【29】ピンクのワンピとお別れの時は近い
晩餐後に「少しお茶をしましょう」と母様に誘われ、今は応接室で母様と二人だ。
「ねぇ、エル。その髪を結っている組紐、とても素敵ねぇ。アデレとアルフも腕に着けていたけど、それなぁに?」
ニッコリ微笑む母様、目が笑ってない。
綺麗な人の目が笑ってない笑顔って怖い
「えっと・・・私が作りました」
「あら!そうなの?!それも戦闘の女神効果かしら?!」
「・・・ですかねぇ?」
余計なこと言うと墓穴を掘るから、返答は簡潔にね。
「私にも出来るかしら?エル、教えくれる?」
「はい、もちろんです。あ、そしたら今夜セシルにも教えることになっているので、一緒にでも構いませんか?」
「あら、セシルもその組紐が気にいったのね。いいわよ。呼びましょう」
執事のブレリックを呼び、セシルに裁縫道具を持って来るようにと伝えてもらった。
セシルを待ちながら母様とお茶を啜る。
「近いうちに仕立て屋に来てもらいましょう」
仕立て屋?
「これから体を動かす事が増えるでしょ?ならワンピースばかりじゃ動きにくいですものね」
仕立て屋ってことは既製品を買うのではなく、一から服を作るってことか。もう手縫いでガウチョパンツを作らなくて済むってことだ。
「母様、でしたら私が動きやすい形を提案してもよろしいでしょうか?」
「あら、もちろんいいわよ。仕立て屋には明日の朝にクレイを使いに出すわ」
「はい、ありがとうございます」
グフフ、楽しみだ。
そこにセシルが裁縫道具を持ち現れた。
「奥様も組紐に興味をお持ちになられたのですね!」と楽しそうに笑顔のセシルを交え、三人で組紐講座を開いた。
母様とセシルは覚えが良く、すぐに簡単な物なら編めるようになった。
次の日の朝、鍛錬を終え邸に戻ると、母様とセシルは組紐で髪を結いわざわざ私の前にドヤ顔で現れたのだった。
え、何その二人のドヤ顔。
教えたの私だし。
朝食を終えると母様に、クレイを仕立て屋の使いに出したと聞いた。
仕立て屋さんいつ来るかな、楽しみ~
そしてここ数日のいつも通り訓練所に向かい、アデレ兄は騎士団の方へ。私はアルフ兄とギネス師団長の元へと向かった。
「エルファミア嬢、見て下さい!」
ギネス師団長が自慢げに姿勢を但し、私の前に立ちはだかった。
あれ?腰にシザーケース擬き付けてる
「え?ギネス師団長は空間収納が出来ますよね?それ必要なくないですか?」
「これは単に見目が良いから欲しかっただけです。格好いいでしょ?」
おい、ギネス!格好付けのためにだけに魔石使うな
そうそう、アルフ兄も空間収納庫が出来たんだって。
これでどこ行くのも手ぶらで行けるって喜んでた。
ちなみにアルフ兄には私の空間収納庫の大きさの話をしたから、アルフ兄も今までのバッグより大きいのを創ったはずだ。
「ギネス師団長が格好だけのために創るのを良しとするならば、私も創りたい物があるんですが」
「そうなのですね!ですが、この腰用のバッグを団員達も欲しいと言い出しましてね。素材がもうなくなりそうなのですよ」
ギネス師団長がその素材を無駄に使ってるよね?!
「そうなんだ・・・素材はどこで手に入れる物なのですか?」
「素材は魔獣討伐が主ですね」
「そうだ、近いうちにエルの初討伐出動を兼ねて、森に素材取りに行きましょうよ」
アルフ兄がギネス師団長に提案した。
「エルファミア嬢の初討伐!良いですねぇ。でもジェイルズ殿の許可が必要ですが・・・」
「それは問題ないよ。昨日父様にはエルの『戦闘の女神様』の話をして、すでに訓練の許可は出てるから」
「おお!許可が出ているならいつでも行けますね!
初討伐てことは実戦か!燃えるわー
内心ギラギラとしていたら、執務室に扉を叩く音が響いた。
誰だろ?とギネス師団長が扉を開けると、そこに居たのは執事見習いのクレイだった。
「あれ?クレイどうしたの?」
アルフ兄が声をかけた。
「失礼致します。エルファミアお嬢様に奥様から言伝でごさいます」
クレイは母様のお使いで仕立て屋に行ったはずだ。
「今朝、仕立て屋の主人の元を訪ねまして、お嬢様のお洋服を仕立てたいと申しましたら、今日の午後にも来て頂ける事になりましたので、昼食時には必ず御屋敷の方に戻るように。との事でございます」
仕立て屋さんは今日の今日で来てくれるんだ。
それは急がないとだ!
「ギネス師団長、アルフ兄。今日はこのままクレイと邸に戻るね!仕立て屋さん来るならやらないといけない事あるから」
「そうなの?分かった。クレイ、エルの事を頼むね」
「承知致しました」
「エルファミア嬢、討伐の件は私達とエドガー殿で話を詰めておきますね」
「はい、よろしくお願いします」
手を振り、もう片方の手でクレイの手を引っ張り急ぐように執務室を後にした。
邸に戻り、クレイにお礼を言い部屋へと急いだ。
部屋に入ると、すぐに机に向かい椅子に腰を掛けた。
用意したのは紙とペン。
私が思い浮かべた服の形を紙に書いていく。
まず色は黒、紺、濃いグレー
この三色でガウチョパンツを作ってもらおう。この世界にゴムは存在しないから腰を共布の太めの紐で結ぶタイプだ。
ブラウスは薄いグレー、淡い青、黒の三色。
襟は邪魔になるからいらない。丸首か鯉口シャツが理想だ。袖はストンとしたスマートな形でいい。袖口のボタンもいらない。肘から手首に向かってAラインで、袖に広がりがある方がいいかな。
部屋で一人ムフフフとデザインを描いていると、セシルがお茶を持って来てくれたようだ。
あまりに私が夢中で机に向かっているので、静かに出て行ったようだ。
デザイン画が出来上がったが、まだ少しお昼には早いようだ。
昼前だし調理場は忙しいかなと?思いつつも部屋を出て調理場へと向かった。
調理場はやはりバタバタしていたが、料理長が私を見るなり「お嬢様、いらっしゃいませ」と駆け寄り出迎えた。
「あの、昨日の卵白ありますか?」
調理場の忙しさに恐縮しながら料理長に尋ねた。
「あります。何なら昨日から増えてます」
卵白がたっぷり入ったボウルを出してきた。
「今、私がここで作業してお邪魔になりませんかね?この隅の方で大丈夫なので」
作業台の端の方を指さした。
「邪魔だなんて、そんなこと有り得ませんから。ささ、どうぞ作業台を使ってください」
やたら笑顔の料理長。
卵白で何作るの?と言う料理長の目が、ギラギラとしていた。何か期待の篭った眼差しだ。
この世界は目力強い人が多いな