【45】黒紫色の魔獣
突然、物凄い魔力を感知した。
ギネス師団長とアルフ兄は瞬時に顔を強ばらせ、感知・検索が出来なくても強い気配に気づいたエドガー騎士団長、ブラッディ副騎士団長とアデレ兄が顔を見合わせ声を上げる。
「な、なんだこの気配は?!」
「これはマズイかもしれんっ」
ギネス師団長は検索魔法で特定出来たようだが様子が変だ。
「こ、こんなやつが、ここにいるとはっ」
顔から血の気が引き、相当焦っている表情だ。
「この人数で戦って勝てますかね」
誰一人答えない。未知数ってことか。
姿を表したそれは大型のダンプカーよりも更に大きく見える、黒紫色の巨体で頭上には二本の鋭い角が生え、頭部から龍のような尾にかけて鬣があり、牙を剥き出しに、涎を垂らしながらノシノシとこちらに向かってきた。
「・・・ベヒーモスかよ」全員に緊張が走る。
ベヒーモス!ファンタジーの世界では有名な魔獣だ。
強さも魔獣の中ではトップクラスじゃなかったっけ?!
これは小太刀では無理かも、とおもむろに空間収納庫に手を入れ刀に持ち替えた。
私達を見るなり角を向け突進してきたベヒーモス。
ギネス師団長が土の壁を発動したが、ベヒーモスの角の前では見事に砕かれ突破された。
「避けろっ!!」
エドガー騎士団長の叫びに全員素早く移動する。エドガー騎士団長は角を躱し、剣を握りしめ右方向からベヒーモスに斬りかかった。
ブラッディ副騎士団長とアデレ兄も向かって行く。
ギネス師団長とアルフ兄は魔法で応戦を始めた。
ベヒーモスの硬い肌は、騎士団長達の剣では切り傷程度のダメージしか与えられない様子だ。
それを見て私は刀に雷を付与して向かって行った。
ベヒーモスは角で突進するだけでなく、腕や尾で薙ぎ倒すような攻撃もしてきた。なかなかに厄介だ。
ベヒーモスは騎士団長達の前と左右からの攻撃や、師団長達の魔法攻撃に気を取られている隙に素早く背の方へ周りこみ、尾の付け根に刀を振った。
雷でバチバチッとなったが切断するまでには至らなかった。
ベヒーモスは痛みからか体を大きくうねらせたその反動で弾き飛ばされた。
「「エルーーー!」」兄二人が叫んだ。
ふふっ、甘い!甘いわー!
飛ばされた勢いで空中で回転し体勢を整え近くの大木に脚を着き、全力で蹴り踏み込んだ反動で、勢いがついたままベヒーモスの方へと向かう。
私に気づくのが少し遅れたベヒーモスの尾の付け根に向かって、もう一度思いきり渾身の力を込め刀を振り下ろした。
バチバチバチッ!ザシュッ!
先程より雷が閃光し、綺麗にバサッと切れた。
ベヒーモスは怒り狂ったように角や腕を振り回し、ほんの一瞬動きが止まる。息を吸い込んでいる?
何?と思った矢先にベヒーモスは咆哮を上げた。
すると炎の球が大量に降り注いだ。
ぎゃっー!これはヤバい!
ギネス師団長が全員に障壁を張るのと同時にアルフ兄がウォーターボール連続打ちで何とか防いだが、見た所二人はだいぶ魔力を消耗しているようだ、このままだとマズいな。
その隙にエドガー騎士団長達がまた向かって行くが、エドガー騎士団長達もかなり傷を負っている。
耐久戦を続けるのは厳しい・・・次に咆哮を上げる時がチャンスか
ベヒーモスの動きを見逃すまいとガン見しながら刀で応戦する。暫く一進一退の攻防戦を続けていると、ベヒーモスが一瞬動きを止めた。
今だ!瞬時に地面を力いっぱい蹴り踏み込み高く飛び上がり、ベヒーモスの背中側から鬣を掴み首にしがみついた。
「なめんじゃねーぞゴルァ!逝けやっ」
銃の形にした人差し指をベヒーモスの後頭部に押し付け雷球を撃ち込んだ。
後頭部から雷球は額を貫通し、ビュンっと飛んでいった。
飛んでいった雷球は遠くの木に当たり、木が吹っ飛ぶのが見えた。見事に撃ち抜けたようだ。
グラッとベヒーモスの体が傾いたので、慌てて飛び降りると同時にベヒーモスも雪崩のように崩れ落ち地面へと沈んだ。
やったー!思わずその場でガッツポーズだ。
久しぶりにやり切った感満載だ。
大人達は満身創痍でその場で座りこみ深く息を吐いた。
アデレ兄とアルフ兄は私の名前を呼びながら駆け寄り勢いよく抱き着いてきた。
「おふっ」タックルかと思う程の勢いだ
「エル~!凄く格好良いー」
「本当、流石だよエルー」
三人で抱き合って喜びを分かち合っていると、ギネス師団長もどさくさに紛れ抱き着いてきた。
ギ、ギネスー!苦しいー!と内心苦笑いだが、抱き着いてきた師団長の背中を喜びを分かち合うようにトントンしてあげた。
その後、その場で休憩となり、しっかり食べて少しでも体を休めてから帰路に着く事となった。
こんな事なら魔力増強剤を持って来れば良かったと、ギネス師団長がひとりごちた。
そんなのあるんかっ!?知らなかった。
どうやら驚く程の不味さなので出来れば飲みたくないようだ。なので万が一の時にしか持って来ないらしい。
どのくらい不味いのか気になるわ~
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フッハハハハハ!
本当に倒してしまうとはな!
念の為に万一の時の事も想定していた
私の子供に危害を与えたくはないからな
奴等が手に負えない時には私が出ると決めていた
だが完全に杞憂で終わったな
まだあんなに幼い子供が
怯みもせずにベヒーモスと対峙し
トドメまで刺すとはな
名はエルファミアか
これからも沢山楽しませておくれ
・・・おい、そこの魔導師!
お前は私の子供に抱き着くな。
チッ!




