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【4】騎士団の訓練所



邸から少し離れた敷地内の一角に、騎士団の宿舎や訓練所が建っている。


騎士団は剣武の騎士団と魔導騎士団がある。

どちらもそこそこ大所帯だ。


アデレイド兄は嫡男なので、ヘンダーソン領地の次期当主になることは決定事項であるが、魔導師団の方は下のアルフレッド兄が引き継ぎ、兄をサポートしつつ二人でヘンダーソンの領地を統治していく予定だ。


アデレイド兄は領地経営の他に騎士団も束ねていかなければならないので、幼少期から剣術や武術を学び、今では騎士団員と同じ訓練に参加している。


もともと剣と武術の才能が高かったうえに、努力家のアデレイド兄は、あと数年で父を超えるのでは?と団員達の間で噂されているとか。


兄の朝の鍛練は訓練所までは行かずに、邸の裏の洗濯干場の脇にある空きスペースで、木剣の素振りや武術の型の稽古をしてるとのこと。


「干場の脇に、腰をかけるのに丁度良い大きさの木材があるから、そこに腰掛けて見学するといいよ」


アデレ兄はスっと自然な動きで私を横抱きにし、木材の所まで運びその上に降ろし座らされた。


いきなりお姫様抱っこ!マジ恥ずかしいんだけど!



人の気も知らずに、何もなかったようにスタスタと広い場所に行き、腰に帯刀していた木剣で素振りを始めた兄。


可愛らしい顔立ちの少年が真剣に鍛練して額に汗を光らせている姿っていいな。


うふ、いいねいいねー



アデレ兄の可愛くてカッコいい姿に、内心身悶えしながら暫く見学していたが、真剣な姿を見ているうちに自分も素振りをしたくてムズムズしてきた。


私も木剣欲しいって言ったら貰えるかな。

本当は木剣より木刀が良いけど。


『エルファミア』の記憶の中だは、今まで一度も木剣に触れたことはない。



とりあえずダメ元で聞いてみよう



「あ、あのアデレ兄様」

「ん?どうしたの?具合が悪くなったか?!昼間はだいぶ暖かくなったけど、朝はまだ少し冷えるからな」


すぐさま体を心配してそばに来てくれる優しい兄である。


「体は何ともないです」

右手を左右に振って大丈夫とアピールする。


「なら良かった。じゃ喉が渇いたか?お腹空いたか?」

色々言いながら、額の汗を布で拭い笑顔で私の返答を待っているようだ。


よし、訊くだけ訊いてみよう。



「私も木剣を振ってみたいです」


さっきまで笑顔だった兄の顔が固まった。


「エ、エルはまだ小さいし、危ないよ?」

と言いながらアデレ兄は眉を顰めた。


あぁ、やっぱりダメかー・・・



ガックリと肩を落として溜め息を吐いてから、チラッと兄の顔を下から見上げ「・・・どうしてもダメですか?」と聞いた。


兄が私の顔を見るなりハッとした表情になり、頬を少し赤く染め慌てた様子で私の肩をガシッと掴んだ。


「エルー!!僕が悪かったー!僕がしっかり見てたらきっと大丈夫だ!ちゃんと危なくないように教えるよ!だからそんな悲しそうな顔しないでくれー」


どうやら私の落ち込んでガッカリした姿が、兄の心に突き刺さったようだ。



ヨシ!と心の中でガッツポーズを決めた。



兄は私に抱きつき、当たり前のようにまた頭に擦り寄ってきた。



だから、頭に頬擦りやめてー



とりあえず結果オーライだ。

一応、妹らしく感謝の気持ちを伝えよう。


「アデレ兄様ありがとう、兄様大好きです」

「エルー!!」


兄はさらにギュッと抱きしめ、デレデレ顔で頭に頬擦りをしながら「そうか、エルは僕が大好きなのかー」「エルは可愛いーなー」とブツブツ聞こえてきたが、遠くを見つめ心を無にして聞こえないふりをした。



・・・妹好きすぎだろ


前世でも兄が一人居て可愛がってくれてはいたが

こんなじゃなかった・・・はずだ。


兄は満足するまで頭に頬擦りしたあと「訓練所に少し短めの木剣があったはずだから、散歩がてら行ってみよう」とエルの手を取り歩き始めた。


遠くに見える山々の間から、少し輪郭が見え始めた朝陽を眺めつつ、兄と手を繋ぎながら邸の敷地を出て歩き始めて十数分、騎士団の訓練所に到着した。


訓練所の敷地内には大きな寄宿舎があり、その並びに室内訓練所がある。

室内訓練所の一部はスタジアムのように屋根がない場所があり、大型の魔法の訓練もできるようになっている。


建物全体には防壁魔法、強化魔法、復元魔法などがかけられていて、かなり強固らしい。

万が一訓練中に破損しても、復元魔法で元に戻るとのこと。


室内訓練所の裏手には厩舎があり馬が数十頭いるみたいだ。


表はサッカー場並の広さのグラウンドだ。

そのグラウンドの脇に倉庫のような小屋が一棟あり、そこが備品庫になっている。


兄に手を引かれ小屋に案内された。


「足元、気をつけるんだぞ」


カラカラと引き戸を開け中に入ると、色々な道具が置かれていた。刃を研いでない模擬剣などもあるが、木剣だけでも鍔の大小、柄の太さ、刀身の長さ太さ、とかなりの量だ。


「木剣いっぱいあるんですね」


木剣を目の前にテンションが上がり、目をギラギラさせずにいられない。


そんなギラギラも兄にはキラキラに見えるらしく、やたらニコニコしながら「エルにはどの長さがいいかな」とウキウキな様子で木剣を選び始めた。


いや、木剣は自分で選びたい。


「兄様、木剣に触ってみてもいいですか?」

「そうだな、木剣を触るの初めてだし、まずどんな感触か触れてみたらいいかもな」


確かに刀は馴染み深いけど剣は初めてだ。

思いながら刀身はあまり長くなく細めで、鍔の小さい木剣を数本手に取って感触を確かめてみる。


数本感触を確かめた中から、一番手に馴染んだような気がした一本を選び、兄にひと言。


「これにします」


兄は「えー、もう決めたのか?!僕が選んであげたかったのにな」と眉を下げブツブツ言っているのが聞こえてきたが、そこは『私は剣に夢中です』感を全身でアピールしつつ聞こえない振りだ。



「じゃぁ表に出て、振り方を教えよう」


木剣を持ち兄と一緒に小屋を出る。


「じゃぁ、まず持ち方と構え方からね」


と、アデレ兄が言った時にはすでにしっかりと木剣を両手で握りしめ、姿勢を正し構えながら目を瞑り精神統一していた。


「エ、エル??」


驚いた兄の声が聞こえた気がしたが・・・無視だ。


見た目は子供の姿になってしまったが、集中し精神を研ぎ澄ますとやはり感覚が戻ってくるのがわかる。


目をゆっくりと開く。


ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!


「え?えぇー!?」


突然素振りを始めた私を見て兄が驚愕の声をあげたが、暫くして「ほう」と感心した声を上げた。


感覚は戻ってきても筋力がないから、わずかな回数しか出来なかったが、爽快感が全身を覆った。



ふぅーー!気持ちいい!でも筋力つけないとダメだな



ふと気づくと、何故か掌がチリチリするような何か変な感覚がある。


息を吐きながら片手で汗を拭い、変な感覚は何んなのかと、もう片方の掌をニギニギしていると、ふいに横から視線を感じて振り向いたら兄と目が合った。


「あ」


すっかり兄の存在を忘れてたようだ。


アデレ兄は目をギラっとさせ口角の片側だけ上げ、ニヤリと黒い笑みを浮かべた。


木剣など手にした事もなく、もちろん素振りも初めてと思っていたのに、いきなり普通に始めたら誰でも驚くのは当然だ。


何て言い訳しようか・・・頭をフル回転させたが何も浮かばない。


ここは仕方ない笑って誤魔化そう。


「先程見たアデレ兄様の鍛錬のマネをしてみました。ちゃんと出来ていたでしょうか?(ニコッ)」


転生してから初めての作り笑顔だ。

引き攣っている自信しかない。


アデレ兄はさっきの悪そうな笑みから一転、頬を赤らめながら一気にデレっとしたご様子だ。


兄には引き攣ってるように見えなかったらしい。


「そ、そうか!僕のマネか!すっごく良かった!さすがだ!エル可愛いー!」


と、また抱きつき頭にスリスリ頬擦りした。


素振りで汗かいたから、頭皮や髪がさらにヤバそうだけど、大丈夫かな


・・・とりあえず誤魔化せたみたいで一安心だ。


そんなこんなで朝の鍛練を終え、そろそろみんなが起きる頃なので邸に帰ることにした。


もちろん木剣は一本自室へお持ち帰りだ。




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