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【2】前世の記憶と魔力と私



まるで要塞のように高い塀に囲まれた広い敷地の中には、ずっしりとした鉄筋の5階建て建物一棟。


その建物以外に高さがあるものは無く、門から建物の入口付近までは車両が通れるように舗装されている。

ガレージには黒い高級車が何台も停められている。


敷地内には監視カメラが何台も設置されており、常に黒かグレーのスーツを着た厳つい人達が巡回している。警備は厳重だ。


建物の扉が開いて中から出てくる人が見えた途端、付近に待機していた厳つい人達が一斉に声をあげた。


「「「お嬢!おはようございます!」」」

「「「学校、行ってらっしゃいませー!」」」


ここは国内トップ3に入る実力を持つと言われている極道一家の本家である。一応表向きは会社経営などをして表向きは一流企業となっている。なので財力は有り余る程だ。政界にも太いパイプを持ち、その業界では表でも裏でも知らない者はいない巨大な組織だ。


そこの家の長女で末っ子20歳


それが私だった。


幼少期から『万が一の時のために』と武術や剣術を習わされる一方、塾にも通わされ、日々習い事に追われていた。


多忙の日々のせいなのか、はたまた家業のせいなのか、理由は分からないが周りに同年代の子は寄ってこず、友達もできず常に一人で過ごしていた。


組の人達には可愛がられていたけど、父と母はいつも忙しく、私は住み込みのお手伝いさんに育てられた様なものだ。


そんな家庭環境のおかげで小学校高学年の頃には、どんな時でも感情を一切表に出さない無表情な子供に出来上がり、より一層同級生は私に近寄らなくなった。


中学に入学する頃になると、私に専用の付き人兼護衛が一人付くことになった。


『筋肉ムキムキで厳ついパンチパーマの人が来たらどうしよう』と内心不安だったが、現れたのは高身長で細身で無造作ヘアの今時な風貌の人で心からホッとしたものだ。


彼を初めて紹介された時には、脳内で小躍りしてはしゃぎまくりながら神様に心から感謝したのを今でも憶えている。


少し長めの前髪の間から見える切れ長の目のせいで冷たい印象だったが、とても気の利く優しくて頼りになる人だった。


私が高校生になる頃には、付き人の彼が一番の話し相手であり信用もできる頼もしい人となり、私の中では勝手に親友認定してたな。


家族以外で唯一素の自分でいられ、滅多に人前で笑顔は見せないが、彼になら笑顔もたまに自然と見せることができた。


高校生の頃はモテ期到来で(どこかの組の若頭とか孫とか変な輩限定だったけど) ストーカー紛いの被害にも遭い大変だったけど、どんな時でも彼が必ず守ってくれた。


まぁ彼としては仕事してるだけだろうけど・・・

それでも彼の存在がどれだけ心強かったことか。



大学に進学しても、相変わらず近寄ってくるのは変な輩ばかりで日々うんざりして過ごしていたある日、事件は起きたのだ。


いつも通りに学校に迎えに来てくれた彼と車の側に着きドアを開けようと彼がドアノブに手をかけた時、すぐ側にあった背の高い植込みの影からドスを手に持った男が現れ、こちらに向かって刃を振りかぶりなんの躊躇もなく突進してきた。


(目がイッてる、これヤバいやつ!)


いつもスカートの中の太腿辺りに皮のホルダーを装備し、ナイフを数本持ち歩いているが咄嗟にスカートを捲りナイフの柄に指が触れたが間に合わない!


ザシュッ!


殺られた!と思い目をギュッと瞑ったが、襲ってくるはずの痛みがない変わりに、小さな呻き声共に体にのしかかる重みを感じた。


バッと勢いよく目を見開いたと同時に、目の前の彼の背中から飛び散る鮮血を目にして頭の中が真っ白になった。


瞬時に彼が私に覆いかぶさるように庇ったのだ。

斬られたのは護衛の彼だった。


グサッ!


「うっっ」


声をあげる間もなく、次の瞬間には彼の背中から私の胸にかけて男は一気に刃を刺した。


心臓を一突き・・・みるみるうちに体から血液が流れ出ていく感覚に襲われると同時に、全身の力も抜けていく。

最後の力を振り絞り震える腕で彼の背中に手を回し力なく抱きしめて『私のせいでごめんね』と心の中で呟いたとこで意識が途切れたのだ。




・・・そう、私死んだよね

私を庇ったせいで付き人の彼も死んだんだ


私の付き人にならなければ今頃楽しく人生を送っていたかもしれない。彼の人生を奪ってしまった罪悪感に今になって胸が締め付けられるように痛い。けど、いまさらどうにも出来ない焦燥感に目頭が熱くなった。


顔を両手で覆いながら、水滴が溜まってこぼれ落ちる寸前の両目を掌でグッと押さえた。



感傷に浸って泣いてる場合じゃないのだ。

これからのことを考えなければ。


前世の私は極道の家の生まれだった。国内はもちろんだが外国でもウチの名前は有名だったので、色々と大きな声では言えないような裏の仕事もやっていた。


幼少期の習い事の他に、家に出入りしている厳つい大人達の稽古相手をしたりしていたおかげか、私も多少腕に覚えがあった。


たまに小遣い稼ぎがてら、付き人君と一緒に裏の仕事を請け負い、地道に実績を残していたため、少しだけ裏業界では名が知れていたらしい。


そんなだから命を狙われた可能性もあるんだが・・・



とりあえずいまは体力も筋力もないけど、前世で身につけたことは出来る気がするんだよね。

脳が覚えてる?というか魂が覚えてると言った方がなんかカッコいいかも?


まぁこちらの世界でも万が一の時の為にいまから体を鍛えておかないとだ。いざって時には裏稼業で生計をたてられるかもしれないね。



家の仕事柄、政界や財界との付き合いも多く、時折パーティーの招待状が届くことも少なくなかったため、ある程度の社交マナーは身についている。


一応、表向きは箱入り娘(かなり厳つい箱だが)

と言う体だったしね。


そう言えば貴族社会はマナー重視だ

だがそこは問題なさそうだ



自分の中には『エルファミア』としての記憶もあるが、元の『エルファミア』は生まれも育ちも、辺境とは言え貴族だ。


まだしっかりとした教育などは受けていないが、貴族の両親と二人の兄を見て育っただけのことはある。そこそこマナーが身についているようだ。


偉いなーエルファミアは。

まだ子供なのに、ちゃんと親の背中見て育っているのね・・・ってそれもそもそも『私』なんだけどね!



でも前世の記憶を思い出した今、元の『エルファミア』としてやっていけるのか不安が過ぎり、思わず眉間に力が入った。


記憶の中の『エルファミア』は、前世の私とは違い人見知りせず誰とでもすぐ打ち解け、とても明るく常に笑顔が絶えない子だ。


常に笑顔か。常に無表情だった私と正反対だわー

いまさら笑顔と言われても・・・記憶を思い出す前は笑顔で過ごしてたでしょ!と言われてもいまとなってはなかなか染みついたものを取り除くのは難しいと思う。


そうなると日常生活すら普通に送れるかどうかだけど・・・いまの家族にはすぐに変だと思われそうだ。

鏡の前でひたすら笑顔の練習する?

それは引き攣る自信しかないわー


とりあえず、マナーだけでも一応クリア出来そうで良かったわ~



そう言えば貴族ってダンス必須だよね。

さすがにダンスは自信がないから出来れば避けたい案件だが、でも絶対避けられないだろう。

確かこの国のデビュタントは15歳だったような。

今からダンスのことを思うと、なかなかに気が重くなった。


まぁ、なるようにしかならないか


前世の私は割と楽観的なのである。



記憶の整理がつきそうな頃に一つ大事なことを思い出し、そう言えば!と勢い良く上半身を起こした。


この世界には魔法が存在しているのだ。

『エルフェミア』の記憶では私も魔力があった。しかも魔力増量の影響で高熱を出したくらいだから結構な魔力量なんじゃない?でもまだ使い方を教わった記憶はない。


前世で現実逃避したい時などに、ファンタジー系の小説が好きで読んでいた。小説の中では魔力を感じるには体の中心、そこに集中すると魔力が感じられるとか書いてあったはず。


『地球』では魔法なんて空想や物語の中でしか存在しないのに、そういう系の物語はたくさんあった。


前世で色々な武術を習得する流れで、気功も少し習ったことがある。自分の体の気の流れを感じて気を整えたりするのだ。


もしかして気功の応用でいけるかも?と思いつき、ベッドから降りてすぐさま坐禅を組み、お腹のおへそ辺りの奥の方に集中してみる。


下っ腹の奥・・・集中、集中・・・



集中して暫くすると下っ腹の奥の方に今まで感じたことのない温かい何かがぐるぐると渦巻いてるのを感じた。


何かが大きく渦巻いているようでもあり、濃い霧のような物が塊になり浮遊しているようでもあり、その部分が熱を持ったようにじんわりと温かい不思議な感じだ。


気の流れを巡るのと同じ感覚で、下っ腹に感じるその不思議な何かを血管と同じように全身に行き渡るイメージをしてみる。


数分後、何となく違和感を感じて自分の体を見る。


肌に薄い膜のような何かで覆われたのを全身で感じると同時に、体全体にジワジワと馴染んでいく感じ。


これが魔力かなぁ?



何となくだけど魔力の確認出来たし、これ以上は魔力の扱い方をしっかり習ってからにした方が良さそうだ。


集中を解きゆっくり深呼吸をした。



魔法のことは一旦頭の隅に追いやり、ベッドの脇に腰をかけて目線を下に動かして先ほど見た今の自分の体型を思い浮かべる。


今8歳だよね。普通に考えたら8歳ならまだ多少ムニムニ感が残る幼児体型で仕方ないんだけど、前世の私は武術や体術を習わされていたから幼少期から筋肉質で引き締まった体をしていた。


魔法も習いたいけど、今のこの体型はダメだ納得いかない!めちゃくちゃ鍛えたい。

前世では家にトレーニングルームあったし好きな時に体動かしていた。でもマシーンがないならないなりにやりようはあるはずだわ。



自分のムニムニの体の確認のついでに、額やリンパに手を当ててみたが熱くなく、すっかり熱も下がったらしい。


魔力を回したせいもあるのか、体調は何ともない。というか逆に調子が良い気がする。

けど今日は熱が引いたばかりだし大人しくベッドの上でダラダラ過ごしながら、明日からの筋トレ計画でも練ることにしよう。


というか、部屋で運動していて突然家族やメイドが来てバレたらめちゃくちゃ怒られそうだし。


若干暇を持て余しながらベッドでシーツに包まりながら、あれこれ考えを巡らせている間に何度か扉を叩く音がして、セシルや双子の兄達が様子を見に来てくれた。


けど今は一人で色々考察したかったため、扉の外に人の気配がした時は寝たふり決めこんだ。寝てるとわかればみんな大人しく戻っていくからね。




夕飯の時間になった頃に、セシルが夕飯を乗せたトレイと新しい水差しを運んできた。


「ちゃんと安静にしてたみたいですね、随分お顔の色も良いですぅ」


うんうん、すっかり元気だ。

なので普通に食事したいとこだけど、一週間寝たきりだったならきっとまた体に優しい物だろう。


セシルが私の前に配膳してくれた食事は、やっぱり極薄味のパン粥擬きだ。


極薄味にはやっぱり慣れず、また半分食べるのが精一杯だった。


う~ん、明日は何としても普通の食事にしてもらいたい。そしてお風呂に入りたい!


よく物語の異世界はお風呂がなかったりするけど、ここはちゃんとお風呂がある!良かったーお風呂のある世界で。



一週間お風呂に入っていない体の気持ち悪さにプラスして、若干の空腹とも戦わなければならない。


ひとまず今夜を乗り切れば明日にはいろいろ解放されるはずだが、この体の気持ち悪さ&空腹で今夜は寝れるだろうか・・・



なんだかんだ言ってもやはり病み上がり

横になって秒で爆睡だったようだ。



⭐︎

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