【51】パーティーが始まる
身支度を終え広間へと向かった。
玄関扉が開け放たれた入ってすぐのオープンスペースには、次から次へと着飾った来客が訪れては、奥の大広間に向かい歩みを進めている。
その様子を階段の上の踊り場から眺めていると、後ろから兄二人が声を掛けてきたので振り返ると、二人は目を見開き笑顔になった。
「エル、そのドレスとても似合っているよ」
「とっても可愛いよ」
兄二人に褒められちょっと嬉しい。
「お兄様達もとても似合ってる、格好良い」
二人を交互に見て親指を立てた。
二人は濃紺のタキシードにそれぞれの瞳の色、アデレイドは琥珀色、アルフレッドはダークグレーのフレアのリボンタイを結っていた。
兄二人と会話をしているうちに、オープンスペースにいた来客達の数が減り、殆どが大広間に移動したようだ。
父様と母様は階段下でスタンバイしている。
私達兄妹は殿下達の出待ちだ。
身支度を整えたクリス殿下とマリア王女が、護衛騎士に囲まれ客間の方から歩いて来るのが見えた。
「来ましたね」
クリス殿下は薄いグレーのタキシードに水色の太めのリボンタイだ。リボンの中央には大きなアクアマリンのような石の付いたブローチを着けている。ブラウスはもちろんフリルたっぷりの王子様仕様だ。
マリア王女は、丸首で濃いピンク色のドレスだ。丸首の襟ぐり、袖口、裾には金の糸で刺繍が施してあり、ウエストは太めの共布で後ろでキュッと絞り結んでいる。スカートの裾はたっぷりフリルだ。
まさにThe王子と王女だな。
「クリス殿下、マリア王女、参りましょう」
階段下の父様達と合流し、先頭にマリア王女の手を取ったクリス殿下の二人、その後ろを父様と母様、そして私の手を左右で取った兄二人の私達三人の順で大広間に入って行く。
先頭のクリス殿下とマリア王女が入った途端に、会場内に色めきだったような歓声が上がった。
年頃の貴族の娘達か、クリス殿下と年齢が近いなら婚約者狙いの者も多いだろう。
国のお偉いさんの婚約者とか面倒しかない。
なんでそんなのになりたいのか
私には分からない世界だわ~
続いて父様と母様が入り、その後を私達兄妹が入るとまた大広間に歓声が起きた。
そうね、兄二人もイケメンだもんね。
王子が駄目でも辺境伯ならいいかもと思う令嬢も結構いるだろう。
王子と王女、二人の主役が会場入りし宴の開始となった。
クリス殿下とマリア王女の二人は父様と母様と一緒に、うちの領地の主な貴族達や、近隣からの貴族達に挨拶回りだ。
本当なら、兄二人も次期ヘンダーソン当主という立場な為、挨拶回りに行かないとならないが今日は王子殿下達が主役の為、兄二人は控える事となった。
うちは両親もまだまだ健在だし。
私達兄妹三人はとりあえず目立たない隅の方へ行こうと移動を始めようとしたが、兄二人がご令嬢達に囲まれた。
あ~囲まれた、私だけ逃げちゃおう。
私だけ、そそくさと軽食が置いてあるテーブルを目指した。
テーブルにはローストビーフやステーキ、白身魚のソテーやテリーヌの様なもの、サンドイッチや焼き菓子、果物など、どれも食べやすいように一口サイズに切り分けられ沢山用意されていた。
うわぁ、どこぞのホテルのビュッフェかっ!
それぞれの料理の前に給仕がいるので、声を掛けお皿に盛ってもらうのだが、いちいちそれぞれを小さいお皿に盛ってもらうのも面倒なので、少し大きめのお皿に料理を一つずつ、菓子を一つずつ纏めて盛ってもらった。
これがブッフェの醍醐味よ。
料理コーナーにほど近い場所に、食事の為に用意されたテーブルに行き腰をかけモリモリと食べ始めた。
料理は相変わらず一味足りず味にパンチがないが、サンドイッチと焼き菓子は美味しい。
食べながら周りを見渡すと誰も食事に手を付けていない。
え、誰も食事しないの?残ったら勿体無いじゃない!
私が食べれるだけ食べてやると心の中で意気込んでいると近寄り声をかけてきた男子。
「ねぇ、君ってヘンダーソン辺境伯家のご令嬢のエルファミア嬢だよね?」
たぶん同い年位だろうか、どこぞの貴族の令息で間違いない見た目、面倒そうだから話しかけんなと心の中で叫んだが、周りから「え!エルファミア嬢ってことは戦闘の女神様か?」とコソコソと聞こえて来る。
『戦闘の女神』はどこまで広まっているのか・・・
気になるが知るのも怖い気がする。
「えぇ、そうです。貴方は?」
「僕は・・・
少し顔を赤くし男の子が話し出した途端に、周りから他の男の子達がワサワサと駆け寄り話を遮り「抜けがけするな」「僕も話したい」など色々言い出した。
よくよく考えたら、私も兄二人に負けず劣らずの美少女だったと思い出し、あまりの面倒臭さにため息を吐き完全に目が半目になった・・・と同時に、すぐ隣りから突然聞こえた艶のある低音ボイス。
「エルファミアは私のですから」
と言い、やたら自然に肩へ手を回してきた男の子。
随分馴れ馴れしいなとその男の子に振り向くと、凄く見覚えがあるウェーブのかかった黒髪に紫色の瞳の美形。
だが身長は私より高いけど150センチ程度だ。
私の記憶より身長は低く顔もかなり幼い雰囲気だが、間違いなくこの顔はストーカー魔族だ。
幼い顔立ちでも美形には変わりないその男の子を目にした途端に、蜘蛛の子を散らしたかのように周りからウザい令息達が居なくなった。
ニッコリと微笑んでいる黒髪の男の子。
「・・・ありがとう。少し庭にでも行きましょうか」
一応お礼を言い、この場は流石に不味いだろうと思い男の子の手を引き外へ出るよう促した。
庭の一角に大広間からは死角となり見えない場所がある。
男の子の手を引きその場所へ到着し、ふと引いてきた手を見るとしっかりと握られている。
兄二人以外と手を繋ぐなんて初めてだと思うと、少し照れくさく感じ頬が熱くなった。
「おや、顔が赤いですがどうしました?」
間近で顔を覗きこまれると、さらに赤くなり熱を帯びた。
「可愛い~」そう言い笑う男の子の顔はニヤッと笑い、完全にからかっている様子に、逆に私の顔の熱は引いていく。
「さっきはありがとう。助かった」
「私は当然の事をしただけですよ。人間のくせに私の物に手を出そうだなんて、死にたいのですかねぇ」
「人間のくせに?って事はやっぱりあなたは魔族なんだ?て言うか今の見た目は私と同い年位に見えるけど、普段はもっと大人だよね?」
「えぇ、私は変化が得意ですから。自分の気配も完全に消す事が出来ますし、あ~そう言えば一度だけ、初めて貴方の気配を感じた時には失敗して結界に触れてしまいましたが、普段ならそんな失敗は決してしないですよ」
前に結界にかかった強い反応はお前かっ!
「なので、今ここで貴方とこうして居られるのです」
グイッと腰を抱きよせられ美形な顔が近づきドキッとした。
え!魔族相手に今ドキッとした!?
いや、魔族だけど顔は美形だし!?
また口が鯉のようにパクパクした。




