【210】旦那様は禁句
とりあえず送られてきた植物は全てチェックしたが、特にこれといって自分が知るかぎり食べれる物はなく、ただの草や根、茎や葉といった植物。言わばゴミである・・・
「赤は罰として、送ってきた臣下達全員に返しておいて。ついでに、どれも食べれる物じゃないって言っておいて」
赤は「御意~」と空間に全て放り込んだ。
昼に旅行から帰宅して、いらん贈り物騒ぎで気づけばもう陽が傾きかけていた。
キッチンで夕飯の仕込みを始めると、手伝ってくれるジークとディーンは何も言わなくても、私の作業工程を見て次に使う食材や調味料などを出してくれる、その成長っぷりは感激ものである。
今夜はハンバーグだ。寮で使っていた肉ミンチの魔道具を卒業と同時にこっちに持って来たからね。まだハンバーグを知らないノルマン達は初めてのハンバーグに恍惚とした表情を浮かべていた。
「そうだ、肝心な事を忘れてた!陛下が今度ヘンダーソンの領主夫妻と会談できないかと言っていたぞ」
ちゃっかりハンバーグをモリモリ食べている赤だが、側近が陛下の言伝忘れるとか駄目だろが。
ていうか領主夫妻って私の両親では?
「あぁ、例の件ですね」
「だな、出来ればなるべく早めに会いたいと言っていたが、何とかなるか?」
「例の件って?」
「間の子達の件だな」
赤の言葉にピクっとジーク達が反応し、何?どういう事?と詰め寄ったが「まぁ話は陛下とヘンダーソン夫妻の会談が終わってからだな。別に悪い話じゃないから心配すんな」とジークの頭をワシャワシャ撫でた赤。
もしかして、前に私が提案した件かな?
だとしたら本当に悪い話ではない、むしろ間の子達にしてみたら願ってもない話なのでは。
「明日にはヘンダーソンに行ってみるよ」
「そうか、早い方がいいからな、頼むよ。陛下はヘンダーソン夫妻の予定に合わせると言っていた。だが陛下が人間の国に行くのはちょっと難しいから、申し訳ないがこっちに来てもらうようになると思うが」
「それは構わないと思うよ。随分前に新居に父様達呼ぶ約束してたけど、未だに招待出来てないから。ね」
ね、とディスを見ると「そうですねぇ、そろそろ招待しないと会う度に纏わりつかれて大変な目に合いそうですからね」とククッと笑った。
「明日はちょうど小豆も炊けるし、ヴァルテスが餅ついてくれるから、お土産に大福でも持って行くかな」
「「「「大福っ?!」」」」
ヴァルテス以外、全員が綺麗に口を揃えた。
しかも今ハモったよね?大福でハモるって凄っ!
「ま、まぁいっぱい作るし、もちろん陛下の分も作るから、ヘンダーソンに行く前に城に寄るよ」
ディスは餅をつくならまたかき餅揚を食べたいと言い出すと、全員が「かき餅揚げ賛成」とその意見に乗っかった。
何だこの団結力、この邸の住人達の食に関しての団結力半端ないな。あ、若干一名は住人ではないが。
「はいはい、じゃあ旦那様からの御要望にお応えするために、もち米をもう少し仕込むとしようかな~」
そう冗談ぽくボソッと言い席から立ち上がると、何故かフラフラと調理場まで一緒に着いてきたディス。
もち米を研ぎ始めると、後ろから私に凭れ掛かるようにして耳元に口を近づけ呟いた。
「もう一度、言ってみてください」
「へ?な、何を?」
「さっきの言葉をもう一度」
「もち米をもう少し・・・」
「そこじゃありませんよ」と見つめてくる目がやたらギラギラして艶めいているんですけど?!
まさか『旦那様』が原因かっ!
「い、いわ、言わないっ」
「言ってください」と言うその口元は笑っているが、やたら眼力が強くて違った意味で怖いんですがっ!?
「だ・・・だ、旦那様?」
と言った瞬間、ヘラ~とニヤけると同時にガバっと抱きついたディスは項や首筋にあっちこっち角度を変えて口唇を這わせながらスンスンし始めた。
「ちょ、ちょっと、もち米、もち米」
「あぁそうでした、早く仕込んでください」
は、早く?早く仕込んで何があるの?!
早く仕込めと言う割には抱き着いて離れないし、スンスンも止めてくれない。もち米を研いでいる間も後ろから耳元で「早く、早く」と呪文のように囁くディス。
ディスの様子を見て「お前らイチャつくなら部屋行け~」とニヤニヤとからかうように声を上げた赤だが、ディスは至極真剣な顔で「もち米の仕込みが終わりましたら、すぐに行くのでご安心を」と赤にニッコリ微笑んだ。
そんなディスを見てゲラゲラ笑っている赤とヴァルテス。
その傍らで顔を赤くさせるジーク達、とは逆にキャッキャして喜んでいるユーリ達。
いやいや、笑い事じゃないっー!
安心?逆に私は全く安心できないよ?!
・・・ずっともち米研いでいてもいいですか?
『旦那様』は冗談でも言ってはいけない言葉だという事が私の中で決定となった。
私の決めポーズと同じく封印しよう。




