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(08-01)深森の廃村(春一番)

(08-01)深森の廃村(春一番)


 また一つ、歳が増えました。でも8歳(数え)です。満年齢ですと、6歳。ようやく小学一年生ですかね、新年明けまして御目出度うございます。こういう挨拶はこちらにはありませんが、辺境村村娘です。


 ガンさん達は、雪板(スキー)で遊んでいます。平地は飽きたとか言うので、東の廃鉱がある山と草原を使ってゲレンデを作りました。『身のこなしの鍛錬だ』とか言っていますけど、遊んでいるようにしか見えません。仕事しろよ、冬の手仕事ってのは農家の旦那がやるもんだろうが。


1. 春たけなわ


 雪が解けると、ガンさん達は旅立っていきました。嫁の実家に戻っただけですけど。そうです、ここには婆ちゃんはいますけど、産婆さんはいません。それで、嫁の実家で産めばいいじゃんと言う事にして送り出しました。


 この世界の衛生観念なんてのは、お世辞にも良いとは言えませんので、できる限り清潔にすること等を伝え、使う前にできるものは煮沸させる事、渡したのは、お酒ではなく消毒剤で有り飲み物ではないことを特に強く伝え、馬に引かせたキャンピング・リヤカーに奥さんズを乗せて返しました。あまり遅くなって、途中で生まれたら困るしね、おかえりは秋かな。


「静かだねえ、ミーちゃん麦はどうするの」

「重機の二人がいないからねえ、二人で魔法を使って片付けるか」

「はいっ!私、水を撒きます」


 勢いよく手を上げたお姉さん。すっかり農民に馴染んでいるのでは無かろうか。


「お姉さんも、すっかり魔法使い農家だね」

「ミーちゃんのせいですけどね、でもあれは楽しいですわ」


 エッちゃんも、播種の仕方が板についてきて、数粒づつの種まきもあっと言う間にできるようになっています。お姉さんはお姉さんで、ダンスのステップのように踊りながら、腕を振り回し、指先から如雨露で撒くかのように水撒きをしていますし、種まき風景とは思えませんね。楽しそうでなによりでした。あっと言う間に終わっちゃったよ。ここの畑ってば、だだっ広いんだけどね。温泉室は湯を止めて、管のお掃除をして管じまい。また来年となりました。


「あれっ?リア姉さんは」

「あら、そう言えば見かけませんわね」

「今朝は見かけたよ」

「朝は部屋から出てきているさね」


 リア姉さんを見かけないと思ったら、浄化槽から始まって、簡易通話器、太陽光魔力生成器、レンズ製品やらと理解がオーバーフローを起こしてしまい、引きこもって研究に没頭中。その間に誰かさんが、魔力紋の発見やら、撮影機やら作り出したものだから、解析が追いついていないらしい。朝食事に起きてくる度に髪の毛と目元が恐ろしい事になっていまして、無理やりお風呂に入れてみたりで、おこもりさん状態になっております。あはははは、大丈夫か王女様。


2. ハンジョさん春の来訪


「ミーちゃん、なんだねあの家は!」


 ハンジョさんが飛び込んできて開口一番雄叫びに。毎度々既視感に襲われるんですけど。しかもなぜか突然家に入ってくるんです。なぜでしょう。


「畑の家?温泉を使った温室ですけど」

「温室?なんですかなそれは」


 温室ってないのか、そう言えば【ガラス】は高級品だっけ、其れ以外の透明板は…無いな。


「真冬の寒さでは育たない薬草類を栽培する為の小屋ですよ」

「なんとまあ、それでは南方の草木も育てられると言うことですかな」

「環境が合えばですけどね、一応今の所は育っているようですよ、ねえ婆ちゃん」

「そうさね、幾つか試しに育てているのだけどね、今の所は育っているさね」

「それは、それは。南方のものはどうしても高価になってしまいますからな、それができるならありがたい。そう言えば、お二人とご家族を見かけませんが、どちらに」

「奥さんの出産のために実家に戻っています」

「ほうほう、それはめでたいことですな。何かご入用でしたら、うちの支店に伝えて下されば、お持ちしますぞ」

「その時は、よろしくお願いしますね」

「ところでマジョリアさんは、どちらに」

「お部屋におりましてよ」

「お部屋でね、ミーちゃんの器械を研究しているの」

「なるほど、理解不能で機密機能満載ですからな」

「そんな危ない器械はありませんよー」


3. ハンジョさんと蒸留酒


「ハンジョや、これを一つ飲んでみておくれ」

「なんですかな、頂きます」


 グビッと一口。あ、そんなに一気に呷ったら。


「ぐはっ!なんですかこれはっ。酒ですかな、それにしても強すぎませんか」


 ぐはっ、げほっと(むせ)ているハンジョさん。ほらぁ、やっぱり喉に来た。水を用意して置いて良かったよ。


「ミーちゃん、ありがとう」

「婆ちゃん、強いんだから、先に言わないと」

「いやね、まさか一気にいくとは思わなかったさね」

「これは、酒ですか。またどういう酒ですかな」

「それはね、麦酒(【ビール】)だよ。麦酒(【ビール】)を婆ちゃんが蒸留したもの」

「蒸留?麦酒(【ビール】)をですか?また変わった作り方をしたものですな」

「いやね、ミーが酒から水を取り除いたら、成分だけが残るんじゃないのかと言い出してね、それならと蒸留してみたさね」

「すると、これが酒の主成分ですかな。しかしですな、これは売れるとは思えないのですが」

「まだ作ったばかりだからね、たぶん何年か寝かさないと駄目なんじゃないかな。それと、水を抜いた訳だから、逆に水で好みに薄めたりして飲むものだと思うよ」

「あぁ、そういう事ですか。そうであれば、商用の大型蒸留器を用意せねばなりませんな。あとは保存場所ですかな。承知しましたぞ。どれ、氷をいただけますかな」

「凝りませんね」

「商売ですからな、はっはっは」


4. 春の新作発表会


「………………」


 ハンジョさんの前には、魔力紋を残すための魔力乾板とオマケのピンホールカメラ。カメラは、唯の穴からちょっと進化しまして、レンズ付き。魔麻油と煤による油性転写インクと、それを塗布した転写紙(布)、録音テープにテープレコーダ。録画テープと撮影機、それを再生する映写機。さながら技術博覧会みたいになっています。


「………………はっ、意識が飛んでおりましたぞ。ミーちゃん、これらはなんですか。見たことも、聞いた事も無い。確かにあれば良いなと思ってはおりましたが、実現して眼の前に並ぶと、もはや言葉になりませんな」

「まあた、またあ。大げさですよ。魔力の取得が誰でも容易にできるようになると、今度は魔法による犯罪が増えるんじゃないかと思ったので、魔法が広がる前に抑止の意味で用意してみました。性能的には全部初期段階で、機能的には拙いですけどね」

「『魔力紋』ですか、魔力に紋様があり、人によって異なっていて、魔法を使うと、個別の紋様が現れるなぞ、大発見ではありませんか」

「証明、認知されたわけではないですけどね」

「いやいや、そんな事は魔法水薬と同じで、時間の問題でしょう。それよりこれ、写真機ですか、ここまで精緻に再現できると、お抱え画家が職を失うかもしれませんな」

「うーん、それはですね、単なる似顔絵画家から文化的、芸術的な抽象画へ舵を切って貰えば良いんじゃないですかね。後は当分色は付きませんから大丈夫…たぶん」

「色?なるほど、色の表現力で当分は安泰と言う事ですかな、まあ時間の問題なんでしょうけれども」


 次に手にしたのは録音機。


「あー、あー、私はハンジョです」


 ほんでもって再生。


「あー、あー、私はハンジョです」


 やっぱり不思議な顔をしています。


「これが私の声と言う事ですかな、皆さんに聞こえている声がこれですか」

「そうなりますね、不思議でしょ」

「不思議で、面白いものですな。うん、これは面白い。大受け間違いなしですぞ。ただですな、量を作るとなると、魔石がらみとなりますので、私の知る限りでは帝国の細工屋にはおりませんな。魔導国であればなんとかと言う所でしょうか。一度向こうに持っていかねばなりませんな」

「リア姉さんも持っていくと話が早そうな気がします」

「ふむ、辺境伯様にお見せしてから、もう一度魔導国に行きませんか」

「皆んなで?あ…その間婆ちゃんだけになっちゃうな」

「なに私は構わないさね、20何年と繰り返して来た事さね」

「良いの?まあ通話機があるから前とは違うけど」

「良いも悪いもないさね、あっちの国王さんにお願いするんじゃろ」

「まあ、そうだね。そうしないと信用とか、箔が付かないよね、たぶん」

「そうですな、ではその予定でいて下さい」

「解りました。あっ、リア姉さんを普通の生活に戻さないと」

「「「「「そうだ、そうだった。あっはっはっはっ」」」」」


5. ルイ・ドゥ・フェルモンド


「ミー君、あれはすごいぞ」


 到着早々いきなり何でしょう。思わずハンジョさんを見上げてしまったよ。


「用足器を納品したのですよ。たぶんそれでしょう」

「焼けるようになったんだ」

「お陰様で。帝都でもあっと言う間に売り切れました。丸の1金なんですが」

「丸金?(一千万円相当額)…うっひゃぁー」

「いや、それ位の価値はあるぞ、ミー君。話には聞いていたが、あれは良い物だ」


 なんかですね、便器を矯めつ眇めつ「これで10年は戦える」と言っていそうな辺境伯様です。浄化槽は井戸の時に作ってあったんですけど、水洗便器だけは時間がかかるので、ハンジョさんにお任せしてあったんですよね、以前窯元が見つかったとかで、それからずっと技術習得をしていたらしいです。どれくらい壊したんだろうかね『これでは流れんではないか!』とか言って、便器をガシャーンと割っている様が見えるようですね。


「いやいきなりであったな、すまん。こちらが、魔導国の現王女様か?バルトニア帝国で辺境伯を賜っております。ルイ・ドゥ・フェルモンドと申します。お見知り置きを」

「ご挨拶が遅くなりましたが、お初にお目にかかります。魔導国現第一王女マジョリア・ド・マジカリアでございます」


 偉い人の挨拶大会は長いです。実際はもっといろいろあるんですよ、お貴族様だし。


「あれは良い。良すぎるぞ。手間もかからないと下男も言っておった。感謝する」

「いえいえ、気に入って頂けただけでも良かったです」

「おっ、ミーじゃねえか。何しているんだここで」

「あれ?ガンさん。なんで此処に居るの、嫁の実家じゃないの」

「それがな、お館様がこっちで産めって仰ってくれてな、今此処」

「まあ、産むのはカミさんだけどねえ、良かったね」

「「「「はっはっは」」」」


 ガンさん達も子供が生まれてくるまではこっちで厄介になるんだそうで、離れで暮らして居るらしいです。


「それでなミー君。ガンドウ達が言っておった写真機なるものを早く見たいのだが。あとついでと言ってはなんだが、今日例の酒は持ってきているかね」

「新しい物、お好きですねえ」

「これでも貴族の一人だからな。こういう生き物なんだよ」

「あ、じゃあ何処に並べますか」

「うむ、応接で見せてくれたまえ」

「解りました」

「それなら、リアさんと私は、部屋着に変えて参りますね」


 と言う事で、お姉さん達はそのまま部屋へお着替えに。侍女さんズがぞろぞろ付いていきました。応接室で出したものはと言えば、カメラでしょ、魔力乾板でしょ、転写機でしょ、レコーダでしょ、撮影機でしょ、映写機でしょ、ほんで樽酒。博覧会その2。一応、取り出しながら説明と解説をしてみたんですよ、やけに静かだと思ったらね。


「「………………」」

「お父様、お母様どうなさいましたの」

「…うん?ルリエラか。いや、私は意識が飛んでおったのか?」

「………………はっ、私も意識が飛んでおりましたわ」

「仲良き事で」

「いや、なんだ、うむ、聞きしに勝るとはこういう事か。凄まじいな」

「写真と言うのはどういうものかしら」

「お母様、こちらを見て下さいな。私を写したものですけど」

「まあ、これが。絵ではありませんのね、本当に生き写したようですわ。ミーちゃん、私も写せるかしら」

「暖炉の前辺りであれば、ここで写せますけど、どうしますか。お二人でどうです」

「頼めるかね」


 ピンホール時代よりは、鮮明に写るようになっていまして、実際は少し色収差が出ているはずなんですが、モノクロだしねえ、気にしない。


「すごいな、あっと言う間では無いか。絵では半日かかるからなあ」

「そうですわよね、半日動かずにいるのは流石に一度で良いですわ。これなら毎日でも大丈夫ですわね」

「お気に召して頂けたようでなにより」

「ところで、これはどこで作る予定なのかね」

「それですが、辺境伯様。あいにくと帝国内ではこれらを作れる職人がおりません」

「うむ、魔導具なのであろう?それは仕方がない事ではある。残念だがな」

「そうですな、映写機はこちらでも出来ますが、魔力乾板はできそうにありません」

「魔力紋であったか、それを検証するのは魔導国に願い出ると言っておったな。帝国では今一つ信用度が足りぬからな」

「またはっきりとおっしゃいますな」

「仕方がなかろう、嘘は言っておらんぞ。魔法に関しては信用度が足りん。皇帝に願い出ると、時間がかかるし『我が国で…』などと言い出したら、いつになるやら分からんからな。できれば、王女殿下にお口添えを頂けるとありがたい位だぞ」

「私といたしましても、その為に同行いたしておりますので、お任せ下さいませ」

「それはなにより、お願いいたします」


 最後にお姉さんを写したフィルム(布だけど)を映写したら、独占の勢いで映写機と一緒に酒瓶抱えて執務室へ持って行ってしまった、仕事しろよー。予備機を作っておいてよかった。


「辺境伯様、仕事室に持って行ったけど、仕事になると思う人は手を上げてえ」

「「「「………………」」」」


 うん、いませんな。


「家令さんよろしく」

「ハァー、旦那様も仕方がございませんな。畏まりました」


6. 魔導国再訪


 今回の旅行きには、ロウタ達は付いてきていません。エステリーナが身重なんですよ。それでですね、婆ちゃんとエステリーナを守ってねと言う事で、お留守番。どんな子が生まれてくるか楽しみです。


「それでは、行って来まーす」


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