【34】ストーカーは魔族でした
小太刀を首に突きつけられた美形のストーカーが、万遍の笑顔で私に話しかけてきた。
「私と一緒に行きませんか?」
「・・・・・・・・・はぁ~?!」
このストーカーは、何を言い出すのかと思えば!
思わず後ろに飛び退き、少し距離を取った。
「なんで私がアンタに着いていくと思うわけ?頭沸いてんの?!」
もう完全に前世の素が出ちゃってるが、そんなこと言っている場合ではない。
この頭のおかしな美形をどうにかしなくては!
でもこいつ、絶対強い!
今の私では戦っても勝てる気がしない。
「頭が沸いている・・・意味は分からないが、とても貶された気分になる言葉だ」と笑っている。
意味が分からなくても、私の言いたい事は何となく伝わったようだ。
「そうですよね、貴方が街に入った時から見ておりましたが、そう簡単には来て頂けないと思っておりましたよ」
ずっと見てたとか!マジヤバいやつか?!
「そう警戒なさらずに。貴方に危害は加えませよ。私はとても貴方が気に入りましたから」
綺麗な顔でニコッと微笑んでいるが、その見た目と言ってる事の気持ち悪さとのギャップが半端ない!
あぁー、これどうしたらいいの?!
小太刀を握っている掌に汗が滲む。
「おや、もう見つかってしまったようです。一緒に来ていた付き添いの方々がすぐに貴方を見つけるでしょう」
付き添い?兄達のことか?
探しに来てくれたのかな?
と考えていた一瞬の隙に、気づいたら目と鼻の先に美形の顔が!!あまりの近さに口が半開きのはずだ。
「また近いうちにお会いしましょう」
美形は私の頬に口唇をあて、チュッと音をたて顔を離すと「マーキングしましたから、貴方は私のですよ」と言い残し、紫の瞳で私の目をジッと見つめた後、スっと姿を消した。
・・・・・・はぁ?!
マーキングされた頬を手で押さえた。
て言うかマーキングって何よ!
美形でストーカーで幼女趣味?!マジヤバすぎでしょ。
変なのに目を付けられた・・・
とりあえず危険は去ったように思えたので空間収納庫から鞘を出し小太刀を収め、収納庫にしまった。
衝撃的な体験をし途方に暮れていたら、アデレ兄とアルフ兄の呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、いた!エルー!」
「エル!大丈夫か!?探したぞ」
兄二人の顔を見て心から安堵のため息を吐いた。
「心配かけてごめんなさい」
「エルの事だからゴロツキにやられる心配はないけど、初めての街だから迷子は避けられないからねぇ」
「だよね、本当にごめんね」
「エルが追いかけたゴロツキもしっかり捕まえたからな。気を失っていたから楽に捕獲できたぞ」
そうだ、延髄蹴りでトドメさしたわ。
「帰ったら、どんな風にゴロツキを倒したのか教えてよね」
「じゃぁアデレ兄を相手に再現する?」
「え!僕?何されるの?!」
兄二人が笑った。兄二人の笑顔は癒されるわ。
そうして三人で手を繋ぎギルドに向かい、帰りはアルフ兄にしっかりと掴まり、来た時と同じように馬で邸に戻った。
夜になり晩餐の後、部屋でお風呂を終えゆっくりとセシルが持ってきてくれたお茶を飲みながら昼間の出来事を思い出した。
あの美形はいったい何だったのか。
最後はスっと消えた。もしかして人間ではない?
この世界には魔獣と魔物が存在する。
でも大昔、戦闘の女神と呼ばれたセクメティーナが戦ったのは確か魔族だった。
魔獣はケモノ。魔物は頭はケモノで体は人に似たもの。魔族は確か人と全く変わらない見た目だったよね・・・
もしかして昼間の美形は魔族?
マーキングしたって事はまた現れるの確定だよね?なかなか強そうだった。万が一に備えてこれから剣武術と魔法をもっと鍛錬しないと。
今世では長生きしたいと思っていたのに
魔族に目を付けられるとは・・・
本当に戦闘の女神を目指すか?!
なーんて。
まず使い慣れた武器を一通り揃えていこう
備えあれば憂いなしってね。
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決して結界にかからぬように
気を抜かないよう気をつけ
常に警戒し完全に自分の気配を消す
マーキングした私の可愛い子供は、騎士団に程近い場所にいるから常に警戒が必要だ。
これからはいつでも近くで見守っていよう。
欲を言えば、もっと近くで見守りたい
常に近くに居られるよう何か策を講じなければ。
こんなに楽しい気分は久しぶりだ。
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朝の鍛錬を終え、朝食のために食堂に入ると母様が「エル、ロベルタがもう仮縫い終えて
来るらしいわよ。言った通りだったわね」
凄いなロベルタさん、やる気満々だ。
「昼食前には来ると手紙に書いてあったから、午前中は邸に居てちょうだいね」
「はい、分かりました」
午前中は待機か。
じゃぁ午後には訓練所でアルフ兄に魔法を習おうかな?まだ初級のボールしか教わってないし。
討伐までに中級と上級も習っておかないとね。
と、思考しながら朝食を食べているとクレイが失礼しますと食堂にやってきた。
「ロベルタ様がお着きになられました」
ロベルタさん早っ!