【170】異質な存在
産まれた時から居場所もなく、長い年月もの間
行き場をなくして彷徨う俺達は、ある日海を渡った。
海を渡る時に、たまたま会った海坊主が言った。
夏に面白い人間の子供の娘に会ったのだと、なんとその娘は、魔族と婚姻する事が決まっているのだとか。
そんな話を聞いて、俺達は驚愕したと同時に
怒りが込み上げた。
「また俺達みたいな半端者が増えるのか!」
俺達は人間と魔物の間に産まれた望まれない子供。
例え相手が魔物から魔族に変わったとしても
望まれない『間の子』には変わりない。
「魔族と人間の血を引く子供に、未来などないと言う事が分かっていて婚姻などするのか?!」
「少しは産まれてくる、私達のような存在の事も考えてほしいわよ」
「どこに行っても疎外され、迫害され、故郷さえない私達のような子供を、これ以上増やしてはいけない」
俺達はやっと知り得た『ヘンダーソン』と言う名前だけを頼りに、その人間の娘を探し始めた。
やっと辿り着いたヘンダーソンの地には『戦闘の女神』と呼ばれる女が居ると言う。そんな強そうな人間が居るのに、何故魔族の出入りを許している!?
その娘は週末になると必ずヘンダーソンの地に顔を出した。
何故すぐに分かったか?そりゃ常に傍らに魔族が一緒なら分かるさ。俺達も魔物の血が半分流れているんだ。
しかもあの魔族はかなり上位だ、分からない訳がない。
だがヘンダーソンの地に戻ってきても、屋敷の敷地からあまり出ない二人。屋敷から出た時が狙う絶好の機会だ。
娘を見つけてから数週間、やっと二人が街に出た!
魔物や魔族の血を半分引く俺達は、短い距離なら転移をする事が出来る。魔族に隙はないが、人間ならば狙えるっ!
娘が生きている限り、魔族は娘を何処までも追うだろう。
一つの事に執念深く執着する、魔族とはそういう生き物だ。
そんな魔族が婚姻まで決めたのであれば、あの人間の女にたいしてそれだけ執着しているという事。
ならば人間の娘には悪いが、子を成せない体にするか、命をもらうしかない。
きっと俺はあの魔族に殺されるだろう・・・
だが少しでも俺達のような存在を増やさないようにするには、俺一人が犠牲になるのも仕方ない。
ナイフを手に、仲間に「行く」とひと言呟き、その場から姿を消した。目指すは娘の目の前。
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人通りの少ない路地、目の前に突如現れた異質な気配、それの手と思わしき物を渾身の力でグッと掴み取り、瞬時に捻り上げると「はい、アウトー!」と声を掛けた。
相手が勢い良く現れた反動を利用して、腕を背中側に捻り上げると相手はバランスを崩し、手に持っていたナイフは手から離れすっ飛んでいき、地面にうつ伏せとなり突っ伏した男の背中に、腕を取ったまま片膝を乗せて取り押さえた。
「流石エルファミア、流石私の嫁ですねぇ」
隣りでやたら嬉しそうに手を叩き微笑むディス。
いやいや、微笑んでないで手伝えやっ
うつ伏せで取り押さえられている男は、自分の状況が分かっていないのか、固まって動かない。
「で、お兄さん何で私を狙ったの?お兄さんだよね?最近東の森に現れたのは」
男は顔が見えないように、布で目の下まで覆っているが、男の側にしゃがみ込んだディスが剥ぎ取った。
「おや、もしかしてあなたは・・・」
布を取ると割りとイケメンな男のその顔には、右頬から右の首筋にかけて、鱗のような物が見えた。
「なるほど、道理で異質な訳ですね」
「どういう事?知り合い?」
「いや、知りませんよ。私も長く生きていますが、会うのは初めてかもしれません」
やっと状況を把握したのか、男がうつ伏せの状態でじたばたと暴れ出した。
えー、何これ面倒なんだけど。
ディスはしゃがみこんで男を観察をしているし・・・え、じゃあ試しに呼んでみる?ていうか聞こえる訳ない気もするけど・・・物は試しという事で?
「赤っー!!」
腹の底から叫んでみたら、ディスも驚いたのか、ビクッと反応してすぐに私をガン見しながら「何故呼ぶのですか!?」と焦った様子で言うディス。
「試しに?本当に来る訳ないじゃん」
「お嬢さん、来たよー」
突然、目の前に現れた赤
「げっ!本当に来た!」
しかも側近ズが全員来たっ!
目を見開き、思わず口をパクパクさせながら側近ズを指さして見ている私に「呼べば来るの当たり前っしょ」とニィッと笑う赤。
うつ伏せで暴れていた男は、魔族が増えて観念したのか大人しくなった。
「エルファミア、もう呼んでは駄目ですよ、この人達はすぐ調子に乗りますからね」
「ごめん、まさか本当に来ると思わなかった」
苦笑いしながらも取り押さえていた男は、緑と青が「替わるよ」と両側から腕を掴み立ち上がらせた。
「なるほど、この男が先日の報告の主ですね。では私はひと足先に戻り陛下に報告致します」
「黒ありがとう、報告よろしくね」と声をかけると、ニッコリ微笑んで手を振り消えていった黒。
「皆、エルファミアに馴れ馴れし過ぎます」と眉根を寄せてため息を吐いた不機嫌そうなディスに訪ねた。
「で、結局この男は何者なの?」




