(04-03)魔素と魔力と精霊の仕事
(04-03) 魔素と魔力と精霊の仕事
辺境開拓村村娘ですこんにちは。春です。種まきの季節となりました。なぜか駆り出されましたけど。普通はお留守番なのでは無いでしょうか。村総出と言っても、たかだか満二歳に何ができるって言うのでしょう。渡る世間は鬼ばっか。あぁ、家に独り残しておくと気になって仕方がないからですか、そりゃそうですね。ところで、麦って育苗してから植えないんだっけ?種蒔きは、秋だったような気がするんだけど、わからん事ばっかりで申し訳ない。なんか知らんけど、豆まきみたいに適当に撒いているんですよ、肥料も鋤込んでいなかったような。連作とかも問題があったような気がするんだけど、色々大丈夫ですかね。
1. 水を隠すなら川の中
デュフフフ。気持ち悪い笑い声が思わず出てしまいました。精霊王様のおかげですが、とうとう私も魔法が使えるようになったのです。4歳(数えです)にして魔法使いですよ、魔法少女ですよ、魔法少女。ふへへ。「大魔法使いに俺はなる!」。
最初は魔力量を増やすだけならと、空気を動かす魔法なら目一杯がんばっても判らないだろうと思い、寝る前の鍛錬として日課になりました。理由は付き合ってくれるのが【白玉】改めジュンちゃんだからです。
天井の空気を換気代わりにクールクル回すのです。それでも最初はこれで気を失う位に消費しました。寝付きは良かったんですけどね。
ただ、だんだんと空気では魔力が減らなくなりまして、昼間ならと言う事で、家の前を流れる小川で小さい水玉やら魚の形を作っては、川の流れに紛らせて放出する事を繰り返しています。外で魔力が切れるとまずいので自己管理はしっかりと。大型形状の物を一つ作るより、細かい物を沢山のほうが魔力消費が多いらしいです。
付き合ってくれているのは、アッちゃんです。いえね、アッちゃんも色々あったんですよ。気難しいんです。この子達。
〔白に名前をつけましたでしょ?私にも付けてくださる〕
〔え、そう?〕
〔ふ、適当なのを付けられれば良いのよ〕
〔んじゃぁ、将来大精霊になるらしいから、ウンディーネの【運子】〕
〔貴女アホですか、せめてディーネとか思いつきませんの〕
〔ぎゃはははははは、ウン子。ウン子。ぎゃぁはっは〕
ずっごーんと、思いっきりお腹に突撃されました。
ジュンちゃんは、器用にも空中をバシバシ両手で叩いて、大爆笑。
〔そこっうるさいですわよ!もー、ちゃんと考えてくださいまし〕
〔じゃぁ水の子だから【水子】〕
と言ったらスネを蹴飛ばされました。
結局は【アクア】で『アッちゃん』になりました。ふーやれやれ。クルンと変身すると、今度は薄い水色のワンピースを着た、ポニーテールって言ったかな、後ろで編み込みで一纏めにしているやつ。という事で落ち着いたと言う過去があります。
少し水の事で判ったのは、川を流れる水と魔法の水は、魔力が抜けない限りは混じり合わないと言う事。理由なんぞ分かりませんけどね、混じらないんですよ。だから魔法の水で魚を形作って川に流すと泳ぐように流れて行き、発現者から離れて魔力が抜けると、川の流れと同化します。魔法の練習をしていると、どんどんと不思議な事が増えていきます。いつかは解明できるといいのですけど、今は魔力増量だけを考えているのでまた後で。
魔力がだんだんと増えて、魚が鯉位からメダカ位になり、その数もごまかせる範囲を超え、同化するまでの距離が長くなるようになったら、次はどうしましょ。見つかる可能性も増えてきますからね、効率良いのを考えないと。
雨が降ったときには、雨粒にまぎれて水粒を混ぜています。だいたい50[㍍]四方位の範囲で雨の増量ができるようになりました。これは結構魔力を使うのです。大魔法をドーンよりは、水球を雨粒のように小さく維持するには、それなりの制御が必要でして、その制御が難しいというか、魔力消費がすごい激しいのです。これも、最初は数滴だったのが今では50[㍍]四方ですから、成長したものです。
もう一つ、精霊に教えてもらって判ったのは、体内の魔力が減っていないそうなのですよ。魔法を使っている間、自分では少しずつ減っているように感じるのだけど、それは単に体力的な問題で、魔力的に減っているわけではないようです。ジュンちゃんが発見したのは、減った分を大気中とか、地中から魔素を吸い上げて、魔力変換していたのだそうです。
『手は変換器』と意識して吸収すれば魔力が増えるのは確認できました。『足の裏は木の根型の変換器』と意識しても増えることが判りました。いつの間にか、私は人型魔力自動変換装置になっていたらしいです。私だけなのか、他の人も魔法を使えるようになれば、同様の性質を持てるのか、どんどん疑問が増えていきますね、困りました。
逆に、取り込まないよう意識していると、この場合はだんだんと魔力が減っていきます。減り方はすごく遅いんですけどね。
それで、体内に増えた魔力は、一杯になるたびにパタパタと折りたたんで、足先から順に積み上げて置きます。そうして行く内にまた面白い事が判りました。まず脚力が上がり、次に腰まで来ると、少し重いものまで支えられるようになりました。背中とか腕とかを満たすと、さらに重いものを持つことが出来るようになって来まして、顔の筋力を上げると、言葉の調子が幼児ではなくなることが判りました。味覚と嗅覚は意識をすれば敏感になり、聴覚も向上したりとか、視覚はまるで双眼鏡です。さらに、魔力の視覚化を意識すると、精霊の持つ魔力まで見えるではないですか、これには驚きました。頭は!頭は良くならないのかと思ったのですけど、とりあえず変化は感じません、残念です。ここまで来て漸く気づきました。たぶんこれが身体強化って奴ですね、知らない内に覚えてしまったようです。まさかと思って、魔力を筋肉とか骨やら腱に意識的に注ぎ込んで、ジャンプ。ビョーンと飛び上がる事ができてしまいました。着地が少し怖かったですけど、なんとか無事降りられました。
〔アッちゃん、これくらいに増えればなんとか生きていけるかなぁ、魔力量的にどうだろう、年相応になっているかな。比較する対象がいないから判らないね〕
〔十分多いと思いますわよ。魔法としての制御力であれば、雨粒を広範囲に作り出す事もできますし、流石にあれには驚かされましたけど〕
〔順調と言う事でいいのかな、うん、安心するね。がんばろう〕
〔じゅ…順調?過ぎませんかしら、まぁ本人が良いと思っているんだから良しとしましょう〕
2. 水魚
川に流しているのは魚と言ってはいますが、実のところを言いますと、ただの塊に過ぎず、魔力と表面張力におまかせで、外見としては『鰹節』みたいなのがちょろちょろしているだけです。そんなのが数十、数百と流れていては、流している本人は良いのですけれど、はたから見れば気持ちが悪いったらないでしょう。
「どうしたもんかな、この形。外から魔力で圧力を加える事もできないしなぁ、内側から引力みたいなもので引っ張って形を作って見る?って誰がやるの」
〔呼んだ?〕
〔あ、ジュンちゃん〕
良いところに来たと言う事で、魚と言わず引力とか重力について聞いてみた。
〔ほうほう、なぜ私は白いのか考えてみた事があるぅ〕
後ろ手を組んだ妖精が、眼の前で体を横にくの字に折りながら、思わせぶりに言ってきた。
〔お洗濯したから〕
スッパーン。途端にハリセンが頭に。どこから出した。
〔あっほかぁー、そんなわけないでしょうがっ!〕
〔オホ…ゴホ…ぐふふふふふ…ぐほっ〕
〔水の、無理しなくていいわよ、この子はこういう輩なの。あのね、私は専門の属性が無いのよ、だから白いのっ!属性って言うのは、水とか火とか言う専属の働きの事ね、それがない。こういうのを無属性って言うの。無属性は、すべての属性にかかわる事ができるって事なの。ついでに言うとオマケで空間も無属性ね、あと重さ〕
〔時間は?〕
〔それは無理。貴女ならわかるでしょ、次元とか時間は『時空神』という神様のお仕事なの〕
ということで、水球を出してみた。当然バチャッと崩れる。球形は表面張力に任せるとして、これを中に浮かせるためには、あぁ重力の逆が要るなと言う事で、
〔先生、お願いします〕
〔うむ、重力を意識し宙に浮かぶ水球を想像するが良い。でもって、ひょいっとな〕
「おぉぉぉ」
浮いてる。水球が空中に浮いている。
〔かっかっか、どうじゃ驚いたか!ひれ伏すが良い、これが我の力ぞ〕
〔白の、乗りが良いわねぇ。馴染んでいるっていうか、楽しそうね〕
〔すごーい、本当に浮いている。どのくらいの重さまで浮かせられるのかな?アタシも浮くかな〕
〔あぁ、それは貴女の魔力量によるわねって、いつの間にそんなに増えたのよ〕
〔さぁ?分からないけど、アタシ浮くかな?飛べる?〕
〔〔楽勝〕〕
ということで、では早速。30[㌢]ほどですけど浮いてみました。この程度では全く魔力の減少を感じられません。どうなっているんだアタシ。
〔ほらできた。だから楽勝なんだってば〕
右よし左よし前後オーライ。辺りに誰もいないのを確認してから、スーイスイ。楽しいです。すっごく楽しいです。機械も何も使わず自分の魔力で飛ぶのは殊の外楽しかった。それでもって、魔力がほとんど減らない。やっぱりどうなっているんだアタシ。