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Strangers Story ~僕たちの546日間戦争〜  作者: めだか東一郎
第一章 邂逅
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三節 元木武文

挿絵(By みてみん)


「『風駆ふうく』」


 呟く。俺の体に魔力と風がまとわりつき、軽く浮遊。そのタイミングで身を翻し、村へ向かって飛行する。

離れていくレイカーから聞こえてきた奇妙な絶叫がドップラー気味で遠のいていく。……大だな、説明無しだからまあさぞかしびっくりしただろう。



『霊の術は名前をつけな』



 連合軍に協力する事を決めた後。力の使い方どころか、戦闘経験も無い俺に最初に訓練をしてくれたのが、シェイル・フォルツとマリア・クルスの二人。

 金髪美人と銀髪美人の二人。非リアの一般中学生的にはドキドキもののシチュエーションだが、これから『戦争で戦えるため』に自分を鍛えるという状況でもあるだけに、複雑な緊張感を感じる。



『霊使いが使う魔術はカリシュスにおいてかなり異質でね。現在、カリシュスで最も使用されている『印刻術式』に発動効果が近いけど、基本、決まった型は無い。

 魔力の大小、濃淡を操作して、自由な形態で発現させられる。

 詠唱や刻印とかは必要無くて、重要なのはイメージだね。慣れれば考えるだけで魔術と同じような効果を発せられる。

 だけど慣れてなかったり、普通じゃない時……例えば、重傷で意識朦朧だとか、初陣とか乱戦でパニックになっている時だとか。そういう時に名前があれば術が安定して発動できるからね』

『名前……例えばどんな感じの?』

『何でもいいさ。自分か言いやすい、発動する効果が分かりやすいもので。

ああ、でも短めの方がいいかな。いざ『普通じゃない時』に使う時は、長いとうまく発動しない時があるかもしれないし』



 すでに霊の力は何度も使っている。確かに術名を決めておくと魔力操作がしやすい。実際、さっきみたいに時速40キロ程度とはいえ、走ってる車から後ろ向きに飛び降りたとしても「浮遊」と「飛行」が問題なく発動した。

 とはいえ、今の目的は「村に行くこと」じゃなくて「村についてから戦闘する」がメインだから、省エネで低空飛行に、速度も気持ち控えめ。


 見えてきた。すでに乱戦状態。遠目で見たとおり、やっぱり襲撃側の方が人数多いな……俺は前傾姿勢から上体を起こし、左腕ごと上半身を右にひねる。



『あと、動きをつけるのもいいね。武器をふるう時の力の使い方とはちょっと違うけど、力を込めたり「どこに」「どういう風に」向けて発動するか、体の動きがあるとイメージしやすいからね』



 狙いは手前の数名。駐屯兵とも村人とも思えない装備の連中に向けて。左腕を真横に薙ぎ払うように振り。


「『風刃ふうじん!』」


 切断力のある衝撃波。俺の動きに合わせて発生したそれは、土煙を上げながら手前の数名に直撃、そいつらは悲鳴を上げる間もなく吹き飛ぶ。

 ……吹き飛んだな。複数人まとめて、って考えたのが悪かったのか、斬撃より衝撃波の方に割合がブレたみたいだ。まあ不意打ちにはなったかな。


「な……な、なんだてめぇは!」


 俺の存在に気付いた奴の怒鳴り声を気にもせず俺は『風駆』の出力を上げると、乱戦状態の戦場を飛び越えるように一気に村の入り口まで跳ぶ。空中で入り口付近……交戦している数名の駐屯兵の中から隊長らしき装備の人を視認する。


あの位置だと『風刃』じゃ巻き込むな。なら。

俺は空中で軽く軌道修正しつつ、腰のホルスターに収納していた、手の平大の真っ赤な円柱の棒を取り出し魔力を流す。



『で、選んだ武器は、槍だったね。剣だったらあたしでも教えれたんだけどねぇ』

『まあ剣でも良かったんだけど、せっかく貰ったもんだし使わしてもらおうかなと。便利だし』

『風の霊に限らず、『祝福』とはいえそんなボーナス、聞いたこと無いけどねぇ……』

『私も聞いた事がないわねぇ』

『まあ『異邦人ストレンジャー』ボーナスってとこかね』



 ごく少量の魔力で反応。瞬間、円柱の棒は俺の身長ほども伸び、一本の槍へと変化する。

 シェイルとマリアだけでなく、他の誰も知らないと言っていた、この魔具。俺はこれを『赤槍せきそう』と名付けた。シェイルは安直、と言っていたが。



『まあ槍と言えばクルスだからね。マリア、説明頼むよ』

『ええ。まずはそうね……タケフミさんは槍を扱った経験は無いのよね?』

『無いねー。子供の頃に棒っこで遊んだ程度?』

『じゃあ、槍の扱いに慣れるまでは、防御を主体として型を教えようかしら。それと並行して、魔術付与の練習。……といったところかしら?』

『そうだね。タケフミは見たトコ放出寄りで……身体強化は腕力っぽくないから。普通に武器を振るうより、クルスお得意の『魔装槍術』がいいだろうね』



 隊長らしき人と戦っていた奴、そいつに向かって槍を、切っ先で斬りつけるように振り下ろす。手から槍に魔力放出を流すように、槍全体、特に切っ先に纏わせる。


「『風槍ふうそう!』」


槍に付随したのは『風刃』と同程度の威力を持つ風の刃。非力な俺の攻撃を、魔術で威力を底上げするクルスの戦闘技法。血しぶきをあげて敵が倒れこむと同時に、俺は着地する。


「あ、あなたは……」

「シェイル・フォルツ麾下『異邦人ストレンジャー』元木武文!あなたが部隊長か!?」

「っ、は、はいっ!自分はバルア防衛0518隊隊長、フォスター・モブリン、です!」


 急に自分が斬り合っていた相手が倒れ、現れた俺にかなり戸惑っている。それでもしっかり返答するあたりよく訓練されてるな、と俺は思いながら言葉を続ける。


「数分でバルアのストラル小隊が到着する!現状の説明!」


 ゆっくり話をする余裕は無い。今一人を斬り捨てた俺に向かって「なんだてめぇは!」と近くにいた別の奴が斬りかかってくる。俺は槍でそれを弾きつつ、再度『風槍』で斬りつける。


「じ、自軍は分隊十名、村の自警団数名と合わせ二十弱、相手方は恐らく盗賊、四十はいるかと!」


 たー……やっぱ単純に倍か。スイレンの件で手薄になったのを狙ってきたってとこか。でも帝国正規兵じゃないだけマシか、これが作戦行動のうちならストラルの援軍だけじゃ手に負えなかったかもだし。


「村の中に被害は!俺達は、ここで発見された別の『異邦人ストレンジャー』に会いに来たのだが!」

「い、今のところは正門前で押し止められています!」


 隊長……フォスターとか言ったか、別の奴と斬り合いながら返答する。俺は戦いながらも、村の方を確認する。大きい堀に囲まれて続く道は一本道、入り口には大きい木製の扉。守るべき場所が分かりやすい。

不幸中の幸いだな、村の中まで入ってなきゃ三影マサはとりあえず大丈夫だろう。


「ミ、ミカゲ殿ですよね、フォルツ本隊に連絡を入れたのは自分だったのですが、っ、彼は、その……」


 その後続いた彼の言葉、それに俺は驚愕と共に強い焦燥感を感じた。



『まあ色々言ったけど、祝福の霊使いは訓練なんかしなくてもよっぽどじゃない限り一般兵相手じゃまず負けないよ。

 魔力の総量、魔術の放出、身体強化、各種バフ。得意傾向はあるとしても、どれも一般人の比じゃない。大概子供の頃に祝福は受けるけど、その子供ですら一対一サシなら熟練の兵士を倒せるからね。

 あんたも、初陣の時は帝国兵10数名、一人で圧倒したんだろ?』



 相手は正規兵では無い。なら頭をとれば統率がとれず制圧しやすいだろう。しかしすでに乱戦状態なってしまっている今、どこにいるかもわからない頭を探すよりこのまま戦線を維持して援軍を待った方が間違いないだろう。

 と考えていたのだが。


「ミカゲ殿は襲撃が始まってから、敵陣に飛び込んでいきました」


 恐らくあいつも俺同様。それでもとんでもない話だ、戦闘慣れしてないのに40からの相手に突撃するとは。

 こうなったら選択肢は無いな。相手の頭を潰して一気に制圧する。

俺の魔力探知に簡単に引っかからないところを考えると、盗賊の頭は霊使いではない。探索が難しいが、魔力の強弱のわずかな差。少しでも強い奴を目指して俺は敵陣に突撃した。


 敵味方。装備で識別し『風刃』と『風槍』で場をかき乱しながら進む。倒す、よりも動きを止める、を意識して。ある程度敵の体力を削れば味方が何とかするかもだし、そもそも全員相手にしていたら体がもたない。すり抜けるスキができれば十分。


 『風駆』を使っている時より劣るとはいえ、身体強化による速度で俺は悲鳴と怒号を置き去りにしながら前に進む。


 ……いた!多分あいつだ。他の奴より装備が良くて、数名の取り巻きに守られながらふんぞり返ってる奴。

 周囲に味方らしき兵はいない。さすがにここまでは誰も進めていなかったという事か、でも好都合。俺は全力で『風刃』を放ち、取り巻きを吹き飛ばす。


「!貴様……つ!」

「らあぁ!」


 突撃する勢いそのまま、『風槍』を纏った赤槍の切っ先で盗賊頭の喉元めがけて打ち付けるが、肉厚の剣の腹で防がれる。手に強い痺れを感じながら俺は思わず距離を取る。……『風槍』を防いだ?


「緑式……いや、霊使いか。ガキのくせに調子に乗るわけだな」


 こう、もさもさした動物の毛皮みたいなのを背負った鎧姿。ガタイもでかいが、手にしている幅広のでかい剣。……多分全部に魔防効果がついてそう、金かけてるな。


「……お前ら、盗賊って事でいいんだよな?」

「あぁ?それ以外何に見えるってんだ」

「いや、ならいいや、一応聞いただけだし。実際、加減しないで潰せるしね」

「はっ、ガキが言いやがる。……舐めてんじゃねぇぞ!」


 盗賊頭が叫ぶと同時に切りかかってくる。思っていたより速い!とっさに赤槍を構え斬撃を受け止める、と、軽く体を浮かされる。


「っ!ぐっ!」

「おら、どうした霊使いサマ!加減しないで潰すんじゃなかったのか!?」


 2撃、3撃、4撃。力を込めて振られる鋭い攻撃に防御に徹するので手いっぱいになってしまっている。

 そして、この状況で厄介なことに取り巻きどもが起きてきた……が、ニヤニヤしながら、ヤジを飛ばしながら見ているだけだ、頭サマが戦っているから手を出す必要が無いって事か、舐められてるなぁ。

まあこっち的には好都合だが、盗賊頭の猛攻に手が痺れてきた、このままじゃマズいな。

 どちらにせよ真っ当に槍で勝つのは今の俺じゃ無理だ。こっちに来てから数戦経験しているとはいえ、武器の扱いはまだまだ駆け出し。どちらにせよ魔術で攻撃するしかない……が。

 俺は後ろに大きく飛び退き。


「『風刃』!」


 斬撃の威力を上げる、風の刃を圧縮、一人分ごく局所的なサイズ、それらをイメージしながら左腕を振る。盗賊頭に向かって飛ぶ風の刃、だがそれを奴はこともなげに剣で切り落とした。


「効かねーなぁ!」


 そのまま突撃してくる盗賊頭。やっぱダメか、とはいえわざわざ剣で切り落とすところを見ると、鎧はそこまで魔防効果が無いな。なら。



『ああ、そうだ。魔術はいくつか使い分けをしておいた方がいい。祝福の魔力総量がいくら多いからって、戦場だと一対一、一対多数の戦いが何回続くかわからないから、余力を残すことは大事だよ。

 低威力でも連続で使える、近接と遠距離、魔力消費が激しくても高威力な術、って感じでね。高威力なのは魔力防御を高めてる奴でも力づくでねじ伏せるぐらいのイメージで』



 盗賊頭の攻撃が激しさを増す。こっちに攻撃の手が無いと思っているのか、防御を考えない大振りの攻撃。好都合。

 当たらないように避けるのはそれほど難しくない。一瞬だけ『風駆』を使い、袈裟懸けの斬撃を避け盗賊頭の後ろに回り込み、鎧のあたりに右手を当てる。……まあ手を当てなくても打てるけど、より術の威力を奴の体中に浸透させるイメージの為にね、モーションは大事。

 低威力連続近接仕様の『風槍』。低高使い分け遠距離の『風刃』。そして近接専用、高威力の。


「『風牙ふうが』」


 瞬間、上下2本ずつ、計4本の高威力の斬撃を纏った風の刃が、上下から噛みつくように盗賊頭の鎧を砕き、体を穿つ。


「がはっ!」


 血を吐きその場に膝をつく盗賊頭。ぞくり、と全身に一瞬悪寒のような嫌な感覚が走ったかと思うと、一気に倦怠感が襲ってくる。魔力を出しすぎた。回復までと、俺は盗賊頭に赤槍の切っ先を向け少し距離を取る。


「……降伏しろ。その体じゃもう戦えないだろ?」

「……ぐっ……くくっ、すぐに殺せばいいだろうが、……っ、遊んでるのか?舐めやがって……」


 いや、魔力の使い過ぎで止め刺させないだけです。とは言えずに俺は無言で盗賊頭に圧をかける。魔防効果があるって意識しすぎたのが悪かったか、余計に魔力を込めすぎてしまった。出力過多で体がおかしくなってるだけだからすぐに回復するだろうが、落ち着くまでは魔術が正確に使えるか怪しいな。


 閃光。

盗賊頭の背負っているもさもさがカメラのフラッシュのような強い光を放つ。瞬間、膝をついていた盗賊頭の体が掻き消えるように、俺の真横に俺の真横にずれる(・・・)

 光に気を取られてすぐに体が反応しなかった。盗賊頭がすでに横薙ぎのモーションに入っている、見えてはいるが対応しきれない。俺は焦りながらも赤槍を動かすが間に合わない!


 びしゃ。と鮮血が俺の顔にかかる。振り切られた盗賊頭の腕、が、無い。


「……はっ?」


 間の抜けた盗賊頭の声、それが奴の最後の言葉になった。次には奴の首が消える。体がゆっくりと崩れ落ち、少し離れた位置に転がった首を見た盗賊達の悲鳴が響きわたる。


 何が起きた。混乱しながら体勢を整えようとした俺だが、無理に動こうとしたせいで頭がふらつく。ゆっくりと前を見ると、そこには。


 血まみれの三影マサがいた。


 怪我を……と俺は焦るが、違う。あれは全部返り血だ。右手に持っている剣……いや、刀か?あれで戦ってきた結果か。それにしても簡素な胸当てを一つつけているだけの恰好で、よく近接戦をやってきたもんだな。


三影マサは俺の方を見ると、刀の血を落としながら俺に近づいてくる。そう、血を落とす、刀の根元からするりと、水が零れ落ちるように綺麗に落とす。普通ではありえない現象だ、まるで魔法のように。


「……大丈夫か?武文」


 学校で話していた時と変わらない様子で話しかけてくる三影マサ。先程の光景、今の姿とのギャップを感じて、俺は何とも言えない感情が沸き上がる。


「……お前も……そうなのか?」


 俺の言葉に三影マサは少し首を傾げるが「ああ」と軽く返事をして俺に手を当てた。淡い光が俺の体を包む。霊使いの使う独特な回復術だ。


「あ、す、すまん。俺は大丈夫だ、体は何でもない」

「……そうか?」


 大分混乱していたみたいだ、心配そうに俺を見る三影マサから離れ、俺は周りを見渡す。


 盗賊達はすでに戦意を失っていた。取り巻きは真っ先に逃げ出していたし、盗賊頭がやられた事が徐々に伝達されていっているのだろう、敵全体がまばらに後退し始めている。

追うか……と一瞬考えたが、遠目に視認できる位置にストラルの軍が見えた。後は放っておいても奴らを制圧してくれることだろう。


……疲れたな。体は回復してきているからまだ戦えるが、こう、大の件からこっち、情報量がエグい。三影マサもただ迎えに行くだけで済むと思ってたんだけどなぁ。


「……まあ、久しぶり?なんかちょっと落ち着いたらさ、色々と聞きたいことも話したいこともあるんだけど」

「ああ」


 俺の言葉に言葉短かに返答する三影マサ。そっけないともとれる態度、こいつは中二の冬に転校してきてからずっとこんな感じだ。もともと口数が少ないのに加え女子受けする中性的で端正な顔立ち。転校当時はイケメン滅ぶべし、と良と一緒によく言っていたが、今ではよく三人でツルんでるから、わからないものだ。


「……タケフミさん!」


 すでに到着した部隊員たちが周りの盗賊達を制圧している中、俺を呼びながらストラルが駆け寄ってきた。戦闘終了だな。俺は槍を腰にしまうと、軽く手を上げて……そのまま動きが固まる。


 ストラルの後ろに、表情の固まった大がいた。


 何だってそんな表情してるのか……と疲れた頭で考えたが、すぐにその原因に思い当たる。

 今の俺たちの姿。周りの状況。


 ああ、そういえば俺、連合軍に参加してるって話、大にしたっけ?


「何を……しているんですか?」


 俺と三影マサの姿をぎこちなく見比べながら、絞り出すような声で大が言う。

 これは……説明が面倒そうだ。先の事を考え、俺は体の疲労感とは別の疲れを感じながら、頭を抱えた。


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