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Strangers Story ~僕たちの546日間戦争〜  作者: めだか東一郎
第一章 邂逅
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五節 布流谷良

挿絵(By みてみん)


「ここで昼食を取ってから駐屯地へ向かいます。……皆さん、大丈夫ですか?」


 村。でしょうか?目が覚めると、そこは異世界の村でした。

 ……オーディルという町。武文君がカリシュスに来てから、お世話になっていたという教会兼孤児院で朝食を食べてから。僕達は、連合国軍のトップ……各国の王子様たちがいるという駐屯地に出発しました。

 この先僕達がどうするのか、どう動くにしても一度最高責任者に謁見してから決める、との事で。作戦行動中のため、出先での対応になってしまう事をストラルさんは申し訳なさそうにしたが。


 馬車に乗ってすぐに、僕は眠りにつきました。昨日の夕方、夜と碌に武文君と三影君と話をする隙も無く遊び続ければ、それは疲れますね。……子供の体力は凄い。


 一晩寝て、馬車でも寝て。多少考えがすっきりした感じがあります。


……二人があの盗賊達と戦った後を見て。ショックとモヤモヤが渦巻いていましたが、その後、武文君の話を聞いて。


 確かに、武文君達みたいに『霊使い』としての力が無い僕に、できる事は無いですし……良君、角田君、佐乃崎君、加川君が見つかってない事や、見つけた後に帰れるようになるまでどうするか……心配事も多いですが、まあ、あまり考えていても仕方ないですね。


「……あー、……すまん、ストラル。寝てたわー、ぐっすりー……ここどこ?」


 あくびをしながら武文君が目を覚ましました。三影君は先に目を覚ましていたのか、座席に姿勢良く座っています。


「サレス様方の本陣近くの村です。現在はこの先の山間で次の戦闘準備中とのことで、時間になればそちらへ行く予定となっています」

「ああ……スイレンと、残り二か所のうちの一つだったっけ?でも俺らが行く、って事はみんな来てるのか……」


 よたよたと眠そうに馬車から降りる武文君。続いて僕達も降り、4人が馬車の外へ出る。近くには5台程度の馬車と、僕達と同じように馬車から降り始めている、ストラルさんの部隊の方達。

と、武文君が急に周りをきょろきょろと見渡し始めた。


「……ストラル、なんか、変な感じだ」


 少し緊張した感じの武文君。ストラルさんは、きょとんとした表情をしている。……変な感じ、ですか?僕は周りを見渡すが、のどかな農村の中心部、といった穏やかな風景が目に入るだけですが。

 道行く人々も、まばらな感じでみんなゆったりと歩いて……。


 あ。その中に、明らかな不審者がいた。


 フード付きマント。全身を覆っているそれのせいで顔は見えにくいけど、体の向きを考えると、多分こっちを見ている。武文君が言っていた「変な感じ」とは彼の事だろうか?


 その彼がゆっくりとこちらに近づいてきた。そして、はっきりと聞こえた。


「『青式あおしき白霧しろぎり』」


 その瞬間、彼を中心として、ぶわっ、と。濃い白い煙が周囲に広がった。一気に視界がふさがれる。


「なっ……!」

「……っタケフミさん、霧です!風で吹き飛ばして下さい!」


 武文君の焦ったような声が聞こえた、と同時にストラルさんの叫び声。そうか、煙じゃなく、霧ですねこれは。

 何が起きたのか、すぐにわからず硬直する僕。そして次に聞こえたのが、なにか金属がぶつかり合うような激しい音と、武文君の叫び声、と同時に周りに突風が吹き荒れ、霧が一気に晴れる。


 そっと。僕の首が後ろから掴まれ。


「すみません。『黒式くろしき闇鎖あんさ』」


 びしり、と僕の体が動かなくなる。


「皆さん、動かないで下さい」


 金縛り……にあったことは無いが、こんな感じなのだろうか、全く体が動かない。いつの間にかフードの人が僕の後ろに来て、僕の動きを封じた……?そんな中で僕は、混乱しながらも目を動かし周りの様子を確認する。


 いつの間にか、囲まれている。囲まれているというか、武文君や三影君、ストラルさんに部隊の方達全員が、各々一人から数人の村人に武器を向けられている。

……いや、多分村人じゃない。武器を向けている人達は、身なりこそ質素なものの皆若く、佇まいが鍛えられた人のそれだ。


「……お前ら、何の目的で……」

「……ああ、タケフミさん、でしたか?貴方は動いて大丈夫ですよ。私達の隊長が相手をして欲しいとの事で」


 忌々し気に話しかけた武文君の言葉を遮り、フードの人の手が僕の視界に入り、ある方向を指さしている。武文君が「はぁ?」といった表情でその先を見ると……さらに怪しい人がいた。


 顔はフード付きマントで隠している……けど、申し訳程度に顔を隠している短いマントで、身に着けているのは結構な鎧姿。そして、身の丈程の大きな剣。完全に戦闘態勢、といった感じだ。

 とはいえ、その身丈はそんなに大きくなく……僕達と同じぐらいの身長だろうか……その人は、武文君が視線を向けると、にや、と口の端を上げ、剣を構えながら武文君に向かって突っ込んできた!


 横薙ぎの一撃。それを、うわっ、その人の身長ぐらい真上に跳ねてよけた武文君は、いつの間にかどこからか出した、赤い槍?を手に、空中で身をひねって!上から叩きつけるように攻撃を繰り出す。


 ギン!と金属がぶつかりあう派手な音がして、左手の小手でそれを受け止めた鎧男は、またも、にや、と口の端を上げ、それを払いのける……効いてない?


 体勢を崩されながら着地した武文君に対し、鎧男は、ぐっ、と剣を横に構えると。


「おらぁ!」


 裂帛の気合と共に、再度横薙ぎの一撃を放つ!


「っ!ぇあ!!」


 体勢が崩れていた武文君はそれを槍で受け止めたが、そのまま、吹き飛ばされる!


「はっ!」


 派手な音と土煙を立てながら近くの建物に当たって、いや、突き破って吹き飛ばされる武文君!そんな様子を見て鎧男は肩に剣身を乗せながら、軽く息を吐いていた。

 だ、大丈夫なのでしょうか、あれは……と心配する僕の耳に、軽い溜息と一言、三影君の言葉が入って来る。


「……性質が悪い」


 そう聞こえた瞬間、鎧男の剣が手から弾き跳ぶ。……何が起きたのか。弾き跳んだ剣が、回転しながら空中から地面に突き刺さった時。


 鎧男は三影君に組み伏せられていた。


「いっ、だだだ、ギブッ、ギブッ!」


先程までの戦闘による緊張感などどこへやら、妙に間の抜けた、やけに親近感の湧く声色で痛がる鎧男。三影君は片手で鎧男の右腕を完全に極めており、空いている手でゆっくりと顔を覆っていたフードを外します。そこにいたのは。


「……布流谷君!」


 布流谷ふるやりょう。武文君と三影君と同じタイミングでカリシュスに来ていたという、僕達の同級生。


「っっ!なんで、こんなこと……」


 あまりの驚きに自然と体が動き彼に駆け寄ろうと体を動かし、急に金縛りが解けた僕はたたらを踏みながら布流谷君に駆け寄る。


「おー、霞か。おまえもこっち来て……いっ、てて、って、マサ―、そろそろ腕、放して……って、っててててっ!」

「……その前に一言、あるだろう?」

「……はい。悪ふざけしてスイマセンデシタ。大変反省しておりますので、手を放してイタダケマスデショウカ」


 さほど反省したとは思えない口調。三影君はため息をつきながら手を放し、布流谷君の体から離れる。布流谷君は腕をさすりながら体を起こす。


「悪ふざけって……またなんでこんな、いや、そもそもなんでここに……」

「あー、話せば長くなるけどな。……っと、その前に、ルードック!悪いな、もういいぞ!」


 そう、先程まで僕を抑えていたフードの人に、布流谷君が声をかける。フードの人がその声に手を上げると、まわりでストラルさんやその部隊の人達に剣を向けていた人達が、一斉にわずかに間合いを取りながら武器を収める。

そしてフードの人は、フードを取りながらストラルさんに近づく。


「お久しぶりです、ストラル殿。私の事が分かりますか?」

「……ルードック・ゼレン、殿……」


 ストラルさんが、驚きとも緊張とも取れる、複雑な表情で彼、ルードックさんを見ています。つり目でややきつめの顔だちをした黒髪の彼は、柔和な笑みを浮かべる。


「私たちの現状の説明と、お願いしたい事があります。どうか、一席設けて頂けますか?」


 彼がそう言ったところで。派手な音と共に、武文君が吹き飛ばされた建物から飛び出した影。やり返す気満々の武文君が布流谷君に飛び掛かり、一時場が混乱したものの。


 数十分後。僕達は村の酒場、らしきところで顔を突き合わせていた。


 広めの店内。ストラルさんの部隊の人達も、ルードックさんが引き連れていたと思われる人達も同じ空間にいる。「昼飯食うなら、いっぺんに済まそうぜ?」と言った布流谷君の言葉にストラルさんが同意したことでこのような事になっているが……綺麗に席が分かれているので妙な緊張感がある。


 その中の一席。そこに僕と武文君、三影君に布流谷君、ストラルさんにルードックさんと、6人が集まっている。


「先に謝罪します。急に襲撃し、驚かせてしまい申し訳ありませんでした。リョウさんが、どうしてもタケフミさんと一度、戦いたいと言われたもので」


 そう一礼するルードックさん。見た目に反し礼儀正しい。なんというか、失礼な話ではあるが、見た目はそこら辺にいる不良、といった印象なのだ。布流谷君とは対照的に軽装な姿も、兵士らしくない。


「武文がさー。なんか、こっち来て活躍してるって話聞いてさ。俺もほら、『霊』の祝福?受けたし、何戦かやってきたからさー。腕試ししたくて」

「……ってかお前、さすがにやり方考えろよ。一歩間違えたら普通に部隊同士の戦闘だろうがよ」


 能天気な様子で話す布流谷君に、憮然とした表情で文句を言う武文君。


「いやー、その辺はほら、ルードックが上手いことやってくれるっていうもんだから、甘えちゃったわー」

「……まあなんか妙な気配するなーって思ってはいたけどさ。殺気どころか敵意すら全く無かったからな……そのくせ、ああ見事に全員抑えられたら、こっちとしてはどう仕様もないわな」


「……それで」


 武文君と布流谷君の会話に割り入るようにストラルさんが口を開く。……ストラルさんが武文君の会話を中断するように口を挟むのは、初めて見たかもしれない。かなり緊張した、先程からその様子は変わっていない。


「帝国の部隊長である貴方が、なぜこのようなところにいるのです?」


 ストラルさんの言葉。その一言で、武文君の表情が一気に引き締まる。僕も思わずルードックさんから離れるように椅子を引いてしまった。ストラルさんの部隊の人達にも緊張感が走る。


「一月ほど前、私の部隊ごと帝国から脱走しました」


 そんな空気を気にした様子もなく、ルードックさんはあっさりと、そう言った。その言葉に、周りの空気が半信半疑、といった感じで少し和らぐが。


「そして今は、リョウさんを隊長として傘下となり動いていました」


 次の一言で、全員「はぁ!?」といった感じになった。

 僕達だけじゃなく、全員。それはそうだろう。こちらで『霊使い』や『異邦人』がどれほどの地位か今一わかっていませんが、こんなぽっと出の中学生に、隊長?傘下につく?


「ちょ、ちょっと、ルーッドク、さん?こいつ、隊長?こいつでいいの?」

「そ、そうですよ。いくら何でも……布流谷君ですよ?」

「……お前ら、失礼だな」


 武文君と僕の言葉に、布流谷君は拗ねたように返答する。学校での彼の振る舞いを知っている僕達としては、こう、人の上に立つというのはとても信じられたものではありません。


 そんな僕達に「私の事は呼び捨てで」と添えながら、ルードックさんは笑みを浮かべながら。


「いえ、適任ですよ」


 なんて言うものなので、得意げに胸を張る布流谷君。なんか、とても変な空気になってしまっている。


 とはいえ、緊張が緩んだのは確かで。そのまま、布流谷君がここに至るまでの経緯を説明する。


 曰く、学校の屋上で視界が暗くなったな、と思ったら意識が途切れ、気が付いたら何もない空間で、そこで見知らぬ人と話をして。


「ああ、『霊』の祝福か。どんな人だった?ってか、何の霊なの、お前」

「なんか、片目つぶれてて片腕無いヤバそーだけど陽気な兄ちゃんだったな。俺のは『炎の霊』だ」

「また変わった使者だな、まー俺の方も仮面紳士だったけど。それにしても炎か、さっき全然魔術放出してなかったからわからんかった……やり方知らないの?」

「いや、火は出せるけど、帝国の装備、魔術耐性高い、ってんであんま効果無いんだ。直で殴った方が効く」


 テーブルに並んでいる食事を結構な勢いで食べながら話す、武文君と布流谷君。給食の時と同じ光景、食べながら話す二人は相変わらず器用だ。


 そして。次に目を覚ました時にはここから結構離れた村にいたそうだ。そこでカリシュスの事をある程度聞いたところで、帝国の襲撃があった。

 ただ少し複雑な状況だったそうで、その時の襲撃は普通に村を蹂躙したのではなく、その行動に反感を持ったルードックさんの部隊が、同行の部隊と相反し村の中で戦闘していた、という話だ。

 異世界。チートスキル。あっさりそれを受け入れていた布流谷君は、その場でルードックさんの部隊に協力、相反していた帝国兵を殲滅したそうだ。


「元々、私達の部隊は皆、開戦に不信感を持っていたので。バルア進軍に編成されたのはいい機会でした」

「それからはルードック達と一緒に行動してたってワケ。すぐにお前ら探したんだけど、武文が連合軍にいるってのはわかったから。先に三影を探してたんだよな。道中、ちょこちょこ帝国の部隊を潰しながら」


 その言葉に、ストラルさんが、はっ、とした表情をする。


「この周辺で、未確認の戦闘による帝国兵の敗残処理をしているとは何件か聞いていました。独自に義勇軍が編成されているのでは、と近々調査しようとしていましたが……貴方達だったのですか」

「私達だけではないかもしれません。何件かはそうでしょう」

「まぁそんなわけだから。俺もしっかり戦えるから、お前らに協力するぜ」


 どん、と胸を叩きながら、そう宣言する布流谷君。


「連合軍に協力してるってのは、武文の事しか知らなかったけど、マサと霞も協力するんだろ?その方が確実に帰れるだろうしな」


 その言葉に、僕は少し気まずそうに顔を逸らす。武文君は三影君と顔を見合わせている。協力、と言っても、さすがに先程の戦闘を見た感じ、何の力も無い僕では力になれないと思いますし。

 そんな僕を不思議そうに見る布流谷君。


「……ん?違うの?お前ら三人共、霊使いとして連合軍に参加するんじゃ」

「あー、良。大は協力する、って決めたわけじゃないんだ。俺と三影マサは協力するけど」

「あん?そうなの?俺達の中じゃどう考えても霞が一番適任……」

「その、協力、に関してですが」


 話の途中でルードックさんが口を挟む。


「ストラル殿。私達も連合軍に加えて頂けるよう、口利きして頂きたいです。これから、ティルム王子達と謁見するのでしょう?」


 ストラルさんの表情が緊張でこわばる様子が見られる。何でそのことを知っているのか?といった様子だが、ルードックさんは構わず言葉を続ける。


「私の部隊はご存じの通り、偵察、哨戒が主な任務。失礼とは思いましたが、あなた方の行動も調べさせてもらっています。元々帝国から離反した時には連合軍に合流することを目的としていました。……が」


 ちらり、とルードックさんは布流谷君に視線を移し。


「リョウさんがタケフミさんやマサシさん……ダイ、さん達に協力する、と話されているので、それに従いたい、というのもあります」


 何か布流谷君への依存というか、信頼が高いような気がするのですが……また布流谷君もそんなルードックさんの言葉にドヤ顔をし、武文君と三影君は露骨に引いています。


「口利き、ですか……私の権限では、推薦することは、難しい……と思います」

「リョウさんと一緒に謁見させて頂けるよう話を通してもらえれば十分です。それに、ここでの戦闘に関して報告して頂ければ」


 その言葉にストラルさんは何かに気づき、一瞬怖い顔になりながらも頭を抱えてため息をついた。……どういう事だろう?


「……なるほどね。俺らの護衛で少人数とはいえ、ストラルの部隊を一方的に制圧した、って事でお前らの有用性を実地で証明した、ってとこか」


 苦笑しながら話す武文君に、ルードックさんはにっこりと微笑み返す。……なるほど、そういう事ですか、っていうか「へー、そうなんだ」って僕以上に感心している隊長さんがそこにいますけど。


 と、そうしていると、ストラルさんの所に一人の兵士が来ました。その兵士の報告を聞き、ストラルさんが口を開く。


「あちらの準備ができたようです。ルードック殿、話は通しておきますので、これから全員で出発しましょう」


 そのストラルさんの言葉に、室内にいた人達が各々準備をし始める。武文君も「じゃー行くか」と僕達に声をかけながら……、若干緊張したような感じですが……まあ、王子様たち、ですか。どんな人達なのでしょうね、と僕も少しドキドキしながら席を立ちました。


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