【202】式に興味はないのだが
学園から帰宅して寮の私の部屋で夕食を終えた後、いつも通り二人でマッタリと過ごすお茶の時間。
「エルファミア、式はどうします?」
ディスに唐突に聞かれたが、式って何の?
「私達の婚姻式ですよ」
あぁ、それか。ていうか、元々結婚式に憧れも何もなかったから特に考えてもいなかったな。
婚姻関連の書類は、各々署名して然るべき機関に提出すれば、その日のうちに受理される。魔族の国では、卒業式の朝には魔王が書類を受理しといてくれると言う。そして受理されるとめでたく『夫婦』と認められた事になる。
「ディスは婚姻式したいの?」
「私はどちらでも構いませんよ。私はエルファミアと『婚姻』する事に重きを置いているので。式するしないは特に何の拘りもないですね。式は貴方次第で構いませんよ」
「じゃあ、しない。そこにお金と時間を費やすなら、他の事に使いたい」
「他の事ですか?例えば何かありますか?」
「新婚旅行とか?」
「新婚旅行とは?」
「元の世界では、婚姻した二人で記念に旅行する人が多く居て、だから式にお金を掛けずに、旅行にお金を掛けるって人も少なくなかったよ」
「二人きりで旅行!とても素晴らしい案です。ではそうしましょう」
まだ知らない国はいっぱいあるが、ディスとならどこへでも行けるし、各国制覇したディスなら観光案内もしてくれる。
なんて頼もしいんだろう。
その後どんな国に行きたいとか、何日くらい行こうかと、二人で計画を経てていた。
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「何っ!婚姻式をやらないだと?!エルファミアは本当にそれで良いのか?!」
それを決めたのは私だから、もちろん良いに決まってる。
嘆き悲しむような表情で叫び膝から崩れ落ちた父様は、娘の婚姻式の晴れ姿を楽しみにしていたようだ。
「あらあら、それを聞いたらロベルタも父様と同じような状態になるわよ?」
ロベルタさんは、私達二人の婚姻式用の衣装の依頼はいつ来るのかと心待ちにしているのだとか。
だが私達は卒業式終了後に、婚姻記念旅行に行く予定だ。
「なら、良い事を思いついたわ。卒業式用と婚姻式用を兼ねて作ってしまえば良いのよ。卒業式が終わり次第、そのままヘンダーソンの街の教会で式だけ挙げましょう。式が終わったらあなた達は旅立てばいいじゃない?残った私達で勝手に宴を開くわ」
ファーガスさんなら即座に移動可能ですものね、そうしましょう、と勝手に話しを進める母様だが、母様に逆らうなんてそんな恐ろしい事が出来る訳でもなく、仕方なく頷いた。
「ふふ、私は貴方と婚姻出来て旅行も行けるなら、多少の時間の前後は何の問題もありませんから」
ディスはそう言うが、きっと母様とロベルタさんは婚姻式云々というより、絶対『後』の事を考えてだし。
私がロベルタさんの所でドレスを作れば話題になり、そうすると領地に人が押し寄せる、そうなると領地もウハウハとなる。そんな事を見通しているからだろう。
けどロベルタさんには世話になってる・・・まぁロベルタさんがウハウハなら私もウハウハになるからいいんだけどねぇ
「何かまた同じような事が起きるそんな予感がするんだけど・・・気のせいかな?」
「・・・十分有り得ますねぇ」
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「何っ!?婚姻式をやらないだと?!エルよ、婚姻式は女性の夢や憧れではないのか?!」
「世の女性は知りませんが、私の夢や憧れでは無い事は確かですよ、陛下」
なぬっー!と憤慨しながらも、ショックだったのか最後には「アメディスとエルの婚姻式・・・とても楽しみにしていたのだがな」と、あからさまにガクッと肩を落とした魔王。
「お前らなら絶対派手にやると思ってたけどな?やれば、後に始める商売の売上も上がるだろうしな」と予想外だとでも言わんばかりの赤。
え、後の商売の売上?
「店が始まる前から、アメディスの嫁の店と王都中で噂ですが、半信半疑な人達もいるようなので、大々的に婚姻式してお披露目すれば真実だったとして更に噂となり、店は繁盛間違いなしですよね」と言う黒。
「・・・旅行は翌日からにしようか」
「ククッ、そうしましょう」
結局卒業式の日は、卒業式が終わり次第すぐにヘンダーソンに飛び、昼頃に領地での婚姻式を終えたら、夕刻前には魔族の国で再び婚姻式を執り行う運びとなった。
なかなかに忙しない一日になりそうなので、旅行は翌日の朝から行く事となり、予定していた日程を大幅に減らして四泊五日に変更した。
旅行からは予定より一日早く戻る事にしたのは、一日はこちらでゆっくり過ごし、週末の二日間の後に控えた店の開店準備に備えようと・・・だが本当にその一日もゆっくり出来るのかは謎である。