【175】面倒なデビュタント
とうとうやってきたデビュタント当日。
王宮の転移部屋に繋がっている、ヘンダーソンの邸から飛ぶ予定なので、前日の夜からヘンダーソンの邸に帰ってきている私とディス。
ディスは、白いタキシードにグレーの蝶ネクタイ、そしてグレーのカマーバンド、もちろん胸元のハンカチもグレーだ。
ぎゃぁぁ!白もいいっ!鼻血出ちゃう!
でも今日は白だから気をつけてっ
「エルファミア、とても素敵ですよ」
と言い、私の額にキスをしたディスだが、あなたの方が素敵です。と心の中で呟いた私はというと。
白のドレス、ではなくワンピース。
胸のアンダー部分から切り替えしになっており、切り替えしから下は、たっぷりのフレアで膝上の丈だ。踊った時に裾が広がり、中が見えてしまわないように、内側にはシフォン生地を幾重にも重ね、それでも念の為に太腿の真ん中辺りまでの長さのガウチョパンツ型のペチコートを装着。
広めに丸く開いた胸元、袖は肘からAライン、背中は前と同じ位置にある切り替えしのところまでV字でザックリと開いている。ワンピースは白だが、内側のシフォン生地とペチコートは紫色、髪飾りはディスからの贈り物。はい完璧!
「あぁ綺麗過ぎて今すぐ食べてしまいたい」
「駄目です」
「どうしても駄目ですか?」
「どうしても駄目です」
もう出掛ける時間になろうというのに、上目遣いで迫ってくるディスの頭にチョップお見舞いした。
転移部屋の前には、白い脛丈のフレアのドレスのマリアとアデレ兄、そして何故かユーリとミーナも居た。
「あ、エル様来た!キャッ素敵!」
「エル様!白も凄く似合いますっ!」
最近巷で流行りのドレスや服などは、私発信の物が多いと聞いたようで、二人は今回の衣装を見たかったらしい。
「ドレスではないっ!?でも短いのも素敵だわっ!やっぱりエルと一緒に作りに行くべきだったわね」
「いえ、この衣装を作りに行った時、エルファミアは私と一緒でしたのでそれは無理です」
「相変わらずね、ルキアは。チッ!」
王女殿下、舌打ちなんてはしたないですよ!
「さ、行こうか」とアデレ兄の言葉で転移魔法陣に魔力を流し、ユーリとミーナに手を振った。
王宮に到着すると、白、白、白の人だかり!
まぁデビュタントの日だから当然なのだが。
国王が個々の名前を呼びあげて、国王の御前に行くとお祝いの言葉をいただける・・・ただそれだけなのだが、ここで呼ばれるまでずっと待ってなきゃいけないとか、面倒極まりないのだが。
「マリア、エル~」
名前を呼ばて、マリアと声の方に振り向くと、そこには白いドレスのローズと、婚約者らしき人物。
「会えて良かった。この凄い人だかりじゃ会えないかと思ったわ~」と微笑むローズの隣りで、ローズの事をツンツンして合図をしている、背の高いゴリマッチョで割りとイケメンな男。
「あ、あの、二人に紹介するわ、こちらがその、私の婚約者のビクター・グローリアス様です」
頬をピンクに染めたローズ、めちゃくちゃ女の子!って感じで凄く可愛い~
「ご紹介にあずかりました、私、ロジータの婚約者のビクターと申します。お初にお目にかかりますマリアーノ王女殿下。そしてあなたが、かの有名なヘンダーソンの戦闘の女神様ですね、どうぞお見知り置きを」
そういや、うちと真逆に位置する辺境伯って言ってたっけね。
「もしかしてグローリアス領の次期当主のビクター殿ですか、私はヘンダーソンのアデレイドです、お会い出来て嬉しいです。どうぞお見知り置きを」
アデレ兄とビクターは、流石二人とも次期当主と言うべきか、機会があれば是非一緒に合同訓練をしましょうと意気投合していた。
うんうん、当主同士が仲良くしてくれれば、ローズも行き来しやすくなるからね。
それにしても小柄なローズとゴリマッチョなビクター、何だかとてもお似合いだ。
「ねぇケイトは?」
「ケイトにはまだ会えてないんだけど・・・」
「何かあったの?」
「ケイト、婚約解消になるかもって・・・」
「「えぇっー!」」
何で?何があったの?
とりあえず、国王に名前を呼ばれたのでディスのエスコートで国王の前まで行く。
「君がヘンダーソンのご令嬢の戦闘の女神か。そういや、その節は大変な思いをさせてすまなかったな。今日は楽しんでいってくれたまえ。おめでとう!」
その節?もしかしてネッチョリ公爵の事かな?
国王に、スカートの裾を摘み膝を曲げて頭を下げて、すぐにディスの元へと戻った。
「国王がその節はすまなかったって謝ってた」
と言うと、ディスは思い出したかのように悪い笑みを浮かべ「あぁ、頭がおかしくなった人達の事ですか、今更ですね」と私の腰を抱き寄せた。
国王がデビュタントの参加者に一通り挨拶を終えると、音楽が流れ始めると、ダンスの始まりだ。そしてこれが終われば後は自由だから、帰れるー!
「さぁ、エルファミア踊りましょう。そして早く帰り、その妖精のように綺麗な姿のままの貴方を食べさせてください」
はい?こんな大勢の人がいる中で、何抜かしとんじゃこの魔族はっ!!と顔を真っ赤にさせると「沢山の白の中で、赤く染まったエルファミアはとても美しいです」と耳元で、こそばゆくなるような言葉を吐いたディスを、赤い顔のまま思わず睨みつけた。
「あぁ、可愛いっ。早く帰りましょうね」
やたらギューギューしてくるので、もうダンスなんだか、ただイチャついてるんだか分からない状態だ。
その後、暫く会場を彷徨いたが、結局ケイトには会えなかった。それはマリアもローズも同じだったようだ。
翌日、ヘンダーソンの邸の居間で、マリアとお茶をしながら話し始めたのはケイトの事だ。
マリアがデビュタントの会場で小耳に挟んだと言う内容は「ケイトのお父様が誰かに大金を騙し取られたとかで、国に納めるはずだったお金も取られて、御家取り壊しの危機らしいわ」と言う衝撃的な話だった。
な、なんだとっー!
「ケイトったら・・・そんな大変な事になっているなんて、ひと言相談してくれても良かったのに」
「そうね、でもケイトはきっと私達に心配をかけたくなかったのかも。私が同じ立場なら、やっぱりマリアには黙ってると思う」
「そうね・・・私も同じだわ、エルには心労をかけたくないもの」
とりあえず情報が欲しいな~
「ヴァルテスー!」と呼ぶとすぐに現れたヴァルテスに、ケイトの情報が欲しいと言うと「了解!」とすぐに王都に戻っていった。




