【49】面倒事は重なるものです
王女と部屋を出て庭に出ると、庭にはテーブルセットが設置してあり、すでに侍女頭のクローネがワゴンでお茶とお菓子を運んできていた。
王女の侍女が椅子を引き、王女が腰をかけた。
「エルファミア様もどうぞお掛けになって」
と声をかけられ、近くにいたセシルが椅子を引く前に自分で椅子を引き座った。
王女が驚いた表情になった。
お茶とお菓子をテーブルに並べたクローネに「ありがとう」といつも通りに声を掛けた。
王女の顔がさらに驚き顔になった。
何なのいちいち、そんなに驚く事か?
自分で椅子に座るとか、何かしてもらったら「ありがとう」と言うのが当たり前でしょ。まぁこの世界の貴族なら、侍女やメイドにやってもらうのが当然みたいだけど。
王女がお茶とお菓子に手を付けたので、話題もそれに続けて手を付けた。
王女にお茶に誘われたが、初対面で良く知らないから話す事もない。もちろんこちらから振る話題などないので会話がない。
無言でお茶を啜る。
早く解放して欲しい・・・
「す、凄いですわエルファミア様は。ふふ」
ん?何が凄いって?何の話かなと目線を斜め上に向け首を少し傾げた。
「ふふ、そういう所が凄いのです。私を目の前にしても平然としていらっしゃる。ほとんどのご令嬢ご子息達は私に媚びてご機嫌を伺い、気に入られようとする者ばかりです」
かもね。皆、権力や盾が欲しいから王族相手だとそうなるかもね。私はどちらも必要ないし、権力より自分の実力を磨きたいタイプだ。
「エルファミア様!是非これから仲良くして下さい。私の事はマリアとお呼びくださいませ」
王女は立ち上がり体を前のめりに、目をガン開きにし私の目をしっかり見て迫って来た。
また目力の強い人が現れた。
若干、顔が引き攣ったと自分でも分かる。
「え、えぇ、分かりました。私は家族にエルと呼ばれているので、エルとお呼び下さい」
マリア王女の顔がパァっと花が咲いたよう綻び、私の手を取り「エル様!よろしくお願いしますね。これからは敬語も一切無しですよ!」と鼻息荒く興奮気味に言い放った。
捕らえた獲物は逃がさない。
そんな雰囲気に感じたのは気のせいか?
それからは何故か王女から質問攻めにされた。
どうやらマリア王女と私は同い年のようだ。
この国では子供は13歳になると学園に通う事が決まっている。兄達も来年から王都にある王立学園に行く事が決まっている。
国内の貴族の大半は王立学園に入学が決まっているのだ。なので私も13歳から通う事は決定している。
マリア王女と同い年と言う事は、学園生活を一緒に送る事になるだろう。友達第一号って所か。
ん?同い年の同性の友達って、前世でも居なかったから初じゃない?!凄い!これって快挙だわ!
第一号が王女って違った意味で凄いけど。
「エル様、今度王宮にご招待するので是非遊びにいらしてくださいね!」
「は、はい」
「あぁ、夏の滞在期間は楽しくなりそうだわ」
目をキラキラさせるマリア王女。私はマリア王女の妙に高いテンションと、暫く訓練所に行けないのかと思う気持ちで少し気分が滅入った。
テンションの高いマリア王女とお茶を啜っていると、兄二人が王子に連れられ庭に現れた。
「マリアーノ、エルファミア嬢とお茶を楽しんでいるのか?お茶なら僕達も誘ってくれよ」
面倒なのが増えた。
立ち上がろうとすると王子は「いいから、いいから」と手で制し、アデレ兄がクローネに声を掛け、椅子とお茶を持ってくるよう指示を出す。
「二人で何を話していたんだい?」
「お兄様!私とエル様はお友達になりましたのー」
「お、おぉそうなのか?もう愛称で呼んでいるのか。エルファミア嬢、僕も愛称でお呼びしても?」
「は、はぁ、どうぞ」
「エル嬢、僕の事はクリスと呼んでくれ。妹共々よろしく頼む」
「は、はい、クリス殿下」
「殿下もいらないよ、敬称は無しで構わないよ。そうだ、君は普段兄達を何と呼んでいるんだい?」
「アデレ兄とアルフ兄です」
「では僕はクリス兄でいいよ」ニカッと笑う王子
いや、あんた兄じゃねーし!
「エル様、お兄様に敬称なしなら、もちろん私の事も呼び捨てでお願いしますね」
初対面で呼び捨てって・・・ハードル高っ
クリス殿下とマリア王女が、私を巻き込みキャッキャしているところを、黙って見ている兄二人の目は何の感情もないような死んだ魚のようだった。
そんなこんなで滞在初日から、何故かクリス殿下とマリア王女に纏わりつかれる羽目になった。
慣れない事尽くしの一日は相当疲れたようで、その夜は早めにベッドに潜った。
夜中に少し暑くて喉が渇き目を覚ました。
眠い目を擦り、ベッドから起き上がり、水差しからコップに少し水を注ぎ一気に飲み干した。
少し風にあたり涼もうと眠気眼でバルコニーに向かうと、影がある事に気づいた。黒猫ちゃんかなと思ったが、猫にしては影が少し大きいような・・・
目を凝らし良く見ると、黒髪で全身黒い服を身にまとい、闇に同化しているように見えるがこちらを向く瞳は紫色。
「あ」思わず声が出た。
「おや、起きたのですね」
気づいた時には、音もなくいつの間にか私のすぐ目の前に立ち少し前屈みに顔を近づけていた。
まさに目と鼻の先とはこの事だ。
「起きたのなら、おやすみの挨拶を」
と言い、口唇を私の鼻先に付けチュッと音立てた。
私は起きたばかりで頭が働いていないうえに、予想外の出来事に口をパクパクさせながら全身固まった。
「あ、そうそうこれを貴方に。着けて差し上げましょう」
両手にチェーンの様なものの端と端を持ち、私の首の後ろに手を回した。私の首に着けたチェーンをひと撫でし私を見やると妖艶に微笑んだ。
「よく似合いますよ」
では、また。とスっと目の前から消えた。
慌てて首元を確認のために触れると、首に着けられたのはチェーンだけでなく、何か石が付いているようだ。
部屋の中へ入り明かりを灯し鏡を覗くと、首元には中央に1センチ程の大きさの紫色の宝石があり、その両サイドに三粒ずつダイヤのように輝く小さな透き通った石が付いていた。
嘘!何これ!
マーキングした獲物に首輪って事?!




