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【32】初めての街(2)



12歳の少年に絆されそうになった心を戒めて街を歩いて行く。


「この先に素材屋さんがあるから、そこならエルの目的の革があるはずだよ」


そう、忘れてわいけない。

私の一番の目的は革である。



「まず素材屋を覗いて、それから何処かで昼食にするか・・・ってエルはいっぱい食べ歩いてたが昼食べれるか?」

「え?普通に食べれるよ」


アデレ兄の問にすかさず真顔で答えた。

アルフ兄が「さすがエル」と吹き出した。


素材屋に着き中に入ると、店内は何かの角や何かの大きな牙などが壁に吊るしてあり、いくつかある棚には何かの骨や爪、毛皮などが所狭しと並んでいる。


前世では目にした事のない光景に驚きと共に思わず「うわぁ」と声が出た。


「珍しいお客さんだね。ヘンダーソン様のとこのお坊ちゃんじゃないですか」


声を掛けてきたのはギルド長と同じく細マッチョだがワイルド系の男の人だ。


「僕達の事ご存知なのですか?」

アデレ兄はこの人を知らないようで首を傾けながら尋ねた。


「あ、そうか。俺はギルドによく出入りしてるんで、そこでたまに見かけたんで知ってるんですよ」

「なるほど、そういう事か」

「ここの店主のルーカスと言います。以後お見知りおきを」


ルーカスは頭を下げ、話を続けた。


「坊ちゃん達ならここに売りに来る側ですよね?何か売りにいらしたので?」

「いや、手持ちの素材が足りなくなってしまったので探しに来たんですよ」

「そうでしたか。何をお探しで?」

「革が欲しいんだけどあるかな?」


ルーカスは、もちろんあります。と店の裏から色んな種類の革を運んできて店のカウンターのような高台の上に置いた。

「なかなか並べきれなくて」と頭を掻きながら言うルーカスに、こんなんで商売になるのかっ?!と心の中で突っ込みを入れつつ、持ってきた革に目線を移した。


て言うか、カウンターが高すぎて見えない。


それに気づいたアデレ兄が「エルじゃ届かないな」と近くに合ったローテーブルの上に移動させてくれた。


優しいな、アデレ兄。


低いテーブルに置かれた革を手に取り見ていく。

黒、茶、焦げ茶、グレー、白とさまざまな色の革がある。


うーん・・・焦げ茶かな?焦げ茶の革を手に取った。

するとアデレ兄も「僕も買おうかな」と黒の革を手にした。


「エルにまた何か創ってもらおう」

と私に満面の笑みで顔を向けた。


うんうん、お姉さんが何でも創ってあげるっ!

と言いたくなるような可愛くあどけない美形少年の笑顔。


アデレ兄と私の分の二枚の他に、アルフ兄が「少し余分に買っておいても良いかもよ?」と言うので、お言葉に甘えて、黒と焦げ茶をもう一枚ずつ、計四枚を購入した。


素材屋で買い物を終え、次は食堂に向かった。

兄二人は街に来るとたまに寄る食堂のようで、兄達のお気に入りのお店らしい。それは楽しみだ。


着いた食堂は、アットホームな雰囲気でこぢんまりとしているが常連客が多いようでお店の中は賑やかだった。


中に入ると「あら、いらっしゃい」と女将が兄達に声をかけた。でもテーブルはいっぱいで空席はない。

「お、兄ちゃん達、俺らはもう食べ終わってるからよ、帰るからここ座りな」

常連客っぽいおじさん達が席を空けてくれた。


「美味かったよ。また来るぜ」と席を空けてくれた人が扉を空けて女将さんに声をかけた時に、おじさん達に感謝の気持ちを込めて手を振った。


可愛い子が手振ってくれたぞ!

と喜んでいるおじさん達の声が外から聞こえた。


「ささ、こちらにどうぞ。注文は何にする?」

空いた席に案内され、席に着くと兄二人は

「僕達は決まっているけど、今日は妹は初めてだから決まったら呼びますね」と女将さんに声をかけた。


「二人はもう決まってるの?」

「ここの肉の煮込みが美味しいんだ」

「僕達来るといつもそれだね」

肉の煮込みいいね!「じゃぁ私もそれで」


すぐに女将さんに声をかけた。

周りを見ると皆、肉の煮込みを食べているようだ。

ここのお店の看板メニューなのかな?

期待で胸を膨らませ待っていると、パンと一緒に運ばれてきたのはビーフシチューのような料理だった。


おぉ!見た目はビーフシチュー!

めちゃくちゃいい匂いだ。

まずパンには付けずスプーンで掬って一口食べた。


「んふっ、美味しい~」

「「だろ〜?」」


あまりの美味しさにパンをちぎっては付けて食べる。

ちぎっては付けて食べるを黙々と続けた。

あっという間にパンが無くなり、最後に大きめにゴロゴロと入っている肉と野菜を頬張って食べた。


満腹で幸せな気分でふと兄達を見ると、兄二人も幸せそうな顔をしていた。


「やっぱり美味しいね、ここの煮込み」

「だな。街に来たらここの煮込み食べないと、街に来たって感じしないよな」


きっと私もこれからそうなる気がするわ~


女将さんに、また来ますと挨拶をして外に出ると、お店から少し離れた場所でゴロツキのような連中に絡まれている女性が目に入った。


「ねぇアデレ兄、アルフ兄、あれ」

「あぁ、なんか揉めてるな~。助けるか」

「だね、うちの領地だし見逃すことは出来ないね」

「エルはここで待ってて」


え!私待つの?私も参加したら駄目なの?!


と、思っている間に兄二人は走り出してしまった。


えー!本当に私置いてけぼりなの?!


と様子を見ていたら、兄達の隙を狙ってゴロツキの一人が走って逃げて行くのが目に入った。


逃げていく男が目に入った瞬間に私は走り出していた。


男は身体強化をかけているようで中々に逃げ足が速い。

私も身体強化で全速力で追いかけていく。

やっと何とか追いついたと思ったら男は「何だこの餓鬼がっ」と懐からサッとナイフを取り出した。


あれ、8歳の子供相手にそんなことするの?


なんて思ったそばから、ゴロツキは躊躇なく私にナイフを握った手を真っ直ぐに向けこちらに勢いよく伸ばしてきた。


ゴロツキの勢いよく伸ばされた手をスっと躱し、ナイフを握っている手首を手刀で叩くと、ナイフは男の呻き声と共に手から落ちて少し離れたとこまで滑っていった。

ナイフがなくなったその掌を掴み逆手に捻りあげると、男が捻り上げられた痛みでウッと声を上げながら少し屈んだ。

屈んで前のめりに頭が低くなったところに、渾身の力を込め綺麗に延髄蹴りを決めた。男は転がり意識を失った。


ふん、甘いわー

私にナイフ向けた時点で終わってるっつーの


誰も見てないがかなりのドヤ顔だ



・・・気づけば迷子だった。






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