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【17】早朝の鍛錬



昨晩は二人が部屋に戻った後、寝る前にサクッとミサンガを二本編んだ。

騎士服の色の黒と紫。それと兄二人の特徴であるそれぞれの瞳に近い色を入れ編み上げた。


まだ薄暗いうちに目を覚ました。

前世でも、朝早いうちから起きてマラソンしたり素振りなどをして体を動かしていたので、自然と目が覚めてしまう。

習慣て凄い。


体は筋肉痛だが、さっさと動き始めよう。


服はまた衣装部屋のワンピースの森から、暗めな色合いの物をチョイス。今日は襟元のレースやボタンなど、全て紺色で統一されているワンピースだ。


着替えを終え鏡の前に立ち、髪を昨日より少し下で纏め上げ、自分用に太め長めに編んだ紐でギュッと結んだ。


「よしバッチリだ」


身支度を全て終えると、タイミング良く扉を叩く音がし、兄二人が迎えに来たと分かったので、二本のミサンガと昨日貰った木剣を手に取り部屋を出た。


兄二人と静かに邸を出て、昨日と同じ裏庭の洗濯干し場に到着し、アルフ兄は「僕はここで見学してるね」と、昨日の私のように木材に腰をかけた。


あ、そうだ!と兄二人に持っていたミサンガを見せた。


「これ、編んだよ」

「「おおー!僕達の?」」

「そう、それぞれの瞳の色を入れてみたよ」


アデレ兄には琥珀色、アルフ兄には濃いグレーの色が入っている物を渡した。


「「付けたい。エル結んでよ」」

「これね、一つ願い事を頭に思い浮かべて結ぶんだよ。で、自然に切れた時に願いが叶うと言い伝えられていたんだ」


私は願い事とかした事ないけど。


「へぇ〜。でも自分で片手に結ぶの難しいよね?」

「そしたら二人で結び合えばいいのでは?」

「「え、エルがいい」」


クッ!可愛いけど、面倒くさいのひと言だ。


仕方なく渋々と一人ずつ結んであげると、二人とも笑顔でミサンガを眺めている。

気にいってくれたようで何よりだ。



アデレ兄は「そろそろ始めるか」と木剣を持ち肩慣らしをしながら私の方を向いた。


「エルはいつもどんな剣を使っていたんだ?」

「私が愛用してたのは短い片刃の物。たまに刀身が長めの物も使ってたけど、それも片刃だったよ」


前世では常に小太刀を二本

腰に帯刀していた。


「片刃か。あまりこの国では見ないな。他国ならあるかな」


私は両手で木剣を横に持ち、上半身を左右にゆっくり傾けたり回したりと、体を解しながら返答した。


「他国?」

「そうだな、他国でも海を渡った島国辺りならありそうだ」

「そうなんだ、機会があれば島国に行ってみたいかも」


前世の『日本』も島国だったし、どんな国なのか少し興味あるな。


「そうか、片刃が好きなんだな。なら創ればいい。訓練所に魔鉱石があるから、朝食後にエルの剣でも創りに行くか」

「魔鉱石?・・・剣を創る?」


魔鉱石とは何だ?剣をそんな簡単に創れる物なのか?

刃物って職人さんが汗水流し、熱い鉄を打っては冷やしを繰り返して、やっと出来る物じゃないの?

ファンタジーの世界なら武器や防具はドワーフが得意な分野で、武器屋をやっていたりとか。


「自分の使いたい剣を思い描きながら、魔鉱石に自分の魔力を流すと、自分の好みの武器が出来るんだよ。魔力は結構使うけどな」

「ほ、ほぇ~、す、凄い」


なんとも間抜けな声が出た。

アルフ兄はククッと笑っている。


「手合わせを始める前に。エルはまだ身体強化で体を動かすことには慣れていないだろ?」


そう言われて、夕べのミサンガ作りで初めてまともに使ったんだったと思い出す。


「そうね、でも強化なしだと、この体は筋力がなくて持たないから・・・慣れるまで少し軽めに流す感じでいい?」


アデレ兄は「よし、じゃぁ軽くやってみよう」と言い、木剣をしっかりと握り直した。


「鍛錬の時は全身に身体強化をかけるんだぞ」


アデレ兄に頷き、部分ではなく全身に身体強化魔法をかけた。


体がめちゃくちゃ軽く感じる、凄い。


アデレ兄と向かい合い、木剣を構えた。

暫くお互いに様子を見ていた。そして私から動いた。

地面を強く蹴り踏みこむと、より体の軽さが感じられた。

一気にアデレ兄との間合いを詰め、剣先を伸ばす。それをアデレ兄はカンッと受け流す。暫くお互いに受け止めやすいように上段、中段、下段を繰り返し受け流した。


アデレ兄が私の動く速度が上がってきたことを感じたのか、ニヤッと口角を上げた。

そろそろ本気で行くぞってことね。


よっしゃー!来いっ!受けて立つ!


と心の中で叫びながら、一旦アデレ兄との間合いを広げた。

お互いに睨み合い、動いたのはほぼ同時だった。


カンカンッと鳴り響く木剣の音を聞きながら、アルフは二人を観察していた。


アデレはあと数年で父を超えると言われている剣の実力者だ。そのアデレを相手にこれだけ長く一歩も引かずに打ち合っている。

しかもエルはまだ身体強化を覚えたばかりで、完全に使いこなせている訳じゃない。


アルフはエルと言う逸材に心をときめかせながら、二人の手合わせを目を逸らすことなく、ただジーッと見つめていた。


少しのエルの隙にアデレが「貰った!」とすかさず首を狙い剣先を伸ばした。


わ!ヤバっ!


と思い咄嗟に後ろに飛び退こうと、バックステップを踏んだ。


え!?


思ってた以上の飛躍力だ。

一瞬予想外のジャンプ力に慌てたが、バック転をするのにちょうどいい高さだったので、空中でくるりと一回転して片膝をついて着地した。


片膝をついたまま固まった私。私の首を狙って剣先を伸ばした状態のまま、立ち尽くしているアデレ兄。私が飛び退くために踏み切った瞬間から立ち上がり、眼球が飛び出そうなほど目を見開いているアルフ兄。


アルフ兄が「エル!」と目をキラキラさせながら駆け寄ってきたと同時に、我にかえったアデレ兄も私に駆け寄った。


「空中で回転したよね?!アデレも見たよね?!」

「お、おぅ。何だ今のは!僕は驚きすぎて動けなかった」


やたら興奮している二人。


「アデレ兄に一本取られそうになって、思わず脚に力が入りすぎただけだよ」

「いや、飛躍の話じゃなくて、空中で回転したことが予想外だから!ただ下着が丸見えだったけど」


アデレ兄は丸見えの下着を思い出したように顔を少し赤く染め「下着丸見えは駄目だろ」とブツブツ言い、そのアデレ兄を見てアルフ兄は笑い出した。


アルフ兄は笑い上戸だね。


「いや~、それにしても朝から良い鍛錬ができたな」

「私の方こそ、楽しかった。ありがとう」

「これからは毎日、鍛錬に付き合ってくれるか?エルは動きが読みにくく、予想外の動きもするから、僕もさらに腕を磨けそうだ」


布で汗を拭いながら、ニカッとアデレ兄は笑顔を見せた。


「僕が一本も取れなかったのは、最近だとブラッディ副騎士団長との手合わせだったかな」


その副騎士団長はアデレより強いのね。

そのうち手合わせ出来たらいいな~


アデレ兄との手合わせ中は、夢中で気にならなかったけど、終わった後から何となく気になる自分の掌を見た。

昨日も素振りの時に感じた掌の違和感。

今日も感じる。


「アデレ兄、昨日の素振りの時にも感じたんだけど、掌に何か変な違和感を感じる。これ何だろ?」


それを聞いたアルフ兄が目を鋭く光らせ、私の手を掴んで掌を凝視した。


「掌に違和感!もしかしてそれって・・・」

「ん?アルフ何だ?」


アルフ兄はニヤ~っとした。


「朝食の後、訓練所に行って早くエルの武器作ろう」


アデレ兄と私は「ん?武器?」と訳が分からないという顔でアルフ兄を見た。


「まず武器を作ってから説明するよ~」


私の掌の違和感に何か心当たりがあるようだ。

アルフ兄が食いつくという事は魔法関連か。


アデレ兄と私だけ理由が分からず、モヤッとした気持ちのままで、鼻歌でも聞こえてきそうな位ご機嫌なアルフ兄の後に続き邸へと戻ったのである。




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