(05-04)森から来た一大事
(05-04)森から来た一大事
辺境開拓村村娘ですこんにちは。ほーらね、思った通りでしょ、麦の実りが悪い。
先日の砂金騒動で、少ない子供が余計減りました。まずいことに砂金探しに熱中していたために、余計に育ちが悪くなっています。水くらいやれよ。未だにこっちのせいにしたがっていますけど、どうにかなるわけないじゃないですか、村長も人のせいにしたがっているし、理解できたんじゃないのかね。
1. エッちゃんの魔力
エッちゃんの魔力量がずんどこ増量していました。教えてからずっとグルグルをしていたようで、気がつけばかなりの量が体内に集まっていました。多くないですかね。
「エッちゃん、体内の魔力が多いよ。何かしていた?」
「ん~、何もしてないよ。手から手じゃなくて、足に回したらね、地面を通って還ってくるようになって、面白くなって体中を回してた」
「其れだ」
「どれだ」
「地面を通して回している事。だからだ、地面の魔力を使えるようになったのかも知れない。誰にも言っちゃだめだからね、内緒にしておかないと」
「うぇっ、そうなの?わかった。秘密が増えていってないかな、気の所為かな」
「魔法ってさ、誰もが使えるようになるはずなんだけど、誰もが使えるわけじゃないでしょ、それは何故でしょう」
「そう言えば、そうだねぇ。誰かが教えないようにしているか、止めているって事」
「そうなんじゃないかな、多分。自分たちの都合の良いようにしたい人達がいるって事だね」
「ミーちゃんは、秘密が多そうだねぇ。何かそんな気がするよぉ」
「そろそろ、次に移った方が良いかな」
「あ、誤魔化そうとしているぅ、って事は、あるのね秘密。そうね、次は何」
「精霊魔法ってさ、精霊さんにお願いして魔法にしてもらうんだけどね、精霊が居なくても自力で使える魔法がるの、覚えてみる?」
「やるっ!」
2. 森から一大事がやって来た
「1.森の化け物を退治する」
「2.森の化け物から逃げる」
☆「3.森の化け物に贄を出す」
何十年かに一度、森の奥深くから魔獣がやってくるそうなのだ、その魔獣とは大蛇。その体躯は、測れない程に長く、体高は立っている大人を軽く飲み込めるほどだという。一説によれば、産卵の養分を取るために、手当たり次第に森の獣から、魔獣から区別なく飲み込むように摂取するのではないかと言われている。それが、此処暫く姿を現さず、死に絶えたと思われていた。
ところが来たのだ。百年振りに、大蛇が深い森から出てきてしまった。狩りに出ていた、村の衆が遠目ではあるが目撃したそうだ。それが、こちらに向かってきている。既に川向うまで到達してしまっているらしい。今から応援を依頼しても間に合うはずもなく、夜遅くに慌てて帰ってきた村の狩人と、村長を中心に緊急会議が行われた。
というのは、事情を知ったエッちゃんに後から聞いたのだけどね。その頃私は、寝ているに決まっています。会議の結果たどりついたのは、先程の3番。生贄を出して、進路を変えるであった。
なんとも、身勝手な結論だけれども、それじゃぁ誰にすると言う事になって、一斉に見られたのが、ランドウ家。あの、家の子を殺した(と勝手に思いこんでいる)娘、同じ目に合わせてやりたい(と身勝手に思いこんでいる)とばかりに名指しされたのが、ハイそうです、絶賛就寝中の私でした。
ランドウは、自分の畑を燃やされて、砂金採集を邪魔されて、怒り心頭に達していたため、反対するでもなくそれで進路が変わるなら「やったるわい」とばかりに寝ている私を担ぎ、皆で川へ行って様子見。頃合いを見計らって、私を大蛇様の前にポーイ。川向うの大蛇の前へ投げつけた。
「生贄にしては小さくねぇか」と思われていたのが、豈図らんや、一口で飲み込んだ大蛇はそのまま反転し、森の奥に戻っていったのでした。メデタシメデタシ。
めでたくねぇー!なにやっとんじゃ、お前らぁー!(ミールより)
3. 森の大蛇
寝ている所をジュンちゃんに起こされた。ジュンちゃんによれば、どうやら今は大蛇の口の中らしい、そう言われてみれば、めっさ臭い。歯を磨けよ、口内洗浄しろよと文句を言いたい位である。其れ以外は、本人たる私には何の影響もなかったりするけど。
それで、そのジュンちゃんであるが、危機感がまるで無い。そういう私も全く無い。
なぜかと言えば、寝ている間は制御が効かず、魔力が漏れ出ているようなのだ。すると精霊が勝手にその魔力を使って保護膜を張ってくれているのである。お友達特権なのか、便利と言えば便利であるが、まぁ安全第一の保護膜ではある。
そういう事なので、ジュンちゃんも私も『暗いねぇ』で終わり。まあ、暗ければ明かりをつければ良いじゃんねってことで、光ちゃんを呼んで聞いてみると、基本的能力として持っているらしく『光球』というそうだ。では早速『光球』。点いた。すぐ消した。こいつの口腔内ってすんげぇ気持ち悪いんですよ、見ているだけで吐きそう。
自分のいる場所は概ね想像できたので、胴体の方向に向かって、超高圧高速水流『水刃』所謂ウォーターカッター発動。アッちゃん宜しく、ジュンちゃんがんばれで、スッパリ。お喉さわやか、大ホール。途端に蛇さんは、暴れだした。そりゃぁ、喉に大穴が開けば、いくらなんでも痛かろうと思われる。とは言え、こちらも黙って大人しく食べられる訳にもいかないので、脱出。
「うひゃぁーでっかぁい。尻尾が見えない」
外へ出て第一声がそれだった。危機的状況もへったくれもない。
〔そこの人、呑気に見学しない〕
〔さっさと退避いたしますわよ〕
〔皆んなありがとうね〕
〔なんの、なんの、泥舟に乗った気でいたまえ。はっはっは〕
〔あー、はいはい〕
〔本当に仲がおよろしいですわね〕
大蛇は、どったんばったん暴れまわっているので、水刃が使えない。一定の距離を保てないので、効かないのだ。魔力による圧力が低下して、ただの放水銃になってしまう。竹のようにしなる木がないだろうかと辺りを見回すと、ありました。竹そのものが。なぜですかね、植生はどうなっているんですかね、女神様ったらおちゃめ。水刃で竹を切り倒して枝をはらい、魔力を流す。先の細い方を持って振ってみれば、おぉ!よくしなること。いつもの魔力刀の完成である。外見は逆さになった釣り竿だけどね。気合一閃、上段から頭を斬首、圧倒的ではないか我軍は。それでもまだ動いていましてね、さすが大蛇。これだから爬虫類はいやだよ、とっとと死んでおしまいとばかりに、少し収まった所で、お腹をザックーッと、一直線。
「さようなら。うーん、なんだこれ。卵?切っとこ」
シュパッ、スパッと卵を切潰して回る。水刃が大活躍。結構あるのね、蛇の卵。漸く安心できる状況になって、とりあえず一息ついたので、なにが起きていたのか精霊が分かる範囲で教えてもらった。
それで一言『何それ、ひどくね』
そんなこんなで、朝になった。朝になったけど、未だ薄暗いことから察するに、余程の森の深部らしい。枝と枝が複雑に絡み合うように生い茂っているので、陽光が見えない。よくこれで木が育つものだと感心してしまうくらいなのだ。私はと言えば、2度寝したい。でも、先にこの大蛇を始末しないと、寝ることも出来ない。さらに困った事に何処だ此処、場所がわからない。
仕方がない、お片付けから始めるか。エル君で穴は掘れるかなと試して、出来た。想像したのは、露天掘り鉱山。すり鉢のようなあの感じ。土がモゴモゴっと動いたら、あっという間にすり鉢に。血液は液体なんだから、アッちゃん担当で、ジュルジュル吸い出し、そのまま穴の中へ。卵と腸の残骸も穴に落として、蓋をしておしまい。内臓なのかな、私の頭くらいあるへんな石を見つけたので、とりあえず取って置くことにした。これがまた、結構硬い。石のように硬い。尿路結石とか、胆石とかだったら嫌ですけどね、クジラの胆石みたいな事になるかもしれないし、ひとまず持っておいても宜しかろうと。切り分けた肉は?どうしよ、こんなの。いいかぁ、とりあえず一眠りしてから考えよ。
「おやすみなさい」
4. 大森林サバイバー
とりあえず、片付けても蛇肉がじゃまだったので、少し切り分けて焼いて見ました。そうそう、起きたら取り分けてあった蛇肉がほぼ半数になっていたんですよ、誰だよ食べたの。良くやった。焼いた?うん、火の子が来てくれました。流石にね、生では食べたくないです。
「えーと、【マッチ】はないね、【着火人】なんぞある訳がないな」
〔『火』というのはありますぜ、旦那〕
〔『火』?それもそうだね、ここ日本じゃないわ〕
〔あいかわらず、お忘れさんでいらっしゃるのね〕
〔あははは、何しろ魔法なんてない所で生活していたからねぇ〕
それならばと、石と薪を集めて竈を作る。網は?ないから串刺しで焼くしか無いか。
「よし、焚付に着火(ARモドキの空目です)」
〔呼んだか〕
〔おぅ新顔さんだね、おはよう〕
〔おう、こんにちはだぜ。火か?火だな!任しとけ〕
〔うんお願いね〕
とても元気な新しい子がやってきた。火の子は、姿かたちがそのまんまで、正しく人魂。真紅の玉の周りで、ゆらゆらとオレンジ色の炎が揺らめいている。手を近づけても熱くはないので、魔素みたいな映像状の効果みたいなものなんだろう。白ちゃん達みたいな、毛玉ではなかった。
〔待たせたな、点けておいたぜ。火加減するなら任されるぜ〕
〔ありがとう〕
早速、串に刺した一口大の蛇肉を火の周りに立てていく。途中でひっくり返して、30分くらいかな。すぐに脂が焼ける良い香りが立ち上って来たから、わくわくしながら期待して待っていたのにねぇ。味が、堅さが、くっそぉー。
〔おっとそうだぜ、オレに名前を付けると良いんだぜ〕
〔そうなんだけど、雰囲気的には、女の子なんだけど、漢の娘?〕
〔性別?そんなものはないぜ、人からの見た目は、名前を付けないとわからないぜ〕
〔ジュンちゃん、そうなの〕
〔あれっ?そう言えば、言ってなかったっけ〕
〔そうなのですね、ご存知なかったのかしら〕
〔ご存知有りませんでした。お話の仕方から適当に付けました〕
〔あんだってぇ、あたしゃ精霊だよ〕
〔それなりに合っているから、いいじゃん〕
〔まだかなんだぜ〕
〔あ、ごめん。それじゃぁ〚〚わくわく〛〛、なにそれ〕
〔火の精霊って言えば、有名どころは、【サラマンダー】とか【ヴルカン】とかだよね、性別は女の子として〕
〔コイコイコイッ!〕
〔じゃぁ、サラ美ちゃん〕
途端にぶわっと炎が膨れ上がり、体を直撃。熱くは無いけど、炙られた。お気に召さなかったようだ。
〔キターッ!これよこれ、これこそミール〕
〔オホホホ。期待を外しませんのね〕
〔えー、だめなのぉ〕
〔燃やすぞゴラァ。燻製は作れるけど、燻製じゃないぞ!〕
〔あ、作れるんだ。サラミは燻製じゃ無いけどね。あっ、イフリートってのもあったな、それじゃぁリトちゃん〕
オレンジ色の炎が膨れ上がるように広がったと思ったら、一瞬火災旋風のように竜巻状の炎になって、収まると、赤髪の人型精霊が立っていた。
〔リトか、リトだな。よろしくなっ!〕
〔うん、リトちゃんよろしくね〕
〔またな〕
〔はい、またね。で、いつまで笑っているのさ〕
〔うはははは、ひさびさヒットしたぁ。じゃぁね〕
ジュンちゃんは、膝辺りをを払うような仕草をしてから帰っていった。芸細だな。
〔オホホホ、楽しかったですわ。ごきげんよう〕
〔そら、良うござんした。また宜しくね〕
では頂きます。蛇は鶏肉の味がするって聞いたことがあるのだけど、誰だよ言ったの。大蛇だから大味なのかな、焼き加減は良いはずなんだけどな、堅くてとても食べられたものではないですよ。しかも単に焼いただけなのだから、更にまずいです。塩は?そんなもの森の中にあるわけがないじゃん。野趣あふるる滋味?何を言っているんですかね、おかわりなんてする気もないです。
と言う事で、お腹は膨れた。膨れた所で気が付いた。私、寝ていたんだよね。そう言えば何を着て寝てたっけ…何も着てなかったね。いつものことだね、マッパじゃん。どうしよう。痴女っ子になっちゃうじゃん。