(07-02)深森の廃村(新道具)
(07-02)深森の廃村(新道具)
若葉萌える季節とは言え、春の種まきには、まだ少し早いかな。秋播きの麦さん達は予想どおりでございまして、全滅とはなりませんでしたが、すげえ少ない。こっちも収穫にはちと早い。まあ当たり前かの辺境村村娘です。
1. リア姉さん
ドライヤーは、ハンジョさんが引き継ぎ、もうすぐ市販されるらしいです。リア姉さんには、不労所得が入ることになります。老後も安泰だね。
お姉さんは、精霊魔法の基本を習得するべく奮闘中。いやね、ほら魔導具師でしょ。それなりに魔力はあるんですよ。でも魔導具製造をするための呪文と言うのがありましてですね、それにたよっていたと言うよりそれが当たり前だったものですから、呪文により頭の中に浮かぶ内容を自力で思い浮かべるというのがなかなか大変なのだそうです。呪文を一つ一つ解析しては、自力想像に変換すると言う地道な作業をしています。別にいらないんじゃないかって言ったんですけどね、なんとしてでも詠唱なしにしてみせると言うことで、日夜励んでいます。
「魔導線の作り方ですか、それは魔銀を精製する時の呪文と同じですね。溶けた銀に向けるか、出来上がった銀線に向けるかの違いしかありませんね」
「どういう呪文ですか」
「呪文て人によって多少違うんですけど『我精霊に願う、これなる銀に魔力を込め強靭にして錆びぬ魔銀とせし為に力をお貸したまえ』とかですね。完成した魔銀塊を事前に参考として溶融銀に対して唱える事を学院では行っています」
「なるほど、この銀線にも掛けられますか」
「はい、いいですよ」
リア姉さんが、銀線に向けて呪文を唱えている所を観察していると、土の子(毛玉)がやって来ましてですね、お姉さんの魔力を吸い上げて、代行して銀線に込めているように見えました。結構な量を入れ込んでいましたから、普通なら大量生産はできそうも無いですね。
「ありがとう。それで精霊への名前付けはしてみましたか」
「それなんですけど、金属はどの精霊でしょう?火とか木じゃないですよね」
「はい、金属は元々土の中にあるものだから、土の精霊ですよ」
「あ…そうか、そうですよね。私完成品しか見たことがなかったものですから、思いつきませんでした」
「お嬢様」
「ふふふ、そうですね。これではいけませんね」
「とりあえず、たぶん今来ているでしょうから、名前をつけてあげればどうですか」
ふよふよしていますよ。頭の上で。
「指先に魔力を集めて精霊さんに聞くのでしたよね。えと、こうかな」
うむ、無事名前付けができたようで、いつでも行けるようになりましたね、あとは想像力だけです。
「次からは魔力の減りが少なるなるはずですよ」
「それは嬉しいですね、一度染み付いてしまった呪文方式を変えるのは殊の外難しいですね、頑張りませんと」
「ちゃんと休んで下さいね」
「ええ、お気遣いありがとう」
2. 空圧機動車
「ミー、雪の日にやった板あるだろ?あれ面白かったからよ、出せ」
「出してどうするの?雪なんてあるわけ無いじゃん。来期だよ、来年だよ」
「なんとかしろよぉ、魔法のせいで暇なんだよ」
「魔法のせいにするなー。なんとかってねえ、そう簡単に作れる訳が…事もない」
「どっちだよ」
と言うことがありまして、考案中。まず考えたのが、板に車輪がついて、片足で蹴って進む代物。ローラーボードとか言いましたかね、でもだめだよね、地面は凸凹だし周りは整地されているけど、道に出たら石だらけ。車輪を大きくしないと乗り越えられないし、そもそもベアリングが無い。あれがないと、ガンさん達が蹴った途端に摩擦で燃え上がるのが目に見える。
次点として上がるのが、空圧浮揚板。空気圧をどうするか、魔石か自前かとなると、自前でしょうもちろん。風魔法で板の下に高圧空気層を作れば浮揚するはずです。未だにだだ余りの蛇革をスカートとして取り付けまして、とりあえず浮くだけの板を作りました。
「なんだよこれ、浮くだけかよ。進むの作れよ」
「実験機に文句言うな、まだこれからだよ。とりあえず蹴れば」
「あなるほどおおおおぉぉぉオオオオオーーー」
ドッカーン
「いってぇーーー」
「何をしているんですかね、あの人は」
予定通りとは言え、ちゃんと浮きました。進むのは簡単ですからね、後ろから空気というか、風を出せば良いのです。ついでに、掴まる為の棒をT字型に取り付けまして、完成。
手すりを取り外して、手放しをするかどうかは、利用者が決めればよいわけで、コケても知りません。
「生きてるー、できたよー」
「おお、進むようになったかー」
なんと丈夫なお体です事、なんともなっていませんね。
「当然、魔力切れに注意してね」
「はいよ」
と言うことで、試乗会。難なく全員乗れるようで一安心。魔法教室を開いておいて良かったわぁ。ガンさん達は、いきなり手すりを外しまして、ずっこけて大笑いしていましたが、暫くすると乗りこなしていました。杭を立て、8の字に回り込んだり、スラロームしたり、器用だな、どういう人種だよ。それで、試乗したお姉さん曰く。
「風が痛いですわ」
だそうで、それならばと手すりの代わりに、座席と海辺の廃村から持ってきたガラスで覆いを取り付けまして、さながらスクーターのようにしてみましたら、大絶賛。なにしろ、雪だろうが、泥濘だろうが、静波の水上だろうが走破出来ます。お嬢様用に、体を傾けなくても左右に方向転換できるように、垂直尾翼と偏向板を取り付けましたら、夢中になったお姉さんが、魔力切れを起こして墜落するまでがお約束って言うものです。とはいえ、たかだか10[㌢]程度からですから、どうって事は無いはずですが。
「もっと高くは飛べねえの」
「あーそれねぇ、彼奴等が来る」
「彼奴等って何、どこから来るのさ」
「掃除虫(図鑑にあったよ)が飛んでくる」
「うえっ、彼奴等飛べるのかよ」
「飛ぶよ、ある程度の高さになると、飛んで集まってくる。鳥には集まらないのが不思議でしょうがないんだけど。理由はまだわからない」
「そうなのかよ、知らなかったぜ」
空中飛行となると、ホバーではだめで、どうしても白の精霊が必要になるのですよ。矢とかと違い、支える重量が違いますから、重力を理解しないと、魔法にはなりません。重力の説明?どうやって。私には出来ませんがな。考慮中ではありますけどね。魔道具ならと思うでしょ、短時間でよければ、ホバーなら魔道具(風印の魔石)でもできるでしょうけど、蓄魔量が足りません。重力を振り切って浮くには、蓄魔量と出力が足りません。もう一つが、掃除虫問題。なぜ集まってくるのか解明できないと、空中を飛行するなんて出来ません。
3. 街の門
夜明け前にエッちゃんと家を出まして、いつもはかなりの距離を迂回する森と草原をホバーで森中を駆け抜けた結果、夕方には着いてしまいました。森のショートカットは何処の世でも有効らしいですよ。
「門衛さん、こんにちは。はいこれ、身分証」
「おう、この前のすげぇ嬢ちゃん達じゃねえか。ガンドウ達は一緒じゃないのか?大丈夫…だよなあ」
「えーと、大丈夫じゃないかな、たぶん」
「あっはっは。この前は助かったぜ、あれからまだ毒蜥蜴は見ていないがな」
「それは良かったです。入っていいですか」
「おう、良いぞ。今日は一角魔兎かよ、しかも大物だな。あいかわらずすげえな」
「あはははは」
はい、そうです。今日はリヤカーに4羽、少し大きい一角魔兎を積んでいます。いくらになりますかね、楽しみです。もっともこいつらは草原に沢山居ますからね、驚くほどにはならないと思いますけど。
4. お泊り
「こんにちは、これお願いします」
「おう、この前の嬢ちゃんたちか。こりゃまたでかいな。血よし、切り口よし。他も傷がまるで無し。これだと1銀てとこかな。どうだ?」
「はい、それでお願いします」
「はいよ、また宜しくな」
「「はーい」」
と言う事で、街へ出ましょう。後ろから来る追加の誰か?居ませんよ。この前の事で、皆さんにおわかり頂けたようで、何よりです。
冒険者だからね、冒険者らしく宿に泊まります。予め聞いておいた宿なので、別に危ない事は無いのですけど。泊数とか、食事の事とか尋ねて、お金を払い、宿帳を記入して、お泊りです。ただ、なんとなく小声で女将さんに聞いてみました。
「女将さん、ひょっとして誰かから話聞いています?」
「やっぱり判っちまうかい。領主様からね、あちこちへ話が来ているんだよ」
「なるほど、ありがとうございます」
「どうしてわかったんだい」
「いや、だって小娘二人ですよ?親もなしに普通は泊まりませんでしょ『あんた達、親はどうした』位は聞きませんかね」
「あっはっはっは、それもそうだねぇ。あたしゃ、お芝居には向いていないよ」
「じゃ、食事は降りてきますね」
「あいよ」
にこにことした、人の良い感じが体中から溢れでいる女将さんでした。朝夕の食事は、お泊りセットだそうで、楽で良いですね。
「ミーちゃん、これ兎だね」
「沢山いるからねえ」
「味付けが違うと、おいしいんだね。これなんだろ」
「そう言えば、何だろ。ちょっとピリッとしているよね。たぶん胡椒じゃないかな」
「胡椒?あぁ植物図鑑にあったね、これかあ」
「あんた達、胡椒は初めてかい?高くてね、宿じゃあまり使われないんだよね」
「「兎は良く焼きますけど、これはすっごく美味しいです」」
「そうかい、それはありがとうよ。沢山食べておくれ」
5. 街で遊ぼう
ポンプの鍛冶屋さんは、梃子の所とか、リンクやらしっかり作れるようになり、ハンジョさんの支店に下ろせるようになったとか、進歩があって何よりです。
隣にも鍛冶屋さんがあったので、ポンプの親父さんに紹介してもらいました。こういう繋がりがないと、なかなか相手してくれません。
「あのですね、大きくて重いものを動かす時に、下に丸い棒を敷いたりしますよね?」
「おぅコロの事だろ?あるぞ。嬢ちゃん達は、どこから来た。この辺じゃ見ねえな」
「あっちの方ですけどね、じゃあ下敷きの上に硬い鉄のコロを沢山並べて、それを輪にしたものは作れますかね」
「輪?どういう事だ」
「荷車の車軸と、車輪の抜け止めを、絵にするとわかり易いと思いますけど」
「なるほど、こんな感じでいいのか」
渡された絵はしっかりコロしていました。だいたいの想像は出来ているようです。
「そうです、こんな感じです。流石本職です」
と言う事で、ローラーボードとか、馬車とかに要るんですよ。其れ以外にも沢山。本当は球軸受が良いのですけどね、まずは鉄のコロ。
「なるほどな、こりゃおもしれえな。内側と外側が棒で分かれて回るのか。確かにな、重量物を運ぶにはコロが要るもんな、それを回るように取り付ける訳か。ちと作ってみていいか?金は…後にするか」
「あ、はい。じゃあお願いしますね。この荷車の車軸受けにしたいんですけど」
「はいよ、測っておくな」
「ついでと言ってはなんですけど、車輪を作っているお勧めの所ないですか」
「知っているぞ、紹介状書いてやるよ」
「ありがとうございます」
これで、荷車問題の一つが解決しそうですね。
「エッちゃん、次どこへ行く」
「お茶の時間ですよー」
「お菓子のお店か」
「そう。ワタシね、あのプニプニしたのが食べたいの」
「あれか!あれ美味しいよね。それじゃ行こう」
お菓子屋さんへプリン(マヨネ酢と一緒に入って来た)を食べに行く事に。その後はどうしましょうかね、適当に廻ってみますか。
そのプリンなんですが、器に入ったまま、上にカラメルがかかっているんだけど、こういうものでしたかね。ひっくり返すと上にカラメルが来るのしかみた事が有りません。ほら、爪をプチッと折ると出てくるの。そこっ!可哀想な目で見ないように。
次に来たのは、風呂釜の鍛冶屋さん。風呂釜の時は5[㍉]くらいの鋳鉄板だったのだけど、今ではどんと来いだそうです。熱交換用のフィンも徐々に細かくできるようになっていて、大店向けにちらほら売れてもいるそうです。頼もしい。
今度は、露店通りに来てみました。午前組がそろそろ店じまいで、売れ残りを投げ売りする時刻ですね。大きな大根?カブ?みたいなのがあったので、聞いてみました。
「あんた等、こりゃ家畜の餌だよ。きょうは売れ残りが多かったからね、家のにやらないと、葉がしおれちまったね」
「調理した事はありますか」
「あるよ。ただね煮汁が黒くなっちまってね、食べられたもんじゃ無いのさ。だから家畜用にしかならないんだよね」
「家にもいますよ、お馬さん。おいくらですか、全部で」
「全部?そりゃありがたいけど、良いのかい。穴銀3枚でどうだい」
「大丈夫です。家の子達沢山食べるから。この荷車に積んで下さい」
「はいよ、毎度あり。場所かい?領都の西で『バボウの農場』って言えば判るよ」
「わかりました」
いや、なんとなくですね、見た目がカブっぽいんですよ、それでですね、家畜用でしょ?もしかするじゃありませんか、ダメ元ってやつですね。もちろんこっそり鞄の中です。
連泊して、早朝に街を出ます。普通に良い宿でしたよ、事件も事案も発生しません。いえね、話に聞けばそういう宿もあるそうなんですが、ガンさん達お勧めですからね、安心安全のお宿なのです。
「「お世話様でした」」




