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【6】食事は基本薄味である



アルフレッド兄に肩を抱かれ、邸の一階にある食堂に到着した。


軽く十人は座れそうな、綺麗なテーブルクロスを掛けたダイニングテーブルに、すでに父と母、アデレイド兄が着席していた。


食堂に入ってきた私の姿を見た父と母が

「エル、もう大分良くなったと聞いていたが、本当に大丈夫なのかい?」

「あんなに高熱が続いていたのに、無理してない??」


熱で寝込んでる間のことは、私も記憶が曖昧だ。突然前世の記憶を思い出すほどだし、それだけ酷かったと言う事だ。


「はい、すっかり元気です。ご心配をお掛けしました」

ペコりと頭を下げた。


「そうか、でも病み上がりなんだから、もし少しでも体調が優れないと思ったらすぐに医者を呼んでもらいなさい、いいね?」


「はい」と返事をすると父は微笑みで返し、同時に片手を上げるて側に仕えていた執事が「畏まりました」とすぐさま給仕に声を掛け、食事がワゴンに乗せ運ばれてきた。


やっとご飯食べれると思ったのに、目の前に次と配膳されていく食事。まず置かれたのはポタージュスープだ。

またポタージュ!と思ったけど今朝はスープの中にパンは入っていない。普通のスープだ。その他に温野菜のサラダと白パンが置かれる。


横に座っているアルフ兄の前に並べられた食事をチラッと見た。

アルフ兄の前には私と同じメニューの他に、スクランブルエッグとカリカリのベーコンらしき物が・・・


まだ病み上がりの私にはスクランブルエッグとカリカリベーコンはないらしい・・・


思わず内心『チッ』と舌打ちする。

相変わらず薄味のポタージュスープにガッカリしたが、今回は温野菜がある!それに期待だ。


期待を込めて温野菜に手を伸ばす。

塩茹でした物にオリーブオイルと粉チーズのような物がふりかけてあり、塩が少しかな・・・また遠くを見つめてしまいたくなる気持ちに駆られる。


パンは普通だけどバターだけじゃ寂しい


味にパンチがある物をガッツリ食べたい


結果、期待は虚しく砕け散った食事内容だった。



父と母は食事を早々に終え席わ立つと

「アデレイドも食事が終わったら、後で執務室へ来なさい」


アデレイドは手に持っていたナイフとフォークを一旦置き「はい、父様」と返事をした。


ヘンダーソン領は父だけでなく、母も経営に携わっているので、二人は同じ執務室で仕事をしている。


貴族の御婦人で領地の経営に携わることは珍しい。ほとんどの領地持ちの貴族の家庭は、領主(旦那様)が経営、婦人は家庭を任され、問題のない家庭環境を築き、中から夫を支えるのが仕事である。


だが母クラリスも領地の視察に出て、領民達から話を聞いては改善策を打ち出したりと、父と同量の仕事をこなしている。

この世界では珍しい『日本』風に言えばキャリアウーマンみたいな人だ。


父と母は常に、どうしたら領民が暮らしやすくなるかを思案している。二人共領民思いの働き者で自慢の両親だ。



兄二人も食事が終わり食事後のお茶を飲みながら、この後の予定を話していた。


「そいや聞いたか?結界の話。この後、父様と騎士団に行って、騎士団長達と魔獣探知結界の件で会議なんだ。たぶん偵察部隊に参加することになるかな」


「あぁ、師団長から聞いたよ~。東側の領地の外側に張られた結界に、昨日の夕方かなり大きい何かが一瞬だけ感知したって話」


「そう、その確認のための偵察部隊だ。かなり強い反応だったのに、まだ何の魔獣か確認出来ないんだ」


「結界に掛かれば、普段なら魔獣の種類はだいたい分かるものなのにね~」


「だよな、だから万が一強い魔獣と遭遇しても即座に対応出来るように精鋭で組まないといならないみたいだな」


「なるほどね~。くれぐれも気をつけて行ってきてね。僕は訓練所で魔法の訓練しているから、万が一の時はすぐ呼んでよ」


パンをモシャモシャ食べながら兄二人の会話を聞いていた。


話の流れからすると・・・

アデレ兄は自分で精鋭って言ったか?

まぁ実際本当に強いんだろうけど。

そのうち手合わせしてみたいものだ。


魔獣か。エルファミアの記憶の中でも、まだ見た事はないが、遭遇したくもない。


「ところでエル、この後特に予定がなければ一緒に訓練所に行かない?」


突然のアルフ兄からのお誘いに目が煌めく。


「はい、行きたいです」

思わずビシッと挙手した。





***************




朝食の前、アルフレッドが身支度を終えようとしたとこ、部屋にコンコンと扉を叩く音がしてすぐにカチャリと扉が開いた。


「アデレか、どうしたの?」


アデレイドが部屋に入ってきてソファに腰かけた。


「いや、アルフに話しておいた方がいいかなと思ってさ」

「何?何かあった?」

アルフレッドはアデレイドの前に腰かけた。


「今朝、いつも通り早朝鍛錬に行こうと思って部屋を出たら、すでに着替えたエルが階段を降りようとしてたから声かけたんだ」

「朝の鍛錬て結構早い時間だよね?そんなに早くにエルが?」

アルフレッドが驚き目を見開らきアデレイドを見た。


「早い時間ってことは、とりあえず置いといて。そこはさほど問題ではないんだ」

とアデレイドは片手で制し話を進める。


ん?とアルフレッドは片眉を上げた。


「一緒に散歩へ行こうと誘ったんだけが・・・エルが鍛錬してるところが見たいって言いだしたんだ」

「えぇ!?鍛錬を?見たいなんて言ったことないね?今まで剣術に興味なさそうだったよね??」

「だろ?で、木剣の素振りを見せたら自分もやりたいって言い出したんだ。危ないから駄目って言ったけど、上目遣いでお願いされたから・・・」


と少し頬を染めたアデレイドを見て、アルフレッドは内心呆れつつ話を続ける。


「え、やりたい?素振りを??ていうか、何照れてるんだよ~何か腹立つ~」

「あ、ごめん、ごめん、エルの上目遣いの可愛い顔思い出してしまった」


てへっとアデレイドは頬を掻いた。

少しムッとしながらアルフレッドは「それで?」と続きを促した。


「駄目と言えなくて、木剣を持たせたら・・・」

「・・・持たせたら?」

「・・・凄かった」

「・・・はぁ??どういう事?」

「素振りが初めてとは思えない、熟練した経験者並の集中力と気圧だった」


話を聞いていたアルフレッドが眉を顰め怪訝な顔で


「・・・そんなことあるわけ


アルフレッドが言い終える前にアデレイドが被せぎみに言う。


「あったんだって!こんなことで僕が嘘言うわけないだろ?」

「・・・・・・だね。そんな嘘、誰も信じないし」


アルフレッドは腕を組み黙って考えこむ。まだ8歳の木剣を持ったことない女の子が、いきなりそんなこと出来るだろうかと。


「剣術に興味を持ったなら、それはそれで良い。だけど急だから驚いているんだ」

「それはそうだね。なるほど、わかった。後で僕は魔法の訓練で、訓練所に行くからエルを誘ってみるよ」


アデレイドは魔法訓練と何の関係が?と思い「うん?」と片眉を上げ怪訝な表情でアルフレッドを見る。


「僕もエルを少し観察してみる。いきなり木剣の素振りができるなら、魔法だって出来たりするかもしれないだろ?」


と、冗談ぽく笑いながら言ったアルフレッドに、アデレイドは真剣な顔で「なるほど」と頷いた。


「じゃぁ夜にまた話を聞かせてくれよ」


と部屋を後にした。


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