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スターマイン

「ビーネ、止まれ」


 国境の橋を渡り、クリーグ側に入国してからすぐに、ヴィーネウスは空気の変化に気付いた。

 ビーネも何かを察知したのか、おとなしくヴィーネウスの背に隠れている。


「逃げたければ逃げてもいいんだぞ」

「さっきから私を馬鹿にしているの? あなたは」


 ふん。


 この調子なら心配ないなとヴィーネウスはいつもの癖で鼻を鳴らすと、彼は気配に対し身構えた。

 

 やがてそいつらは姿を現した。

 人数は十数人であろうか。

 それぞれがそれなりの武装をした、森林族(エルフ)岩窟族(ドワーフ)で構成された一団である。

 

平原族(コモン)男と森林族(エルフ)娘の組み合わせとは珍しいこった」

 頭目とうもくらしい男は言葉を続けていく。

「いずれにしろ、有り金と娘は置いていってもらおうか」

こちら側(クリーグ)では、コモンもただのヒトに過ぎないからな」

「面倒くせえから男はとっとと()っちまおうぜ。娘はその後じっくり楽しませてもらってから、奴隷窟(どれいくつ)にでも売り飛ばせばいい」


 連中から伝わる聞くに堪えない会話からも、こいつらが何者なのか推測できる。


「ふん、イエーグの犯罪者どもか」

 小馬鹿にしたようなヴィーネウスの反応にも、彼らは動じない。


 彼らの一人が、「ご名答」と返事を返してきただけ。


 まあ、ここでヴィーネウスの挑発にいきり立つような小物ならば、賞金稼ぎがうろうろしているこのエリアでは命がいくつあっても足りないであろうが。

 

 軽口を叩きながらも、盗賊どもはヴィーネウスたちを囲んだ円を、歩を合わせながら徐々に小さくしていく。

 それは決してヴィーネウスを舐めた動きではなく、どちらかというと、リカオンの群れが集団で大型草食獣を狙うような、用心深く、確実に獲物を狩る動作を思わせる。

 それは彼らがチームワークに長けた熟練の戦士だということを示している。

 

「ヴィーネウス、どうするの?」

 さすがのビーネも、この状況ではヴィーネウスの背中にすがるしかない。

 

 魔槍(マジックスピア)で撃ち落とすには数が多すぎる。

 炎撃(ファイアバレット)では止めを刺しきれない生き残りが突っ込んでくるか。


 さて、どうしようかと、ヴィーネウスは徐々に縮まる円の中で再び身構える。

 すると彼の動きに合わせて賞金首たちも位置の微調整を行っていく。

 

 やっかいだな。


 間もなく賞金首の一人が持つ長槍(ロングスピア)の間合いとなる。

 双方に緊張が走る。


 ところが、突然ヴィーネウスの正面に立っていた頭目であろう男の首が、真っ赤な血飛沫ちしぶきで軌跡を描きながら、高く打ち上げられてしまった。

 突然のことに、賞金首どもの視線は打ち上げられた頭目の首に持っていかれてしまう。

 

 その一瞬の隙に、ヴィーネウスの背後にいた数人の賞金首は、心臓の位置をヴィーネウスが放ったマジックスピアに貫かれ、瞬殺されていく。

 さらに次々と賞金首どもの首が、ハルバードの巻き上げる一閃により、文字通り打ち上げられていく。

 

 ほんの数秒後、国境付近の、街道と言うには粗末な道が、大量の鮮血に染まっていった。


「貴様の獲物を横取りしてしまったか?」

「いや、俺は賞金稼ぎではないからな。正直助かった」

「その割には後ろの連中も、顔をつぶさず心臓を一突きにしておるがの」

「それはまあ、あんたたちへの礼みたいなもんだ」


 二人の前に現れたのは、賞金稼ぎダンカンと、その一味だった。


「で、貴様の獲物はその娘か? ずいぶんとなついているようだが」

「まあな」

 するとそれまでヴィーネウスの背に隠れていたビーネが、ダンカンの前にひょっこりと顔を出し、彼に笑顔を向けた。


「さっきの首が打ち上げられるさまは、連射花火(スターマイン)のようでしたね」


 ……。


「どうしたダンカン?」


 ……。


「どうしたんですかい? 親分」


 ……。


 ダンカンはヴィーネウスの疑問にも手下どもの呼び掛けにも答えない。

 ただただ彼は目を見開いて、ビーネを見つめ続けている。


 ダンカンの表情が持つ意味に気づいたビーネは、再びヴィーネウスの背に顔を隠してしまった。

 顔を真っ赤に染めながら。


 その後、ダンカンの手下どもが盗賊どもの賞金首を切り落とし、保存が利くように血抜きをしたり、身ぐるみを剥いだりしているところを、ビーネが興味深そうに覗きこんでくる。


「なんだい娘さん、興味があるのかい」

「ううん、皆さんの手際がいいなって感心していたの」

 ビーネの率直な感想に手下どもは素直に驚いた。


 こういった状況では、首を落とす行為への嫌悪感、死に対する恐怖などが先行するものなのだ。

 なのでまさか手下どもは、この場面で自らの手際について感心されるとは思ってもいなかったのである。


 続くのは手下どもの感嘆と笑い声。


「大したもんだな娘さんは」

「さっきのスターマインってさ、親分の二つ名にパクらせてもらってもいいかい?」

「構わないわ。スターマイン・ダンカンさんね!」


 いつの間にか、森林族の娘は岩窟族の野郎どもと打ち解けていったのである。

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