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Strangers Story ~僕たちの546日間戦争〜  作者: めだか東一郎
第一章 邂逅
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一節 霞大

挿絵(By みてみん)

『    』


 ……色々な音が聞こえていた。音、というより声?色々な景色、場面が次々に入れ替わって映像として流れる……見覚えがあるような無いような、そんな映像。そして、一つのはっきりと聞こえた声で、僕は目を覚ます。


 ぼーっとした頭で僕はゆっくりと体を起こす。体に掛けてある薄手の布団をよけながら、今まで見ていたモノを思い返す。……夢?だいぶリアルな夢だったな……それにしても、頭が重い。かなりしっかり眠っていたようだ。……もう朝かな……もうじいちゃんは朝ご飯を作ってるのかな、最近は洋食に凝ってるみたいだから主食はパン系ばっかで、朝はご飯派の勇や健に不評だよな……かく言う僕は朝はパン派なので満足……と、まどろみが覚めてくるのに伴い、焦りが僕の中で大きくなる。


 ……見覚えの無い部屋。自室でもなければ、まして学校の保健室でもない。……ここはどこだ!


跳ね起きるように体を起こ……そうとしたところで強い眩暈がした。……急に動いたからか……すぐには動けそうにない。……無理をしないで、今の状況を確認しよう、と眩暈が収まるのを待ちながら、ゆっくりと周りを見回す。


ベッドの中で寝ていた……のはいいとしても……多分6畳程度の広さ、少し古めで簡素な造りの、最低限の家具しかない殺風景な部屋。……自分の部屋どころか、旅館やホテルでも見た事の無いような、古い?というか、独特な造りの室内。これは……そう、そうだあれだ、西部劇で出てきそうだったり……RPGゲームの宿屋の一室のような。


まてまてまて。混乱しているぞ、僕。……そもそもさっきまで何をしていたか、思い出してみようか……、……そう、確か今日は夏休みだというのに学校祭の準備をすると友達何人かと誘い合わせて学校に行って……クラスの出し物をサボって部活の個人的屋台を組んでる最中に疲れて昼寝して……勇が、武文君が呼んでると起こしに来て仕方なくクラスに戻って、それで……。


ガチャ。


「おー、本当に起きとる。……何やってんの、お前?」


 不意に開かれた扉にとっさに布団に隠れた僕。だけど聞こえてきた声が聞き慣れたものとすぐに気付き、おそるおそる布団を下ろし声の主を確認する。


「……武文君?」


 そう、そこにいたのはクラスメイトである元木もとき武文たけふみ君。


「目、覚めた?気分どう?体痛いとか気持ち悪いとか、そんなの無い?」


 気遣いの言葉を僕にかけながら手近の椅子をガタガタと動かし、どしっ、と大きな音を立てて座る。そう、間違いなくその彼、だが……服装がおかしい。確かに僕達のクラスでやる出し物はファンタジーな劇であったが……あまりに普通に着こなしているその服装は明らかに、舞台の衣装ではなく、その、なんというか、造りがしっかりしすぎているかというか。


 そして、もう一人。彼の後ろについて入ってきた男性、年齢は僕達よりも少し上のお兄さんに見えるその人は、金髪に……鎧姿?その姿は完全ファンタジー、だし、コスプレにしては造りがしっかりしすぎている、ような。


「……いえ、まあ特に、大丈夫ですけど……」


 そんな二人に驚きを感じながら、僕はおざなりに返答した。実際、時間が経ったからか、驚いているせいか先程感じた眩暈は治まっている。そんな僕の状態を見てか、武文君は苦笑する。


「……あー、まあ言いたいことは何となくわかるけどね。まずは落ち着いて眼鏡でもかけようか」


 武文君はそう言って、ベッドの横にある棚らしき木箱の上から、僕が普段から愛用している眼鏡を取り、手渡してくる。ああ、寝ていたんだからそりゃ外しているよな、と思いながら僕は眼鏡をうけとり、かける。まあ、無くても別に困らないのですが。


「とりあえず……、まずそうだな……お前の名前と、身分……ってかそうか、……あー……、自分の名前と、学校、学年年齢、その辺、言ってみようか?」

「……はい?」

「いいから言えって。なんだ、ほら、あれだ。記憶ソーシツの検査とか、そんなの」


 唐突にわけのわからないことを言った彼に対し僕はだいぶ訝し気な表情をしたのだろう、武文君は苦笑いしながら言葉を続ける。


「いーから早く言え、ほれ、早よ早よ。言えなかったら、なんかヤバい検査とか実験とかされるぞ」


 めちゃくちゃな事を言いながらやけに急かしてくる彼に、ため息をつきながら僕は一字一句、はっきりとした口調で答える。


「……かすみだい。旭東中、3年B組、14歳」


「……ああ、うん、良し」


 何が良しなのか。意味が分からない。


「何なんですか、一体……というより、彼は誰ですか?ここは一体……」

「ああ、待て待て。聞きたいことが山とあるのはわかるし、わけわからんくて混乱してるのもわかる。それはゆっくり説明するけど、先にこっちのが急ぎだ」


 僕の疑問を遮って武文君が言葉を続ける。その手にはいつの間にか、紙切れとペンのようなものが握られている。


「お前がこっちに来た……いや、はっきり覚えてる範囲でいいから、最後に一緒にいたやつ……屋上に一緒に行った奴はいるか?」


 なんか、新聞部の取材とか、そんな感じだな……と頭の端で思いながら、僕は武文君の言葉に頭を動かす。


 覚えている範囲で最後に一緒にいた……いや、屋上で、一緒に?


 屋上。


その言葉で一気にあの時の事が脳裏に蘇る。

 そうだ。そもそも僕がここにいる前、いや、目覚める前にしていた……目覚める前にあった事は。


 徐々に思い出す、屋上で起きた、あの異常な出来事。そう、あれは……でも、先に……。


「……佐乃崎さのざき君、加川かがわ君、そして角田かどた君、ですね」

佐乃崎かいちょー加川ふくかいちょーに……あれ?お前、角田と接点あったっけ?クラスも小学校も違うよね?」

「部活の出し物が合同だったんですよ。ほら、剣道と卓球、どっちも人数少ないですから」

「……あー、そういやそうだっけ……、まー例年……なんか部員不足の……卓球部は、どうとして……剣道の方はお前、後輩しごき……すぎて、めっちゃ減ったんだったっけ……」


 人聞きの悪い嘘を言いながら、武文君は紙切れに何かを書いている。そして、書き終えたそれを、後ろを向いて金髪のお兄さんに差し出す。


「すまん、ストラル。三人追加で頼む。大への紹介は後で」

「はい、わかりました。ではまた後で」


 金髪のお兄さんは丁寧に一礼し部屋から出ていく。何か、動きがとても優雅な気がする。それを見送った武文君は再び僕の方を向く。


「さて、じゃあ説明タイムといくかな。どっから話したもんか……」


 武文君が僕の方に向き直り腕を組みながら悩むそぶりをする。……僕は僕で思い出した事を話したい衝動に駆られるものの、そんな武文君の様子に口を挟むのを躊躇う。


武文君は少し唸ったのち。


「まあ、ここからかな……」


口を開く。


「ここはカリシュス。異世界、カリシュスの、バルア王国。にある、村の一つだ」


「……カリシュス……異世界……」


 正直、僕には武文君が言っている言葉がすぐに分からなかった。あまりに馴染みの無い、予想外の事を言われると、思考がフリーズする、というのはこういう事なんだな、と思う。

けれど、彼の服装に、ここの部屋の様子、そしてあの金髪のお兄さんの恰好。徐々に理解し始める、これは、漫画や小説で馴染みのある……。


「……異世界召喚!」


 理解した時の衝撃と興奮。そのままに僕は声を上げた。


「剣と魔法の世界!チート能力!異世界無双!」

「……やー、まあ、全部が全部否定はしないけど……異世界召喚ねー。そんないいもんじゃ……どっちかっていうと……異世界拉致、監禁って感じ?」


 世界中の中二が夢にまで見る異世界召喚。それが僕の身に、やっほい!と興奮する僕を、困った表情で見ながら武文君が、やけにテンションの低い口調で口を挟む。……またなんとも物騒な単語が。


「……拉致監禁されているんですか?僕は」

「いや、今は違うけど。そうなりかねなかったというか……」


 そんなやり取りの中、無造作に部屋のドアが開かれる。さっきの金髪お兄さんが戻ってきたのかな?とそちらに目を向けると、今度は。


「おや、起きたみたいだね」


 金髪お姉さんが部屋に入ってきていた。


 肩口まで伸びた金髪に整った顔立ち。結構、いや、かなりの美人。先程のお兄さんもなかなかかっこいい人だったが、この金髪お姉さんの方が格段に美人。身に着けている服も、なんというか、貴族風というか。装飾の施された上質そうな衣装、を身につけた美人。まずい、変に緊張してしまう。


「で?タケフミ、話はどこまで?」


 そんな金髪お姉さんの登場に、なぜか武文君は頭を抱えていた。何か困っているような、苛ついているような、傍から見ていると面白い複雑な表情をしていますが……なんでしょうか?


「……あー、えーと、まだカリシュスとバルアのくだりだけ。……ってか、作戦直前でしょ?なんでまた来ちゃうかな、時間無いんじゃないの?」

「悪かったね、あたしだってまあ気になるから、直接見ておきたいさ」


 やけにフランクに話す武文君と金髪お姉さん。彼も美人耐性は無いはずだけど……やけに慣れているというか、とても親し気に話している。


「で、どうだった?体調に変なところとか……ちゃんと受け答えできたかい?」

「……とりあえず、こいつは俺の良く知っている、霞大君デス」

「……そうかい。じゃあ、あたしも自己紹介といくかね」


 そう言って金髪お姉さんは僕に近づき手を差し伸べる。うう、緊張する。


「……初めまして。あたしはシェイル・フォルツだ」

「は、初めまして。かすみ、だいです」


 静かに微笑みながらしっかりと、それでいて柔らかく握られた手。対して、僕はがちがちに緊張しているのが伝わったのだろう、その緊張を和らげようとしてくれたのか、ニッ、と満面の笑みを浮かべると、シェイルさんは空いた手で僕の肩をバンバンと叩く。


「あっはっは。そんなガッチガチに緊張しなくて大丈夫だよ。口調もそんな丁寧じゃなくていいからね、普通に喋りな」

「いえ、僕のこれは癖みたいなものでして……」


美人な見た目に反して、言動や立ち振る舞いはおおざっぱというか、大分豪放な感じだ。武文君がフランクに話すのもよくわかる。


「じゃあダイが大丈夫だってことも分かったし、会ったばかりで悪いけど、あたしは野暮用があってね。また今度ゆっくり話すとしよう」


 そう言いながらシェイルさんは手を振ると、踵を返し部屋の外へ向かう。


「じゃあタケフミ。後は頼んだよ」

「……はーい」


 部屋から出てドアを閉めたシェイルさんに気のない返事をしながら武文君は軽く頭を抱えていた。まあ、それも何となくわかる。シェイルさんと言った彼女、その動きや言動から嵐が来て去っていたような、そんな感覚を覚えなくもない。


「……えー、っと……どこまで話したっけ?」

「あー、異世界とかカリシュスとか、その辺、ですかね」

「そうだ、ほんのさわりだけだったな。……で、それで……」


 と、静かになって会話再開、といったところで、再びドアが開く。なんか、忙しない。


「すみません、タケフミさん。急ぎです」


 そこには金髪お兄さんが立っていた。戻ってきたみたいだ。再び話を中断された武文君は疲れたような、露骨に嫌そうな顔をしていたが、金髪お兄さんは、そんな武文君を気にせず言葉を続ける。


「探している方の一名が見つかったと報告がありました。ただ場所が問題で、スイレンの隣の村です」

「見つかったか!やー、長かった……!」


 金髪お兄さんの言葉に、武文君は一気に表情を明るくさせた。……が、すぐに怪訝な表情をする。


「……ってー……すいれん?……、……って、そりゃマズいな。すまん、ストラル。すぐ出れるか?」

「はい。シェイル様に報告し、私の小隊を動かす許可を頂きました。レイカーも1基借り受けましたので、すぐに出立できます」

「よし。じゃあ……すまん大。話の続きは移動しながらするわ。動けるか?」


 そう行って武文君が僕の腕をつかみ、ベッドから体を引き上げる。なにか話がぽんぽん進行して、軽くついていけないですが……。


「ととっ。まあ大丈夫ですが……」


 体が少し重い感じがしてよろけるものの、問題なく動ける。気分的にはすっきりしているものの体の動きが鈍い。結構長いこと寝ていたのかもしれない。


「あれ?服……」

「ああ、学ランは汚れてたから洗ってもらってる。とりあえず急ぎだから、ついてきてくれ」


 いまさらながら気づいた、僕が来ている服は見覚えのない、武文君の着ている物と似た感じの簡素な服だった。それに気を取られている間に部屋の外に出た二人を、僕は慌ててその後を追う。


 部屋の外は開けた、吹き抜けのある二階。総木造っぽい造りの、回廊のようになっている廊下を通り、階段を下り、食堂のような広間の先にある、西部劇の扉のような扉を開いて、外に出る。そして。


 異世界。もし武文君の説明が無くても、一瞬で感じただろうその風景。その風景に、僕は脳裏をガツンと揺さぶられるような強い衝撃を感じた。


 強い日差し。雲一つない空。太陽が真上にあるにもかかわらず、空がうっすらと赤い。青空、ではなく赤空、とでも言うのだろうか……世界が違って見える。違って見える……のだが、これは。


 ……建物から出たそこは、閑散と開けた広場。といった感じで隣接する建物はだいぶ離れた位置にある。が、人の数がやけに多く、そして皆何か活動中なのか、かなり騒がしかった。だがその喧騒、今の僕にとっては遠くぼやけて感じる。


 脳裏の衝撃と共に、蘇った言葉。それが今の僕の頭をいっぱいにしていた。


「おーい、大。ちょっと急ぐぞ、はぐれないようについて来いよー」


 武文君の呼びかける声に僕は、はっ、とすると、二人を見失わないよう、再び慌てて二人の後を追う。

 人や物の間をすり抜け、歩きながら僕は混乱していた。何故。それしか考えられない。そう。目覚めるきっかけになった、あの言葉。あの言葉は、はっきりと、こう言っていたのだ。



『おかえり』



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