(06-17)魔導国探訪(観光)
(06-17)魔導国探訪(観光)
取引所は、今日から実際の交易が始まります。巨額で大量のお買い物大会なので、私等は入れません。という事で、港町の東端にあるという、内海と外海を隔てる浅海という所を見に行く事にした、辺境村村娘です。おはようございます。
1. 浅瀬
外と内を隔てる浅瀬は、港町から少し東寄り、帝国側になります。日帰り観光地化してもいるらしくて、乗合馬車が出ています。今日はロウタ達もいっしょでして、ロウタ達は、馬車の後ろを付いてきています。エッちゃんと私が、交代でロウタに乗り、従属を明示する事にしました。うっかり忘れて『狼だー』って言われて、慌てて乗るようにしたんですが。
早朝に出ますと、浅瀬には休憩を挟んで丁度昼頃に到着します。だいたい20[㎞]弱くらいですね。海岸から少し入った所には国境標識がありますので、結構帝国に近いです。流石に壁は有りません。帝国側には街はありませんので、あちらからの観光客は居ません。途中はロウタ達がいますし、森もないので野獣やら魔獣は出ませんし、海沿いを走るから草原もないので、毎度おなじみの一角魔兎も出ません。と言う事で浅瀬に到着。
浅瀬の部分だけは海面の直ぐ下が底なんで、海の色が違うんですよ。浅瀬とは言え、もう少し深いものだと思っていたのだけど、ちょっと以外でした。満潮時ですら大人なら立てる程度の深さらしいです。浜から海に向かって右が、外海。左が内海なんですけれど、だいたい50[㍍]位で、味が海から汽水に変わっていくのが解ります。浅瀬の幅は、100[㍍]位ですけど、よく崩れないなあと関心しますよね、海の100[㍍]なんて、ないも同然ですものね。
「これ遠浅かな?潮の引きが早い気がする」
「おう、嬢ちゃんよく気がついたな。外海側はなこの通り沖合まで浅くてな、潮の干満差が激しい分、渡りが見えやすいんだ」
「渡りって、えっ!浅瀬を通れるの」
「いや、実際に渡る訳じゃねえよ、渡れそうに見えるってだけだ。昔な、渡ろうとして調査団を出したらしいんだが、一度も帰って来なかったってよ。だから、死の道って呼ばれとるよ」
「それは、怖いですわね。途中で満潮になったとか、行った先が死の森だったとかかしらね」
「そうだね、向こうが見えないからね、ずいぶんと距離がありそうだし」
「海の廃村にあった丘から見ても何も見えなかったものねえ」
「だよね。ここから港町位までは離れていそうだね」
内海の対岸は、浅瀬海域まで来ても見えませんでした。浜からでも大体4[㎞]先位までは見えるはずなんですけどね、よっぽど遠いとか、高い山がないとかそういう事だと思います。前に海辺の廃村にあったちょっとした丘から眺めても見えませんでしたから、やはり20[㎞]以上はありそうですね。あれ?2頭は何処へ行ったのかと思ったら、既に途中まで渡っていました。
「エステリーナは何をしているんだろ、鼻先を海水につけて…泡?何か出してるね。なんだろ」
「あれ、あの体勢ってば咆哮と同じだね。まさか砂に向かって吠えていないよね」
「たぶんそれですわよ。プチプチと何か砂から出てきましたわ」
「尻尾を振って呼んでいるって事は、たぶんあれ貝だね。集めろってか」
「食べたいのかな…仕方がない集めてくるか。ミーちゃん行こ」
「はぁーい。そうだ馭者さんは、食べたかったら竈を作ってね」
「わっはっは。お主等は従魔に使われとるのか。よし任せとけ」
お昼は、乗り合いの客全員で貝と魚のバーベキューもどきでした。いや、調味料が無いですもん。海水の塩味だけですやん。その貝がまたでかいんだ。
「おじさん、これなんて名前かな」
「海の生物なんぞ、殆ど名前はないぞ」
「そうなの、なら組合に報告しておくかー『魔手貝』っと」
「ミーちゃん、適当。絵は上手だね」
「ありがとう。魔力があるから一応海魔で、大きさは20[㌢]位で人の掌と形が似ているから命名してみました。食用可で攻撃性は不明っと。こんなものは早い者勝ちですぅ。あれ?なにこれ。石?魔力を貯めているね、魔石って事?生きているのに?うそん」
「本当だ、石持ちだけど生きているね。どういう貝だろ」
「あら、真珠ではございませんの?これは…違いますわね、真珠のようですけれど、真珠ではないですわね、これ。何かしら」
「真珠?似てはいるけど、これ魔石だね。生きているのに魔石を作れる貝って事かな?登録やめえ。そんな事したら、乱獲で絶滅するわ」
一応魔獣関係は、新種の場合は報告せねばならないのです。誰も守っていないらしいですけど。理由は、字を書けない輩が多すぎるから・・・悲しい。ただ、今回の貝は乱獲されるおそれがあるので、これの登録はやめる事にしました。生きたまま魔石を作れる(推定)生き物なんぞ、発表したらどうなるかわかったもんじゃ無いですからね。
「汽水でしたかしら、海と繋がっているのに、本当に少ししか塩辛くないのですねえ、これも不思議ですわね。外へ出ないと分からないものですわね、来て良かったですわ」
「それはなにより」
帰りも何があるでもなく、平和な一日でしたよ。
2. 石焼き茶麦
「ミーちゃん、お店で売られている物は帝国とかとあまり変わりがないね」
「そりゃ、そうだよー。んーなんかいい香りがして来ない」
「あら、何でしょう。良い香りですわね」
「あー、あそこだ。何か焼いているね」
「ちょうど時間となりました。行ってみよ」
「そうですわね」
屋台飯って言うのでしょうかね、広場通りにいろいろと並んでしまして、丁度お腹も空いた所ですし、行ってみる事にしました。
「おじさん、これ何?」
「えっ!石焼き茶麦を知らないのか」
「帝国にはなかったような気がする」
「あー、見本市のお客さんか?今やっているよな」
「そうそう」
「これはな、茶麦を練って、焼いたものにいろいろと乗っけた食い物だな。家のは肉の薄切りと卵を載せて焼いてある」
『家のは』と言う事は、バリエーションがあると言う事ですね、見れば茶麦って蕎麦じゃん。蕎麦のガレットって奴でしたよ。
「じゃ、5枚ね」
「後ろのでかい奴の分か?大丈夫かそいつら」
「大丈夫だよぉ、魔狼だけど。おとなしいから」
「判ったよ、ちと待っててくれ。へいお待ち」
「早っ!」
「まあ、焼いていた所だしな。銅5枚だ」
噴水近くのベンチに腰掛け、頂きます。包んであるのは、紙だね。出回っているのかな、文房具とか紙屋とかあるなら見てみるかな。んで、お姉さんを見ると固まっている。
「お姉さんどうしたの」
「え、どうやって頂けばよいのかしら」
「そう言えば、手づかみの機会ってなかったね。こうするんだよ」
最近、私達に付き合って盗賊やら魔獣と対戦したりしていたので、完璧に忘れていましたが、お嬢様でした。街中の露店にテーブルも、カトラリーなんてものもねえよ。
「食べ方も斬新ですわ、こういうのは初めて頂きます」
「それは良かった。何事も経験」
「そうですわね、いろいろ楽しくて面白いです」
3. お友達
「あら、ルリエラ様ではございません事?」
こういうのは、食べた後のお茶が欲しいよねえとか話していると、馬車が止まり、声がかけられました。見るとバリッバリのご令嬢。雰囲気は、冷嬢ってほどではなさそうです。
「まあ、ナタリア様ではありませんか、お久しぶりですわね」
びっくりした。いきなりお嬢様モードにチェンジするんだもん。すると、辺境伯様付きの「ビシッ」さんに似ている馭者をしていた人がささっと降りてきまして、ドアを開けて降り口を整え、こちらもスチャッと待機。
あ…魔狼がいるのに良く馬が平気だな、貴族の馬ってみんなそうなのかな。詮無いことを考えていると、侍女さんズが馬車の後ろから何か出して来ました。なんと、お出かけ用お茶会セットらしいですよ、ようするに折りたたみのテーブルと椅子ですけど。お貴族様は立ち話をしてはいけないんですかね、すげえですね。二人で掛けるとお話が始まりました。
「ミーちゃん、ワタシ達は?挨拶とか」
「大丈夫、アタシ達みたいなのは目に入らないらしいよ」
「そうなの?器用だね」
「うん、呼ばれるまでは道の植木をしていれば良いのだよ」
「わかった」
そうなんですよ、見た感じだと結構なお家の令嬢っぽい。そもそも魔導国にお姉さんの知り合いがいるとは思わなかったしね、静かにしていましょ。
「まあ、いつこちらにいらしたんですの。ご連絡くださればお招きいたしましたのに」
「今回は、交易見本市へ社会勉強を兼ねて来ておりますのよ、それで商会の者に同行していますので、ご遠慮申しましたの」
「そうですのね、でもお一人かしら。町娘の様な真似をしていらしても流石に危ないですわよ」
すると、お姉さんがこちらを指さして来ました。
「まあ、狼?まさか護衛が狼?大丈夫ですの」
おーい、目に入らぬか!貴族以外はフィルタリングされているってのか?それはそれで、すごい事だぞ。流石お貴族様のご令嬢。私達?ふっさふさの毛皮の中に隠遁中。
「しっかりと躾けられておりますし、強いですわよ。暴漢程度でしたら何人いようと、へ…問題ありませんわ」
プッ!今『屁でもない』って言おうとしたね、絶対。
「お嬢様、ご歓談中申し訳ありません」
「あら、いけない。時間ですわね、それではごきげんよう」
「ええ、楽しかったですわ。ごきげんよう」
終わったらしいです。最近は農家の娘化しているとはいえ、基本はご令嬢。二人もいると華やかだわあ。
「お姉さん、あの人誰だったの」
「えーと、どなただったかしらね。そうそう、この辺りを納める辺境伯様の次女でしたわね、帝国女学院に留学していましたのよ、私の同期ですの」
「なんか、記憶が朧気になっているような」
「あまりお話はしたことがありませんでしたから。留学生と言う事で、かろうじて覚えていて良かったですわ。こういう事は、うっかりでも忘れると家格まで響きますもの」
「お貴族も大変だね」
「そうなんですのよ、面倒なんです。だから私は帝都が嫌いなんですわ。と・こ・ろ・で、あなた達。ロウタ達に包まれて隠れていたでしょう、ひどいですわ」
「令嬢会話に入る勇気はございません」
「いまさら何を言っていますの」
4. 僕に…僕に…僕に塩を
「ここは雑貨店かな、何か面白そうな物があるかな」
「ミーちゃん、どこでも変わらないと思うよ」
ふらりと入ってみますとね、雑貨って言えば雑貨ですけどね、岩塩を扱っていたんですよ。そうなんですよ、この国はなぜわざわざ岩塩を取り寄せているんですかね、目の前に塩なんてただで唸っているのに。
「ちょっと見せてもらっていいですか」
「はーい、どうぞ。お塩ですか、少し前に帝国のが入ってきましたけど」
「そうそう、そのお塩ですけど、この国のはないですか」
「えっ?お塩は山で取れるんですよ、お嬢ちゃんは知らないかな」
「はあ?いや、海に沢山ただでお塩が転がっていますけど」
なんて話をしていたら、奥から店長さんみたいな人が出てきました。
「お前さんは、何を言っているんだ。海は確かに塩辛いが、水から塩は掘れんぞ」
「いやいやいや、掘り出すんじゃなくて、乾燥させれば採れるでしょ」
「海を干上がらせるのか?できるわけがないだろう、じゃまだ帰った帰った」
追い出されました。残念ですね、あの人は国家規模の売上を手放してしまいました。
「ちょっと、いいですかー」
「あ…神様はいますけど、信じていませんので」
「は?いや、そうではなくてですね、私この街で茶麦の生産・販売をしている、ソバーニと申します。今しがた、塩が海から採れるような話をされていましたよね、お話を聞かせてもらえませんか」
「それは、構いませんけど…お茶が飲みたいです」
「あっはっは。良いでしょう、ご招待いたしましょう」
のこのこ付いていくと、結構な商会を構えていました。
「おお、ハンジョさんの所みたい。結構な店構えですね」
「おや、ハンジョ殿をご存知で」
「はい、ハンジョさんの商隊にオマケでくっついて来ました」
「なんと、それでは海魔祭りのお嬢さんと言うのは、あなた方ですか」
「海魔祭り?そんな事になっておりましたのね」
「ええ、有名ですよ。こりゃ光栄だ。話の種が増えました。さて、塩の件ですが」
商売人は、こうでなくてはいけませんやね。一応一通り説明してみたのですが、すぐに理解するなんて言うのは、土台無理な話でした。
「うーん、私にはすぐには信じられません。実際に見られれば良いのですがねえ、申し訳ない」
そう謝ってから、腕組みをして考え込んでいますけど、実演ねえ…できるかな。
「えーと、そこの竹箒と海水位の塩水を用意できますか?実演できるか判りませんけど、試してみましょうか?」
「実際の所を見られますか、すぐに用意させましょう」
「エッちゃんは、太陽の代わりに火の係ね、アタシが海風の係で、お店のお姉さんは箒を構えて下さいね。それで、ソバーニさんは竹箒に少しずつ塩水を掛けていって下さい」
「「判りました」」
ちょろちょろと塩水を竹箒に振りかけていくと、温風で水が飛ばされて、徐々に濃くなって行き、最後に塩が残るという具合です。巧く行ったようで、一安心です。簡単な事ですが、こういうのは想像できないと、なかなか理解してもらえません。
「なんとっ!こういう事でしたか、やっと判りましたよ。これはすごいですよ、楽に塩を得られるどころか、元手がいらないではないですか」
「そうなんですけどね、実際の設備にはお金がかかりますし、塩も山と海では味が違うらしいですよ。本当かどうかは知りませんけど」
「ほう、なるほど。領主様と相談して試してみましょう。事業にできたら国を動かせますね、いやこれは大変な情報を頂いてしまった。対価はどうしましょう」
「え、いりませんけど。そうだ、塩の取引とかあるっぽいので、ハンジョさんに話をしてもいいですか?」
「もちろんです。遠慮するのはいけませんよ、こういう事はしっかりと対価を取らねばなりません。それでどうしましょう」
「それなら、ハンジョさんと、茶麦の取引をしていただけませんか。話はしておきますので。単にアタシが食べたいだけなんですけどね。あと大事な事ですが、茶麦焼きの作り方も教えてください」
「茶麦焼きですか?ハッハッハ。愉快なお嬢さんだ」
その後は、予定通りでハンジョさんに話をしたら、交易はもうすぐ終わりなので、お話をしてくれる事になった。オ・ハ・ナ・シじゃないからね。




