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権力者どもの昼食

 (うらや)ましい。

 

 クリーグは、王家の方針で貴族の扱いがコロコロと変わる国である。

 なので各貴族は王家の生贄(まと)にならないように、互いに牽制しあう一方で、利害関係が一致すれば、いくつかの家同士で王族の一人を中心に結束を深める場合もある。


 そう、いわゆる「派閥」を組むのだ。

 今ここに揃っている三家が、まさしくそうであった。

 

 きっかけは数年前に起きた、民族同化大臣を任されていた有力貴族が私邸で斬首された事件。

 もう一つは、愛妾と出奔したとまことしやかに囁かれている、経済担当大臣を任されていた、これまた有力貴族の失踪事件。

 

 これらの事件により、同時期にローゼンベルク家は民族同化大臣、ヴィッテイル家も経済担当大臣を任されることになった。

 その少し前には、前任者の不祥事により、ログウェル家が新たなクリーグ軍の総司令官職を任ぜられている。

 その結果、ほぼ同じタイミングで重職を担った三家の主は、急速に接近したのである。


 彼らが神輿として担いだ王族は、先王の弟。

 彼は現王の叔父にあたるが、本人はすでに王位継承権を自ら返上し、趣味に生きている。

 それもまた、万が一にも王に粛清されないための王族の中では保身の一つなのだ。

 

 今日は、神輿と担ぎ手が揃い、午餐(ランチ)を楽しむ名目となっている。

 実際には、趣味人の先王弟を囲みながら、クリーグの政情について、生々しい情報交換を行う場であるのだが。


「旦那さま、こちらも美味しそうよ」

 先王弟が、枯れたとはいえ威厳を感じさせる表情を崩し、隣席に座る白羽の女性から差し出された串を口に含んだ。


「うむ、うまいなオデット」

 優しげな表情の白鳥に向けて、先王弟は満足げな表情を浮かべ、二人の世界をこしらえてしまっている。


「おい、これは旨いぞ。ウルフェ、お前も食べてみろ」

「は、司令官殿」


 ログウェル卿を守るように彼の背後に立つ白銀の女性が、ログウェルから向けられたフォークを口に含む。

「おいしゅうございます」

 狼娘は規律を保ちながらも主の命に従い遠慮がちに咀嚼し、ログウェルはそんな彼女の表情を楽しんでいる。


「リラ……、ごほん。リルラージュよ。それをとってくれるか?」

「はい、お義父さま」


 ローゼンベルク卿が「それ」と曖昧な表現をしたにも関わらず、彼の隣に腰掛ける少女は、大皿から料理を的確に小皿へと取りわけ、流れるようにローゼンベルク卿の口元にスプーンで運んだ。


「おうおう、美味じゃ。リルラージュ、お前も楽しむがよい」

 かいがいしく世話をする少女が交互に見せるあどけなさと妖艶さに、ローゼンベルクは普段の威厳もどこへやらとばかりに相好を崩し切ってしまっている。

  

 円卓を囲むのは七名。

 先王弟と彼の側室。

 ログウェル総司令官と彼直属部隊の隊長。

 ローゼンベルク大臣と彼の養女。

 

 そしてヴィッテイル卿。

 

 彼の脳裏に、現在は息子の世話係であり、将来は側室の一人になるであろう蛇族(ラミア)の女性が浮かんだ。

「いやいやいやいや……」


 一人左右に首を振っているヴィッテイル卿の様子に気付いたオデットが、それとなく先王弟に合図を送った。

「どうしたのだ? ヴィッテイル卿」

「いえ、何でもありませぬ」

「そうか?せっかくの料理なのだ、卿も楽しむがよい」


 オデットに促されヴィッテイル卿の様子に気付いた先王弟の問いを、ログウェル卿ははぐらかすしかなかった。

 息子の想い人を借りてくればよかったなどと思い至ってしまった自分を恥じて。

 しかし羨ましい。


 この日の午餐は平穏に終わった。


 多分。

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