【194】仮面舞踏会
「リーヴル、少しも動いては駄目ですよ」
「エルファミア、そんな所を触ってはいけません、そこは私がやりましょう」
「ヴァルテス、あなたもこれ知っていますよね、こちらでエルファミアの手伝いをしなさい」
仮装・仮面舞踏会の当日、朝からノルマン達四人の忍者服の着付けをしていると、何だかんだと五月蝿いディス。
やはり側近ズに、間違っても羽織袴なんて用意しなくて良かった~。きっともっと五月蝿かったはずだ。
「エル様!騎士服どう?似合ってる?」
今日はジーク・ディーン・ユーリ・ミーナは四人とも舞踏会に出席なので、ダグラスさんの店は臨時休業にしたそうだ。
唐揚げを始めてからロクに休まず、毎日朝から晩までがっつり働いているのだから、ダグラスさんとエルダさんもたまにはゆっくり休まないと。
「うん、似合ってるよ」二人に笑顔で親指を立てた。
二人はヘンダーソンの騎士服を着ると決め、ジークは騎士の色を、ディーンは魔導師の色でビシッと決まっている。
ノルマン達の忍者服の着付けを終えると
「これを着ると、何だか自分が強くなったような気がするな」
「なんか早く走れるような気もしない~?」
忍者服で盛り上がってる四人に、アチョー!と言って、なんちゃってカンフーで戦闘ごっこを始めたチャイナ服の三人。それを見て大笑いしているジーク達。
ギネス師団長は初めての魔族の国に加え、これから仮装仮面舞踏会って事で、いつも以上におかしなテンションに仕上がっている。
なかなかに賑やかである。
その間に部屋へ戻り、私達も着替えた。
「あぁ貴方のその可愛い姿を目の前にして、また我慢しなければならないのですね」
そう言い抱きつくと、首元に顔を埋めてスンスンしたり、チュッチュしたり。
いやいや、ディスの露出度の高いその格好も色気がハンパないんですがね。
「ちょっ、あんまり首元スリスリしないでよ。少し変な気分になるからやめてって」
思わず口から出てしまった言葉にすぐに反応して顔を上げたその目は、弧を描きながらも、かなり意地の悪い目付きとなっている。
「変な気分とは、どんな気分です?」
「い、いや、えっと・・・」あまりの恥ずかしさに、どんどん顔が熱を帯びていくのが分かる。そんな私の表情を見て、更にニヤニヤが止まらない様子のディスが耳元で囁いた。
「舞踏会から帰宅したら、着替えずにその衣装のままの貴方を食べさせてくださいね、約束です」
そう言うと、本気モードの激しいキスをした。
口唇を離すと「そんな艶っぽくて可愛い顔、誰にも見せられないので、まだ部屋から出ては駄目ですよ」と言いディスは自分の腕の中に私を閉じ込めた。
漸く顔の熱が落ち着き、皆がいる居間へと二人で向かうと、まだ私達の衣装を一度も見てなかったノルマン達四人とジークとディーンは目を瞬かせつつ頬を染め、そして「俺らの主達の破壊力半端ねー!」叫んだ。
いよいよ全員で城に出発だー!
城の転移部屋に着くと、当たり前のように目の前に現れた赤は、私がデザインした詰襟のロング丈のジャケットにスリムなズボン、ジャケットには上品な金糸の刺繍が施され、上下赤で艶やかに決まっている。
「お嬢さんっ!俺似合ってる?ってお嬢さんとアメディスの衣装凄ぇなっ!?派手だな!」
「私とエルファミアの衣装が本日の一番ですね」
いやいや、衣装で誰が誰と競ってるの?
赤は忍者服の四人とチャイナ服三人衆を見て、何これ!かっこいい!と一人でやたらテンション上げていた。
もう全員が初めての仮装で変なノリだ。
結局、仮面は一度完売したものの、再販の要望が殺到した為に、また皆でせっせと創り、追加で再販した分もあっという間に完売となった。
再販の分も合わせて、300個売れた事になる。城としては、思いがけない収入で少しホクホクだったようだ。
「もう広間に結構人集まってんよ。皆すげぇ格好してておもしれぇのっ、ククッ」
ちゃんと御触れ通り、皆スーツとドレス以外の衣装で出席してくれているようだ。
「さ、会場入る前に皆、仮面とマスク装着」
アルフ兄の掛け声で、忍者四人衆と騎士服二人は黒マスクを着け、チャイナ服三人衆は仮面を着け、ベリーダンサーズの私・ディス・ユーリ・ミーナはフェイスベールを着けた。
そして広間の入口を潜ると・・・居る人が皆おかしなテンションで、広間の中は異様な雰囲気を醸し出していた。
赤を先頭に、まずは魔王がいる玉座の前に・・・って魔王?!違っ、陛下?!陛下がいつも以上に全身黒光り衣装で仮面を被っているが、頭から角まで生やし、完全に魔王に仕上がっていた。
「ブホッ!ま、魔王っ」
吹き出しながら呟いたヴァルテスも、やはり私と同じ事を思ったのね。
「さぁ皆の者!今宵の主役が到着した。この素晴らしい夜会を考案したアメディスの嫁エルファミアに盛大な拍手を!そして私の新たな子供達に歓迎の拍手を!」
「「「「「おおっーー!!」」」」」
拍手喝采の中、ディスのエスコートで玉座の階段の中央まで上がると、更に歓声が上がり盛り上がりが最高潮となり、その歓声を皮切りに宴開始となった。
「これ程まで歓喜に溢れた夜会は初めてだ、仮面を手に出来なかった者から、また開いて欲しいと嘆願書まで送られてきた程だ、ワッハハハ」
元々はジーク達が顔を隠しているのが目立たないようにする為の策だったけど、思わぬ方向にいってしまった仮面舞踏会。
ジークとディーンは、ユーリとミーナから魔王の情報を聞いていたのか、それ程緊張もせず挨拶をする事ができた様子。
「まぁジーク達も変に目立たないで済んだし、これだけ盛り上がったんだ、一石二鳥って事だなっ」
まさにそれね
ギネス師団長は初めて会う魔王に目がキラキラだ。アルフ兄が魔王にギネス師団長を紹介し、挨拶が出来たギネス師団長は更にテンションが上がったみたいだ。
側近ズも仮面を着け、それぞれの瞳の色の衣装に身を包み魔王の傍らに立っているが、皆下に降りたいのかソワソワした様子。
ていうか側近ズの衣装、格好いいっ!
やはり私の見立ては正解だった、と一人で頷いていたら、横からディスが「ルベウス達など見ていないで私と踊りましょう」と私の手を引き階段を降りた。
フロアで踊る人達の中央に私達が行くと、私達の衣装に歓喜の声を上げる人達。
踊り始めると、私が回る度に綺麗に広がるスカートを見て、女性達は口々に素敵!と絶賛していた。
ジーク達と忍者四人衆は「その衣装はどちらで?」と質問攻めに合いタジタジの様子だ。
アルフ兄とヴァルテスとギネス師団長も、料理を食べている所を囲まれたようだ。
この今の様子を見たら、ロベルタさんは小躍りする事間違いなしだっただろうにと呟くと「ククッ、あの人なら、こちらに支店でも出しかねないですねぇ」と笑うディスだが、支店?支店いいね~!ロベルタさんに既製品作ってもらって、こっちで売るのもありなんじゃない?
「ふふ、また変な事考えてますね?」
え、何でバレた?そんなに顔に出てる?!




