序
様々なざわめき。雑談や互いに鼓舞しあう会話。鎧や服の擦れ合う音。各隊が連絡しあう声。
季節的には、春先に近いだろうか。城の門前であるかなりの広い空間、普段なら涼しげな風が吹き抜ける心地よい空間なのだろうが、今は凄まじいといえるほどの緊張感を含む熱気に覆いつくされている。
城攻めとはいえ、これだけの部隊を見るのはやはり壮観だ。前に見たのは……ルヴの時は不参加だったから、ティルムの時以来だろうか?『その時よりゃ人数少ないぞ』と誰かに言われたような気がするが……。確かに今回は2万程度の、城攻めとしては決して多くない兵数。だけど、この戦いは決して1人の死者を出す事を許されない、殲滅戦。皆それをわかっているからこその、憤り、悲哀、決意。そんな様々な感情が入り混じった、張り詰めた緊張感。それが分かるからそ、僕の握る拳にも自然と力が入る。
『うおーい。突入組、準備できたぞー。いつでもいけるぞー』
そんな中、気の抜けたような声が聞こえてきた。張り詰めていた僅かに空気が緩んだような気がした。
通信道具から発せられたその声を皮切りに、各部隊から準備完了の報告が続々と上がってくる。
「……よし」
それが一通り終わると、今まで一言も発せず誰よりも重い空気を発していた、総司令官であるサレス王子が腰を上げた。全隊から見える、幾分か高い場所に設けられた本陣。その縁に立つと、今までのざわめきが一瞬にして、しんっ、と静まる。
「皆、今までこの大変な戦争をよく戦い抜いてくれた」
戦闘前の鼓舞を兼ねた短い演説。それを聞きながら、そっと握られてきた手の感覚を僅かに感じながら、僕も今までの事を思い返す。
僕たちがこの戦争に参加したのは、1年と半年。
辛いことがあった。苦しいことも、悲しいこともあった。死にそうになるような場面も幾度となく。
けれど決して忘れられないあの日々を。
「……全軍、進撃!」
それは、あの日から始まった。