(05-03)エッちゃんと魔法
(05-03)エッちゃんと魔法
先日は、エッちゃんと森に行ってきました。自然薯らしき物体から作った味噌モドキが村の人気者になったと思ったら、あっさり見かけなくなってしまいました。これだから古代人はどうしようも無いんだよ、全滅させるなよ。大自然の生命力に期待するしかなくなってしまったのであります。辺境開拓村村娘です、こんにちは。
1. エッちゃんと魔法
「{ねぇねぇ、ミーちゃん}」
「{何、小声で}」
「{ミーちゃんは、魔法使えるんでしょ}」
「分かった、覚えたい?」
「話が早いわね、そのとおりでございます」
「いいよ、いいんだけど、時間がかかるかも。だめかも知れないし」
「生きている内にできるならいいよ」
「それは、すぐに判るから大丈夫。その後が長いの」
そういう事で、裏へ回ってエッちゃんと手を繋ぎ、魔力感知を伝授。あっさり見つけちゃいました。
「早いね、アタシは半年くらいかかったよ」
「才能あるかな」
「いやいや、これからだからね」
「次はどうするの」
「魔法ってね、ある程度の魔力を体内に用意しないと使えないの、だから魔力の量を増やします」
「わかった。それに時間がかかるのね」
「そうそう、魔力を感じた所から手の先へ、両手を合わせて右から左へ。左から右へ、体を通してぐるぐる回すの」
エッちゃんは、魔力を感じるのは早かったけど、回すのは苦労しているみたい。
「あ、言っておくとね、それで癇癪起こすのはダメだからね」
「なるほど、そういう事ね。だから子供には教えないのか。分かった、頑張る」
「あとね、歩きながらとか、仕事しながらとかやっちゃダメだからね。家の中ですること、できれば寝る前。良く寝られるよ」
「は~い」
5. 礼拝堂は治療院でもある
神職はイコール治癒師でもある。少なくとも、ここに医者なぞいない。「光の精霊」の力を借りて、外傷を治すのである。それすなわち『魔法』なわけだ。子供の前で使ってもよいのかというと、どうやら、魔法とは言わずに『精霊の思し召し』と言う事にしてあるらしい。だから「精霊に直してもらった」と言う事になる。そこは精霊真教、信者獲得に抜かりはない。
森へ遊びに行くと、少なからず擦り傷を付けることになる。お約束みたいなものだし、放っておけば治るんだけど、そう言えば、治癒の魔法ってできるかなと思い、水で洗い流し、血小板と白血球が頑張り、皮膚細胞が生まれる所を想像してみました。
「えいっ」
みるみる擦り傷がなくなっていき、治りました。自分を治すときは、体内の魔力で自然治癒力を加速するような感じかな。すると、見慣れぬ毛玉さんが現れた。
〔はじめまして〕
〔はい、こんにちは〕
見上げると新顔さんが居た。光玉だけど。
〔貴女、今治癒の魔法を使ったかしら〕
〔はい、できましたね〕
〔私のとは違うんだけど、それは何?〕
〔えーと、体が元々備えているであろう回復力を想像しただけだけど〕
〔あー、そういう事ね、面白い事を考えるわね〕
〔ところで、アタシはミールって言います。貴女はどなた〕
〔これはごめんなさい。私は光の精霊。治癒の他には、浄化とか回復とかかな〕
〔綺麗好きさんだね〕
〔ふふふ、ありがとう。そうだ、私は名前がないのだけど、付けてくださるかしら〕
〔わかりました、じゃぁねー〚ちょいと待ったぁ!〛〕
〔あ、ジュンちゃん。いらっしゃい〕
〔白の、名前を付けて貰ったのね〕
〔そうよ、この子放っておくと変な名前を付けるからね、見ておかないと〕
〔えー、これでも一生懸命考えてはいるのよ〕
〔どこがよ、どの辺がよぉ〕
空中をドンドン叩きながら、嘆いている風。あいかわらず器用だな。
〔王様だって、かわいいって言ってくれたもん〕
〔仲がお宜しいのね〕
〔では、『【光】ちゃん』〕
〔【日本語】じゃん、まんま【日本語】じゃん、そのまんまじゃん〕
〔いいじゃん、これしか浮かばないもの。これが一番〕
〔いいの、光の。それで良いの?決まっちゃうわよ〕
〔ありがとう〕
言うやいなや、彼女はクルリと横に一回転。なんか優雅だな、両手を体の前で囲うようにして、片足を折り曲げてクルッとするバレリーナみたいなの。回ると、人型精霊になっていました。いつもの1/12ですけど。
〔今の何、横にクルッとして、すごい優雅って言うの、綺麗だった〕
〔うふふ、それはありがとう。また来ますね〕
〔はい、ごきげんよう〕
〔私の時と違うぅ!まったねぇ〕
6. 森の向こう
森歩きも少し慣れてきたので、少し奥に来ています。川です。川がありました。
「あっ川だ、川がある」
「ここはねぇ、お魚が獲れるのよ、ほらあそこ」
イワナかな、ヤマメかな、私に区別しろと?無理。
流域は、中の下くらい。中流域の下の方って感じだけど、対岸側の水量は結構あるように見える、流れが早いから深いのかな。こちら側はそれほどでもなくて、ゆるい流れに見える。場所にもよるのだろうけど。それよりも、川岸やら川底の石というか岩だね、中流だから大きくはないけど、それでもドラム缶位の大きさがありそう。後は一斗缶位のがゴロゴロ。
「あっちにもいる。獲ったことある?」
「ワタシはないけど、家の兄なら結構持ち帰ってくるよ~」
「難しいのかな」
「どうだろ、今度聞いておくね」
「うん、食べ方もね」
普通の魚にも魔力があるのかなぁと、魔力視で見ていたら、川底にキラリと光る粒が見えた。
「何?あれ」
「どれぇ」
「ちょっと、待ってね。取ってみる」
そぉーっと水に入って、粒を拾ってよく見ると、なんとなく金。たぶん砂金。こっちでも見たことはないので、断言はできないけど、おそらく砂金。だいたい2[㍉]位。砂金にしてはかなり大きい方ではなかろうか。いや、知らんけどね。
「なんだろう、これ」
「光っていて、綺麗だねぇ」
「水が淀んでいる所には、まだあるね」
「よし、集めよう」
服のポケット(いや、それくらいは付いている)に入れながら、それから暫くは砂金(推定)集めに没頭していた。気がつけば、陽は傾き始めて3時ころかな。
「あ、遊びすぎた」
「本当だぁ、帰ろ。足も冷えちゃった」
隠蔽の効果は分からないけど、上に枯れ葉を被せて隠して置いた。この後、結構な大騒ぎになるんだけど、また明日。
7. 商人さん来る
この村にだって、商人さんは来てはくれます。とは言っても、月に一度位しか来ませんけどね。何しろほぼ物々交換なのだから、良い商売にはならないらしいです。
何を交換するのかを眺めていると、大抵は手仕事で作った籠とか、手提げ袋やら、狩ってきた獣の毛皮とかですね、それらと日用雑貨を交換しているみたいです。
一通り交換が終わったのか、村の人達が散って行った所で、試しに昨日の砂金らしき金色の砂粒を見せて見ました。仮に砂金だったとしても、相場なんて知りませんから、適当に騙されても仕方がないなとは、最初から諦めています。素材の相場なんて、神父さんに聞いても知りませんでした。
「商人さん、これなんだか判る」
「どれだ………これをどこで拾った!採って来たのか?」
矯めつ眇つ砂金を見ていた商人さん。ちょっと目の色が変わったような、こちらを探っている感じがして、少したじろぎましたけど、慌てる所を見ると砂金らしいです。
「採ってきた」
「どこで採ってきたのかな、この近く何だろ?教えてくれるかな」
「秘密ー」
「おっこのヤロ、分かっているのか。相場も知っているのか」
「ていうかさ、これ何か判る?」
「すまん、興奮しちまった。修行が足りんな。これはな、砂金だ、金だ。買い取る事も出来るぜ」
「あぁ、やっぱり砂金なのか。相場なんて知るわけないよ。買ってくれるかなと思っただけ。だから、適当な金額を言ってボロ儲けしてくれても良いですよ」
「ちっ、こまっしゃくれていやがる。そうかよ、じゃぁ銅貨一枚な」
「死にます?それはないと思いますけど。参考までに、商人さんは金貨ありますか。アタシは持っていないので、重さがわかりません」
「『死にます』はねぇだろう。わかったよ、ほれ金貨だ。どうだよ、見たことないだろう」
一般に金貨と呼ばれているお金は、丸形硬貨の真ん中に丸い穴が空いているので、穴金貨と呼ばれているらしいです。らしいというのは、そもそもまともにお金なんか見た事ありませんもん。銅貨一枚だって見たことが有りませんよ、ハッハッハ。手に持ってみた金貨の重さと、砂金を持ち比べて見ます。砂金と大差ないじゃん。こんなに採ってきたのか、はたまた金貨が軽いのか。
「ありがとう、返します。結構重いね。あぁそうだ、重さを見る道具は無いの?」
「ここには持ってきていないな。それでどうする」
「どうするって、買ってくれるんでしょ。重さ的には砂金の方が少し軽いけど」
「そうだな、重さとしては少し足りないな」
この国の金貨に於ける金の割合なんてのは、誰も知らないはずなんだけど、さすが商人さん。さす商。商人さんによると、だいたい18金位らしい。含有率低くない?けち。と言う事は、18金×(100/24金)≒7割5分と思えば良いのか。
「割合まで気が行くのかよ、でどうする」
「うーんと、銀貨15」
「だめだ、銀10」
「もうちょい、銀13」
「しょうがねぇ、ご祝儀にしてやる。次からは、同じ量なら銀10な。所で、なぜ銀15だと考えた」
変な事を聞くなぁと思ったけど、砂金の方が軽いし、純金加工するにも手間がかかるだろうから、行っても4半金貨分位だろうと言う事、それでその半分とふっかけ分と説明してみた。ちなみに100銀で、お金貨様になるそうですよ。
「こんのガキぁ、ふっかけ分も入っているのかよ。やるな、商人にでもなるか」
「ならないよ」
「そうかよ、ほれ13枚だ。見るの初めてか」
「そうだよ、銅貨すら見たことがなかったもん。まいどあり」
「あっはっは。おもしれぇ奴だなぁ、気に入った」
ついでにお買い物もしてみます。普段着るための服やら靴やら買いました。銀貨6枚でした。袖やらなんやら少し大きめの男の子用ですが、こんな服なんて良くあったな、感心しちゃいますね。服や靴って高いんですよ、何しろ糸作りからして手作業でしょ、中古服とは言え結構な値段がするんです。
価値的には6万円って所ですかね、高いでしょ、泣けて来るよね。家族が4人ですとね、だいたい金貨1枚で一年生活できるらしいです。其れが100万円相当だとするとですね、服代でひと月暮らせちゃうじゃんね。そういう事で、第一回取引兼お買い物は終わりました。
8. 砂金だけ掬えや!
実は、エッちゃんも一緒にいました。エッちゃんは、ちゃんと家族の分も買っていましたよ、偉いね。ちょっと手が震えていたのが、微笑ましかったです。私?知らんがな。母ちゃんには、銀貨を2枚渡しておきましたから、それでおしまい。残りは5銀。これは、タンス貯金です。タンスなんて無いけど。
気が付きました?そう近所の人たちもいたんですよ。あいつらだって銀貨なんて見たことがないんでしょうよ、当然詰め寄ってきます。何処で採ってきたとかをね、根堀葉掘り聞いてくる訳ですよ。うるさいし、面倒だし、どうでも良い事なので、川の場所を教えてあげました。そしたら、村から人がいなくなりました。おい、畑!どうするんだお前ら。採り方知っているのですかね、単に手ですくっても取れないんだよ、教えてはあげないけど。
どうせ、逆ギレして文句を言ってくるんだろうと、お待ち申し上げておりました所、案の定来ました。言ってもいいですよね、バーカ。簡単に言えば「無いじゃねぇか、嘘を教えやがったな」です。金貨二枚分位の砂金を既に採ってしまっているのですからね、同じ場所にある訳があリません。他に移動しなければ見つかるはずがないでしょうに、それすら分からないんですかね。
帰りそうにもなかったので、砂金というのは元々量が少ないであろう事、既に採っているのだから、同じ場所にある訳がない事、一度に沢山の人間が川に入れば、川底が荒れて反って見つからないこと等を伝えました。次の日、また村から人がいなくなりました。アホですね。エッちゃんも同じく、一日ため息が止まりませんでしたよ。
「ミーちゃん、騒動になっちゃったね、いつ終わるんだろ」
「エッちゃんは、そのうち呼ばれるかもね、覚悟しておいた方が良いよ」
「え、なんで。嫌よ」
「第一発見者じゃん、お前も来いって言われるよ」
「嫌だよ、はぁ~、でもそうだねぇ~、来るかもねぇ~。畑放り出して何をしているんだかね」
「子供に言われる大人になりたくないね」
神父さん御一行も、苦笑いで聞いていました。
9. 騒動の結末
畑が荒れていくのですけど、放置状態。何度忠告しても聞く耳持ちません。
「うるせぇよ、麦より金だ。金になる」
「麦を育てないと、生活ができないでしょ」
「だまってろ」
全くダメです。とうとうエッちゃんまで駆り出されました。大丈夫かね。エッちゃんが心配だったので、お勉強を切り上げて川に行ってみました。予想はしていましたけどね、ろくな道具もなく、その辺の石をどかしたり、足で川底をさらったり、そりゃもう適当もいいところ。
呆れて辺りを見ていたら、遠くの山で真黒と表現できる程の雨雲が見えました。ここは快晴なのにね、反ってヤバそう。川の水も濁っているような気がしたので、警告。
「川から上がれ、エッちゃんこっちに上がれ」
「なんで」
「川が危ない、大水が来るかもしれないから、上がっておきな」
「ミーちゃんが言うなら、上がった方が良いよね。ほら、父さん達も」
「なんでだ、先に行っていて良いぞ」
エッちゃん偉い。手を引っ張って無理やり上がってきた。
あ、気のせいか、水量が増えた気がする。そうなると早い。あっと言う間だぞ。
「皆上がれ。早く上がれ」
「うるせぇ」
砂金探しに夢中で、増水に気が付きません。まあ、エッちゃん家が上がったからもう良いや、知らん。後は自力で頑張れ、南無。とりあえず『上がれ』『上がれ』と連呼しておきます。それしか言う気はないし、手立てが有りません。本当にそれからすぐでしたよ。来ました、お水様が。これを止める?冗談言わないでね。ダムとかね、想像出来ません。全く想像の範囲外。
私もエッちゃんもただ呆然。あんなにすごいとは思っても見なかった。幸い、岸の近くだったので、ほとんどの人は逃げられたんだけど、流れに抗えなかった子供は流されていきました。子供です。欲深いバカ親のせいですけど、まさか理不尽な事を言って、怒りをこっちに向けないでしょうね。そうしたら、フラグりましたかね、来ちゃったよ。
「何故水が来るのが分かった、お前がやったんだろう。跡継ぎが死んじまったよ」
「金を取られたくねぇから、水を出したんだろう、うちの子を返せ」
あんたが、お前がと煩い。全部自分達のせいなのにね、気持ちはわかりますけど、知りません。一応村長は、被害がなかったらしく、少し冷静に聞いてきた。
「晴れていたのになぜ水が来るのがわかったか、聞いてもいいかね」
疑っていますかね。まぁ、良いでしょう。
「こっちの天気なんて関係ない。川は何処からくるのか考えれば良い」
「あっ!」と声を上げた神父さんは、早かった。わかったらしい。村長は…駄目だ。全然判っていないな、こりゃ。
「川が何処から来るのか関係あるものか、適当な事をいうんじゃないわっ!」
大声だしても無駄ですよ。こっちは呆れて、うんざりしているんだから。
「だから、川は何処から流れてくるの」
「大抵は、山からに決まっている。其れがどうした。言い訳か、見苦しいぞ」
「山に大雨が降るとどうなるの」
「山が荒れるに決まっているじゃないか、くだらん事を言うな」
「だから降った雨は」
まだわかりませんか、何故ですか。
「雨は川に集まって流れて来るだろう」
「あの山には、真黒な雨雲がかかっていたでしょ、見えなかったの」
「くっ…そういう事だったか」
実際はもっと長い押し問答だったのだけど、ようやく判ってくれました。自分達が金探しに夢中になりすぎていた事を深く反省して頂きたい。