【24】静かな夜は自分のために
結果、感知魔法はできたが、検索魔法は出来なかった。あとは錬金だが、もう陽が傾いてきているので明日にしようという事に。
「明日もお待ちしておりますね」
「訓練所に来たら必ず俺のとこにも来てくれよな」
と二人に念押しのように言われ、訓練所を後にした。
明日はマルセル料理長にマヨネーズを教えなきゃだし。
また忙しくなりそうだ。
兄二人と剣や魔法の話をしながら邸に向かった。
「そういえば、アデレ兄の武器は何なの?まだ見た事ない」
まだアデレ兄は木剣を持っているところしか見た事ない。
「そうだな、討伐のような実戦の時にしか持たないからな。僕も空間魔法が使えれば持ち運びが出来るんだけどな。バッグを常に持ち歩くのは面倒だ」
「だねぇ、その煩わしいって気持ちは分かるなぁ」
確かに、いくら肩がけだとしても、バッグを持ち慣れていないと煩わしいだろう。
何か良い方法はないものかと思案する。
「あ、そうだ。バッグじゃなくてもっと小さな物なら煩わしさ減る?いい事思いついた」
「いい事?どんな事だ?」
「それはまた明日ね」
「エルの思いつきなら期待出来そうだね~」
「確かにな」
アデレ兄とアルフ兄は私にニッと笑顔を向けた。
そんな二人の笑顔を見て、私の口角も上がった。
その私の顔見た兄二人は、嬉しそうに更に笑顔になった。
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お熱が治ってからのエルファミアお嬢様は変です。
私は男爵家の出身だが、お世辞にも裕福とは言えない家庭事情は幼い頃から理解していた。
爵位は持っていたけど、男爵はほとんどの家が平民と差程変わらない生活を送っている。
男爵家出身の子は、早いうちからメイドや侍女、従者や従僕になるのは珍しくはない。
なので私も早くから、お世話になるお屋敷を探してもらい紹介してもらった。
当時10歳の私は、ヘンダーソン様のお屋敷にメイドとしてお世話になることにきまった。
ヘンダーソン辺境伯ご夫妻は、とても仲睦まじく誰が見ても憧れるような素敵なお二人。
そして何より、よく居る貴族のような傲慢さなどもなく、下の者にも優しく接してくれるご夫妻である。
とても良いお屋敷に来れて良かった。
当時3歳だったエルファミアお嬢様は、小さい時からいつもニコニコとして、それはもう可愛らしいお嬢様でした。
『でした』じゃない!今も可愛らしいです。
お嬢様が5歳になった時に、私がお嬢様の専属の侍女に任命されました。
それは嬉しくて、飛び跳ねて喜びました。
エルファミアお嬢様はお庭でお花を摘んだり、絵本を読むのが大好きで、ドレスやワンピースも可愛らしいお色が好きな女の子って感じで、いつも微笑ましく見守っていました。
なのに!お嬢様が変になりました!
今まで朝は、私が起こしに部屋へ伺っていたのに、今は何故かやたら早起きのようです。
早起きは良い事なので、それはいいのです。
が、ご自分で着替えたワンピースが、お嬢様のワンピースの中でも数少ない暗い色の物!
エルファミアお嬢様はピンクが大好きで、他は淡い綺麗な色を好んでいたはずなのに。
そして熱が治まって目覚めてから、お嬢様の笑顔をまだ一度も見ていません。
本当に何があったのでしょうか・・・
しかも何故か木剣を持って帰ってきた。
何故、木剣!?
そして今朝は見た事もない組紐で髪を結っていた。
その組紐は一体どこからー?!
でも組紐は可愛かったな~
・・・私も欲しいです。
熱が治った後のお嬢様は謎だらけです。
「お帰りなさいませ、エルファミアお嬢様」
今日もまた何やら薄汚れてお戻りになりました・・・
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王都へ行った父様と母様は泊まりになったようで、晩餐は兄妹三人で済ませた。
今夜は兄二人も部屋に訪ねて来そうもない。
一人で静かな夜を過ごせそうだ。
そうだ、今のうちに暗めの色のワンピースを数枚ガウチョパンツに変身させよう!腕に身体強化かけて手縫いでガンガン縫ってやる!
裁縫道具をテーブルに広げ、ワンピースを数枚ソファに置き、作業に取りかかった。
用意したワンピースは数枚、どれも前ボタンの物で、ウエスト部分には後ろで結べるように太いリボンが縫い付けてある形のワンピースだ。
それぞれウエストの部分でぶった切り、上はブラウス擬きにして、下はガウチョパンツにする。
若干ブラウス擬きの丈が短い気もするが、前世で丈が短いの流行ったし、多少お腹がチラッと見える位だ。
ここでは肌見せははしたないとか言われそうだけど、そんなの無視無視~。
鼻歌を口ずさみながらサクサクと作業を進めていった。
まだ『エルファミア』は自分の家の敷地から出た記憶がないけど、街では今どんな服が流行っているのだろう?
今度、街にも行ってみたいな~
その頃アデレイドは、昼間見たエドガー騎士団長とエルファミアの手合わせを思い出し、自分とはまだ勝負のついていないエルファミアに負けないようにと、エルファミアという新しいライバルに心を躍らせ、部屋で黙々と筋トレに励んでいたようだ。
アルフレッドは、少しずつ自分達の前でだけ、エルファミアの口角が上がるようになってきたことに嬉しく思い、一人微笑みながらも、空間収納庫を創り出す為に試行錯誤していた。




