【57】みんな大好き鶏の唐揚げ
プリンを相当気にいったマリア王女は、昼食も楽しみだわ~とかなりウキウキの様子だ
「ヘンダーソン辺境伯家の料理長は、常に新しい料理を追求していて、とても熱心でいらっしゃるのですわね」
料理長はギョッとした顔で私の方を見たが、後々面倒になりそうなので、このまま料理長が開発したことにしとこ。
「そうなんです。うちの料理長は最高なのです」
料理長は私をジト目で見ながら苦笑いしている。
「ところで私を探していたようでしたが、何か御用でも?」
「あ、そうなの!宴の時にエル様が着けていた髪飾りは、エル様がお作りになったとクラリス様から伺いまして」
あー、リボンをクシュっとさせて丸くしたやつか。
「あの素敵な髪飾り、出来ればで宜しいのですが是非私もエル様と同じ色違いの物が欲しいなと・・・」
「えぇ構いませんよ。お好きな色を教えて頂ければお作りします。リボンは近々仕立て屋さんを呼ぶ予定でしたので、その時一緒に持ってきて貰いましょう」
マリア王女はとても嬉しそうに、笑顔で喜び飛び跳ねて私に抱きついた。
マリア王女は可愛いな、もし自分に妹がいたらこんな感じなのかな?と想像してみたが、よくよく良く考えたら前世のあの家でこんなに可愛い子が育つ訳がない。
完全に無駄な想像で終わった。
調理場の隅っこでマリア王女と話していると、料理長がグラスに果実水を注ぎ「よろしければ」と出してくれた。
すっかり調理場がお茶会の場のような雰囲気だ。
マリア王女とまったりとお茶をしていると
「こんな所で何をしているのだ?」
クリス殿下までが調理場に入ってきた。
「あら、お兄様は調理場まで一体何の御用で?お兄様がいらしたら料理人達が落ち着かないではないですか」
マリア王女お前が言うなっ!と言う心の声が聞こえてきそうな表情の料理人達。
殿下達は放っておき「料理長、そろそろいいかも」と料理長に声を掛けると、待ってましたとばかりに味を漬け込んでいた鶏を私の前に運んできた。
マリア王女とクリス殿下は何か始まるのか?と不思議そうな表情で私の行動を見ている。
「どなたか深めの鉄鍋に油を温めてくれます?」
料理長はすぐに近くにいた料理人に指示を出す。
その間に味を漬け込んだ鶏肉に満遍なく粉をまぶし、鶏肉に付いた余分な粉をパンパンと落とし、油が温まった頃合に粉をまぶした鶏肉をそっと油に落としていく。
ジュッジュワジュワ
揚げ始めると周りに美味しそうな匂いが漂い始めた。
「昼食までまだまだ時間があるのに、とてもお腹が空きそうな香りですわ」
「何とも食欲を刺激する匂いだな」
殿下と王女は、少し離れた場所から油の入った鉄鍋をジッーと見つめている。正確には鉄鍋の中の鶏肉か。
美味しそうなきつね色になってきた所で油から上げ、パッドに取り出し油を切る。本当は二度揚げのほうがサクサクに仕上がり美味しいが、今は面倒なので一度で済ませる事にした。
「な、なんとも美味しそうな匂いだ」
料理長は口が半開きで涎でも垂らしそうな顔だ。
「今回はぶつ切りにしたけど、もっと平らにそぎ切りにして揚げてパンに挟んでも美味しいよ。その時はトマトソースとマヨネーズも付けると絶対美味しいかも」
出来たての唐揚げを一つフォークに刺し料理長に手渡し「熱々だから火傷に気をつけて」と口添えした。
でも唐揚げは熱々が美味しいのよね。
自分も味見しなければと唐揚げにフォークを刺すと、フォークを刺した穴から肉汁がジュワッと出るのが見える。
熱々に気をつけながら、そっと一口齧りついた。
「ハフハフッ、熱っ、けどうまっ」
ほんのりと香る生姜とニンニク。少し多めに入れた黒コショウのパンチも効いている、白ワインのおかげかほんのりと甘みも感じる。塩味の唐揚げも美味しい~。
私の食べている様子を見て、すぐに料理長も熱々に気をつけるように一口齧りついた。
「うほっ、これは!」
「あ、そうだ料理長、朝食の残りのマヨネーズない?」
「マヨネーズ!ありますよ」
フォークを片手に持ったまま料理長が、急いで出してくれたマヨネーズを少し唐揚げに付けて頬張った。
「はぁ~、やっぱり唐揚げにはマヨネーズが合う」
料理長もすかさず私の真似をしてマヨネーズを付けて唐揚げを頬張ると、料理長が目をキラキラとさせひと言呟いた。
「こりゃ酒が飲みたくなるな~」
わかるわかる~!私も前世は成人だったし。
唐揚げにはビールよね!チューハイもいいね!
あー飲みたくなる~
そんな私達の様子を見ていた周りの料理人達と、マリア王女とクリス殿下はゴクリと喉を鳴らした。
「あ、ごめんごめん、皆も味見してみて」
クリス殿下とマリア王女の為に、フォーク二本に一つずつ唐揚げを刺して、二人の前に出すと目を輝かせながら受け取ると、すぐさま口の前へと持っていく。
「熱いから気をつけてね」
私のひと言に、熱々だと言っていたのを思い出したように、そっと口に近づけ一口齧った。
唐揚げを一口食べ、目を見開いた二人は瞬時に私を見ると
「「美味しいー!」」と声を上げた。
「このような味付けと調理法の鶏料理は初めてだ、これはこちらの料理長が考案したのか?」
「お兄様、こちらの料理長はとても料理の研究にご熱心なようで。先程『プリン』と言うお菓子をいただいたのですが、それもとてもとても美味しくて」
「プリン?」と言いながらクリス殿下は、料理長と私に視線を送った。僕のは?と言う完全な意思表示だろう。
「クリストファ王子殿下、よろしければプリンをご賞味くださいませ」
王子殿下の意思表示を無視する訳にも行かないので、料理長はすぐさまスプーンと一緒にプリンを一個差し出した。
クリス殿下はめちゃくちゃ嬉しいくせに「うむ」と平静を装っているのが丸分かりだ。
だがプリンを一口食べると装っていた平静はどこかへ吹き飛んだようだ。
その後、調理場ではそのままクリス殿下とマリア王女を交え、そのうち匂いに釣られて現れたセシルや他のメイド達も加わり唐揚げ祭りが始まった。
そして昼食時には、私と王子と王女の三人は満腹だった。
と言うか、クリス殿下も調理場まで一体何しに来たのか分からないままだが。




