【58】王子と王女と訓練所
「午前中そんな事していたのか?!」
「えー良いな、僕も食べたかった」
クリス殿下とマリア王女から午前中の話を聞いたアデレ兄とアルフ兄は、本当に残念そうな表情でガックリ肩を落とす。
兄二人は午前中から訓練所に居た為に、唐揚げとプリンの事は知らずにいた。
護衛騎士を伴い訓練所の門に着いた王子と王女、二人は門で待機していた兄二人の顔見た途端の開口一番が、美味しいプリンと鶏の唐揚げを食べたという自慢話だった。
訓練所に現れたクリス殿下とマリア王女に、騎士団長、師団長ら総出で膝を付きお出迎えだ。
「堅苦しいのは無しで頼むよ」
すぐさまクリス殿下が声を掛け皆を立ち上がらせる。
エドガー騎士団長とブラッディ副騎士団長は、クリス殿下とマリア王女の護衛騎士の傍らに移動した。
ギネス師団長だけは何故か私の傍にやって来た。
「エルファミア嬢が来るのを心待ちにしておりましたよ」
ギネス、ちゃんと来賓の相手しろ。
エドガー騎士団長は一先ず訓練所の中を案内すると言い、殿下と王女の二人をその場から連れて行こうとしたが、マリア王女が足を止めエドガー騎士団長に声を掛けた。
「案内は大丈夫でございます。私はエル様の空間とやらと武器を見せていただくお約束をしておりますので」
それ忘れてなかったのかマリア王女。
「そう言えばしましたね、そんな約束」
その会話を聞いてギネス師団長が口を挟む。
「ではエドガー殿はクリストファ殿下のご案内を。私はエルファミア嬢と一緒にマリアーノ王女殿下とご一緒させていただきますので」
何故こんな時でも私に着いてこようとするのだギネス
ブレないな、相変わらずだ。
「え!僕もエル嬢の空間や武器を見せていただきたいです。街で話を聞いてからずっと気になっていたんだ。なので案内はまた後程と言う事にしてもらいたいのだが」
エドガー騎士団長はクリス殿下の話を聞いて笑顔で頷いた。
「街でエルファミア嬢は、王国初の戦闘の女神様の加護持ちとして有名ですからねぇ。きっと近いうちに王都にも噂は広まるんじゃないですかな」
「えぇ、それはもちろんですわ。私が責任を持ってしっかりと広めますから」
万遍の笑みでエドガー騎士団長に頷いたマリア王女。
いやいや違うだろ、マリア王女!笑顔で胸張って何を訳の分からん事を抜かしとんじゃい。そんな噂広めるのお願いだからやめてー!
「では、皆さんで室内訓練所の方にでも行きましょう」
そう言うとギネス師団長は、室内訓練所の方へと案内した。
室内訓練所に入ると中央付近で、何故か団員も含め全員が自然と私を囲むように輪になった。
「ちょ、ちょっと、皆何だか大袈裟じゃない?空間収納庫から武器を出すだけの事ですよ」
「「空間収納庫?」」
「エル、クリス殿下達にはまずアイテムバッグの説明からじゃないか?」
そうだアデレ兄の言う通り、そのアイテムバッグすら進化していることを殿下達はまだ知らないはずだ。
「アイテムバッグって、空間魔法が施されている肩から掛ける大きいバッグのことか?」
「そうです。そのアデレ兄が腰の所に着けている革の小さなバッグがそうです」
「え!?これアイテムバッグなのかい?!」
クリス殿下はすぐにアデレ兄に近寄り、腰に着いている小さなバッグに手を触れた。
「そうです。見た目は今までより小さくなったけど、中は今まで以上の広さになっているので何でも入り便利です」
王子に答えたアデレ兄はシザーケースの大きさのバッグから自分のロングソードを引き抜くと「おぉ!」と声を上げたクリス殿下。
ギネス師団長がクッと笑い、すかさず言った。
「広さはエルファミア嬢仕様ですから」
「あ、そうだったな」
「アイテムバッグが小さくなったうえに、素敵な見た目に変わって中は広くなった・・・実に素晴らしいですわ」
「これなら着けていても邪魔にならないから凄く良いなぁ。これは街で売られているのかい」
「街で売っている店もありますが、なかなか手に入らないかと思います。材料が揃っても錬金が出来る魔導師が必要ですし、それなりの魔力がないと創れないので、生産が追いついていないのですよ」
「そうなのか・・・」
深くため息をつき凄く残念そうな顔の殿下と王女。そんな顔見たら無視はできないよね~
「私がお創りしますよ」
すぐさま私の方へ振り向いたが、かなり疑っている様子の眼差しを向けるクリス殿下。
「エル嬢がこのアイテムバッグを創れるのかい?」
「クリストファ殿下、元々このアイテムバッグはアデレイド殿の為にエルファミア嬢が開発した物ですから」
「そうなのですよ。アデレイド殿のを見た団員達が欲しがり、徐々に広まっていったのですよ」
ギネス師団長は訓練を重ね空間収納できるようになったくせに、バッグの見た目に惹かれて創ったよね。
エドガー騎士団長とギネス師団長の言葉に、クリス殿下とマリア王女は目を見開き私を見た。
「エル様がこれを開発?!」
「エル嬢が?!これを?本当に凄いな」
「ギネス師団長の部屋に革が何色かあるので、後程お好きな色を選んで下さい。魔石もギネス師団長の所にあるので問題ないですね?」
「はい、もちろんですよエルファミア嬢。素材も魔石も私の部屋に十分に置いてあります」
殿下と王女は手を取り飛び跳ね喜びあっているが、マリア王女が何か口走っている。
「エル様が素敵すぎるわ、エル様はやはり女神様だわ」
マリア王女、私は女神ではない、そこ間違えるな。
「コホン、あと空間収納庫を見たかったのですよね?」
私が声を掛けると飛び跳ねるのを止めハッとする二人。
アイテムバッグが衝撃的過ぎて、空間収納庫の事が頭からすっぽりと抜けたようだ。
「そ、そうだ。空間収納庫だ」
「そうですわね、空間収納庫が見たいのです」
「まぁ、見たいと言われても、あまり見せようもないのですが・・・今からお見せしますから良く見ていてくださいね」
分かりやすいように、自分の体の斜め前に手を伸ばした。
肘から先だけ空間に溶け込むように消えた。
「てっ、手がっ!?」「手が消えた?!」
「消えてないですよ、ほら」
ほらと言い、収納庫から愛用の小太刀を一本掴んで出した。
殿下と王女、目が飛び出そうだけど大丈夫かな。
「私のアイテムバッグは空間の中にあるんです」
殿下と王女の頭上にはハテナマークが飛び交っているのが見えるんじゃないか?って程の困惑した表情だ。
ギネス師団長は殿下達の表情を見て吹き出した。
「プッ、そういう表情になるの分かりますよ。私達も初めての時はそうでしたもんねぇ」
「だよね、以前はエルに本当いつも驚かされていたよね」
「最近は慣れたもんで何か突飛な事をしても驚かなくなったな」
「俺はエルファミア嬢が何かやらかすのが当たり前と思っとるぞ、ガハハハハ」
アデレ兄とエドガー騎士団長の発言はどうかと思うが。
口をパクパクさせて目を点にしているその表情、人前でそれはなしでしょ?!仮にも王族なんだから。
クリス殿下とマリア王女、早く戻って来い。
二人は今日一日で一体何回目を見開くのだろうか。
それはそれで面白いけどね。




