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おっさんどもの出会い

 覇王によって十字に(えぐ)られた大陸。

 その名をシュタルツヴァルト大陸という。


 この大陸に伝えられる歴史においては、大陸が十字に切り裂かれた「刻印の日」以前を「混沌の時代」とし、以降を「規律の時代」とされている。


 覇王が表舞台から忽然こつぜんと姿を消した後、不自然な二本のクレバスにより四つに隔たれた大陸は、それぞれを覇王直属の部下であった四人が、己の思うがままに治め始めた。

 そして今、皮肉なことに規律の時代は混沌を迎えていた。

 

 大陸の北東に位置する、剣の王国「クリーグ」

 この国は覇王の剣士が初代の王に即位したのだが、当時から現在に至るまでの治世は、非常にわかりやすいものである。

 表向きは立憲君主制なのではあるが、憲法は次の二箇条のみで構成されている。


「全人種は等しく納税せよ」

「王に逆らうべからず」


 要は「王家に金を払って(こうべ)を垂れときゃ何をやってもよし」ということなのだ。

 

 このような治世のため、王家は時に野心を持つ貴族に利用されて傀儡(かいらい)となり、時には暴君が現われ、貴族階級に対し大粛清を行ったりと、大荒れの歴史を(つむ)いでいる。

 

 一方平民にとっては、とりあえず一人頭(ひとりあたま)の税金を納めておけば、種族に関わらず、誰もが法の庇護(ひご)に入ることができる。

 ようするにクリーグには種族による不平等が存在しないのだ。


 なのでこの国は結果的に様々な種族が入り乱れ、平民の間では混沌としながらも効率的な社会システムを自助的じじょてきに構築して行くようになった。


 クリーグ国民の合言葉。

 それは

「よその国に比べりゃ天国」


 そう、他の三国に比べれば、この国はまだマシなのである。


 それは過去の話。

 ヴィーネウスはクリーグと、その西に位置する国「イエーグ」の国境周辺を探っていた。

 目的は、とある貴族に売り飛ばすために、上玉の森林族(エルフ)娘を仕入れること。

 

 この辺りはもともと北側一帯が森林族(エルフ)の土地であり、南側一帯が岩窟族(ドワーフ)の土地であった。

 隣接する異種族が仲良くできるわけもなく、エルフとドワーフは小競り合いの歴史を繰り返してきた。


 ところが刻印の日以降、両族の土地は縦に分断され、彼らは「クリーグエルフ」「イエーグエルフ」「クリーグドワーフ」「イエーグドワーフ」の四部族に大地ごと分かれてしまう。


 その後何度か繰り返された「クリーグ・イエーグ戦争」では、エルフたちやドワーフたちは常に最前線へと、その身を(さら)された。

 その結果、彼らは同族同士、東西でも対立し、憎しみ合うようになってしまったのである。

 

「おい貴様、何をしておる」

 不意にヴィーネウスは背後から尋問を受けてしまう。


 こいつは相当の手練(てだれ)だな。

 

 ヴィーネウスとて腕に自信がないわけではない。

 ならばこそ、こうも簡単に背後を取られたということは、相手の力量は相当なものだと冷静に判断できる。

 ヴィーネウスはその場で両手を掲げると、背後の相手を刺激しないように、ゆっくりと振り返った。

 

 ヴィーネウスを呼びとめたのは、岩窟族(ドワーフ)の戦士だった。

 燻銀(いぶしぎん)の重鎧に包んだ、達磨のような丸い身体に髭もじゃという、典型的なドワーフ顔に、身長の二倍はあろうかという物騒な長柄槍斧(ハルバード)をヴィーネウスに向けて構えている。


「なんだ、平原族(コモン)がこんなところで何をしておる」

 不躾(ぶしつけ)な態度のドワーフだが、ヴィーネウスは気にもしない。


「貿易だ、イエーグまでちょっとな。それより貴様こそ、そんな物騒な身なりで戦争でもおっぱじめるつもりか?」

 そんなヴィーネウスのふてぶてしい切り返しに、ドワーフは相好(そうこう)を崩した。


「わしの姿を見てもびびらんとは、肝の据わったやつじゃの。気にいった」

 続けてドワーフはハルバードを左肩に預けると、ヴィーネウスに右手を差し出した。

「わしの名はダンカン。小遣い稼ぎに、越境してきた賞金首のイエーグドワーフどもを絶賛皆殺し中だ」


 ヴィーネウスもダンカンの手を握り返す。

「俺はヴィーネウス。そりゃご苦労なことだな」


 国境を挟んで憎み合っている各部族ではあったが、戦争でもないのに年がら年中無差別に殺し合っているわけでもない。

 それどころか、各部族で手配書を交換し、イエーグに逃げたクリーグの賞金首と、クリーグに逃げたイエーグの賞金首の情報を互いにやり取りすることによって、それぞれのガス抜きとビジネスを両立させているのだ。


 こうして二人は何事もなく別れた。


 二人の背中それぞれに、冷汗を流しながら。

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