別契約がすんげえ大変。支店長さん達がんばれー。過労で死なないように、婆ちゃんの回復薬でも贈呈しましょうかね。
「行商人さんのお仕事がなくなってしまいませんか、どうしたら良いのでしょう」
「当分は今のままではないですかね、行商品が全くなくなる訳ではないし、旅の行商人さんの仕事って、行商だけじゃないでしょ」
「えっ!違うんですか」
「うん、街から村へ出かけると言う事は、街の情報と村の情報を交換する橋渡しみたいな事もしているんですよ。若い頃のハンジョさんとか、前に住んでいた村に来ていた、行商商隊の人も同じような事をしているって聞きました」
「あ、なるほど。そういう情報を売買するのもお仕事の内って事ですね」
「そうだね、稀にそれ専門に情報屋なんてのもあったりするみたいだけど」
「あぁ、お父様達がなぜミーちゃん達の事を知っていたのか判らなかったんですけど、そういう人達がいるからなんですね」
「そうみたいよ。簡易通話器がないとそういう所が不便ですよね。あればあったで、戦になりかねないらしいですけど」
「私とお父様にも作って頂いてありがとうございます。でも良いのでしょうか」
「今の所は、リア姉さんとお父さん専用だからね、大丈夫でしょ。理屈が判るようならそれはそれで、売ってもらって構わないしね。仮に誰かが無断で高値で売ったら、こっちは無料でばらまくだけだし」
「お金を気にしない、欲の無い人には敵いませんね」
「欲はありますよ、世の中皆んなで楽しく平和にです」
「あはははは、それは素敵です」
「ところで、あれ。魔法なんて50[㍍]しか届かないのに、なんで魔導王国まで届くんでしょうね」
「あれは謎ですね。魔法の理なんでしょうけれど、不思議ですよね」
「解明は?」
「不思議ですよね」
リア姉さん、あっち向いてホイ状態。
「なるほど」
6. 魔法は何処まで届くのか
リア姉さんがこっちに来ているので、お父様(国王)との連絡用に簡易通話器を渡しておきました。国王様ですから、解析はすれども、滅多な事では売りには出さないでしょうから、渡したのですけど、リア姉さんも解析には苦労しているみたいです。かくいう私だって解明した訳ではありません。まぁ、使えるものはなんでも使おうと言うだけです。サーワ姉さんは、ちょっと待ってね。お父様が婆ちゃんの熱烈なる信奉者だもんで、婆ちゃん宛に通話が入ると困るのよ。
「ミーちゃん、何を作っているの」
「的だよー。40[㍍]から5[㍍]毎に60[㍍]まで。礫弾対応岩の的」
「何をするの」
「いや、魔法がさどこまで届くのか知っておきたいじゃん。どうも50[㍍]程度までしか届かないみたいなんだよね」
「あら、私の水撒きが最大ですの?」
そうなんです。これもよく判っていないのですけど、頑張って50[㍍]。魔素なんざ極わずかとは言え、どうやら空気中に存在するので、取り込みながらならどこまでも行きそうなのに、攻撃系の魔法は50[㍍]。なんでやねん。
「あれが攻撃魔法とするなら、最大射程距離は50[㍍]となるでしょ、短くないかねえ」
「そういや、そうだよな。矢なんかは、強弓使えば300[㍍]は行くぞ。当たるかどうかは別だけどな」
「でしょ、魔法が不利じゃんねえ。最も広範囲なのは矢じゃできないけど」
「まあな、矢を隙間なく飛ばしていたら、いくら矢があっても足りねえしな。矢は有料だし、百中にするなら飛距離は魔法と大差ねえけどな」
では用意した的に何処まで届くのか試そうと思います。的が壊れると困るので氷球。
「いきなり60[㍍]。よっ!だめか、50[㍍]以上は飛ばないね。狙ってもだめだね」
やっぱり届きません。角度を付けてもほぼ50[㍍]程度で消滅します。初速を上げれば、到達時間は早めることはできても、速度をいくら上げても到達距離は変わらない。なんでよ、普通は勢いで遠くまで行くものじゃないの?
「じゃ、ワタシね~。はいっ!本当だ50[㍍]で落ちるね。角度をつけると遠くまで行きそうになるけど、溶けるように消えちゃうんだね」
『溶けるよう』でまさか熱で溶けているじゃないだろうねと言う事で、礫弾。
「今度は礫弾ダッ!と。同じかあ、溶けているのかと思ったけど、石があの程度で溶けるわけないもんね。消えているね」
「うん、消えたね」
「精霊さんも何故かは解らないって言っていますわね、自分で試すしかないって事なんですね」
「そうらしいよ」
それならばと、重さがほぼないと思われる魔力弾。所謂魔力の塊。
「魔力弾。そりゃっ!あらま大差ないわ。なぜでしょう」
消える、消える、消えると念仏の如く唱え、それではと、なぜ消えるのか、単に消えているように見えるだけなのかを試す事にしました。
「ほんじゃ、次は大型礫弾を作って、こうする」
直径46[㌢]で全長約2[㍍]の、砲弾型礫弾を飛ばさずにゴロンと放置。
「放っておくの?何が違うのって、崩れてきたっ!消えた、消えちゃったよ」
「あっりゃぁ、もう一度」
何度やっても霧散するかのように消えていきます。炎も水も氷も消える。小さければ、それなりに保持できますけど、今度は衝撃力とか破壊力がなくなります。兵器としては役に立ちません。大型化すると、保持時間が短く成りました。
「あーッ!自分の性能を維持するのに周辺魔力を使っているのかな?大型にすると、集めるのに時間がかかるから、崩れるって事かな?」
「あぁ、そうするとそれなりに威力を保つと、形を維持するだけで精一杯で、それが有効距離になるって事?でもさ、ミーちゃん。手元を離れたら魔力を追加なんてできないよね」
「できないね、射程距離50[㍍]ってそういう事か」
7. 魔力隧道
今度は、魔力のトンネルを形成します。その中をエッちゃんに氷球を飛ばしてもらいます。氷球の維持は、トンネルを消化して行われるはずですけど、どうでしょう。
「エイっ!あっ、凄い飛んだ。消えずに60[㍍]を越えた。100[㍍]位?」
「やっぱりそう言う事かあー、周辺魔力を能力維持に使っているんだー」
「魔力隧道を感知できる人がいたら、役に立たなそうだね」
「そっちもあるかー」
8. 魔力増槽
次は、魔力を溜め込んでφ40[㍉]✕20[㍉]の円柱状に加工した魔石の先端に、光球を砲弾状に形成して飛ばしてみます。形状維持は、気中より濃度が高い増槽魔石から行われるはずです。
「ホレっ!おぉ、飛んでいく飛んでいく。消滅まで目算で4[㎞]かな」
「すっごーい、これならどこまでも飛んで…一緒にお金も飛んでくね」
「そうだね、兎とかもいなくなるしね。でも、射程は長く出来るよ」
「矢よりはるかに戦費が嵩むな」
「まあ、そうだけど。出来ることを知っているのは良い事だよ。やろうと思えばできるんだから、対応を考えておかないと。傾いた後を気にしなくなった国の戦なんて何をしてくるか解ったもんじゃない」
「そうですわね、あんなのが一つでも届いて、ミーちゃんに中ったら困りますね」
「何故にアタシ」
「ミーちゃんがいなくなったら、面白くなくなるからだね~」
「なんだね、それは」
「そうだよな、こいつが居なくなったら、うん、そりゃつまらん」
「中らなければどうってことはない」
形がある魔法は、その形を維持するのに、周辺魔力を使っているらしいと言う事は解りました。周辺魔力なんぞなんぼでもあるんだけど、飛翔している時には、それを消費した時には、先へ進んでいるわけで、後ろに補充されても駄目っぽいですね。それならば、形がない魔法は、その形を維持する必要がないのだから、他のことに流用できるはずで、おそらくそれが簡易通話器に距離制限がない要因と思われます。あれっ?魔力弾はと思った貴方。魔力弾も見えないだけで、形はあるんです。球でも四角でも良いのですが、霧のように不定形と言うことはありません。円錐とか砲弾の形状にすると、着弾時の貫通力が上がるようなので、私の場合大抵は砲弾型ですけどね。
実はですね、手元から常に魔力を供給できるであろう先程の魔力隧道、レーザーにも似た『光刃』、火炎放射器のような『炎流』とか、糸というか、光ファイバーのように連続した様相を想像しても同じような結果となってしまいまして、こちらの方はまだ解明ができていません。おなじみ『魔力刃』なんですけどもね、やっぱり同じで50[㍍]以上は伸びないんですよ、なぜですかね。
9. やっぱり来た
何がっていうとですね『長靴を乾かすのに、保持が大変』などという製品意図とは違う使い方をして、注文を付けてくる人達。必ずいますので、予想はしていましたし、今の所は予想範囲を越えてはいません。そのうち来ますかね『肉が焼けねえ』とか言ってくるアホ。
「本当に来るんですね。まさか靴の乾燥に使うとは思っても見ませんでした」
「ねっ、来るでしょ。リア姉さんは想定していなかったみたいだけど」
「そうですよ、髪の毛を乾かす事しか考えていませんでした。これは勉強になりますね、製品として出して頂いて良かったです」
「この先は、研究所と製作所を分離した工房にしないと返って大変なんですけどね」
「そうですね。製作に追われると次の製品に手が回らなくなりますよね、なるほど工房の意識改革ってそういう事でもあるんですね」
「あの、それって薬剤でも同じですよね。どうなんでしょうか」
「新しいのを創薬するなら、同じ事になりますね。製薬ならないでしょうけど。対象となる顧客にもよりますけどね」
「そうですよね、新種の棘草を使ってお薬を作ったりすれば、同じ事ですよね」
「うん。創薬サーワと製薬サーワが居ればいいのだけどね、そうは行かないからね、今のうちに対策を考えておいた方が良いと思うよ」
「そうしますね、帰ったら家族で相談してみましょう」
「{フヘヘヘ、サーワお嬢様が二人…フヒヒヒ}」
皆には聞こえていなかったようですけど、危ねえ人がいる。ま、良いか。




