(04-04)剣の稽古
(04-04) 剣の稽古
辺境開拓村村娘ですこんにちは。播種作業終了しました。夏の終わり頃にはパンが食べられそうです。無理だな、ふくらし粉も酵母も無いね。少なくとも、フワフカのパンなんて見たことが無いです。こういう場合、村で共同のパン焼き天火なんてのがあるものですが、これまた見たことが無いです。さらに、そう言や今まで小麦なんて見たことがありません。拙宅の小麦さんはどこへ行っているのでしょう。まさかとは思いますが、徴税と言う名のボッシュート?
1. 兄達の鍛錬
村にも時々獣が、非常に稀ではあるものの、魔獣も降りてくるらしいので、村の男達はそれなりに槍だの、弓だのを嗜んでいます。時々所謂冒険者風の者に依頼して、教練会をしているみたいです。
なので、家でも父ちゃんが剣を持って日々鍛錬を怠っていません。これだけは感心しますけどね、それを見ている兄達も当然のことながら真似をしたがるわけですよ。
「父ちゃん、俺にも剣を教えてくれよ。七歳になったんだから良いだろう、なぁ教えてくれよ」
「俺だって、六歳だからな。兄ちゃんより巧くなって見せるぞ」
そんな事を言われたら、脳筋単純父ちゃんはすぐにその気になるわけです。
「よっしゃ、まずは俺のが手本を見せるからな」
一応、剣には刃が入っているようです。とはいえ所謂西洋風両刃剣ですから、刃が入っているのは先っちょだけですけど。いきなり太さが50[㌢]ほどもある薪の元みたいな木を取り出して来ました。何をするのかと見ていると、
「おりゃっ!せやっ」
木が切れました。
はぁっ?縦真っ二つに切れちゃったよ、横にも2つだよ。身体強化?いやいや、剣まで強化しているんじゃないの?折れるどころか、刃こぼれすらしていそうも無いよ。これは驚いた。母ちゃんが、父ちゃんは魔法ができないって言っていたので、ただの脳筋だと思っていたけど、そう言えば強化魔法は、体内魔力で出来るのでしたっけね。でも剣までとは聞いていません。どうなっているんでしょう。
「すっげっぇ、どうやっているのさ、父ちゃん」
(そうだ、そうだ、アタシも聞きたい)
「気合だ。鍛錬だ。鍛錬すれば岩でも切れる」
あ、こういうのは良く言えば、天才。まぁ脳筋だね、脳筋がいる。
その後もスッパスッパ切っていくので、魔力視で観察してみると、体内魔力が体に纏わりつくようにして、まるで鎧のようになっていました。剣の方にも魔力が伸びていて、それで木を切っているようです。本人は気がついていないようなので、こりゃ無理だ。人には伝わらないよ、父ちゃん。
「岩でも切れる」ってのが本当だとして、それだけ魔力の鎧が強固なんでしょうね、防御も兼ねている訳ですか、すげえですね。真似出来るかな。
という事で早速真似て見ました。鍛錬と言うのは間違いでは無いようです。体の周囲に魔力を纏うというのはそうそう簡単にできるものでは有りませんでした。イメージ的にはなんとかなるんですけどね、精霊魔法じゃないのですよ、これ。該当する精霊さんは居ないのかな。白ちゃんが該当しないのであれば、無理か。それでも昔の西洋甲冑を思い浮かべているうちに纏う事ができるようになりました。
刀というか竹刀は、学校の授業で数度やった剣道しか記憶にありません。段持ちならいざしらず、何の役にも立ちませんね。剣は押し切る感じですかね、剣先にしか刃が入っていませんから、ゴンと叩きつけて、振り抜きざまに先の方で切る感じ。素人なので違うかもしないけど。刀ってのは、引き切りの刀法だったはずです。刀身を対象にあてて、反りに従って円弧を描くように引き切ると、あたかも剃刀刃のように薄くなるという理屈。これは鍛錬しないとどうにもなりません。魔法じゃ実現できないし。
2. 私の鍛錬
剣とかの握りだこってあるでしょ、我儘だと言われようが、ああなるのは嫌だ。ムッ筋ム筋も遠慮したい。という事で、最初にしたのは、魔力を薄く纏う事。ニトリル手袋みたいな感じで、剣を持っても違和感が出ない位に薄っすらと。
剣?作りました。木製の丸棒ですけど。片刃の直刀ぽく作ってみたんですけど「洞爺湖」とか入れたほうが良いですかね、曲げるのは難しいですね、宿題としておきましょう。
兄たちが練習している所にしれっと混じって素振りです。
「おっ!お前もやるのか、そうかそうか、よし掛かってこい」
どうやって、刀を作ったのかはまるで見ていませんね、バカですか?まぁ、お子様の遊びだと思っているからでしょうが、昨日今日始めたばかりの満2歳児ですよ、本気になるなよ、ならないでね。
「えいっ」
「おぅ筋は良さそうだな、どれ、フンッ」
カァンと弾き飛ばされました。体には当たっていませんからいいですけど、アタシの木刀は遥か彼方へ飛んでいきました。大人げない。
「女が剣なんぞ、いらんわ!じゃますんじゃねぇよ。ひっこんでろ」
言葉!馬鹿はやっぱり馬鹿でした。子供相手に遊ぶくらいの余裕が欲しいです。
仕方がないので、庭の隅に棒を2本。木刀が通る位の幅で立てて、その隙間に向かって素振りをする事にしました。あんたらの邪魔はしないから、こっちに来るなよ。
素人ゆえの浅い考えですが、素振りと云うのは左右の腕力の違いをなくし、バランスを取るための鍛錬だと思うのです。そうすることで、体の中心にある急所を狙うための基礎的な訓練なのじゃないかと。だったら、ぶつからないように棒の間に木刀を通せば良いんじゃね?という考え。まぁ、たぶん間違っています。本気にしないでね。
走り込みは毎日欠かさずしています(除暴風雨雪)。家の周りだけですけど、グ~ルグル。魔法を使わなくても、たぶん兄たちより向上していますよ、自信は無いけど。毎日の練習に素振りを追加してひと月ほど、なんとか棒にぶつからないように振り抜けるようになりました。偉いぞアタシ。次は刃に魔力をどうやって付けるかでしょうか。木刀で木ぐらいは切れるようになりたいですね、驚かせる事くらいはしたい。あの馬鹿親。
ジュンちゃん曰く。
〔たぶん、今ならイメージだけで行けるんじゃない〕
そうなの?うーんと、魔力を木刀へ巻き付けるように纏わせます。次にその魔力を平べったく伸ばして、先を薄く尖らせます。剃刀の刃とまでは行きませんが、刃物を研いだような外観になったはずです。さらに剛体とすべく鋼の強度を想像して、魔力を送り込んでみました。
「いざっ」
ザクッ
生っ木を切れました。さほど太くはありませんが、切れました。ただ残念なことに押切と言うか、薪割りみたいな感じでしたけど。よっしゃ、次は引き切りの練習だ。結論を言っておきますね、未だ到達していません。難しいです。ほら良くあるじゃないですか、果物をシュッと斜めに切ると、ややあってスルッとずれていく奴が、あれやりたい。でもめっさ難しい。速度がいるのかな。誰か教えてくれませんかね。おーい、宮本さぁん、卜全さぁん。
3. 嫌がらせか?
自分なりの練習を欠かさず行っています。上達はたぶんしていないでしょう。いい加減な我流もいいところなんだから。季節は、夏真っ盛り。春麦の穂がまもなく色づくはずの頃合いです。兄たちが素振りの練習中に、ニタニヤしながら近づいてきました。
「おい、ミー。俺たちが上達したか見てやるよ」
「いらないから。あっちへ行って自分の練習をすればいい」
「はっ!ガキが一丁前の口聞いているよ。いいから試しに打ち合おうぜ」
いやお前らもガキだろうが、何を言っているんだろうねコイツラ。調子に乗っているのは、あんたらだろうに。よくもまぁ、言ってくるもんだ。
「いいから、早くしろよ」
「だからあっちで自分たちの練習をしなさいよ」
「うるせぇ、おりゃぁー」
素人が見ても、腰が入っていないね、走り込みができていないって言うか、していないよね。ヘロヘロだし、握りも貧弱。もうちょっとしっかり握れよ、かえって危ないでしょうが。あれか、刺突の瞬間に握りを強くすると言う達人の技か?
カンッ
ポトッ。
上兄の木剣が切れました。そりゃ、魔力バリバリで練習していますから、いきなり来られたら止めようがなく、そのまんま魔力刀ですもん、乾いた木剣なんぞ切れるわな。
「………なんだよ、何をしたんだよ」
あ、泣き出しそう。
「ふざけるなぁー」
今度は掴みかかって来ました。うむ、騎士でもあるまいし、正当な喧嘩剣法ですな、結構結構。面倒だから、土を刃先で掘り起こして、顔に向かってドバァーッと贈呈。あ、泣いた。情けないな男だろうが、そのまま二人とも走り去って行きました。
暫く素振りをしていると、今度は父ちゃんを連れてきた。しかもいつもの鉄剣を持っているじゃん、危ないな。
「おい、ミール。お前ジルになにをした」
「何もしてないよ、嫌だって言うのに人に向かって木剣を振り回してきたから、避けただけだよ」
「避けただけで、これが切れるかよ、正直に言え。何をした」
持ち手側だけの半剣になった、兄ちゃんの木剣を突き出し、もう片方の手は鉄剣を構えていやがんの、何をする気かな?
「だから、木刀で振り払っただけだってば」
「そうか言えねぇ、かッ!」
言うや否や、鉄剣をかぶせてきた。あんたそれでも親か、そんなにアタシが死んだほうが良いのか、まったく短気、短絡でどうしようも無いな。当然の事ながら、お墓がチラ見えしましたので、お相手します。こんなレベルを受け流せるほど器用では有りません。
ガキィーン、ギャリギャリ。
木刀と鉄剣が打ち合う音じゃ無いよね。まさかと思いましたが、受け流せましたね、やれやれ。ついでに鉄剣は折れる事なく曲がっていました。錬鉄か?軟弱な安物の剣ですね、鋳物ですらここまでひどくありませんぜ、旦那。あぁ、知らぬとは言え魔力剣として使っていたから、どうでも良かったのか。そう言えば、剣に魔力が籠もっていたね、薄っすらと。
「な…なにぃー、俺の…俺の剣がぁー」
「ほうら、避けただけでしょ。二度とこっち来ないで」
暫く呆けた後、こっちと剣を見比べながら漸く口にしたのが
「この化け物が」
自分で理解できなくなると、人ってこうなるんですよという典型セリフ。ありきたりすぎてつまらないですが、家を出る時期が早まりそうな気がしました。
4. 学校って秋始まりだってさ
こっちの一学期目は、秋始まりなんですよ、欧州っぽい。日本の場合は、桜が咲いたりして、天候が安定するのが春で、欧州だとそれが秋なんだとか。日本の秋だと枯れ葉の季節で、門出とか始まりって感じはしませんね。それと、夏はどうせ暑いからと長期休暇となるそうな。
なんでこんな話から始めたかって言うと、村長の倅も帰ってきているわけで、父ちゃんの隣に居ます。
「お前村長の家に嫁に行く事になったから、出てけ」
「はぁ?何を唐突に」
「さっさと出てけ、この化け物」
人前で化け物扱いするなよ、あんたそれでも親か。
「ミールだっけ。喜べ、仕方がないから、俺の嫁にしてやるよ。良かったなぁ、行き先が出来て」
「いらない」
「は?」
「だから、あんたみたいな七光りの俺様君なんかとくっつく気はない」
「もらってやるって言っているのに、なんだその言い草は。こっちだってお前みたいな奴を貰う気なんかねぇよ。親父達が勝手に決めたんだから、仕方がないだろう」
「仕方なくで貰われたくないし、まっぴらごめん。貰いたければ文武でアタシに勝ってからにして欲しいくらい」
売り言葉を買いました。銅貨一枚位ですかね。周りには、父ちゃん母ちゃん、村長がいますので証人にはなるでしょうけど。
「面白れぇ、字も知らねぇ奴が何を言っている。俺は両方とも学院上位なんだぞ。よし神前試合だ!礼拝堂に行くぞ。いいよな親父」
「ふん、かまわんよ。本人が言い出したんだからな。いいなランドウ」
「俺は、どうでもいい。構わん」
どいつもこいつも面倒な奴ばかり。まともな奴は居ないのかね。あ、やーばい。数字は、お隣のエッちゃんに教わったけど(お礼は、9✕9の歌)、文字はまだ。予定は来春じゃん。文の試合が「国の歴史」とかだったらどうしよ。
倅は初等学院の2年だっけ?とか言うのをエッちゃんから聞いた事がある。そうすると、10才位かな。結構背は高いけど、顔は、うん普通に平民顔だ。
ちょっと村で力があるからって、光らせるなよ、くだらん。何のために学院なんて行っているのさ。もっと視野を広げてだな、光力を落としたまえ、少年。平民が粋がって俺様していると、痛いよ。物理的に痛い目に遭うよ。粋がって歩く倅を観察しながら、礼拝堂到着。おーい、足が覚束ないじゃん。村長の倅よ大丈夫か、田舎でそれだと務まらないぞ、無駄に広いからな。
礼拝堂につくと、神父服を纏った優しそうな人がいた。見てくれで決めてはいけないですけど、中身は腹黒ってのは良く聞く話だし。
「神父のジーザスです。これより村長の名により、神前試合を執り行います。両者ともよろしいですね」
「おういいぜ、いつでも始めてくれ」
「うん」
「本当によろしいので、村長」
「ミール、本当に良いのじゃな?武術の試合と、算術の試合になるが、あ奴は学院でも優等だぞ」
「算術!【ラッキー】いやなんでもないです。どうぞ、気にせず進めてください」
「では、第1試合は、算術です。相互に問題を出し合い、3問不正解の場合は、負けとなります。制限時間もありますよ、注意してください。ではフラグダ君から」
村長の倅は『フラグダ』だと、【フラグだ】か?ぷはっ、あ…笑っちゃいかんね。
「5✕9『45』は」
「早く、検算してくださいねぇ」
なんかシスターさんみたいな綺麗なおねいさんが、計算を始めた。9を5回足しているな。逆にする事は知られているという事ね、初等学院だものね、良かった。微分だ、積分だとか言われた日にゃぁどうすべかと思ったよ。あれっ?大人でも加算をしているって事は、9✕9は知られていないって事?あっちゃー、エッちゃん、まずかったかも知れない。
「せ…正解です」
「次、ミールくんから出題…大丈夫かね」
「はい、16✕16」
「いや、一桁だけです。初等なので」
「判りました。じゃぁ8✕9」
「えーと、8足す8が16で、それに8を足すと…」
「時間切れです。ミール君一勝」
足し算は良いとして、暗算くらいしなさい。そういうのは無いのかな。
「次は、フラグダ君ですね」
「4✕9『36』…はぁぁぁ?」
「検算まだですか」
すみませんねぇ、シスターさん。
「ミールさん、せ…正解です」
「次、ミールくん」
「じゃぁ、8✕9」
「エッ?さっきの」
「今度は、少し早くできるでしょ」
「くっそぉ、24に8を足すと、繰り上がって…」
「フラグダ、お前は何をしに学院に行っている。4才に負けたら退学だ。バカモン」
「時間切れです。ミール君二勝。まだやりますか無駄に思えてきました」
「しかも、相手は学院にすら行っていない娘っこですもんねぇ、穀潰しくーん」
ちょっと煽って見ました。余り調子に乗らないほうがいいですよね。
「第2試合は、武術です。相手が『参った』と言えば勝ちとなります。死傷させた場合は、失格となりますので、注意してください。両者見合って。始め!」
フラグダ君は、こっちの方が得意そうだ。でもさっきから動かないね、様子見かな。間合いとか測っているのだろうか。こちらから行くと、一薙でおしまいになりそうけど、待っていても動きそうにない。
「はいっ!あのぉ、どうかした?動かないんだけど」
手を上げて、質問してみた。返事が無い。よく見ると、気を失っていた。
なんで…あぁごめん、魔力で圧力かけていた。父ちゃんが最近うざったいので、魔力圧で抑えていたのが漏れてしまったようだ。他人前でズボンに滲みが。どうするのかね、アタシは知らん。
「勝者、ミール君」
「まだです『参った』と宣言されていません。宣言するまで続行でしょ?」
「いや済まないが、儂と倅を許してはやってくれんか」
「許すも何もありませんよ、上回れと言ったのはこちらですから。でもわかりました、それでは皆さんお疲れ様でした。あ、村長さん。ご長男は退学なんですよね、学院の教科書があったらください。必要ないですよね」
「いや、それはその…。わかった、学習書を購入してくる。それで良いか」
「わざわざ、ありがとうございます。ご足労をお掛けします」
「その丁寧さが、余計にこわいのだが、気の所為か」
「怖くはないですよ、たかが小娘ですよ」
にこっとご挨拶をしておきました。さて、あと一人いるよね。
「さーて父ちゃん、勝手に嫁騒動起こした落とし前は?」
「そ、そ、それは…ごにょごにょ」
「ぬぁんだってぇ」
「申し訳ありませんでしたぁー、ゴメンなさい。許してください。魔圧かけないで」
「それなら、今までに増しての不干渉で良いですか」
「今日で親をやめます。家でも自由にして下さい。もう何も言いません」
父ちゃんがちょっと壊れ気味ですが、何事もなく騒動は平和裏に終わりました。家に居ても良いらしいです。良かった、良かった。
「親子の会話を聞き捨てては行けない気がしたのですが、少し伺っても宜しいか」
終わっていませんでした。
「はい?何かありましたか、神父さん。仮にあったとしても家の事ですので、お手を煩わす出来事では有りません。ではさようなら」
「いや、アッ!ちょっと」
終わらせました。せっかく父ちゃんが大人しくなったのに、かき回すなよ。
いいよ、静かで居てくれるだけで十分ですよ。後、平和に生きられれば。




