【21】騎士団の食堂
完全にやらかした感満載で血の気が引いていく。
どうしよう・・・
「エルファミア嬢・・・何かあるんだろ?さすがに俺が知ってるお嬢様は、けして戦闘向きじゃなかったはずなんだ。異国の本読んだ位じゃ武器は創造できねぇだろ」
エドガー騎士団長の言う通りだ。
あぁー!どうしよう!
困ってアルフ兄をチラっと見る。
アルフ兄も焦ったように口を挟んだ。
「とりあえず昼食にしましょう。話は食後にでも。ね、そうしましょう」
「だな~、エルもお腹空いただろ?」
アデレ兄とアルフ兄、ナイスな提案です。
エドガー騎士団長は、一度私を見てため息を吐き、諦めたように言う。
「仕方ねーな。昼食にするか。三人は邸に戻るのか?」
「今日は騎士団の食堂で済ませるって伝えてあります」
「そうなのですね、では皆で一緒に食べに行きましょう」
ギネス師団長は何やら嬉しそうに私の背中に手を置き、食堂がある方向へと進むように促した。
歩きながら、エドガー騎士団長がコソッと耳打ちした。
「話は、昼食が終わってからだな」
・・・エドガー騎士団長を誤魔化せそうもなさそうだ。
思わず口元をキュッと引き締めた。
「今日の昼食は何ですかねぇ。エルファミア嬢は好き嫌いはないですか?肉と魚はどちらが好きですか?」
微妙な雰囲気お構い無しに、ニコニコと話しかけてくるギネス師団長。
ギネス師団長!空気読んでー!
顔を引き攣らせながら食堂へ向かった。
食堂に入ると、すでに騎士団員の人達が大勢食事に来ており、かなり賑やかだ。
エドガー騎士団長に連れられ私達が中に入ると
「エドガー騎士団長、皆さんで昼食ですか。こちらの席空いてますよ。ささ、アデレイド殿、アルフレッド殿、エルファミア嬢もこちらへどうぞ」
と空いてる窓際の席へと案内してくれたのは、副騎士団長のブラッディだ。さすが副騎士団長を任されているだけあるのか、ブラッディ副騎士団長もエドガー騎士団長に負けず劣らずのムキムキだ。
「私はもう自分の分は持ってきたので、言って頂ければお持ちしますよ」
食堂の料理は、自分で取りに行くセルフのスタイルのようだ。
テーブルを見ると、厚切り豚ロースのソテーのような料理とパンとスープが乗ったトレイが一つ置いてある。
席に案内してくれたブラッディ副騎士団長も同じテーブルで一緒に食べる様子だ。
「俺もお前と同じ肉で頼む」とエドガー騎士団長はブラッディ副騎士団長に頼んだ。
「私は少し見てみたいので自分で行きます」
当然、兄二人は私と一緒に行くと言う。
「では私も、エルファミア嬢達と一緒に行きますよ」
ギネス師団長、何故私についてくる!?
トレイを持ち、配膳窓口の前に出来ている列に並び、私の順番が回ってきた。
「おや、もしかしてジェイルズ総師団長のとこのお嬢様かい?!」
配膳窓口から顔を出し声をかけてきたのは、父様やエドガー、ギネスらと同年代位の見た目をした爽やかな印象の人。
「僕はここの食堂を任されているマルセルだ。以後お見知りおきを」と、胸に手を当てニッコリ微笑んだ。
「エルファミアです」と軽くペコりと頭を傾げ、挨拶もそこそこにお腹が空いているので、すぐさま「肉でお願いします」と切り返した。
「アハハハハ、エルファミア嬢は淡々としてるんだねー」
真後ろに一緒に並んでいたアデレ兄とアルフ兄は、そのやり取りを見て吹き出し、ギネス師団長は「エルファミア嬢らしいですね」とクスクスと笑っている。
「肉がいいんだね。今用意するよ」
マルセルは笑いながら、肉の準備に取り掛かった。
アデレ兄も同じく肉で、アルフ兄とギネス師団長は魚にした。
肉を焼いている鉄板の隣りにある、もう一枚の鉄板では魚も焼かれている。
何とも香ばしく食欲を刺激する匂いだ。
・・・匂いだけなら美味しそうなんだけどなぁ。ここもきっと一味足りないような薄味なのかな。
「はい、お待たせ~」と見た目は厚切りの豚ロースのソテーのような肉料理がトレイの上に置かれた。
塩コショウで焼いた厚切りの豚ロースは、食べやすい1~2センチ程の大きさに切られ、上にかけられたトマトソースには細かく切った野菜が入っているのが見える。
彩りに温野菜も乗っている。
スープも野菜たっぷり具沢山と言う見た目だ。
「沢山食べるんだよ」とマルセルに見送られ席に戻った。
テーブルは8人掛けで、左にはブラッディ副騎士団長のトレイが置いてあり、その隣りにエドガー騎士団長、エドガーの隣りにギネス師団長が座った。
私達は、向かい側にアデレ兄、アルフ兄、私の順番に腰をかけた。ちょうどブラッディ副騎士団長もエドガー騎士団長の料理を持って戻ってきた。
エドガー騎士団長とギネス師団長が料理を食べ始めたので、ブラッディ副騎士団長と兄二人も食べ始める。
少しの間、周りの人達はどのように食べ進めるのかを観察する。
皆、肉や魚をナイフで切って食べる。パンはロールパンのような形で、手でちぎり肉や魚のソースを付けたり、スープに浸したりしている。
私も肉をナイフで適当な大きさに切り、ソースをたっぷり絡めて頬張った。
お肉柔らかい!
でも、トマトソースは素材の味を活かしているのか、トマトの味が際立っている。うーん・・・パンチが欲しい。
「お食事中にすみません。少し失礼します」
私が突然立ちそう告げると、同じテーブルの5人が瞬時にらこちらに注目した。
「エル、どうかしたの??」とアルフ兄。
「ちょっとマルセルさんの所に行ってきます」
そそくさとトレイを持ち、調理場に向かった。
騎士団長達は「何だ?何だ?」というような顔をしながらも、何も言わずに見送ってくれた。
調理場へと向かい、入口から顔を出し
「マルセルさん、少しお邪魔しても良いですか?」
と声を掛けた。
「おや、どうかしましたか?料理に何かありました?」
マルセルは私が持っているトレイに目線を移した。
「いいえ、違うのです。このパンを切って欲しくて」
「パンを切る?」
「はい、パンの側面から横に切れ目を入れて欲しいのです。刃を入れた側面の反対側は、切らずに繋がったままで」
「・・・あー、分かった!」
マルセルはパンを手に取り、包丁で横から真っ直ぐ刃を入れ、切り落とす直前に止めた。
「こういう事で合ってるかい?」
パンの側面から綺麗に横真っ直ぐに切れ目が入っている。
「はい、ありがとうございます」
「これをどうするんだい?」
「ここに肉を挟んで食べます」
「なるほど。サンドイッチのようにして食べるんだね」
「はい。それと・・・少し調理場を見せて頂いてもよろしいですか?」
「調理場を??それは構わないけど・・・」
「ありがとうございます!」
少し調理場の中をキョロキョロする。
あった!私が欲しい物!
「少し、場所と材料をお借りします!」
「え?!」
私の突然の宣言にかなり驚いたようだ。