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(10-12)モーリタ連合国(魔獣)

(10-12)モーリタ連合国(魔獣)


 商人さん達は、農園主さん達の所を暫く見学するんだそうで、次の商品とかを見てくるんだそうです。それで、だいたい10日間くらいかかるらしく、その間は街で待つことになりました。いえね、こっちはこっちで、大陸入口の品物が入ってこない理由を知りたかったものですから、調べようかと思いまして。こんにちは辺境村村娘です。


1. 魔獣が来た


『カン、カン、カン・・・カン、カン、カン』


 突然木の板を叩いているような音が聞こえてきましたんで、音の方を指差しながら隣の人に聞いてみました。あれ、顔が青ざめていますよ。


「なんですか、あれ」

「ま…魔獣だ。あれは退避の合図だ。避難所へ逃げるぞ」


 魔獣ですか、ここにもいますけどね。この魔獣さんは、殺る気満々ですが。


「んー、ちょっと見学するか。上へ行ってくるね」

「あ、ワタシも行く。あなた達はちょっと待っていてね。見てくるね」

「「ヲゥ」」


 分厚い街門が閉められその上ではバリスタが準備されています。刺さるのかなあれ。ひとまず見学してみましょう。


「発射ヨーイ。射てー」

「おぅ」


 駄目でした。先端には魔道具としての鏃が使われているようでしたが、あちらの抗魔鎧に阻まれてしまいましたね、結構強力な抗魔鎧みたいです。同時にお手伝い風に軽く魔力弾を打ち込んでみましたが、弾かれました。ハゲなのに頭硬いです。


 あ、ちなみに来ているのは、図鑑で見たマンモスみたいな象です。名前は『長鼻ハゲ頭』ひどい名前ですよね、そのまんまですけど。バリスタが何発か打ち込まれましたが、全部弾かれました。こりゃ不味いと言う事で、渋い表情の隊長さんらしき人とお話。


「うちの子がお手伝いしてもいいですか」

「あそこの狼か?殺れるかね」

「たぶんできると思いますけど」

「うーむ、わかったやってみてくれ。攻撃中止」


 判断が早いと助かりますね。腕をくるくると回し、ロウタに合図します。


「ヲォーン」


 外壁を一気に飛び越え、ハゲさんの前に躍り出たロウタは、ハゲ象が鼻から何かを撃ち出したのを見て、左へ飛び跳ねて回避。うわっ、連続で撃ってきた。


「鼻から撃ち出したのはなんですか」

「あれは、硬直玉だな。当たると身動きができなくなる。弱い魔力盾だと突破されてしまうのだ」


 とは言え、ロウタも抗魔鎧を備えていますから、あれならたぶん弾くでしょう。ロウタが背中に乗っかり、首筋を爪で一閃。効いていますね、血しぶきがシュバァーっと。抗魔の体毛を突き抜けて切り込めるのは、流石ロウタ。同時に鼻が後ろを狙ってきたので、一閃だけで退避。魔爪は致命傷にはなっていませんが、ハゲ象の動きは止まりました。


 対戦相手をロウタと認識しましたね、硬直玉を連続で撃ち込んでいます。何発か当たったようですけど、ロウタはなんともありません。抗魔鎧は、ロウタの方が上です。


「あれで何回か切り込んでくれれば、倒せそうだな」

「あの鼻が厄介ですけどね、牙と同時に攻撃されると逃げるしかなさそう」

「なるほど、それがハゲ牙のやり方か」

「でもそれなら…あ、始まりましたね脚への攻撃。これは時間の問題かな」


 足払いだね、硬直弾を躱しながら脚に切りつけています。何回か切り込みを入れると、立っていられなくなったハゲさん倒れました。最後に首へ魔爪を叩き込んで終了。


「ワォーーーーン」

「「「「「うぉー」」」」」

「いや、助かった。私は衛兵隊長『シバキーノ』だ、協力に感謝する。この所徐々に強くなって来ていてな、今回はとうとう魔力の鏃が効かなかった。危うく突破される所であった。時にあの狼を…」

「あげませんよ」

「そうか、残念だ」


『コーン・・コーン・・コーン』


 やや低いゆっくりした打音で『終了』の合図が出されました。しかしですよ、あんなのが度々やって来る街って結構危なくないですかね。


「あの魔獣ってのは、単独でやってくるんですか、群れとかじゃなくて」

「ふむ、そう言われるとな…単独ばかりだな。群が来た事は過去帳にも書かれていないな」

「狼なんかだと、群れで襲いかかって来るんですよね。なんだろう、何か理由がありそうですけどね」

「なるほどな、考えてみた事もなかったぞ」

「棲息域とか分かっているんですか」

「いや、近くでは見たことがないな、遠くては探索もできん」

「砂の大地だからですかね」

「そうなのだ、人を送り出しても、先へ進めんのだ」

「なるほど」

「そうだ、君の名は」

「『ミール』と言います」

「そうか、後始末があるのでな、これで失礼する」

「はい、お疲れ様でした」


 そう言われて、気がついたのは、ここの人達って総じて保有魔力が少ないんですよね、向こうの大陸(実は名前がない)人の保有魔力と比べると少なく感じます。なんだろうね、いえね『砂の大地』と言っても、たぶんたかが砂漠ですよ、水魔法とか、風魔法とかがあれば突破できるんですよ。それが『先へ進めん』ですからね、何でしょうかね。精霊さんは沢山いるんですけどね。まーた変な宗教のせいじゃないだろうね。嫌だぞ、面倒だし。


2. 硬直玉ってなに


 ハゲ象の解体中です。肉は食用になるそうで、皆さん頑張ってバラしています。こちらとしては『硬直玉』ってのが気になって、頭部から鼻先までを調べさせて貰っている所です。


「おーい、嬢ちゃん。この狼達は生肉を食わんのか」

「ああ、人がいる所だと焼いたのしか食べないんですよね。適当に大人2人分位の重さで残しておいてもらえますか」

「なんと、そういう事か。わかった任せてくれ」

「お願いしまーす」


 そうなんですよ、ロウタ達は私達がいると、焼き肉しかそれも味付けした肉しか食べないんですよねぇ、うちの狼さんは贅沢な舌をお持ちなのです。それよりもだね、その残す肉の部位を指し示しているんですけど、解体屋さん驚きながらも笑っています。


「婆ちゃん、この袋はなんだろうね『万能草』とか『安眠草』の匂いがするけど」

「魔獣の毒袋と同じさね、自前で調薬をしているさね」

「そういう事か、じゃあこっちの未消化みたいな根もそうかな」

「その根はたぶん『白喇叭(らっぱ)草』さね。喇叭みたいな白い花を咲かせる植物で、根が麻痺毒になるさね」

「うっへぇ、それを固めて飛ばしてくるのか、すごいな」

「すごいですね、どうやって組み合わせを知ったんですかねぇ」

「そうだよね~、魔獣ってすごいよね」

「自然界の生き物の能力ってのは馬鹿にできないものさね」

「あぁ『石化毒』か、これ」

「よくわかったさね、そもそもが魔獣が武器としていた事が始まりさね」

「てことは、他にも沢山いるわけだ。結構怖いな」

「だよね~。防ぐしかないのか」

「そうか、解毒薬はまだなんですよね」

「そうさね、見つかってはいないさね」


 バルトニアがあるあっちの大陸では『石化毒(石像のように固まってしまう毒)』と呼ばれている生物毒らしいのは分かりました。薬による解決方法が今はありません。今の所魔力盾を展開し、受けても平気になるとか、普通に噛みつかれた時のような毒液対策をする以外ありません。


3. 焼肉祭りと硬い肉


 なんかですね、ハゲ象の肉ってばなかなかに堅いそうで、なるべく早期に食べないと噛めない程になるとかで、その日のうちにお祭りになりました。


「これ、本当にかひゃいへ(堅いね)」

「脂のさしが足りませんよね、なんだろう全体的に歳をとった動物の肉みたい」

「ああ、そうだね~。長生きした兎とか魔鶏なんかに似ているね」

「そうさね、私にはちょっと辛いさね」

「あはははは。じゃ、こっちはどう」


 大根がありましたので、すり下ろした漬け汁に予め肉を浸けてから焼いたものを渡してみました。それなりに酵素が働いているみたいですよ。それと麦酒に漬けてあったのも。


「ん!これは良いね。柔らかくなっているさね。漬け汁のせいさね」

「うん、大根のすり下ろし汁に漬けたのと、麦酒に漬けておいたのね」

「肉の旨味が戻ったような気がするさね、麦酒漬けの方が良いさね」

「分かった。じゃ婆ちゃんは麦酒漬けね」

「ワタシは、すり下ろし汁のが好きかな」

「ロウタ…何?…『麦酒漬けを食わせろ』はいよ」


 こいつらー、日に日に贅沢になって行っていますね。当然と言う顔で指差してきましたよ。もう野生に戻れんぞ、君たち。


4. ハゲ象の生態


「あの長鼻、安眠草食べているって事だよね」

「あ、そうだよね。あっちじゃ魔導国だけだったよね。土の魔力量だっけ」

「そうそう、こっちの大地も魔力量が少ないのかね」

「なるほど、あの魔獣が生息している地域がって事ですかね」

「そうさね、それは言えるさね。それは見てくるしかないさね」

「だよね、行って見るか」


 と言う事で、地図を頼りに船出。いえね、この地図ですけど、すごいんですよ。今どきにしてはですけど。こちらの大陸が全体図と詳細図に分かれていて冊子になっています。ちゃんと区画割りされていて、どこの区画が何ページ目とか細かい設定になっているんです。お得な一品、いまなら30[モーリタ金]。ハゲ象さんが来た方向(ほぼ東)へモーリタから30[km]ほど離れると、後は延々と砂場。ずっと砂だらけ。


「いませんね。此方がわはほぼ砂地ですよ」

「あっちに草原があるよ、あっ!大きな泉もある」


 エッちゃんが指差す方角はさらに東。なんとまあ、砂地と草地が綺麗に分かれているのですけど、砂地側にも少し草が残っていて、なんか降雨ひとつで草地が伸びたり縮んだりしている感じ。まるで綱引きをしているみたいな土地ですね。そっちへ向かうとだんだんと木も見えるようになって来て、森までは行かないかな、それでもオアシスと言える程度の場所に到着しました。


「見つけた~」


 見れば、象さんの大群。うひゃぁー、あんなのが押し寄せたら、モーリタの街なんざ一発で土塊(つちくれ)じゃんよ。


「おぉ、これは壮観だねえ。すごいね、長鼻の群れ」

「あれっ?頭に毛がありますよ。ハゲ頭なのは、ほんの少しだけですね」

「本当だ、もしかして歳を取ると毛がなくなるのかな」

「あ、そういう事なのかな。それで、食べるものはっと」


 探すと、安眠草の大群生地が近くにありまして、さらには白喇叭草がドーンと生えているわ、なんやら丸い実がなっているヤシみたいな木があって、丸ごとバリバリ食べている長鼻さんがいるわ、あとは当然のようにどこにでもいる万能草。長鼻の生態そのものですね。


「食べるものがあって、水があるんだったら普通はここから離れないよねぇ」

「そうですよね、ここからモーリタだとどのくらいですかね」

「大体だけど、300[km]位かな。地図だと誰もここを所有していないね」

「どういうことさね、普通ならここで生活するさね。彼処に来るのははぐれさね」

「はぐれかぁ、んーなんだろね。あっ、ここからだとモーリタに向かって、南回りだと道のようになっているね、帰りはそっち経由で行ってみるか」


 オアシスから、南回りに緩い曲線を描くようにモーリタに帰ると、所々に小さな水場があるんですよ、標高は湖より低いんで、アッちゃんに聞いて見ると、湖から滲むように流れ出てきているんじゃないかって言っていました。それで、最終地点がモーリタっぽいです。あと、水場と水場の間には力尽きたように倒れている長鼻の骨が点々と。


 コの字型に陸続きになっているらしいこっちの大陸への入口ってのは、オアシスより北になるわけですけど、湖が大きすぎて、オアシス以外に水場がないみたいです。でもってそこには長鼻が群れをなしていて、その群れがいくつか点在しているわけですよ。水を飲みたくても飲めませんね。来たくても来られないって事でしょうかね、本当の所は、サッフラーンの栽培国に行って聞いてくるしかありませんが。


5. ハゲ象の墓場


 本日は、モーリタ街役場の資料室にお邪魔しています。どうにも解らないんで、この街ができた時の様子を知ることができないかなって言う事で、調べ物。室長さんは通訳兼翻訳係兼監視役。すまんね。


 直ぐに判りました。500年程前にこの街を作った時に、長鼻の骨が大量に出てきたらしいです。それを街の端に纏めて埋めてあるそうです。そういう事か。


「あ…解った」

「「早っ!」」

「どういう事さね」

「ここ長鼻の墓場じゃないかな」

「墓場でございますか」


 推測でしかありませんけどね、寿命を察した個体が群れから離れ、ここまで来て死に至るのじゃなかろうかと言う事を室長さんに説明してみました。生息地から点々と続く水場とか、白骨となった長鼻とかを説明すると、少し納得してくれたようです。


「そうすると度々やってくるあの長鼻は、既に寿命が近い個体と言う事ですわね」

「そうなりますね」

「それで、あの強さと言う事ですか」

「そうですね」

「どうしたら良いのでしょう」

「さあ。どうやって墓場を見つけているのか知りませんけど、匂いとか魔力の残滓とかがあるとしたら、一つの案としてですね、一つ前の水場に、今埋めてある骨を移動させるとかですかね、あんたのお墓はこっちみたいにして」

「なるほど、ただ街の為政者がそれを認めるかですね」

「そうですねぇ、それはアタシ等にはどうにもなりませんけどね」

「それはそうですね、他の国の方にお願いするのも違いますしね。判りました、まずは街長に相談してみます」

「そうして下さい。今日はありがとうございました」


 たぶん、一件落着。


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