【76】学園の寮
【76】学園の寮
転移で兄二人とセシルとクレイを引き連れて寮に着くと、クリスとマリアが待ち構えていた。
「あ、来たわねー。エルー!」
「マリア、改めて今日からよろしくね」
「こちらこそよ」
二人で両手を取り合い挨拶を交わしていると、横からクリスが「僕もよろしくね」と口を挟んできた。
よろしくの意味を込めて親指を立てると、クリスも親指を立てて笑顔を見せた。
ひと足先に寮に来ていたマリアが、私の部屋は自分の部屋の隣りだから案内してくれると言い全員で部屋へと向かった。
「こっちが私の部屋で、このすぐ隣りがエルの部屋よ。ちなみにクラスも同じだからね」
と言いニヤっと口角を上げるマリア。
きっと部屋割りとクラス分けに親の権力を使ったのだろうと察しがつき、心の中で苦笑いした。チラっと兄達を見ると兄二人も苦笑いをしていた。
「ふふっ、せっかく親が国王なんだから、ここで権力使わないでいつ使うのよ。使えるものは使わないとね!」
マリアがドヤ顔で言った。
『私』はマリアにとって、本当に悪影響だったような気がしてならない。
部屋に入ると日当たりも良く、家具などは揃っており結構な広さだ。部屋で侍女や従者がお茶の用意なども出来るようにとキッチンも完備だ。
空間収納庫から持ってきた荷物を次から次へと出すと、セシルとクレイがせっせとチェストやクロークに片付けてくれる。
部屋の片付けはセシルとクレイに任せて、兄二人とマリアとクリスが寮の中や学園までの道のりを案内してくれると言い、部屋から連れ出された。
寮の上階は上位貴族の他に、他国からの留学生が入寮するそうだ。寮は男子と女子は分かれているが、立ち入り禁止などの規則はないらしい。
そして食堂に案内された。そう言えばアデレ兄とアルフ兄は家が一番美味しいって言っていた。
食事が微妙なのは嫌だな、でも部屋にキッチンがあるから週末に領地に戻ったついでに食材の買い出しすれば、部屋で料理できるわね。
食堂に入ると、食事時ではないがお茶をしている学生がチラホラといて、カフェのように利用も出来るようだ。
そしてチラホラといた学生達は、私達が食堂に入ると一斉にこちらに視線を向けた。
まぁクリスとマリアがいればそうだよね。
でもヒソヒソと聞こえてきたのはクリスとマリアの事ではなかった。
「ねぇあれ、アデレイド様とアルフレッド様と一緒にいらっしゃるって事は、あの方が戦闘の女神様?」
「きっとそうよ、お顔がアデレイド様達に似ていらっしゃるもの」
「藍色の髪の方が戦闘の女神様か」
注目されてるのは、まさかの私だった。
て言うか、戦闘の女神じゃないから!
あくまで加護持ちだからね!・・・持ってないけど。
「変なのが寄って来ないように、卒業まで私がしっかりエルの事は守りますからね」
笑顔で言うマリア。
卒業までって・・・入学式もまだしてないんだけどな。
食堂を後にし寮の外へと出ると、綺麗に芝が敷かれ所々に木々が植えてあり、花も植えてある。
花の植え込みで道が出来ており、そこを進んで行き奥の方に見えるのが校舎のようだ。
校舎がやたらデカいな。
さすが国内のほとんどの貴族が通う学園だ。
「ここの花道を真っ直ぐ進んで行くと、学園の門の入口に繋がっているんだよ」
「朝は一緒に行こうな」アデレ兄が一緒に行こうと言うと、僕もだよと言うアルフ兄に、少し口角を上げて頷いた。
「はい、僕も」「はい、私も」
クリスとマリアも挙手をした。
「はいっ!僕も」
聞き覚えのある声に全員で後ろを振り返ると、笑顔のアーヴィング皇太子が手を振りこちらに早歩きで向かってきた。
「僕も仲間に入れて~。今日からよろしく頼むよ」
げっ!もう来たのか!アーヴィング!
その場の全員が一瞬で微妙な顔つきとなった。
面倒だからあまり相手にしたくないのが本音だが。
「そう言えば、留学生って僕の他にもう一人いるそうだね?学年はエルファミア嬢とマリアと同じようだよ?」
「そうなの?どこからの留学生かしらね」
「なんでも結構遠い国らしいよ」
「ふーん、そうなのね。遠くからなんて大変ね」
留学生ならきっとマリアのいるクラスになるだろう。そうなると私も同じクラスだ。
遠い国からなら知り合いなど居ないだろうし、なるべく気にかけてあげないとだ。
なんせ私はこう見えても大人だし!
なんならきっと教師側と同年代だし。




