【172】決めポーズ封印
邸に着くと、連れてきた四人を見て驚愕の表情となった執事のブレリックに、まず四人の湯浴みをさせるよう頼んだ。
四人は男女二人ずつなので、男子はブレリックとクレイ、女子は侍女頭のクローネとセシルが連れていった。
四人全員、私と変わらない年頃だろうか?
なんならもう少し幼いのかもしれない。
その間に、料理長に食事をお願いして、私と兄二人はもう着なくなった服や靴などを部屋から持って居間に集合し、メイドに風呂場に持っていくようとお願いした。
自分の部屋の衣装部屋で服を漁っている時
「あぁ、ここはエルファミアの匂いでいっぱいですねぇ」と一緒に入って来た衣装部屋で鼻をスンスンさせながら、一人悶え始めたディス。
服をいくつか出すと「こ、これは!貴方があの時に着ていた服!」と、出す服出す服、全部、これはあの時、これはあの日の!とか言い出す始末。
いちいち全部覚えてて逆に怖いんですが!
ブレリックとクローネに連れられて湯浴みから戻った四人の顔は隠れておらず、やたらバツが悪そうにしていたが、四人を見た途端に口から出た言葉。
「あれ、四人とも随分可愛いじゃない」
「ブホッ、お嬢さんとそんなに年齢変わらないのに、そのオバサンみたいな言い方!」と吹き出した赤だが、赤以外のディス・兄二人・ヴァルテスは、もちろん私の精神年齢を知っているので、誰一人驚かない。
なんならヴァルテスは私よりも7~8歳は上だったはずだし、生まれた時から記憶があったヴァルテスは、私より長くこの世界を生きているという事になるので、元の年齢プラス17年か・・・もう結構いい歳よね。
「・・・なんで俺達にこんな事してくれるんだ?」
口を開いたのは私を襲ったジークと呼ばれた男。
もう一人の男は下を俯いたまま、女子二人は初めての服に喜んでいるのか少し笑みが零れていた。
「逆になんで?嫌なの?」
「い、いや・・・こ、こんなふうに施しを受けたのが初めてで・・・」と男は気まずそうに下を向いた。
「まぁ、ひとまず食事にしましょうエルファミア」
ディスのひと言で全員で食堂に入って行くと、それを合図にすぐに給仕が動き始めた。
「こちらの料理もエルファミアの味付けの物が頂けるので、楽しみです」と言うディスの言葉に、喜びあらわに満面の笑みを浮かべた赤。
給仕によってテーブルに並べられた料理は、牛丼の温玉乗せと温野菜のマヨネーズ和え、野菜のおひたしとかき玉汁だ。
急な大人数だったので、料理長は簡単な丼物に変更したとか。そしてデザートにプリンが出るらしい。
プリンと聞くと、ディスと赤の目がギラッと光った。
「凄くいい匂い!食べていいの?」
「こ、これは初めて見るものばかりだ」
「ねぇ、食べてもいい?」
「・・・毒なんて入ってないよな?」
そんな四人のコソコソとした会話を他所に、ガツガツ食べ始め、うんめぇ!と声を上げるヴァルテスと赤。
そして普通に食べ始めた私達を見て、四人も恐る恐るフォークを手にして口に運んだ。
四人はまず一口含むと目を丸くし、そこからは誰一人手を止めずに夢中で食べ進めた。
「あんまり慌てて食べると喉詰まるから、ちゃんとスープも飲みなよ~」優しく掛けたアルフ兄の言葉に四人は頷き、スープを手に取り火傷しないようにフーフーして飲んでいる。
さっきの口ぶりだと、これまで何処へ行っても迫害され、肩身の狭い思いで、ずっと隠れるようにしてひっそりと暮らしてきたのだろう。
そしてあのお世辞にも綺麗とは言えない格好からして、きっと食事すらまともに食べれなかったはずだ。
食後のプリンを食べ始めると、何故かプリンをオカワリするディスと赤を横目に、アルフ兄が話しを始めた。
「君達はこれからどうするの?」
アルフ兄にそう言われると途端に顔を曇らせた四人、そしてジークと呼ばれた男が口を開いた。
「俺達には行くあてもないし、帰る場所もない・・・俺達に居場所なんてどこにもない。だから今まで通り色んな国を彷徨って、隠れながらただ生きていくしかないんだ」
「ふーん、今まで通りね~。『今』ここでこうしているのに、また以前と同じ道を選ぶって事なんだね?」
三人は俯いたままだったが、ジークだけは兄の言わんとしている事に気づいたのか、少しハッとした表情になった。
「逃げたって良いんだぞ?逃げる事が肝心な時もある。だが逃げる時とそうでない時の見極めが大事だと言う事だ。見逃すと掴める物も掴めなくなるからな」
流石、次期当主アデレ兄だ。
「で、どうしたい?」と聞く私に「お、俺は・・・」と言い出せないジーク、そして周りの三人も同様に下を向きながら、顔を見合わせモジモジしている。
そんなもどかしい四人を見て思わず立ち上がると、左手を腰に置き、右手の人差し指でビシッと四人を指さして腹の底から叫んだ。
「お前らっ!楽しく暮らしたいかー!!」
すると驚いたのか、ビクッ!とした四人は一斉に椅子から立ち上がり「は、はい!」と答えた。
「幸せになりたいかー!!」「はいっっ!」
「うん、素直でよろしい。最初からそう言えばいいのよ。俺達は~俺達は~って意固地になってないで、自分達が変われるチャンスを見逃すなっ!物事を見極めてしっかりと自分達の居場所を掴み取りなさい」
ビシッと指をさすと「はいっっ!!」と返事をして泣き出してしまった四人。
気づくと、泣き出した四人とディス以外は何故か全員肩を揺らしながら顔を背けている、笑っているのか?
「ククッ流石、私の嫁ですねぇ。前の兄二人の良い言葉もかき消されてしまいましたよ」
え?綺麗に締めくくったと思ったんだけど?
「やっべぇ、お嬢っ!何すかっその決めポーズは!俺おかしすぎて腹痛てぇ~ブフッ」
「ぐふっ、確か今凄く良い事を言ったよな俺ら」
「エル~、あんまり笑わせないでよ~」
はい?こっちは真剣なんだけど?!
「ぶっはは!やっぱりお嬢さん凄ぇな!これはしっかり陛下に報告しなきゃだな!」
おい報告するのそこじゃないだろっ!赤っ!
・・・二度と良い話しをしている時に、人差し指でビシッはやらない事にしよう。
そしてその後、待機中の父様がいる訓練所に、報告を兼ねて全員で向かった。




