【215】会談
「ヘンダーソン領主夫妻殿、ようこそ起こしくださった。この度はお呼び立てして誠に申し訳ない」
と、まず口を開いたのは陛下。
ここは陛下の部屋に近い、いつも私達が集まる陛下の居間である。謁見の間だと仰々しくなるし、今回は国と国ではなく、あくまで個人的にという事で、この居間となった。
部屋に入ると、最初は魔王のダダ漏れの魔力に身震いした父様母様だったが、腰の低い魔王の態度に好感を持ったのかすぐに持ち直した。
「いえ、こちらこそいつも娘がお世話になっております。本当ならもっと早くにこうしてご挨拶したかったのですが」
「いやいや、こちらこそエルファミアのおかげで日々楽しく、そして国としても良い刺激を頂いております」
いえいえ、いやいや、と陛下と父様の間で謙遜合戦が始まった所をぶった切った母様。
「で、この度はどのようなご要件で私共を?」
ハッとした表情となった陛下と父様。
そうだった、と茶を啜って本題に入った。
実はですな・・・
出来ればヘンダーソンの領地で、間の子達の受け入れをお願いしたいのだと。
「なるほど。少人数であれば騎士団の寄宿舎や邸で面倒は見れるが、だが大人数となった場合には邸も寄宿舎の方も部屋の確保が難しいですな」
「そうですわね、世話をする人員の確保は何とかなるとしても・・・今までは少人数で、しかもエルが連れて来た子供達でしたので」
そりゃそうだよね。大人数の身も知らぬ子供達を邸や寄宿舎に入れて、万が一何かあったら誰が責任取るのかって話になってくる。
「やはり難しいですかな」
魔王や側近ズは、何故か私をチラチラ見てくる。
何か案はないのかって事か?
うーん・・・
「そういえば、カーラ達がヘンダーソンに来た時、街の外れにある空き家に身を潜めていたんだけど、その空き家の利用は可能?」と父様を見た。
「街の外れの空き家・・・確かあの一帯は今は領主の持ち土地だったな?」
「ええ、何かするにも街から離れているから、まだ特に手は付けてないですわね」
あんな街外れの場所を何に?と言う父様母様。
「なら空き家を少し改築して、一時の受け入れ場所としたらどう?アルフ兄とギネス師団長に転移部屋も作って貰えば行き来も出来るし」
「そうか、転移魔法陣もエルの家とヘンダーソン邸みたいに飛べる人を限定にすれば、魔力が高いからってやたら使える事もないしね」とアルフ兄も賛同してくれた。
受付の窓口をギルドに置き、そこに一人二人の人員を配置して、窓口に来た間の子たちを改築した家へと案内する。
それと同時に窓口はヘンダーソン邸にも知らせ、邸から魔族の国に知らせる。そして知らせを受けた魔族の国が迎えに行く。
知らせが行き来するたったの二~三日程度の事だ。
「それが実現出来るなら、海坊主に言えばすぐに間の子達に噂は広まるはずだよ」
海坊主級の魔物なら他にも心当たりがあると言う側近ズは、その案が決まったら早急に声を掛けに行くと言う。
するとヴァルテスが良い事を思いついた!と突然と声を上げた。
「その街の外れの空き家って人がある程度泊まれるようにするんだろ?なら、間の子の問題が落ち着いたり、他にもっと良い案が出て不要になった時には宿にできるよな?流行りそうな店をあえて街外れに出せば、人も集まって来て街外れも繁栄して行きそうじゃね?」
おぉ、なかなか良い案だね~と感心していると、その案に目をギラッとさせている父様母様。
「土地は領主夫妻の持ち物なので、建物は私共が改築するとしましょう。窓口となる人員の給金ももちろんこちらで出させていただきます。そして建物が不要となった時の運用管理はそちらに全てお任せ致しますゆえ。いかがですか?」
「その話し乗ったっー!」テーブルをバンッと叩き身を乗り出した母様。やはり商売に繋がるような話しの時は母様の方が判断が早いな。
そして母様のする事に父様は、ほぼほぼ反対などしないから、上手く家庭も領地も回っているのね。
騎士団の総師団長が、奥さんの尻に敷かれてるってのも何だかなって感じだけど。
まぁ母様のやる事にハズレはないし、母様の着眼点にはいつも感心されられる所だ。
話が概ね決まると、一旦会談は終了となった。
これ以降はこちらの国側の話となるため、父様母様はその場から赤が送ってくれた。
母様は飛ぶ寸前まで「ねぇ餡子、餡子は?駄目?」と上目遣いで私に聞いていたが。
「うむ、流石エルとアルフレッドのご両親だ、実に良い人達だ。領地も繁栄するわけだな」
「ありがとうございます」
アルフ兄と顔を見合わせ、笑顔でお礼を述べた。
「さて、これからもう一つの本題なんだが」
ヘンダーソンの受け入れ場所は決まったも同然だ。
ここからは、こちらの受け入れ場所の話となるのだろう。




