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(05-05)麦の収穫

(05-05)麦の収穫


 こんにちは、私はエステルです。いなくなっちゃったミールちゃんに代わってお送りします。ミールちゃんがいなくなった理由をだれも知らないのか、教えてくれません。どうしたって言うのでしょう。朝になって礼拝堂に来てみたら、何処にも居ませんでした。神父様達も教えてくれません。ミールちゃんに教えてもらえるはずだった魔法ですが、本人が居ません。自分では思いつかないし、あいかわらず魔力をグルグルして遊んでいます。


1. 麦の収穫と徴税官


 今年も、麦の収穫が始まりました。ミーちゃんが言っていましたけど、その通りになったみたいです。そうです、収穫量が今までで一番少なかったのです。これは、困りましたね、生活していけるのでしょうか。心配になります。お父さん、お母さん、お兄ちゃんまで、みんな暗い顔をしています。


 村の皆も明るい顔をしていません。なんでも、先日の夜中に森の奥から大蛇が出たとかで、大騒ぎしていたらしいのですが、運良く?去って行ったらしく村には被害がでませんでした。そんな、百年振りの魔獣出現でも被害を受けなかったんだから、明るい顔をしていても良さそうなものなのに、やっぱり、収穫量が少ないせいなのでしょうか、どことなく暗い表情の人が多いです。


 そうこうしているうちに、刈り入れと日干しも終わった頃に徴税官さんが来ました。

収穫した麦は、村長さんの所に集められ、近隣の収穫量と村の人数で、納付量と言うのが決まるそうです。その徴税官さんが、難しい顔をしています。 


「村長、この量では今年の納付には届かぬぞ。後2期あるので、罰は下されぬが、これ以上増えぬのでは無いか?どうするおつもりか」

「は、はぁ~、なんとかならんものかと思うとりますが、いかんせん自然が相手で御座いますので、いかんともし難く、そのぉ~」

「考慮期間が延びる事はありえん。免除がなくなれば、他村と同量の納付が必要となる。最も、近隣の村々でも収穫量が落ちているので、総量は減るかもしれんがな」


 私は、ミーちゃん家に、あの子がいなくなった理由を聞きに来ていて、丁度その時に村長さんと徴税官様達がやってきました。


「村長。あの畑は何であろうか」

「何とは?」

「いや、あの畑の一部、一列だけ麦の刈跡が違うのだが、その隣も少し量が多いな」

「いや、私には判りかねますが、おいランドウ。あの列はどういう事だ」

「ウン?あれは、あいつが藁を燃やした所だな。馬鹿娘が畑を燃やすなんぞ、ふざけた事しやがって」

「娘?そなたの娘があそこで藁を燃やしたと言う事か?」


 刈跡を見て何か気づいたらしい徴税官様が、ミールちゃんのお父さんに、その理由を聞いているみたいです。


「はぁ、そうだけんど、それが何か」

「いやいや、刈り跡の様子を見てわからんか、あの辺りだけ周りとは量が違うであろう」

「は?そんなもんですかね」

「娘と言ったな。お前の娘なんだな」

「そうですよ、そうなんですよ。あいつが畑を燃やしちまいやがって」

「何を憤っているか知らぬが、ではその娘を連れてきてくれ。話を聞きたい」


 連れてこいと言われた娘、ミーちゃんはいなくなっちゃったよね、どうするんだろ。


「いや、今ここにはいないんで、連れてこいと言われても、その、村長」

「こんな者では話にならんか、村長誰か判りそうな者はおらぬのか」

「そうは申されても、こいつの娘は出奔しちまいましたんで、他にこの村には識者などという者は、あぁそうだ神父様ならどうで御座いましょうか」

「神父殿?神父が農作をしていると言う事なのか」


 出奔?出ていったって事ですか?おかしいです。ミールちゃんは、お家の人どころか、村の人達をアホだ、バカだとは言っていましたが、勝手に村を出ていくはずが有りません。私に魔法を教えてくれるって言ったんだもの。


「ミーちゃんのお母さん。ミーちゃん何処へ言ったの、村を出ていくはずがない」

「えっ、それは、え~と、あんた何とか言ってよ。旦那でしょ」

「俺だって、言うなって言われてるし」

「うん?村長なにか事情がお有りのようですな、神父殿がご存じなのであれば、その方を交えてお話を伺いましょう。如何によっては、罰則もありますぞ、覚悟なさい」

「(チッ!バカが)承知しました。では礼拝堂へご案内します」


 それから村長さん達は、ミーちゃんのお父さんを置いて、礼拝堂へ行ってしまいました。村長さんが、ミーちゃんのお父さんを睨んでいたような気がしましたけど。


 私は、ミーちゃんの事を聞きたくて、ミーちゃん家に入ろうとしたんですが、追い返されました。しかたがないので、お家へ帰ります。お父さん達が何か知っているかも知れません。今のことを話して、もう一度聞いてみる事にします。


2. 徴税官と私(ジーザス記)


「神父殿、お初にお目にかかる。この辺りの徴税を任されている、ネングと申す。ある農家の収穫跡が少しおかしかったのだが、村長が言うには、神父殿がご存知じらしいとのことで、参った次第」

「これはご丁寧に、神父を賜っております。ジーザスと申します。おかしいと言いますと、ランドウさん所の畑のことでしょうか」

「うむ、場所まで判るとは、話が早い。何かご存知なのですな。村長殿も何も分からずに言葉を濁し、当事者の娘さんもおらぬようでな」


 しまったとは思ったが、もう遅い。顔には出さずにすんだようだから、良しとしよう。まぁ畑の事は、ご存知もなにも知るわけがないな、あの農法は画期的すぎて誰にも解らないだろう。


「そうですね、どこから何をお話ししましょうか、少し考えさせて下さい」

「ぬっ!それほどの事なのかね、何かありそうですな」

「あぁ、まぁそうですね、かなり重要と言えば重要な事なんですが、う~ん」


 頭を伏せながら、腕を組んで考え込んでしまった。予め予想はしていた事なのだが、いざとなると言葉が出て来ないものだ。さて、どうするべきか。


「判りました。少しお時間をいただけますか、ある書物をお読み頂きたい」

「書物?読めば何か判るというのですな。ならば、拝見しましょう」


 それから、ミール君が書き記した、板書を持ってきて、徴税官に見るように渡した。

その量には彼も驚いていたようだが、嫌な顔もせず、読み込んでいった。


 読んでいる間、彼の表情は、まるで百面相のようであった。目をむくように驚いたかと思うと、渋い顔をしてみたり(あぁ国立試験場案あたりかな)、泣きそうな顔をしてみたり(どこだ、そんな所があったかな)等々。私も同じだったから、笑いをこらえるだけで必死になってしまった。


「うん?何か」

「いや、お読みになっている様が、私も同様でしたので、少しおかしかったのですよ、失礼」

「そうか、いやいやなるほど。解りますぞ。今しばらくお待ち頂きたい」

「急ぐわけではございませんので、ご納得なさるまでお読みになれば宜しいかと」

「そうだな、それでは失礼して、もう少し」


 そうして、読みふけっていた徴税官殿が漸く頭を上げた。


「率直に伺います。この論文を神父殿は発表なさらぬのか、村に広める気はござらんか、皆に教えれば、来期以降の収穫は保証されたも同然ではないですか」

「やはり分かりますよね。それは判っておりますが。判ってはいるのですが、私には出来かねるのです。そもそもそれは、私が書いたものではないのです」

「貴殿が書いたものではないと仰るか、とは言えなぜですか、これは凄い事ではありませんか。何故隠そうとするのです」


 それはそれは、もの凄い形相で、言い迫ってきた。私の胸ぐらをつかみ、体を前後に揺すり、殴りかからんとする勢いで。


「いや、徴税官殿。お待ち下さい。私は『精霊真教』の神職なので御座いますよ」

「うん?アッ!そういう事か。失礼した、つい興奮してしまった」


 うん、この徴税官殿は話が早い。解ってくれたようで何より。そうなのだ、彼女の書いてくれた農法は『精霊真教』の教義には相容れない方法なのである。


「そういう事ですので、徴税官殿には、少しご相談があるのですが、宜しいか」

「なんなりと、私に出来ることであれば、協力いたしますぞ、この方法を葬ると言う事はあってはならぬ事だと愚考します」


 それではと、話は長くなるのだがと断って、ミール君との事を掻い摘んで話をしてから、再度論文について、相談してみた。


「あい分かった。その娘にはお悔やみもしてやれぬが、そういう事であれば、上に訴状を出してみる事にしよう。礼やら報奨やらは出ぬかも知れぬが、私が見る限り、確かに国家的重要度は高いと思われる。なんとか動いてくれるのではなかろうか」

「そうですね、できれば教会に知られる事がないようにお願いします」

「うむ、承知した。吉報をお待ち頂きたい。しかし、宜しいのか?村長の手柄になってしまいますぞ、貴殿ではなくなる。勿体ないではないのか?」

「いや、いや、死ぬよりはましでしょ」

「なるほど、それはそうだ。全ては世知辛い世の中と言う事なのだな、私が言ってはいけないが」


 そうして、礼拝堂の裏手にあるミール君が作った畑を見学し、そこに実った麦の量を見て、またまた驚いた徴税官殿は、大事そうに板書を持って帰っていった。平和裏に片付いてくれると良いのだが。いらぬ騒動なんかごめんですよ、徴税官殿。


3. ミーちゃんの行方


 さっき村長さんと、徴税の人が話していた事、ミーちゃんのお父さんの様子とか、家に帰ってからお父さんに話して見ました。難しそうな、悲しそうな顔をしています。最近特に多くなった気がします。前はこんな表情をしたことは有りませんでした。いつも私を抱き上げて、頬摺りをしてきて、当たったところがチクチクして「チクチク痛いよ」って言うと「そうかぁ、ごめんよぉ」と言いながらも、ニコニコと頬摺りをするんです。そんなお父さんが、少しの間目を瞑っていたかと思ったら、なんか覚悟を決めた様子になりました。


「いいか、エステル。今から言う事は誰にも言うなよ、分かったな」

「うん、分かった。誰にも言わない」


 なんか、ミーちゃん絡みだと、秘密がどんどん増えていく気がします。それで、お父さんから聞いた話では、ミーちゃんはこの村を救うために神様になったそうです。


「神様?女神様って事?うっそだぁ~。ミーちゃんが神様になるわけないじゃない」

「いや、本当だ。これは皆で話し合って決めたことだ。そうしないとこの村の住民が全部大蛇に食べられてしまう所だったんだ」

「何其れ。ミーちゃん死んじゃったって事、嘘でしょ、嘘だよね」

「嘘じゃない、嘘じゃないぞ。あの娘は村のために力になってくれたんだ」

「ミーちゃんが、そんな事をする分けないじゃない。あの子なら別の方法を考えるわよ。夜中だって言ったから、大方どうせ、寝ている間に連れ出したんでしょ」


 ひどい話だと思いました。村人全員で決めたそうです。誰もかれも、我が身可愛さから身勝手に、ミーちゃんを蛇に食べさせたなんて、ひどいです。人ですか、人とは思えません。


「うるさい、ならどうしろってんだ。どうにもならないだろう」


 気がつけば、私は泣いていました。悔しくて、悲しくて、でも何も力になりそうもなくて、私はミーちゃんに助けて貰ってばかりいて、何もしてあげられないでいるうちに、突然お別れなんて言われても、どうしていいかわからず、ずっと泣いていました。


 人生は、辛き事のみ、増えていく(エステル)


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