(03-02)母チャンが火を出した
(03ー02) 母チャンが火を出した
辺境開拓村村娘ですこんにちは。あ…辺境を開拓しているムラムラ娘ではないですよ、発情期ではありません。そんな気は、一切ないんだなこれが。齢三歳(ただし数え)と言うのは、離乳期を過ぎたばかりの未だ乳幼児な訳で、じぃーっと見つめて(どこをだよ)も何も感じないし、何も起きない。おかしいっ!中身は♂のはずなんだが。薄い本では『にまっ』とかして遊び始める(デュふふふ)もんだが、現実になって見るとそうではないらしい。まぁ良し、正常って事だ(どこがだ?)。
1. 母チャンが火を出した
えーと、数えの三歳女児です。たぶんもうすぐ満二歳。ようやく二語会話時期に入りました。
「かーちゃ、しっこ」
「かーちゃ、ねる」
等々です。
そんなある日、竈で母ちゃんが昼の準備をしています。えっ!昼あるのか?と思いますでしょ、男どもは畑の季節が終わったので山に行っていて、今いません。もうしばらく帰っては来ないでしょう。食事事情はそのうち触れるかもしれませんが、基本二食です。朝だって男どもが優先して持っていってしまうので、昼をあ奴らがいない間に摂るわけですよ。ろくでもない世界に来てしまったもんです。
お腹はすくし、少しずつ寒くなって来たしで、多少は暖かい(竈の残り熱)食卓にうつ伏せってぐでぇ~んとしていると、母ちゃんがなにか呟いていた。
「我精霊に願う、我が指に示されし枝に小さき火をもたらしたまえ」
すると、なんと母ちゃんの前にある焚付に蝋燭の炎にも似た小さな火が点ったのである。目をまん丸くしたのは言うまでもない。魔法ですよ(たぶん)奥さん。
「母ちゃん何それ、何?」(副音声。当分の間以下同文)
「あっ!……うん、火の魔法だよ。できる人はそれほどいないんだよ。私は火でね、父ちゃんは出せない」
一瞬戸惑っていたようだけど、今気にするのはそこではない。なんと言っても、魔法ですよ魔法。あったんですよ!魔法が。テンション爆上げ。超マックス。
「『精霊』って何」
「『指に示され』って言わないとだめなの」
「『小さき火』を『大きな火』ってできるの」
はい、なんでなんでどうしてどうしてのお子様質問の嵐です。まぁ、うざいわな。
それでも一応親である。ちゃんと答えてくれました。
それによれば、なんでも魔力ってのが必要で、その魔力ってのを体の中に感じないといけないらしい。おまけにその魔力とやらは人によって感じ取れる場所が違うのだそうである。なんて面倒な。万人共通にしておけよ。
さらには、便利なのに普通は子供に教えないそうだ。まぁそれはそうだねぇ、ろくでもないことになるのが目に見えるようだよ。癇癪起こして水浸しになったり、火災を起こされても困るしね。森が焼かれたら目も当てられない。さらには限度がわからないから際限なく使ってしまうだろうし、もし仮に『使いすぎには注意しましょう』どころではなく死に至ったのでは元も子もない。
さてさて、んで?どこにあるのよ魔力なんてさ。どれかの内臓に宿っているのだろうか。体の何処かって事は血管?リンパ管?瞑想風味で感じ取ろうとしてみたのだけれど、俄では上手いこといかなかった。時間をかけてじっくりと練習するしかないようだ。
「兄ちゃんたちには言っちゃだめよ。いいね絶対だよ」
と釘をさされたので、ひっそりとこっそりと練習あるのみである。とりあえず適当に言ってみた。『水…水出ろ…水飲みたい…お水様』出ないよねぇ。『風…風よ吹け吹け嵐よ吼えろ』そりゃぁねぇ吹かないわなぁ、どうやら最初に『魔力』を感じ取れないとやはりだめらしい。詠唱する事は伊達ではないって事かな?わかりませんが。
2. 何もないです
お金と言う物を見たことがありません。鋼鉄製の農機具なんかなさそうに思われます。当然機械的な道具とか、耕耘機なんぞありません。一応柄以外は何かの金属製には見て取れますが、鍬とか鋤とかそういうのだけで、動力装置は見あたらないのですよ。家電の一つどころか、そもそも電気が来ていない場所であります。獣油臭がする蝋燭で灯りを灯し、日が沈めば一日が終わる世界のようですね。所謂、お約束で定番な世界なのだろうか、まだわからんのですけど。
三歳と言うのは解りました。とは言え、わたしには残り時間はあまりないでしょう。どうせ毎月のお勤めが来たとたんに、お赤飯(ないだろうけどなっ!)案件になるのは目に見えています。それまでになんとか村からの離脱と自立を図らねばなリません。そうでなければ、農家な暮らしが待っているだけでしょう。農家が悪いわけではもちろんないのですが、農家の娘は農家の嫁にってのはなぁ〜、せ〜っかく記憶付きで異世界住まいになった訳ですしね。ついでに権力者(いるよね、たぶん。近場では村長、豪族か領主か貴族かは知らんけど)の目からも逃れられれば都合が良いですよね。
ひっそりと暮らすならどうでも良いのですが、自分のことはぼんやりとしか覚えていないとは言え、中身が中身だからなぁ〜、ちょっとまずいかもしれない、いや確実にまずい。まぁ、感情的にですけど。やっぱり何とか旅立とう。それまでは『チートじゃぁ(いや、そんなもんないけど)』とかはっちゃけると、たぶん気持ち悪がられて捨てられたり、売られたりするような気がするので細心の注意と共に。
チートで思い出したんですけど、別に神様にお会いした訳でもないし、神様にぶつかったわけでもないので、当然そんな特殊能力はないと思われます。前世でも特に何か突出した非凡な能力があったりでもないわけで、並み居るただの一般人であったはずです。ほんでもって現村娘。結論として、私は完璧な超一般人ということですね。さて、どうやって離村しようかねぇ〜。
こっちでの会話は三歳児なわけだし、自分ではしっかり喋っているつもりでも『かぁちゃぁ〜』です。いまだ呂律もつたない。数字さえ解れば計算はなんとかなっても、文字と言葉はどうにもならない訳で、何かないかと家探しするも何もない。異世界の片田舎にある農家じゃなぁ〜、そんなもんか。いや、それにしてもなさ過ぎるだろう。新聞とか、広告とか回覧とかないの?おしりはどうするの?新聞紙ないの?本気で何もないのかね。泣くぞこら。
父親に聞いてはみたが
「文字だぁ?家にそんなもんいらんわ」
の一言でお終い。それでは、覚えにない出来事が起きた場合はどうするのだと問えば、
「長老に聞けば良かろうが、爺さま達でもいいしな」
ならばと次を問おうとすると
「うるさい、飯食え飯。面倒くせぇ奴だ」
で終わり。とりつく島もないのである。要はおそらく両親共にほぼ文盲で、それでどうにかなっているので覚える必要もないのだろう。さてどうしよう。
寺子屋みたいなのはどうかと思い、村長の家(子供には遠いのだが)までえっちらおっちらなんとか歩いてご訪問しては見たが、子供を集めての学習会すらない事が判明。村長の倅は遠くの街にある学院とやらに行っているそうだ。村長は字が読めるのかと聞くと『当然じゃ、村の纏めと領主様への報告がいるでな』という事で、読み書きはできるらしい。字を覚えたいのでなんとかならないかと頼み込んだら『それなら教会(礼拝堂)の神父さんに聞いてみろ』と盥を回された。礼拝堂は村長の家のさらに先、家とは反対側の村はずれ。ちと遠すぎる気がして、これから寒くなるし、雪が降ったらだめだな、そうなったら結局次の春までお預けか、まぁ仕方がないかということで帰宅。うっかりしていたが、家を出る事を伝え忘れた結果大目玉。結構大冒険的であるらしかった。えぇ、ご飯がありませんでしたよ。ひでぇ、DVかっ!
3. 何かいる
そういえば、村長の家から帰ってくる夕餉前の薄明かりの中で見た物がある。なんと、それは人魂だった。ふわりふわりと宙を舞うように漂っていたそれは、見た目の大きさはピンポン球くらいの綿飴に似た感じで、色が付いていたのである。白いの茶色いのから、赤だったり緑やらは、食用着色剤でうっすらと色を付けたような色だった。あれだあれ、なんだっけ?パステルカラー?ペールトーンとか言う奴ね。
なかなかカラフルではあったのだが、なにせ推定人魂である。気がつけば足が震えていて、その場にへたってしまっていたのであった。いや、いくら土葬でもそれほどはっきりと人魂なんぞできんだろうとは思ったのだけれども、あぁそう言えばここはファンタジーな世界(なにせ魔法が存在する)っぽいから、ありえるのかもしれないと思い直し、空に上がらず地にたゆたう人魂ってのは、自縛じゃない、地縛な霊魂なのかなとか下らん事を考えつつ、こっち来るなこっち来るなと祈りながら、やっとの事で家についたのだった。しかもご飯なしだったんだから、踏んだり蹴ったりで散々だった。
その後、家の者に尋ねた所
「あぁ?んなもんいる訳ねーだろ!気のせいだ気のせい」
と一喝。どうやら彼らには見えていないらしかった。近所の子供達やら大人達やらに聞いても誰一人として見える輩がいない事が判明。こりゃやべぇですね、私一人だけです。変な子扱いで、化け物認定されるかもしれないです。沈黙は金なりで行くことを誓ったのでありました。
4. 魔力
魔法を行使するには、まずは体内で魔力という物を感じとれないといけないわけですよ。しかもそれは人によって感じ取れる場所がまちまち、強さもバラバラらしいです。と言う事なので、他人がどうであろうと、私には関係ないわけですよね。人に聞いても私の分については解らないわけでしょ、一箇所に統一しろや、面倒くせぇー。誰だよそんな仕様を決めたのは。神様なんですかね、居るんでしょうか。見たことはありませんけど。とは言うものの、なにしろ『魔法』ですからね、放って置く手なんかこれっぽっちもありません。
さて、魔力を感じ取るとは言ってもですね、どう感じられるのかが分からないといけない訳ですよ。暖かいならまだ良いですけど、痛いだの冷たいだのは簡便していただきたいものです。最も体内に『暖かい場所』とか『痛い場所』とかあったりしたら、それはそれでなんか嫌ですけどね。最初だけとか、行使する時だけって言うなら、まぁなんとか。年がら年中感じられますじゃ、病気と区別がつかないですものね。母親の様子を見ていると、別段気にしている風には見えませんから、普段の生活に差し障りがあると言う事ではないようです。魔法を使う時だって、視線を向けたり、手を充てがったりする事もなく、普段通りに詠唱しています。特別になにかあるならば、毎度の事とは言えど、表情が変わったり、無意識にでも手を充てがったりするはずです。とりあえずは、そういう感覚に影響があるものでは無いらしいです。
母ちゃんに教わってから、毎日々『魔力』『魔力』と念じながら、他と違うそれっぽい場所を探していますけど、未だに見つかりません。さてさて、私の魔力は何処にあるんでしょうかって思って気が付きました。
『ひょっとして、魔力なしって奴?』
良くありますよね、魔力がないので追い出されたとか言うお話。小説なんかだと割と定番でしょ、それだったらどうしよ。せっかくの魔法ありの世界なのになぁ。何処に御座しまするや、私の魔力さん。遠慮しなくていいですよ、とっとと出てこんかっ!