【71】いらないモテ期
どうやらクリスとマリアは、隣国の皇太子アーヴィングとは立場的に幼い頃からの知り合いのようだ。
年齢は私の兄二人と同じらしい。
どちらにしてもクリスと同じくらい近寄りたくない人物であることは間違いないだろう。
宴では、マリアは女子だから良いとして、クリスとアーヴィングにまで付き纏われ、貴族に囲まれたり、騎士に囲まれたりと常に囲まれていたのでロクに料理も食べれずに帰る事となった。
帰り際にアーヴィングに「次は私がそちらに遊びに行きますので楽しみにしていてくださいね」と笑顔で言われたが、楽しみ?面倒なだけだから来なくていいよっ!と心の中で悪態をついたのは言うまでない。
そもそも皇太子が隣国にそう易々と遊びに来るなどできるはずがない。だからと言って勝手に遊びに来るとしたら問題しかないだろ。
ヴォルテック騎士団長は、ヘンダーソン騎士団員は私が手合わせなどして鍛えていると知ると、父様に是非うちの団員達の訓練も戦闘の女神様にお願いしたいと、合同訓練をする約束をさせられたようだ。
合同訓練にアーヴィング皇太子もくっついてくる予感がするが、予感だけで終わって欲しいと切に願う。
「お腹空いた・・・」
「エルは料理を食べる余裕が無かったな」
「後で料理長に何か作ってもらいましょう」
邸に帰宅し、ひとまず部屋に戻りセシルに着替えを手伝ってもらい食堂へと急いだ。
「お嬢様、宴では大変だったようで。お話は奥様から伺っておりますので座ってお待ちください、すぐお食事のご用意を致します」
執事のブレリックが給仕に合図するとすぐに料理が運ばれてきた。
お皿にはサンドイッチ、別のお皿にサラダ、コンソメスープが置かれた。
「お嬢様、食後にはプリンのご用意もあるそうですよ」執事のブレリックが言う。
プリン食べたい!甘い物を体が欲している。
プリン食べたさにモリモリと食事を平らげ、早々にプリンをお願いした。
疲れているからプリンの甘さが染み渡る~
私の様子を伺っていた料理長が気を利かせて、一口サイズの砂糖たっぷりの揚げパンを用意してくれた。
流石料理長!分かってる~
プリンの後に果実水を飲みながら揚げパンをモシャモシャ食べていると、マリアが食堂に訪れた。
「もうお食事終わりましたの?ってそれ揚げパン?私も貰って良い?」
「マリアも疲れたでしょ、疲れた時には甘い物が最高よ。一緒に食べよう」
マリアと揚げパンを食べながら、今日会ったアーヴィング皇太子の話題になった。
「マリアは学園卒業までに婚約者とか決めないといけないんでしょ?もしかしてアーヴィング皇太子とか有り得るの?」
「え、嫌な事言わないで~!隣国に嫁ぐとか考えたくもないわよ。もし万が一にも話が来たら断るわ。まぁそんな話来ないと思うけど」
どうやら知っている仲ではあるが、お互いに興味がないらしい。そしてマリアにはすでに国内の貴族の家から縁談の申し込みが来ているとか。
「私は、自分の相手は自分で決めたい」
「うん、それはそうだよね。一生添い遂げる相手だし、自分で決めたいと思うのが当たり前よ」
「エルは?エルの方がもしかしたらアーヴィングから縁談の申し入れがあるかもしれないわよ」
それね、私もそんな気がする。だが断る!
もし断れない場合は・・・暗殺?暗殺しちゃう?
・・・したら駄目だろう。
「まぁアーヴィング皇太子の事はまだ分からないし、ひとまず放っておこう」
マリアと揚げパンを摘みながら女子トークで盛り上がり、お互い部屋へと戻った。
セシルに早急にお風呂にしてもらい、ベッドへと潜り込み眠りについた。
何だか暑苦しくて夜中に目を覚ますと、薄ら開けた目に飛び込んで来たのは、はだけたシャツから覗く痩せているけど筋肉質な胸板・・・胸板?!
寝惚けているのかと目を擦りもう一度良く見たが、何度見ても美しく筋肉質な胸板だ。
何故か私のベッドで私に右手を巻き付けディスが寝ていた。しかも私はディスの左腕を枕にして寝ていたようだ。
ぐほっ!まさかの腕枕!
驚いて少し体を捩ると、より一層右手に力が込められディスの方へと引き寄せられた。
「気持ち良く寝ていたのに起こさないでください」
はっ?起きてるやんけっ!
ベッドの反対側から降りようと、体の向きを変えると今度は後ろから抱き着いてきた。
私は抱き枕か。
「貴方は王子やら皇太子やら、面倒なものばかり引き寄せるのですね。駄目ですよ、貴方は私のですから」
後ろから私の耳元で囁いた。
これってもしかして妬いてるの?
魔族もヤキモチ妬くんだな
何となくディスが可愛いく思え、体の向きをディスの方に戻し抱きしめ返すと「本当に貴方は」と言い額に口唇をあてた。
そのまま二人でまた眠りに落ちていった。
朝目が覚めるとディスはすでにいなかった。
前世ではどこかの若頭やイキった若者などの変な輩にしかモテなかったが、今世では面倒で厄介な人達にモテるようだ。
嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。




