【25】それぞれの夜
あの御方に忠誠を誓ってから、どのくらいの時が経ったのか。今は人間との諍いもなく平和な世だ。
あの御方に許可を得て、退屈しのぎに人間の世界に偵察と言う名目で遊びに行くことにした。
あの御方は「お前だけ狡いぞ!」などと言っていたが、一国の王が無闇に国を離れる訳にもいかないからな。
特に、魔力だだ漏れのあの御方が人間の世界をウロウロしていたら騒ぎになるだろう。
俺も魔力だだ漏れのあの御方とは、人間の世界を一緒に行動はしたくないしな。
人間の世界は何時ぶりだろうか。
最後に来たのは確かまだ戦乱の世だった。
・・・何十年振りか?それとももっと経ったのか?俺にしてみたら何十年も数百年も、差程変わりはないがな。
各国を気の向くままにフラフラと渡り歩いている(実際には歩かないけどな)が、人間の世界はだいぶ変わったようだ。
特に人間の今の食べ物は、なかなか美味い。
あの御方にも是非食して欲しいものだ。
帰る時には、何かお土産を買って帰ろう。
喜んでくれるだろうか・・・
今はオーストヴァレイと言う土地に来ている。
数日前に、突然何やら面白い魔力の気配を感じた。
気配を辿りながら森の中を進んでいたら、魔力感知の結界に触れてしまった。
気配に気を取られ過ぎた。
我ながらしょうもない失敗をした。
結界に触れた直後は警戒し身を潜めていたが、人間が偵察部隊を森に寄越したのは陽が昇ってからだった。
さすがに暗いうちには来なかったか・・・
なら暗いうちに行動するべきだったな。
だが、その日のうちに結界は強さを増した。
まぁ、普段の俺ならば人間になど見つかる訳もないが、面倒には変わりはない。
そして今日、もう一度気になる気配の方へ近づこうとしたが、やはり偵察部隊が彷徨いてる。
面白い気配の持ち主は、騎士団の付近にいるようだ。
迂闊には近寄れない。
『チッ!』思わず舌打ちした。
折角、何やら面白そうな気配だったのにな・・・
まぁ自業自得だ。仕方がない。
ほとぼりが冷めたら、またここに来るとするか。
時間はいくらでもあるしな。
それまでは隣りの土地に遊びにでも行こう。
暫く見ない間に人間の街も変わったしな。
見て回るとなかなか面白い。
そして夜には姿を消した。
***************
夜、もう食事も終わり、団員達が自由に自分達の時間を過ごしている頃、騎士団の寄宿舎の一角にある、エドガー騎士団長の執務室にギネス師団長が訪れた。
「エドガー殿に相談があるのですが、今お時間よろしいでしょうか」
「お、ギネスか。何だ改まって。もう書類を片付けたら終わりだが、何だ?」
「実はですね、エルファミア嬢の事なのですが」
エドガー騎士団長は「エルファミア嬢?」と片眉を上げながら、ギネス師団長を見た。
「まぁ、ソファに座って話そう」
「では、失礼しますね」
「で、エルファミア嬢の話とは?」
「その~・・・エルファミア嬢は昨日から訓練所にいらっしゃるようになり、来れば結構体を動かしていますよね?今日もエドガー殿と手合わせしましたし」
「そうだな。戦闘の女神の加護と聞いたからには、これからもやる事は多いだろうな」
「ですよね。でもエルファミア嬢はきっとワンピースしかお持ちでないだろうと思い、それで私考えたんです」
「何をだ?」
エドガー騎士団長は、早く言えと言わんばかりにギネス師団長の目を見た。
「エルファミア嬢に騎士服を支給したいと思いまして」
「お、それは良い案ではないか!」
「でしょう?で、騎士服のお色なのですが・・・勝手に魔導師団の色にしたら怒られると思っての御相談なんですよ」
「そりゃ怒るに決まっとるだろうが」
「ですから、相談に来たのですよ」
「あぁ、そうだったな。騎士団は黒に紫、魔導師団は紫に黒。うまい具合に半分ずつに出来ないもんかな?」
「とりあえず紙に図案を書いて見ましょう」
「お前、絵なんぞ描けるのか?!」
「お任せ下さい。あと出来ればエルファミア嬢を驚かせる為に密かに注文したいので、明日の朝一番にでも、執事のブレリックさんにエルファミア嬢の寸法を聞きに行きます」
「寸法か、それなら今俺がひとっ走りで行って来るぞ。ギネスは絵を描いておいてくれ」
「はい、ではよろしくお願い致します」




