【196】夏は泳ぐでしょ
舞踏会から数日経ち、やって来た週末。
ダグラスさんの唐揚げ食堂は、あまりに忙し過ぎるので毎週末に一日定休日を設ける事となり、週末はジーク・ディーン・ユーリ・ミーナの四人の手が空くという事で・・・
「キャッー!今年も来たわよ、海ー!!」
皆で海に来たが、やたらテンションの高いマリア。
この夏季休暇中もずっと母様と一緒について仕事をしているし、母様も私と同じであっちこっち色々な事に手を出すタイプだもんね、まぁその気持ちも分からなくもないよ。
アデレ兄も普段仕事ばっかりだから、たまにはしっかり息抜きしないとだね。
男はベスト型の袖のないシャツに、膝丈のパンツ。女は肩紐のキャミソールに股下5センチ程度の短パン。本日は全員もれなく夏仕様の出で立ちだ。
ユーリとミーナは、初めての格好にキャッキャしている。
舞踏会でベリーダンスの衣装着たからか、それ程恥ずかしさもないようだ。
この週末の海の為に、ヴァルテスと陽射し避けにテント欲しくない?と言う話しになり、二人でせっせ魔鉱石で骨組みを創り、私が大きな布を縫って完成させたテント。ジーク達も手伝ってくれて、見事砂浜にテントが張られた。
それを見て皆が「おぉ凄い」と声を上げた。
「二人が創っている時はどんな物か分からなかったですが、これは便利ですねぇ」
「エルファミア嬢、流石です」
と、感心しているディスとギネス師団長。
何故ギネス師団長がいるのか・・・朝、ヘンダーソンの邸に集合したら、ちゃっかりギネス師団長も混ざっていた。
情報を与えたの誰っ!?
ヴァルテスは去年泳ぎを練習して泳げるようになったアルフ・アデレ兄と一緒に、ギネスも連れて海に飛び出していった。
そのタイミングでテントの側に知った気配を感じたと思うと、姿を現した側近ズ。
「おー!もうヴァルテス達遊んでる!」
「うわ、本当に来た。城は大丈夫なの?」
「カルセドニー・・・あ、黒がくじ引きで負けて留守番してるから大丈夫だよ」
くじ引きで負けたとか、可哀想な黒・・・
楽しそうに泳ぎまくってるヴァルテス達を見て、側近ズもはしゃいだ様子で海に飛び出していった。
「ジーク達は泳げるの?」
「俺達?一応泳げるけど・・・海って入って大丈夫なの?魔獣や魔物出ないのか?」
「そんな心配は無用ですよ、我々の魔力を感知したら大抵の魔獣や魔物は出てきませんから。出ても海坊主くらいですよ」
海坊主と聞くとジーク達は、出て来たらお礼を言わなきゃなと言っている。
「海坊主がエル様の事教えてくれたから、俺らエル様の元に辿りつけたしな」
そう言えばそんな事言ってたね~
「そのうち現れるよ、海坊主はどうせ暇してるでしょ」と、言ってる傍から沖から海坊主の気配。
「ゴラァ!暇じゃねーぞ!」
魔族の嫁はどうなっとるんじゃっ!とグチグチ言いながら現れた海坊主の姿に、何故か歓喜しているギネス師団長。
「海坊主ー!元気そうで良かったわ」
海坊主の姿を見るやぴょんぴょん跳ねて喜び、友達のように話しかけるマリア。
海坊主よ、多分これから海水浴は毎年恒例になるから諦めて。
そんな事を思っていると、海坊主がジーク達に気づいたのか、驚いたように目を見開いた。
「ん!?お前ら間の子じゃねーか!なんでこいつらと一緒にいるんだ?!」
ジーク達は笑顔で手をフリフリして答えた。
「海坊主から話しを聞いて俺ら、エル様の事を捜したんだ・・・最初の目的は違ったけど、海坊主に聞かなかったら俺達エル様に会えなかった。海坊主、ありがとな!」
「何か分からんが、お前らが良い未来を紡げたなら良かったのぉ!」
それにしても、魔族と間の子と人間とは面白い組み合わせだなとガハガハ笑う海坊主。
「まぁお前らなら、いつでも遊びに来ると良い」
と、海坊主の許可が出た。
「海坊主の許可などなくても、私とエルファミアはいつでも来ますけどねぇ」とボソッと呟くディスに、丸く収まったんだから波風立てるな!と思わずチョップをかました。
その後、ジーク達も海へと繰り出していった。
「海坊主も一緒に遊びましょうよ!」と海坊主を誘っているマリアが、ある意味一番の強者か?!
その後、ディスと一緒に少し沖に行き、素潜りをして幻想的な海の中を堪能しているうちに昼となり、遊んでいた皆がワラワラとテントに集まり出した。
皆の視線を受け、空間から弁当を取り出し並べると、みるみるうちに輝いていく全員の目。
はいはい、じゃんじゃんお食べ~
「まさか、海にこのような楽しみ方があったとは意外でしたねぇ」
「師団長、分かる~!俺も去年、こいつらが遊んでるの見て最初は驚いたし!」
「普通は誰でも驚くでしょ」
「これからは毎年夏は皆で海水浴よ!」
「「「「賛成っ!!」」」」
魔導師と王女と魔族が一致団結しているが・・・普通に考えたらとても変な集まりだ。
そして来年も側近ズは、くじ引きか?
そんなこんなで、今年も楽しく海水浴を終え、夏季休暇の残りもやる事盛り沢山で慌ただしくバタバタと過ぎていき、学園が始まる日も間近だ。
ちなみに、ロベルタさんにお願いした綿のチャイナ型のシャツは、ヘンダーソンで大人気となったが、魔族の国でも私達が着てるのを見て側近ズも欲しがり、側近ズが着だすと少しずつ城内にもシャツの噂が広まっていき、私達がヘンダーソンとの取次屋となる事に。
おかげでロベルタさんはもちろん、取次屋としての稼ぎとチャイナ服のデザイン料で、私達の懐もホクホクとなったのは言うまでもない。
ヘンダーソンでは夏の間に一度、仮装仮面舞踏会が行われ、大盛況に終わったと報告をもらった。第二回を開催するまでに、また新しい衣装の案があったらお願いねと言う母様。すっかり仮装仮面舞踏会にハマったようだ。
「やっとあと半年弱で卒業ですね、卒業がとても待ち遠しいです」
「そうだね~、もう前世からずっと学生だったから、学生期間が長い気がするよ。学園生活はもういいかな」
「いえ、そういう事ではなくて」
「ん?どういう事?」
「卒業したら婚姻できるという事です。やっと本当に私のものに出来るのですから」
あんまり今と変わらない気もするけど・・・
「婚姻したら貴方に私の魔力を注ぎますから、本当の意味で私のものになるんですよ」
「あ、魔力ってまだだったんだ?」
「えぇ、私の魔力に慣れるまでは大変だと思うので、それだけは絶対に卒業して婚姻してからと決めてましたから」
そう言うディスはやたらニヤニヤしている。
なるほど。何が大変なんだろ?
ヴァルテスは魔王の魔力玉を摂取してるけど、特に何もなさそうだけどな。
「口から少しずつ摂取するのと、体内から取り込むのでは全く違いますからね。ふふ、楽しみにしていてください」
え、大変なのに楽しみにって・・・何?




